異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川 雅

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第3部 第111話 「研究室での初実験と最初の失敗」

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魔法大学・応用錬金工学研究棟。
 白い石造りの建物の一室に、陽介と紬は通された。壁際には錬金の大釜や魔力炉、見慣れない魔導器具がずらりと並ぶ。どこか現代の化学実験室を思わせるが、魔力と科学が混ざった独特の空気を纏っていた。
「……ここが、今日から俺たちの研究室か」
「ふふ、薬学棟の香りよりは、ちょっとオイルっぽい匂いがするね」
 紬は鼻をひくつかせながら笑った。
 既に助手として数人の大学院生が用意されており、皆好奇心で目を輝かせている。
「先生、ほんとうに油芋から“透明な石のようなもの”ができるんですか?」
「できるはずだ。正しく処理すれば、柔らかくも固くも、いろんな形に変えられる。――ただし」
 陽介は手元のノートを叩き、苦笑した。
「……初めからうまくいく保証はない」
________________________________________
◆初めての試作
 まずは油芋を搾油し、精製。
 高温で加熱しながら、魔力触媒を少しずつ投入していく。
「攪拌、もっとゆっくり! 熱が急に上がるぞ!」
「はい!」
 学生が汗だくで木製の撹拌棒を回す。
 油がとろりと色を変え、次第に透明な樹脂のような膜を生み出し始めた。
「……おお、固まってきてる!」
「いけるんじゃない?」と紬も期待に声を弾ませる。
 やがて白濁した半透明の塊ができあがった。
 陽介は慎重に手に取る。
「これが……最初の油芋樹脂か」
________________________________________
◆まさかの結末
 ところが。
 持ち上げた瞬間――
 ばきんっ!
 乾いた音と共に、塊は粉々に砕け散った。
 粉雪のように舞い散る白い欠片に、研究室が一瞬静まり返る。
「……え?」
「せ、先生……今、砕け……」
「ええ、砕けたな」
 陽介は額を押さえ、深いため息をついた。
「完全に脆い。硬化が進みすぎたんだ。
 触媒の量が多すぎたか、それとも温度管理が甘かったか……」
 紬は吹き出して笑った。
「なぁんだ。やっぱり一発成功は無理か」
「笑いごとじゃない。データ取り直しだ」
「でも、みんなにとっては良い見本になったでしょ? “研究は失敗から始まる”って」
 学生たちもくすくす笑い出し、緊張がほどけた。
________________________________________
◆前向きな失敗
 陽介は砕け散った欠片を掌に集め、光に透かした。
 太陽の光を受け、淡く透き通るそれは、確かに“未来の素材”の片鱗を宿しているように見えた。
「……少なくとも、ただの油ではないものができた。
 方向性は間違っていない」
 そう呟く彼の横で、紬はにっこりと笑う。
「じゃあ次は、“砕けないお皿”を作る実験ね」
「そうだな。まずは小さな食器でも安定して作れるようにならないと」
 失敗から始まった最初の一歩。
 けれど研究室には、不思議と明るい空気が満ちていた。
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