異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第3部 第13話「視察団、来訪！ “貴族の中の貴族”とにらみ合い」

🌾 その朝、馬車10台が農場へ
「来たわね……王都視察団」
紬が眉をひそめながらそう言った。
王都より正式に派遣された“貴族による視察団”。
農業振興政策の一環として、異例の大規模視察が実現した。
陽介が軽く深呼吸する。
「俺たちがやってきたこと、しっかり見せてやろう」
馬車の中から降りてきたのは、10人あまりの使者たち。
その中に――ひときわ派手な金刺繍の外套を着た男がいた。
「おお、ここが……例の、“農場騎士団”とやらか」
彼の名はレオネル・デュラン公爵。
王都五大貴族のひとつ、“デュラン家”の当主代理。
権威を鼻にかけた、農業を「下民の営み」と蔑むことで知られる男だ。
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💢 ぶつかる価値観
案内役を務めていたティナが、レオネルの前で足をもつれさせた。
「おい、子供に案内をさせるとは、まるで道化だな。農民どもは“礼儀”も知らんのか」
周囲が凍りつく。
陽介が一歩前に出る。
「……案内を買って出たのは彼女です。うちでは“年齢”ではなく“意思”を尊重します」
「フン……随分と生意気な“自称団長”だな。
それで？ 貴様らの“畑遊び”とやら、どれほどのものか見せてもらおうか？」
レオネルは鼻で笑った。
「この国の未来を動かすのは、剣と魔法と金だ。“鍬と泥”ではあるまい」
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🔥 陽介、吠える
陽介の背後で、リネットが必死に押さえている。
アルトが目をそらし、ネイラが歯ぎしりしていた。
「団長……言ってやってくださいよ……！」
陽介は、静かに視線を上げる。
「剣で命を守る者もいれば、魔法で癒す者もいる」
「でも、俺たち農民は、“明日を守ってる”んです」
レオネルの眉がピクリと動く。
「飢えた者に食を与える。水に困る村に水路を引く。
そんなことが“下賤”に見えるなら――あなたの未来は、空っぽだ」
「なにぃ……！？」
「じゃあ問います。
この畑の一つでも耕せますか？
この水路を一本でも引けますか？
食べ物が無ければ、剣も魔法も金も、何の意味もありません！」
陽介の言葉が、視察団の空気を一変させた。
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✨ 動き出す視察団
視察団の中で、数人の貴族たちがひそひそと話し合いを始める。
「確かに……このトマト、すごく甘い……」
「この潤沢な水は……貴族領よりも整っているのでは？」
レオネルは顔を歪めたが、
その威光が“崩れていく”のを感じたのか、無言で馬車に戻った。
帰り際、彼は陽介にだけ向かって言った。
「貴様のやり方、いずれ限界が来る。……それだけは覚えておけ」
「どうぞ、ご自由にお覚えください」
陽介の笑顔に、レオネルは何も言えず馬車を去った。
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☕ 勝利のあとで
焚き火の前。
陽介は少し落ち込んだようにため息をついていた。
「怒りすぎたかな……？」
「いいえ。最高だった」
紬が、少し照れながら言った。
「みんな、団長が誇りなんですよ。農業って、あんなにかっこいいんだって……私も、再認識しました」
陽介は焚き火の炎を見つめる。
――守るべきは、誇り。
そして、土と共に生きる人々の「明日」だ。