異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

文字の大きさ
86 / 247

第3部 第56話 「“グリーン・コンボイ”走る――道に刻む約束」

しおりを挟む
🌄 初運行、夜明けの列
ミズノの街・東門。霧の向こうで鳥が鳴き、緑の幌をかけた荷馬車が一台、また一台と並ぶ。胸元の徽章は、朝日に淡く光る“緑”。
「最終点検、開始します」
紬が点検票をめくる。車輪ボルト、積載重量、衛生封印、灯具(ポテリエ灯)の残量、御者の体調。指さし呼称が列に伝播する。
「車輪よし、封印よし、徽章よし!」
陽介が短く前に出た。「――道は約束だ。時間を守り、荷を守り、人を守る。困ったときは止まれ。止まったら、必ず知らせろ」
「了解!」
緑の旗がひるがえり、初隊は北の湖畔ラーナへ。二隊は西の砂地バルドへ。三隊は南の森辺エンデへ。
________________________________________
🧭 新しい関所の朝
街道関所。門番が半歩、逡巡してから胸を張った。
「共益通行章の提示を」
御者が胸章を掲げ、荷札の連番を示す。関所の検査台に魔光が走り、真偽印が浮かぶ。
「……通行料、10%減額。本日の通行台数は計上済み。安全な旅路を」
「お、おう」門番の頬が緩み、後ろで見ていた雑踏から拍手が起きた。
「ほんとに下がった……!」「台数保証も付いたってよ」
バルカロの署名入り布告が、風にはためいていた。
________________________________________
🛒 商い、走り出す
湖畔ラーナ――釣り宿の桟橋に、香草と瓶詰の箱が積まれる。
「これで宿の越冬費用、出せそうだよ」女将が両手を合わせる。
砂地バルド――防風林の陰、薄塩チップスの香り。
「“砂地の甘いの”だって? 名前がいい」旅商人が即買いする。
森辺エンデ――展示館前の屋台に、子どもたちが行列。
「触れる模型はこっちね。本物は見るだけよ」係の少女が胸を張る。
昼の報告線(グリーン・ライン)に数字が並ぶ。〈午前便:遅延0/事故0/積載達成率98%〉
紬が深呼吸した。「……いい流れ」
陽介が頷く。「約束は、守られて初めて力になる」
________________________________________
🕳 影、道を嗅ぐ
黄昏。峠道の藪に、灰色の頭巾がうずくまっていた。
「緑の隊、時刻も荷も公開か。なら、狙い所も分かりやすい」
灰鼠団(グレイ・ラット)。街道で小賊を束ねる連中だ。脇に立つのは、私腹を肥やす下級道番。
「今夜、峡谷手前に“撒き針(まきばり)”を。足を止めりゃ、あとは楽なもんだ」
「取り分は約束通りだぞ」
二人は闇に溶けた。
________________________________________
🛑 予兆――“停止三法”
夜半。ラーナ帰りの二号車が、御者台で眉をひそめた。「前方、地面が黒い……?」
「一旦停止!」
列がぴたりと止まり、停止三法が動く。①先行徒歩で確認、②“風幕”で地表を一吹き、③灯を伏せ、広角に観察。
「撒き針だ――鉄」
護衛が小声で告げ、レオンが前に進む。風の刃が地を掃き、金属音が雨のように鳴った。
「後続、三十歩下がれ。馬は降りて曳け」
紬は路肩で膝をつき、指で土をすくう。「撒いた時間は……夕刻前後。足跡は二人分、片方は“軍靴”。内通だね」
陽介が短く頷く。「追うのは最小。荷を守るのが先。――レオン、二人で影だけ払ってくれ」
「了解」
________________________________________
⚔ 影払い
崖の小道。レオンの足音は風に紛れ、陽介の剣気は薄い。茂みから刃がのぞく瞬間、二人はひと呼吸で間合いを詰めた。
「動くな」
「ひっ……!」
灰鼠団の下っ端は瞬く間に転がされ、道番は膝をついた。
「なぜやった」
「税が下がりゃ、取り分が減るって……“上”に言われたんだ」
「“上”?」
「峡谷の吊り橋が次の狙いだと……!」
ロープで縛り、関所に引き渡す。陽介は短く言い置いた。「罪は裁き、道は守る」
その後、上の者も芋づる式に検挙された。
________________________________________
🔐 走りの設計を上げる
夜明け前、野営地で緊急ブリーフィング。
「情報は“必要最小限・時差配信”。便ごとに時刻のずらしと**偽便(デコイ)**を設定」
紬が木札を配る。「行路札は魔光インクで封。開封は関所と目的地のみ。流出は検出される」
「巡回は“道番+騎士分隊+商人護衛”の三者合同」レオン。
「基金から“吊り橋補強”を前倒しで。ギルドへ直電(直信)」レオネル。
陽介は最後に言った。「荷より命。命より約束。約束を守るために、命を守る」
全員の喉が、同時に鳴った。
________________________________________
🕯 道にともる灯
二日後の夕暮れ。峡谷の吊り橋に、緑の灯が点々とともった。補強縄は新しく、板は鳴きが少ない。
「通行、開始」
最初の御者が深く息を吸い、馬の鬣が風に揺れた。橋がゆっくり唸り、列が渡る。下から谷風が吹き上げる。
「怖い?」と紬。
「少し。でも――綺麗だな」陽介が笑う。遠く、街の灯が一つ、また一つと滲んだ。
橋の向こう側、村の子どもが旗を振る。「緑の隊だー!」
隊列が渡り切った瞬間、広場に歓声が弾けた。
________________________________________
📈 試験協定・第一週の数字
大学ホールの黒板。
• 通行台数:計画比 +12%
• 遅延:1/87便(原因:豪雨、振替路で解消)
• 事故:0
• 偽装検挙:2件(撒き針・偽札)
• 直売所売上:+19%/民宿稼働:72%
「――上々だ」レオネルが手を打つ。
紬がチョークで最後の一行を書く。『苦情 7件 → 対応済 7件(公開)』
「数字は“声”の形。隠さない」
陽介は皆を見渡し、静かに頷いた。
「道は一本じゃない。けれど、信じて渡る橋は一つでいい。俺たちは、その一本を守る」
窓の外、緑の旗が高く、風をつかんだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

【もふもふ手芸部】あみぐるみ作ってみる、だけのはずが勇者ってなんなの!?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 網浜ナオは勉強もスポーツも中の下で無難にこなす平凡な少年だ。今年はいよいよ最高学年になったのだが過去5年間で100点を取ったことも運動会で1等を取ったこともない。もちろん習字や美術で賞をもらったこともなかった。  しかしそんなナオでも一つだけ特技を持っていた。それは編み物、それもあみぐるみを作らせたらおそらく学校で一番、もちろん家庭科の先生よりもうまく作れることだった。友達がいないわけではないが、人に合わせるのが苦手なナオにとっては一人でできる趣味としてもいい気晴らしになっていた。  そんなナオがあみぐるみのメイキング動画を動画サイトへ投稿したり動画配信を始めたりしているうちに奇妙な場所へ迷い込んだ夢を見る。それは現実とは思えないが夢と言うには不思議な感覚で、沢山のぬいぐるみが暮らす『もふもふの国』という場所だった。  そのもふもふの国で、元同級生の丸川亜矢と出会いもふもふの国が滅亡の危機にあると聞かされる。実はその国の王女だと言う亜美の願いにより、もふもふの国を救うべく、ナオは立ち上がった。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

処理中です...