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第104話 すっかり忘れていた
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少しの休憩を挟んだ後、婚約破棄騒動の件を話し合うため、ランスフォード公爵の指示で当事者達が一室に集められた。
「やあ、シルヴィアーナ嬢。私達もお邪魔するよ」
「まあ殿下。勿論ですわ」
先に令嬢達が入室していた部屋に案内されたランシェル王子達は、ぎこちないない笑みを浮かべ挨拶をかわす。
婚約破棄した者とされた者が四組もいるため、お世辞にも居心地がいいとは言えない。
案の定、室内はシーンとしている。
(き、気まずい……)
ソファーに腰を下ろしながらそっと観察してみたが、当然ながら令嬢達からは挨拶以上の会話を拒絶する空気が溢れかえっていた。
それはもう、人の機微に疎いランシェルでも感じ取れるほどで……。
ランスフォード公爵が来られる前に今宵の非礼を謝罪し、少しでも令嬢達の怒りを解いておきたかったのだが、これは無理だと諦めた。
(何より、あの笑顔が怖いのだが……)
一応、にこやかに返事はしてくれたのだが、目が全然、笑っていなかった。
アレに話しかける勇気はない。
始まる前からキリキリと胃が痛い王子達だった。
微妙な空気が流れ永遠にも感じた時、ランスフォード公爵が入室した。
最後の客人を見送ってから合流したのだ。
出席者の安否確認の他、売国奴達の捜索や捕縛などやるべき事は多々あったが、近衛騎士隊と部下に一旦、任せてきた。
「さて、では何から手をつけて行こうかね?」
親しげな口調ながらも眼光鋭く公爵から問いかけられた王子達が、ビクッと身を硬くする。
「ランスフォード公爵様。失礼ながら話し合う前に、わたくしからひとつ確認したい事がございますの。第一王子殿下に。お許しいただけますかしら」
「ほう、シルヴィアーナから?」
少し考えてから、優しい微笑みを浮かべて頷いた。
「まあ、いいだろう。君の思うようにやってみなさい」
王子達に向けていた厳しさは、すっかり鳴りを潜めている。
可愛がっている姪からのお願いには甘い公爵だった。
「ありがとうございます、公爵様。では、殿下に申し上げます」
「な、なんだろうか?」
いったい何を言われるのかと、ドキドキしながら身構えるランシェル。
「殿下はまだ、サリーナ嬢と一緒になるお気持ちに変化はございませんの?」
「へ?」
思いがけないことを聞かれた、と言うようにキョトンとした王子に構わず続ける。
「わたくしとの婚約を破棄してまで、手に入れたかった方ですものね」
「あっ」
「殿下?」
「い、いやっ。そ、それはっ」
元婚約者からの詰問に、ランシェル王子の目が泳ぐ。
サリーナのことなどすっかり忘れていましたなんて、言い出せる雰囲気ではない。
どうしようかと内心焦りながら王子が言い訳を考えている間にも、話は進んでいく。
「たとえ劇的に見かけが変わったとしても、真実の愛を誓ったお相手ですものね。あの状態の彼女とでも婚約なさるおつもりなのでしょう?」
「ち、違う!」
「殿下?」
「あ、いやぁ。その、なんだ……」
必死に頭を回転させ、自らを守る言葉を絞り出す。
「あの時、貴女との婚約は破棄すると言ったが、サリーナと婚約するとは言っていない……はずだ」
「……」
――確かに。
そう言われて思い返してみると、そこまでは言っていなかった。
詭弁だが王子の言い分は一応、筋が通っている。
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