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第3部 第6話「秘密のメールと、結婚できない理由」
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「――今日も来てるな……」
義春は、いつものように“JFOOD株主専用ポータル”の管理画面を開き、
非公開設定の連絡フォームに飛び込んできた一通のメールを無言で眺めていた。
内容はこうだった。
《お願いです。紬さんを解放してください。彼女はあなたに洗脳されているのではありませんか?》
《私は紬さんの本当の婚約者です。中学時代、彼女が落としたハンカチを拾ってから運命を感じています》
《早く気づいてください。JFOODという組織も、あなたも、彼女を囲い込んでいるだけです》
《彼女を笑顔にしてあげられるのは、私だけです》
「相変わらず、電波……」
スマホの画面を伏せ、ため息をつく。
これで、メールは通算87通目。内容はどんどん妄想めいて、怖さすら漂ってきていた。
最初は軽く考えていた。よくある嫉妬やアンチの延長だと。
だが、最近は状況が違う。相手は“本気”で、自分を敵だと認識している。
義春の気配に気づいた紬が、ソファで丸くなりながら声をかけた。
「んー、義春さん? 何かあった?」
「いや、ちょっとポータルサイトの確認。株主メール……っていうか、ただの苦情系」
「まーた、“味が薄い”とか言われてるんですか?」
「そうそう、俺の舌が濃すぎるのかもなー。はは」
ごまかすように笑ったけど、本当は違う。
あんなものを見せるわけにはいかなかった。
紬は明るくて、真面目で、そして芯が強い。
でもその分、自分を責めてしまうタイプでもある。
「(もし、あのメールの存在を知られたら……)」
きっと自分のせいだと責める。
YouTubeも、会社の仕事も辞めると言い出しかねない。
「(そんなの……ダメだ)」
義春は、まだプロポーズしていない。
でも理由はひとつだけじゃない。
自分が“怖い”のだ。
結婚した瞬間、あのストーカーが何をしでかすか、想像もつかない。
義春の目の前にいる紬は、笑っている。
毛布にくるまりながら、クールサウナの新作ジャージでミカンを食べてる。
「幸せそうだな……」
「ん? なに?」
「いや、今日も平和で何よりだなって」
「ふふっ、平和バンザイですよ」
だからこそ。
この平穏を守るためにも、今は――踏み出せない。
________________________________________
夜、義春はひとりプロジェクターをつけながら、もう一度メールを開いた。
そして、ひとつの決心を胸にする。
「よし……近いうちに、対処しよう。プロじゃないと無理だ、これは」
彼は調査会社にメールを打ち始めた。
この問題に、きちんと“終止符”を打つために。
義春は、いつものように“JFOOD株主専用ポータル”の管理画面を開き、
非公開設定の連絡フォームに飛び込んできた一通のメールを無言で眺めていた。
内容はこうだった。
《お願いです。紬さんを解放してください。彼女はあなたに洗脳されているのではありませんか?》
《私は紬さんの本当の婚約者です。中学時代、彼女が落としたハンカチを拾ってから運命を感じています》
《早く気づいてください。JFOODという組織も、あなたも、彼女を囲い込んでいるだけです》
《彼女を笑顔にしてあげられるのは、私だけです》
「相変わらず、電波……」
スマホの画面を伏せ、ため息をつく。
これで、メールは通算87通目。内容はどんどん妄想めいて、怖さすら漂ってきていた。
最初は軽く考えていた。よくある嫉妬やアンチの延長だと。
だが、最近は状況が違う。相手は“本気”で、自分を敵だと認識している。
義春の気配に気づいた紬が、ソファで丸くなりながら声をかけた。
「んー、義春さん? 何かあった?」
「いや、ちょっとポータルサイトの確認。株主メール……っていうか、ただの苦情系」
「まーた、“味が薄い”とか言われてるんですか?」
「そうそう、俺の舌が濃すぎるのかもなー。はは」
ごまかすように笑ったけど、本当は違う。
あんなものを見せるわけにはいかなかった。
紬は明るくて、真面目で、そして芯が強い。
でもその分、自分を責めてしまうタイプでもある。
「(もし、あのメールの存在を知られたら……)」
きっと自分のせいだと責める。
YouTubeも、会社の仕事も辞めると言い出しかねない。
「(そんなの……ダメだ)」
義春は、まだプロポーズしていない。
でも理由はひとつだけじゃない。
自分が“怖い”のだ。
結婚した瞬間、あのストーカーが何をしでかすか、想像もつかない。
義春の目の前にいる紬は、笑っている。
毛布にくるまりながら、クールサウナの新作ジャージでミカンを食べてる。
「幸せそうだな……」
「ん? なに?」
「いや、今日も平和で何よりだなって」
「ふふっ、平和バンザイですよ」
だからこそ。
この平穏を守るためにも、今は――踏み出せない。
________________________________________
夜、義春はひとりプロジェクターをつけながら、もう一度メールを開いた。
そして、ひとつの決心を胸にする。
「よし……近いうちに、対処しよう。プロじゃないと無理だ、これは」
彼は調査会社にメールを打ち始めた。
この問題に、きちんと“終止符”を打つために。
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