異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第3部 第103話 「蜜花祭り――都市を染める香りと色彩」

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王都の広場には、朝から人の波が押し寄せていた。
 今年初めて開かれる「蜜花祭り」。屋上農園や街の花壇で育てられた蜜花を使った料理や菓子、装飾品が一堂に会する祭典だ。
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◆街の熱気
「おーい! 焼き蜜花クッキー三枚おまけだよ!」
「こっちは蜜花ソーダ! 泡が虹色に光るんだ!」
 露店が立ち並び、甘やかな花の香りが通りを満たす。
 子どもたちは花びらをすり潰して作ったフェイスペイントを頬に塗り、貴婦人たちは蜜花で編んだ髪飾りを自慢し合う。
 紬は驚いたように息を呑んだ。
「わあ……想像以上ね。屋上でちょこっと咲かせてるだけなのに、これだけの文化になるなんて」
「嗜好品だからこそ、みんなが“楽しみ方”を工夫できるんだろうな」
 陽介も頷き、花の香りの漂う風に目を細める。
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◆蜜花ブランドの証
 祭りの目玉は「蜜花ブランド協会」が公式に認定した製品だけが並ぶ特設会場だった。
 テントには金色の印章が掲げられ、買い物客はそこに集中している。
「やっぱり印があると安心だわ」
「値段は高いけど、本物は味が違うのよ」
 陽介は小声で紬に耳打ちした。
「狙いどおりだな。ブランドを守ることが、商人も消費者も得をする仕組みになった」
「うん。これで“質の低いまがい物”が混ざる余地は減るわね」
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◆都市経済への波及
 宿屋では蜜花を練り込んだ蒸しパンが朝食の定番に。
 酒場では蜜花酒が「恋が叶う飲み物」として評判になり、若者たちが列を作る。
 さらには旅人や観光客も押し寄せ、王都はちょっとした観光都市の様相を見せ始めていた。
「これがグリーン・ツーリズムの都市版ってやつかしらね」
「農業が都市の文化と結びつくと、こんなにも人を呼び込むんだな」
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◆次なる舞台
 夜。広場では蜜花を模した灯籠が並び、花の香りを風に乗せて舞っていた。
 見上げる人々の笑顔を見ながら、陽介は静かに呟いた。
「……次は、この流れをどう国全体に広げるか、だな」
 紬は笑顔で応じる。
「もう、王都だけの花じゃない。国の象徴になりつつあるわ」
 蜜花祭り――それは単なる嗜好品のイベントではなく、都市と農業、文化と経済を結ぶ「新しい架け橋」の始まりとなった。
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