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第3部 第65話「国境を越える緑――初めての“砂漠技術”交渉」
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砂漠の油芋畑が評判になって一月ほどたった頃。
ミズノ農場の会議室に、王都からの早馬が飛び込んできた。
「長官! 隣国ゼラフィードから、使節団がまいります!」
報告を受けた陽介は眉を上げる。
「ゼラフィード……あそこは水不足で農業が難しい国だよな」
「はい。特に南部の乾燥地帯では、ほぼ作物が育たないとか」
紬はすでに手元の地図を広げていた。
「国境のあのあたりは、砂漠の延長みたいな土地。こっちの砂漠農法と相性はいいはずよ」
――数日後。
王都の迎賓館に、ゼラフィードの使節団が到着した。白いターバンに金糸の入った衣装、そして陽射しを防ぐための薄い外套。
先頭に立つのは、ゼラフィード王国農業開発庁長官のバシール卿だ。
「伯爵殿、お会いできて光栄です」
深く礼をするバシール卿に、陽介は笑顔で応える。
「こちらこそ。砂漠で芽を出した話が、もうそちらに届いたようで」
「ええ。実は……あれは半信半疑で聞いておりました。ですが現地の商隊が持ち帰った花の写真を見て、心が動きました」
隣に座る紬が柔らかく口を開く。
「それで、具体的にはどの地域で試したいのですか?」
「我が国南部のバルカス地方です。年間降水量は少ないですが、井戸水は深層に豊富にあります。そこに油芋を――」
会話は早々に条件交渉に入った。
陽介は、指で机を軽く叩きながら説明する。
「ただし、油芋は国のインフラ同様、管理と品質統一が重要です。自由に栽培されると品質差が生まれ、燃料としての価値が下がります」
「つまり、我々の国にも“農場騎士団”に似た管理組織が必要ということですね?」
「そうです。それと――」
紬が笑顔のまま釘を刺す。
「種は私たちが管理して配ります。収穫物の一部は必ず国家貯蔵庫に回してください。それが安全保障ですから」
バシール卿は一瞬言葉に詰まったが、やがて静かに頷いた。
「承知しました。我が国も、食料と燃料の安定供給を何より求めています。条件を飲みましょう」
交渉は思ったよりもスムーズに進んだ。
最後に陽介は、笑みを浮かべて一言添えた。
「では――芽吹きの瞬間を、そちらでも見てください。あれは人の心を変えます」
使節団は深々と礼をして退室した。
紬はその背中を見送りながら、小声でつぶやく。
「……これでまた、砂漠に緑が増えるわね」
「そうだな。そして、この動きはきっと、さらに遠くまで広がる」
会議室の窓から差し込む陽射しは、まるで新しい未来を祝福するかのように暖かかった。
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「ええ。実は……あれは半信半疑で聞いておりました。ですが現地の商隊が持ち帰った花の写真を見て、心が動きました」
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「それで、具体的にはどの地域で試したいのですか?」
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「つまり、我々の国にも“農場騎士団”に似た管理組織が必要ということですね?」
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「承知しました。我が国も、食料と燃料の安定供給を何より求めています。条件を飲みましょう」
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「では――芽吹きの瞬間を、そちらでも見てください。あれは人の心を変えます」
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「……これでまた、砂漠に緑が増えるわね」
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