異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

第4部 第15話 紬の愛情――十人の“子”たちへ

🌅 朝の畑にて
　再挑戦のために畑へ集まった十名の学生たちは、昨日までの落ち込みを振り払うように道具を手にしていた。
　その姿を見つめる紬の眼差しは、母が子を見守るように温かかった。
「水を少し控えて……はい、そう。よく見て、土が息をしているかどうか感じて」
　彼女が一人ひとりに声をかけると、若者たちの顔に自然と笑みが戻っていく。
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💠 紬の胸の内
　紬は心の中で何度も自分に言い聞かせていた。
（私と陽介は、この世界で子をなすことは選ばなかった。
　いずれ現世に帰るかもしれない。
　子を残せば、この世界に置いていかねばならなくなる。
　それはあまりに残酷……）
　だからこそ、この十人の学生は、紬にとって特別な存在だった。
　「血は繋がらなくとも、心で育てる」――そう誓っていたのだ。
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👩‍🎓 十人とのやり取り
「紬様、畑を区画ごとに違う種を撒いてみてもいいですか？」
　最年少のエリナが恐る恐る問いかける。
「もちろん。あなたの発想は貴重よ。試して、結果を見せてちょうだい」
　紬は優しく背を押した。
「水路の石積み、俺が全部やります！」
　カティアが元気よく声を上げる。
「一人で背負わないで。皆でやることに意味があるの」
　そう言って紬は彼女の手を握り、仲間の輪へ導いた。
　そのひとつひとつのやり取りが、学生たちの心を和ませ、信頼を深めていった。
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🌌 陽介の視点
　陽介は少し離れた場所から、その光景を見つめていた。
　十人が紬の声に耳を傾け、子供のように生き生きと振る舞う姿。
「……母親のようだな」
　独りごちるように呟くと、近くにいた農場騎士団の団長が頷いた。
「紬様の愛情は真実でしょう。あのお方がいる限り、この十人は必ず育ちます」
　陽介は深く頷いた。
（子を持つことを選ばなかった俺たちに、神が与えてくれた縁かもしれないな……）
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🔥 篝火の夜
　その夜、篝火を囲んで食事をとる学生たちの間に、笑い声が絶えなかった。
　紬は一人ひとりの皿に料理をよそい、まるで母が子を世話するように気を配る。
「紬様、ありがとうございます」
「僕、もっと頑張ります！」
「次は絶対、畑を成功させます！」
　その言葉に紬は微笑み、心の奥で静かに呟いた。
（あなたたちは、私の誇り。私の“子”――この旗を未来へ運ぶための大切な存在）
　夜空に揺れる旗は、まるでその想いを受け止めるかのように、篝火の光を映していた。