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第74話 激情
しおりを挟むたとえ行方が分からなくなっても、表立って捜索願いを出すことはないと見透かされていたのだろう。そして、忌々しいことにその推察は正しかったといえる。
――結果的に今回、ダフネ達が調べるまで詳しい捜索はされなかったのだから。
「つまり、初めからそれを狙っていたというのか?」
この国の貴族階級は、魔力が高いことが大きなステータスになるため、婚姻によって意図的に魔力が高い者を取り込み、増やし、質の向上を図ってきた。
結果的に隣国と比べ、支配階級に多くの魔法の使い手を抱える事になり、この事が周辺国への抑止力になっていたのだが……。
隣国にとって、年を追うごとに強くなっていくハワード国は脅威だったのだろう。
「彼らを手に入れる際のリスクを減らすため、先にサリーナ嬢を使って誑かし、貴族家から放逐されるのを待っていたと……?」
「ええ、そうだと思われますわ」
リアンの問いかけをダフネが肯定したことで、周囲を取り囲む貴族達が息を飲んだのがわかった。ざわめきが大きくなる。
親戚筋や知り合いに当事者がいる者も、この夜会に来ているはずだ。
彼らの心の中は、穏やかではないだろう。
思わずサリーナに、険のある視線を向けるものもいた。
「一人二人ではなく、ほぼ全員の所在が不明だという調査結果が出ましたから……」
「ほとんど、全員が……ですか」
「ええ。それを聞いた時の衝撃は忘れられませんわ」
痛ましそうにそう告げたダフネの言葉に、リアンも絶句した。
予想以上に悪い事態に、言葉が続かない。
「ともかくこれで、彼女とサーカス団の目的が判明したと言えるでしょう」
「なんてことだ……」
頭の中がグチャグチャになる。
それほど聞かされた内容は衝撃的だった。
リアンは湧き上がってくる激情を抑えつけるため、拳を握りしめ、血のにじむほど強く唇を噛みしめた。
魔力を保有する者は国に管理されているので、貴族籍を剥奪されても国外へ出るには国の許可が必要だ。だが、彼らの出国申請など提出されていなかった。
自分の意思で出ていったわけではないことは明白で、大方、サーカス団が国を出る時に、協力者手引きで一緒に隣国へと連れて行ったのだろう。
貴族出身で魔力が高い元青年貴族を何のために拐ったのかは、リアンにも想像できた。
洗脳して兵隊にするのか、それとも優秀な子供をたくさん作らせるのか……使い道には事欠かない。
魔力の高い貴族令嬢一人を手に入れても出来る子供の数は限られる、子息を浚う方が色々と交配出来るし効率的に増やせて利用価値が高いといったところだろうか。
普通ならそんな都合のいい人材など簡単に手に入らないはずが、サリーナの協力で労せずして手に入れるルートができたのである。
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