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第73話 愚か者
しおりを挟むそれでも一応、忠告もされてたことだしと警戒するつもりでいた。
だが最初から、家柄も能力も優れている自分には脅威になり得ない存在だろうと軽くみていたことは否めない。リアンもジョナスと同じ間違いをしたのだ。
「まさか、魅了の魔道具を所持していたなんてね。私も愚か者の仲間入りをしたわけだ」
自嘲気味に呟くと、苦笑してかぶりを振った。
「サリーナ嬢と直接、顔を合わせるようになってすぐ、悪い噂は彼女を妬んだものが流した嘘だと言われて信じ込んでしまったんですよ。その時に私はもう、すっかり洗脳されていたのでしょう」
「……」
リアンが遠くに視線を向け、端正な顔を歪める。
心底、その時の自分の過信を後悔しているようだった。
「当主の決定を無視し、彼女に騙されて勝手に婚約破棄をした愚か者達の末路……か。君の表情をみるに、どうやら廃嫡された後の彼らはろくな目にあっていないらしい」
もしかしたら自分達も彼らと同じ道を辿ったかもしれないと思うと、他人ごととは思えず、嫌な予感に身震いしそうになる。
「どうなったのか……君は知っているんだね? 私に教えてくれませんか?」
それでも真実を知りたくて、真剣にダフネと向き合い懇願した。
「分かりましたわ」
そんなリアンの真摯な気持ちは彼女に伝わったようだ。ひとつ頷いて話し出した。
「ボートン子爵令嬢と関わって廃嫡されて平民に落とされた彼らの、その後の足取りですが……」
一旦、言いにくそうに言葉を切った彼女だったが、思いきったように続けた。
「……市井に下った後に行方不明となっております」
「ま、まさか!? その全員が……とか言わない……ですよね?」
「……」
口を開こうして黙って視線を外してしまった彼女を見て、そのまさかの事態になっているのだと悟った。
「あぁ、いや。そう、なのか……全員、見つけられずにいるんですね」
「……ええ」
――件のサーカス団は毎年、この国を訪れていた。
国中を巡回していくのはいつものことだが、サリーナの悪名が聞こえて来た辺りからに絞って調査をしたところ、求めていた結果が出たのだ。
彼らが国を去る時と時期を同じくして、婚約破棄騒動で家から追放された子息達が町から消えてしまっているということが……。
そしてサーカス団は近年この国から出る時には、兼ねてより隣国と癒着が疑われていた、大貴族が治める領地を通って国境を越えていたのである。
「我が国の魔力の高い貴族の令息を、公然と誘拐すれば大騒ぎになるでしょう。ですが、その者がすでに家から放逐されている身だとしたら……?」
サリーナに誑かされ一方的に婚約破棄を突きつけ、家同士の契約を勝手に反故にした使えない子息など、相手の家に対する謝罪の意味を込めて貴族籍を抜かれて家から放り出される。
その後の彼らがどうやって生きているのかなど、醜聞を嫌う貴族ならわざわざ知ろうとしないはず。
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