異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第三部・第14話 「地を耕す者に跪くとき」――“ざまあ”の逆転劇

🌆 翌朝・農場
「団長、王都から早馬が！」
朝の収穫準備をしていた陽介に、ティナが走ってきた。
封蝋には……あの忌々しいデュラン家の家紋。
「……また、何か文句でも？」
開封して目を通した陽介は、目を細めた。
《デュラン公爵家代理 レオネル・デュランより》
昨日の無礼の数々、深くお詫び申し上げます。
我が家は貴農場の“赤の作物（トマト）”および“魔導温床式育苗装置”に強い関心を抱いております。
ぜひ正式に商談の場を設けたく、近日中に特使を派遣いたしたく存じます――
「……ほぉう」
隣で畑に水やりしていたネイラがニヤリ。
「“鍬遊び”と見下してたくせに、手のひら返してきたわけだ」
________________________________________
🍅 午後・調理場の裏で作戦会議
陽介、紬、リネット、アルト、ドラン爺、ネイラの主要メンバーが集まった。
「さて、問題はここからだ」
陽介が視線を上げた。
「昨日の侮辱を忘れてない。けど……謝ってきた。
そして、俺たちは“この農場を育てる”ことが目的で、“仕返し”が目的じゃない」
「……取引するの？」とリネット。
「条件付きでな」と陽介はうなずいた。
________________________________________
📜 陽介が出した“3つの条件”
1. 正式謝罪：レオネル自身が農場を再訪し、全団員の前で謝罪すること。
2. 農業教育支援：デュラン家の資産を使って、農民の子どもたちのための「農業学習資金」を創設すること。
3. 対等の取引：あくまで「下請け」ではなく、互いの名を冠した対等なブランドとして商品化すること。
「それが飲めるなら、取引を考える。飲めないなら……帰ってもらう」
________________________________________
👑 数日後・デュラン特使、再訪
ミドリヤマ農場に現れたのは――なんとレオネル本人だった。
かつてのような金刺繍の外套はなく、質素な黒の詰襟。
その姿に、農場の団員たちがざわつく。
陽介の前で、レオネルは一歩進み、ひざをついた。
「このレオネル・デュラン、過日の無礼、深く詫びる……！」
「俺だけじゃない。ここにいる全員に謝ってもらう」
「……皆の者、聞いてほしい」
レオネルは大地に額をこすりつけるようにして、叫んだ。
「私は、地を耕すことの尊さを知らなかった！ 貴殿らの働きに、敬意を捧げる！」
________________________________________
🤝 “誇り”ある握手
「……条件、飲んでもらえますか？」
「すべて、承知した」
陽介はしばしの沈黙ののち、手を差し出した。
「なら、ここから一緒に育てましょう。
　“土と人の未来”を――名前じゃなく、志でつながりましょう」
レオネルは、その手を、迷いなく握った。
________________________________________
☕ 夜・焚き火の前
「団長、やっぱすげぇな」
「昨日の“ざまぁ”だったのに、今日は“共闘”だなんて」
アルトとネイラが茶をすすりながら言う。
「まぁ、土はさ、誰にでも優しくしてくれるんだよ。
　ちゃんと謝って、水やれば、芽は出るんだ」
紬が微笑んで陽介に寄り添う。
「でも、ちゃんと“許す”って……すごく難しいことだと思う」
「だからこそ、大事にしたいんだよ。
　この農場の“誇り”ってやつをさ」