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第103話 疑惑 後編
しおりを挟む冷戦状態だった二つの大国が、政略結婚によって新たな関係を築くその行方に、隣国が強い危機感を抱くのはわかる。
リアンが危惧しているのは諜報活動が、帝国派、隣国派の他にも及んでいるのではないかということだった。
例えば、国内の過激な純血主義勢力とも繋がりを持ったのかどうか……自分達の今後の処遇はここが肝になると思っており、特に気になっていた。
外国の血が混じったランシェル王子を国王にすることに反対する彼らは、今もまだ排除を諦めておらず、暗躍していると父から聞いたことがあるからだ。
彼らが攻勢を続ける目的は一貫しており結束も強固で、尚且つ相応の理由があることも厄介だった。
純血主義者がどうしても諦めきれない、ある男の存在……。
旗印になれる資格を持ち、生きているだけで帝国を刺激する。
今、国内にいない彼の存在は、どこまでリアンの主君を脅かすことになるのだろうか?
(いや、それでも第一王子の存在は、帝国との同盟と友好の証……密約もあります。次期王がランシェル王子なのは変わらないはず……なのですが)
だが、ここに来て不安に襲われたのはやはり、自分達が今宵の夜会で婚約破棄をするつもりだという情報が、どう考えても事前に拡散され過ぎていたということ。
(まるで示し会わせたかのようなタイミングで、王宮から近衛兵まで派遣されて来ましたしね……)
リアン達には一切知らされていなかった情報だ。
(ダフネ嬢らは驚いていなかったのも気になります。はぁ……もう、誰を信じていいのやら……分からなくなりました……)
隣国と癒着し、売国行為が疑われていた貴族達が一様に招待され、捕縛されるという大事件。
外国からの客も大勢招かれていた夜会だ。揉み消すには事が大きくなりすぎているだろう。
「……」
まさか、それを狙って……?
「……っ!?」
自分の推察に衝撃を受け、思わず声を飲み込んだ。
(ま、まさか陛下はっ。帝国の血を引くランシェル王子をみかぎったのか!?)
浮かんだ疑問を、考え過ぎだと一蹴出来ない……。
真っ青になった彼に、ランシェル王子が気づいた。
「どうした、リアン」
「……いいえ。なんでもありません、殿下」
「……そうか?」
明らかに動揺し何かありそうなのに、否定するリアン。
だが咄嗟の対応力に乏しく、何も言わなくても全てを与えられる立場にいるランシェル王子は、それ以上追求することはなかった。
「では、時間も無いことだし、もう少し詰めておこうか」
「……そうですね。どれから手をつけたらいいのか……」
考えることが多すぎて、時間が足りない。
「やはりこの後、公爵も交えて我々が非礼を働いた令嬢達とお会いすることになるのですから、そちらの対策もすべきかと」
「ああ、それでいいんじゃないか、リアン。俺も賛成です」
「そうするか、では……」
方針が決まり四人で議論しながらも、リアンは先程のことを考えていた。
(現王の血を引く息子なら、もう一人いらっしゃる……ランシェル王子よりずっと、王家の血が色濃く出たお方が……)
その人の現在の名前は……。
――アラン・グリンドヴァール公爵令息。
現王が王太子時代、愛する妃との間に作った愛息子。
帝国の追っ手から命を守るために、義理の両親と共に国外に逃れている、元々、第一王子だった人。
(この後の話し合いを思うと、気が重いです……)
ああ、サリーナの入れてくれたお茶が懐かしい。
緊迫した状況だからこそ飲みたかった。
……今、ここにあったらよかったのに……。
一杯飲むだけで活力が満ち、思考がクリアになる気がして全能感が得られたものだ。あの魔法のようなお茶が飲みたい。
もう二度と彼女と会うこともないだろうから、これからは欲しい時に飲めなくなる。
そのことが残念だと思うリアンなのだった。
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