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第3部 第90話 「海辺の研究拠点――潮風と新たな挑戦」
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陽介と紬が新たに足を踏み入れたのは、海に面した港町エルドマリーナ。
ここは交易の拠点として栄えてきたが、近年は漁獲量の減少と塩害による農地の縮小で活気が落ち込んでいた。
しかし、今回の海水耐性作物の研究には、この土地こそがうってつけだった。
周囲には干上がった塩田や荒れ地が広がり、海からの風が吹きつける。まさに実験には最適の条件だ。
________________________________________
「伯爵閣下、そして紬副長官。ようこそ、エルドマリーナへ」
迎えたのは、この地を治める老齢の領主・オルドン卿。姿勢はまっすぐで、海風で焼けた顔に深い皺を刻んでいるが、その瞳は若々しく輝いていた。
「突然のお願いにもかかわらず、研究拠点の提供、ありがとうございます」
紬が微笑むと、オルドン卿は首を横に振った。
「いや、むしろ我らが礼を言うべきだ。海水で育つ作物など、我らの長年の悲願だ。もし実現すれば、この港町は再び交易の要に返り咲ける」
陽介も頷き、すぐに地図を広げた。
「では、まずはこの沿岸の荒地に試験区画を設けます。北側は海霧が多いので、塩分濃度が高くても耐えるかどうかを試す。南側は淡水の井戸も近いので、混合水での生育比較を」
「ほう…研究者の視点というのは実に面白い」
オルドン卿は感心したように地図を覗き込み、領の若者たちに声をかけた。
「おい、お前たち!伯爵閣下の指示通り、土地をならし、柵を立てよ!」
________________________________________
その日の午後、研究拠点の設営が始まった。
ミズノ農業大学から派遣された学生たちと地元の青年団が協力し、土壌のサンプリングや苗床の設置を手際よく進める。
「陽介、この砂…思ったより水はけが良いわ」
紬が試験管を覗き込みながら言う。
「なら、養分を保つために保水性の高い魔法資材を混ぜよう。あと、塩分を吸着する藻由来の粉末も試してみたい」
「了解。藻は港の漁師さんから調達できそうね」
________________________________________
夕暮れ時、港から帰ってきた漁師たちが、陽介たちの作業を興味深そうに眺めていた。
オルドン卿が笑みを浮かべて言う。
「この町の者は、何事も“自分の目で確かめないと信用しない”気質でな。だが、今日一日でおぬしらが本気だと分かったはずだ」
陽介は海を見やりながら答える。
「この海と土地が、もう一度人々を潤す日を必ず作ります」
波間に夕日が溶け、潮風が新しい約束を運んでいた。
エルドマリーナでの挑戦は、まだ始まったばかりだった。
ここは交易の拠点として栄えてきたが、近年は漁獲量の減少と塩害による農地の縮小で活気が落ち込んでいた。
しかし、今回の海水耐性作物の研究には、この土地こそがうってつけだった。
周囲には干上がった塩田や荒れ地が広がり、海からの風が吹きつける。まさに実験には最適の条件だ。
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「伯爵閣下、そして紬副長官。ようこそ、エルドマリーナへ」
迎えたのは、この地を治める老齢の領主・オルドン卿。姿勢はまっすぐで、海風で焼けた顔に深い皺を刻んでいるが、その瞳は若々しく輝いていた。
「突然のお願いにもかかわらず、研究拠点の提供、ありがとうございます」
紬が微笑むと、オルドン卿は首を横に振った。
「いや、むしろ我らが礼を言うべきだ。海水で育つ作物など、我らの長年の悲願だ。もし実現すれば、この港町は再び交易の要に返り咲ける」
陽介も頷き、すぐに地図を広げた。
「では、まずはこの沿岸の荒地に試験区画を設けます。北側は海霧が多いので、塩分濃度が高くても耐えるかどうかを試す。南側は淡水の井戸も近いので、混合水での生育比較を」
「ほう…研究者の視点というのは実に面白い」
オルドン卿は感心したように地図を覗き込み、領の若者たちに声をかけた。
「おい、お前たち!伯爵閣下の指示通り、土地をならし、柵を立てよ!」
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その日の午後、研究拠点の設営が始まった。
ミズノ農業大学から派遣された学生たちと地元の青年団が協力し、土壌のサンプリングや苗床の設置を手際よく進める。
「陽介、この砂…思ったより水はけが良いわ」
紬が試験管を覗き込みながら言う。
「なら、養分を保つために保水性の高い魔法資材を混ぜよう。あと、塩分を吸着する藻由来の粉末も試してみたい」
「了解。藻は港の漁師さんから調達できそうね」
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「この町の者は、何事も“自分の目で確かめないと信用しない”気質でな。だが、今日一日でおぬしらが本気だと分かったはずだ」
陽介は海を見やりながら答える。
「この海と土地が、もう一度人々を潤す日を必ず作ります」
波間に夕日が溶け、潮風が新しい約束を運んでいた。
エルドマリーナでの挑戦は、まだ始まったばかりだった。
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