異世界転移が決まってる僕、あと十年で生き抜く力を全部そろえる

谷川　雅

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第5部第7話水門の余韻――新たな時代へ

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峡谷を離れて
　水門が静かに霞へと戻ったあと、陽介たちは峡谷の縁へ戻り、
　待っていた十人の後継者と合流した。
　水門の気配はまだ微かに残っている。
　まるで淡い波紋が空気を揺らしているようだった。
「……帰らなくて、よかったの？」
　エリナが小さく尋ねる。
　紬は、優しく笑った。
「ありがとうエリナ。でも大丈夫。
　“帰らない選択をした”というより――
　“今は、ここにいたい”って思っただけよ」
　十人はほっと息をつく。
　その表情には、安堵だけではなく、強い誓いの色があった。
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🌬️ 帰路の中で――十人の誓い
　峡谷の風を浴びながら、陽介は十人と並んで歩いた。
　トマスが先に口を開く。
「俺……守護獣を見た時、震えてました。
　でも今は……あれを越えた陽介様たちに、絶対ついていこうって思えます」
　カティアがウインクする。
「まぁ、私たちはもう弟子じゃないけどね。
　“後継者”なんだから。ちゃんと支えるよ」
　ユリウスが微笑む。
「帰る道があっても、この世界を選んだあなたたち。
　本物の指導者です。僕は……そんな人についていきたい」
　マリアは涙を拭いながら言った。
「だから私、もっと学びます。
　国の“命”を守る者として……胸を張れるように」
　ライナルトは空を見ながら呟く。
「……水門の仕組み、いつか完全に解析してみせます。
　きっと初代王も、それを望んでいる気がするんです」
　十人の心は、かつてなく一つに揃っていた。
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🌁 帰還した分水国――旗が迎える
　数日後、分水国の中心都市に入ると、
　街には見たことのない光景が広がっていた。
「紬様だ！」「陽介様、おかえりなさい！」「十領主の皆様！」
　人々が道に並び、花を撒き、
　まるで英雄たちを迎えるような歓声を上げている。
　それもそのはずだ。
　水門の揺らぎが街の端々にまで届き、
　噂は瞬く間に広がっていた。
「この国の創設者が、
　“二つの世界の門”に手をかけた――」
　そんな伝説のような話が、すでに民の間で語られていたのだ。
　陽介は少し気恥ずかしそうに苦笑した。
「すごいことになってるな。
　ちょっとしたお忍びで行ったつもりだったんだが」
　紬が肩をすくめる。
「私たちって、もう“普通の人”じゃないのよ。
　どこへ行っても噂になるのが宿命なんでしょうね」
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🏛️ 評議会からの緊急招集
　分水国の中心庁舎に戻ると、
　すぐに十領主会議（新評議会）からの招集が届いていた。
　議題は――
「水門現象についての国家方針」
「周辺諸国からの問い合わせへの対応」
「四河峡谷の保護と聖域指定」
　陽介は額に手を当てる。
「……想像していたよりも、早いな」
　紬もうなずく。
「他国が黙ってるわけないよ。
　“別世界へ通じる可能性”なんて……国家の根幹に関わるものだもの」
　十人の後継者たちも緊張した表情を浮かべる。
「つまり先生たち……」ユリウスが言う。
「これからは、国の内政だけじゃなく……
　“世界全体の外交”も動かすことになるってことです」
　陽介は深呼吸し、十人を見渡した。
「怖いか？」
　トマスが首を振った。
「いいえ。
　俺たちはこの国の後継者です。
　あなたたちと一緒に、どんな試練も越えていきます」
　カティアも笑った。
「そうよ。もうこの十人は“家族”なんだから」
　十人は一斉に胸に手を当て、
　陽介と紬に忠誠の念を示す。
「分水国は、必ず平和の旗を掲げます」
「先生方の選んだ未来を、私たちが支えていきます」
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✨ 陽介の決意――分水国の未来へ
　陽介は静かに目を閉じ、胸の奥にある言葉を確かめた。
　――帰り道は確かにある。
　――だが、今歩むのは“この世界の未来”。
　紬がそっと手を握る。
「大丈夫。
　私たちはもう、一人じゃないから」
　十人の後継者と、民と、仲間たちと。
　この世界に築いてきた大切なものすべてが背中を押してくれる。
　陽介は目を開け、笑った。
「よし、始めよう。
　――分水国の新しい時代を」
　紬も力強く頷く。
「世界の未来を、この国が変えていくのよ」
　こうして、
　水門事件は“終わり”ではなく、
　分水国の国際的役割の“始まり”となった。

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