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第66話 紛い物の愛

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「……ダフネ嬢が?」

 そこでようやく、放心していたリアンがダフネの名前に反応してこちらを見た。

「ええ、わたくしは殿下の側近であるリアン様達や、あなた方を利用して殿下に近づこうとする怪しい女について調査しておりましたの」

「怪しい女って……サリーナ嬢のこと、か」

 反論してこないリアンに、ダフネはおやっという顔をした。

 少し前の彼なら、愛するサリーナをそんな風に言われたら真っ先に違うと強く否定していただろうから。


(魅了返しの魔道具が効いてきた……のかしらね?)


 彼女の推察通り、今の彼はサリーナを愛する気持ちは完全には消えていないが、盲目的だった思考に綻びができていたのだ。


(サリーナに対する燃えるように熱い感情……これが、真実の愛だと思っていた。だがこの気持ちさえも、彼女に仕組まれていたというのか……?)


 魅了の精神攻撃を受けて生まれた、紛い物の感情なのか。リアンにはもう、真実とは何かが分からなくなっていた。



「彼女には常に、悪い噂が付きまとっておりましたから。そんな問題のある令嬢が貴方に接触したのですから、身辺調査をする事は必要ですわよね?」

「ああ、そうだ。そうだった、ね……」

 ダフネにそう言われ、初めは自分も彼女を警戒していたことを思い出す。

 しかし何度も会う内に、不信感はどこかへ行ってしまった。

 今まですっかり忘れていたが、気づかぬ内にサリーナの術中に嵌まってしまっていたのだ。不甲斐なさに、リアンは唇を噛みしめる。

「貴方は、わたくしが嫉妬心からボートン子爵令嬢に何かと絡んでいると決めつけては責め立ててくださいましたが、わたくしは貴族令嬢としてすべきことをしていただけですの。今の貴方なら、分かっていただけますかしら」

「……ダフネ嬢」

「いくら否定しても、そこの女と一緒になって、わたくしがあなたを愛しているという前提でお話しなさるものですから困ってましたのよ?」

「……違った、というのですか……」

「逆にお尋ねしますが、貴方はわたくしを愛そうと努力なさったことが一度でもありまして?」

「……私達は、親の決めた婚約者です。恋愛感情なんて必要とは思わなかった」

「あら。恋愛感情が無いのだから、相手を蔑ろにしてもいいとでもおっしゃりたいの?」

「それは、違うっ」

 即座に否定したけれど、彼女は納得してくれないだろう。今のリアンが何を言っても言い訳にしかならないと分かっていた。

 魅了魔法で洗脳されていたとはいえ、自分が先に彼女を裏切った事実は変わらないのだから……。




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