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第3部 第112話 「改良への道――失敗の積み重ね」
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――翌日。
魔法大学の研究棟に、再び油芋が運び込まれた。
陽介と紬は学生たちと共に、失敗の原因を突き止めるための再実験に挑んでいた。
________________________________________
◆二度目の挑戦
「今回は触媒を半分に減らしてみる」
陽介は小さな天秤に粉を落とし、慎重に分量を測る。
「温度はどうする?」と紬が尋ねる。
「昨日より低め、百二十度前後で維持だ」
「ふむふむ。学生くんたち、攪拌は均等にね。焦らず、ゆっくり」
魔力炉の熱で油芋がとろりと溶け、黄金色の液体に変わる。
撹拌棒を回すと、徐々に粘り気が増し、白濁していく。
「お、昨日より粘りが柔らかい気がするぞ」
「これなら……いけるかも」
やがて、半透明の塊ができあがった。
陽介がそっと指で押す。
――ぐにっ。
「……柔らかすぎだな」
指にべっとり張り付き、形を保てない。
「昨日はカチカチ、今日はべとべと。極端だなぁ」
紬が肩をすくめ、学生たちも苦笑した。
________________________________________
◆三度目の挑戦
「触媒を三分の一にして、温度は逆に高め。
硬さと柔らかさの中間を狙う」
陽介は真剣な顔で指示を飛ばす。
学生たちも息を詰め、丁寧に操作を重ねる。
白濁のタイミングを見計らい、温度を一定に保つ。
魔法で温度を調整する者と、機械式の計器で測る者――双方の世界の技術が交わっていく。
やがてできあがった塊は、昨日よりもしっかりしていた。
掌で転がしても砕けず、指で押せばわずかに弾力を返す。
「おお、今度は……」
「成功?」と紬が期待を込める。
――ぱきんっ。
しかし、少し力を込めただけで表面が割れた。
中心部はまだ脆弱だったのだ。
「外は固いが、中は空洞に近いな。熱が均等に回っていない」
陽介は記録用紙にさらさらとメモを書きつけた。
________________________________________
◆繰り返す失敗
四度目――固すぎて叩いただけで粉になる。
五度目――柔らかすぎて水飴のように流れ出す。
六度目――見た目は良いが、時間が経つと縮んでひび割れる。
実験室は、粉々に砕けた欠片や粘りついた試料でいっぱいになった。
学生たちは額に汗を浮かべながらも、諦めた様子はない。
「……まるで料理の試作みたいだね」
紬が笑うと、陽介も苦笑を返した。
「料理なら腹に入るが、これは全部ゴミだ。だが――」
砕けた欠片を光にかざす。
散らばる破片はどれも、わずかに輝きを宿していた。
「――確実に、昨日より今日の方が“素材”に近づいている」
________________________________________
◆学生たちの反応
「先生……僕、あんなに失敗続きだと心折れると思ってました」
ある学生が呟く。
「研究ってのは、失敗を積み上げる仕事だ」
陽介は柔らかく笑った。
「正解を一度で掴めるなら、誰だってやってる。
失敗の数だけ、俺たちは正解に近づいてるんだ」
紬が隣でうなずく。
「それに、昨日より今日の欠片の方が綺麗でしょ?
その小さな変化を楽しめばいいのよ」
学生たちの顔に再び光が宿った。
________________________________________
◆突破口の兆し
十数回の実験を終えた頃。
ひとつの試料が、これまでにない性質を示した。
半透明で、しなやかに曲がる。
割ろうとしても、簡単には砕けない。
「……これは!」
「見て、陽介! お皿の形にできる!」
紬がそっと押し広げた試料は、薄く丸い円盤状を保った。
まだ完全ではないが――確かな突破口だった。
魔法大学の研究棟に、再び油芋が運び込まれた。
陽介と紬は学生たちと共に、失敗の原因を突き止めるための再実験に挑んでいた。
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◆二度目の挑戦
「今回は触媒を半分に減らしてみる」
陽介は小さな天秤に粉を落とし、慎重に分量を測る。
「温度はどうする?」と紬が尋ねる。
「昨日より低め、百二十度前後で維持だ」
「ふむふむ。学生くんたち、攪拌は均等にね。焦らず、ゆっくり」
魔力炉の熱で油芋がとろりと溶け、黄金色の液体に変わる。
撹拌棒を回すと、徐々に粘り気が増し、白濁していく。
「お、昨日より粘りが柔らかい気がするぞ」
「これなら……いけるかも」
やがて、半透明の塊ができあがった。
陽介がそっと指で押す。
――ぐにっ。
「……柔らかすぎだな」
指にべっとり張り付き、形を保てない。
「昨日はカチカチ、今日はべとべと。極端だなぁ」
紬が肩をすくめ、学生たちも苦笑した。
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◆三度目の挑戦
「触媒を三分の一にして、温度は逆に高め。
硬さと柔らかさの中間を狙う」
陽介は真剣な顔で指示を飛ばす。
学生たちも息を詰め、丁寧に操作を重ねる。
白濁のタイミングを見計らい、温度を一定に保つ。
魔法で温度を調整する者と、機械式の計器で測る者――双方の世界の技術が交わっていく。
やがてできあがった塊は、昨日よりもしっかりしていた。
掌で転がしても砕けず、指で押せばわずかに弾力を返す。
「おお、今度は……」
「成功?」と紬が期待を込める。
――ぱきんっ。
しかし、少し力を込めただけで表面が割れた。
中心部はまだ脆弱だったのだ。
「外は固いが、中は空洞に近いな。熱が均等に回っていない」
陽介は記録用紙にさらさらとメモを書きつけた。
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◆繰り返す失敗
四度目――固すぎて叩いただけで粉になる。
五度目――柔らかすぎて水飴のように流れ出す。
六度目――見た目は良いが、時間が経つと縮んでひび割れる。
実験室は、粉々に砕けた欠片や粘りついた試料でいっぱいになった。
学生たちは額に汗を浮かべながらも、諦めた様子はない。
「……まるで料理の試作みたいだね」
紬が笑うと、陽介も苦笑を返した。
「料理なら腹に入るが、これは全部ゴミだ。だが――」
砕けた欠片を光にかざす。
散らばる破片はどれも、わずかに輝きを宿していた。
「――確実に、昨日より今日の方が“素材”に近づいている」
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◆学生たちの反応
「先生……僕、あんなに失敗続きだと心折れると思ってました」
ある学生が呟く。
「研究ってのは、失敗を積み上げる仕事だ」
陽介は柔らかく笑った。
「正解を一度で掴めるなら、誰だってやってる。
失敗の数だけ、俺たちは正解に近づいてるんだ」
紬が隣でうなずく。
「それに、昨日より今日の欠片の方が綺麗でしょ?
その小さな変化を楽しめばいいのよ」
学生たちの顔に再び光が宿った。
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◆突破口の兆し
十数回の実験を終えた頃。
ひとつの試料が、これまでにない性質を示した。
半透明で、しなやかに曲がる。
割ろうとしても、簡単には砕けない。
「……これは!」
「見て、陽介! お皿の形にできる!」
紬がそっと押し広げた試料は、薄く丸い円盤状を保った。
まだ完全ではないが――確かな突破口だった。
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