寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―

雪ノ瞬キ

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22話:鐘胆録の間、静かな風

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 「なんだこれ?」

 向かった先は広いどころの話じゃない。
 足を踏み入れた瞬間、ひやりとした冷気が肌を撫でた。
 
 太い石の柱が円環を描くように林立し、その中心には、天井から差し込む光がまっすぐ降り注いでいる。
 乾いた空間なのに、澄んだ風がどこからともなく流れ込み、足音が反響しては吸い込まれていく。
 まるで森の中に立つ神殿のようだった。

 俺たち以外に変わらず人気はない。

「ねね、これなんだと思う?」

 リリが指し示すのは、探していたものにしか見えなかった。
 いや、石板というよりこれは、石碑だろ。

 見た目は、人の背丈の二倍ほどはある黒い御影石に見える。
 ちょうど両腕を真横にひろげたぐらいの大きさだ。

 こんなのもちかえられるわけがない。
 それにここにあるたたずまいから、かりに魔法袋にいれられたとしても、いいものに見えない。
 あの魔女は――持ち帰れない、って言ってたのは本当だった。

「悠斗さま。これは、鐘胆録(しょうたんろく)ですね」

「やっぱり、そうか……」

 ミミが目をまるくして俺を見る。
 なんだ? おれはそんなにアホっぽいか?

「へ? 悠斗しってたの?」

「この状況なら、そうとしか思えねぇよ」

 そうだ! 視写符(ししゃふ)だ。
 針で刻みをなぞれば文脈が転写されるといっていたな。
 針はさっきの得体のしれないやつからの贈り物としてある。

 ほんとあいつは何だったのか。
 まあ今はいい。
 でも、すべて知った上で、『それをなぞるのか変えるのか』を楽しんでいると想像までできてしまうほどの物言いだったな。

 ひとまず背丈は大小さまざまあるが、数十とある。
 整然とおかれているわけでもなく、一番大きいものの周囲に寄り集まるようにして存在している。
 今のところ、墓標というわけではなさそうだ。
 どれも根元に供物台はなく、刻みは祈り文ではなく“記録”の体裁だ。

 さっそく転写できるのか一番端にあるものから試していく。
 見上げると、リリは顔寄せて石碑の文字を眺めていた。

「リリ手伝ってくれるか? 上のほうはリリに任せたい」

「うん! 手伝うー」

 屈託ない笑顔で俺のところに舞い降りてくる。
 
「ほら、これ針な」

 おれにとって手のひらほどのサイズだとしてもリリには、背丈ほどもある。
 大丈夫なのか。

「受け取ったー! 視写符はどうするの?」

 無邪気に楽しそうだ。大きさも重さもきにしちゃいない感じだ。

「ああ、俺が持つ。もちながらだと大変だろ?」

「へへ、ダダ様ってやっぱ優しい」

 ミミとレジーネはなんでそんな温かい目でみるんだ?
 二人ともしゃがんでリラックスしているようにも見える。

「おいおい、警戒していなくて大丈夫か?」

 レジーネは柱の間を一瞥し、首を横に振った。

「ここは見た目以上に神聖な場所に感じます」

 レジーネはだからこそ、敵対する種族は現れないといいたげだ。

「あたしの星導術でも反応がまったくないわ」

 ミミはあたりを慎重に見回しながら、周囲を見てくると言い少し離れた。

 どのくらい集中していたのか、リリに声をかけられ気が付いた。

「ダダ様、ここからなぞればいいの?」

「ああ、そこの端から1行横にはじまでなぞったら、1行下がってまた同じようにたのむ」

「うん、わかった!」

「そうすれば、ここに同じように描写されるからあとで読みやすくなる」

「がんばる!」


 一瞬、場が静まり返る。
 光が黒い石碑の表面を這い、リリの金の髪がちらちらと反射した。
 視写符の白地に、墨が裏から染みるように一行ずつ文字が立ち上がる。

 リリとかたっぱしから作業をはじめ、ミミがもどって来る頃にはもう終わっていた。

「あれ? もう終わったの?」

「終えましたー!」

「リリのおかげで早くすんだよ」

「そしたら帰投しましょ」

「そうだな。レジーネかえろうぜ」

「はい」

 何事もなく、出れたらいいのだが。
 俺はふと思い出したことがあった。

「なあ、この針をくれたあの女は誰だったんだろうな」

「悠斗様、女ですか?」

「悠斗何いってんの?」

「えっ、お前らの目の前で、この針を俺が受けとっただろ?」

「見てないよ。いつの話?」

「はい。私も見ていないです」

「リリもだよー」

 どういうことだ?
 俺は確かここに入る前のあの場所で、確かに会ってこの針を受け取った。
 なのに、こいつらは知らないという。
 
 いやいや、待てよ。どうなっているんだ。
 俺は何を焦っているのか気持ちが落ち着かない。
 なんだ。一体なんだっていうんだ。

 胸の奥がざらつく。記憶の層がずれたような、居心地の悪さ。
 “見た”という確信と、“見ていない”という現実の板挟みで、足元がぐらりとした。
 柱の影がわずかに歪んで見えた。
 その瞬間だけ、世界が微かにずれた気がした。

 俺は大きく息を吸い込んだ。

「まあ、いい。いけばわかる」

 目的の品を確保した俺たちは、もと来た道を辿り、出口へ向かう。
 これ以上の探索は無しだ。今は好奇心よりも依頼を優先したかった。

 敵に遭遇することなく、再びあの場所に戻ってきた。
 俺が奇妙な出会いをした場所であり、針を受け取った場所でもある。

 針を握った手のひらに、まだ微かに温もりが残っていた。
 ……誰のものだったのかもわからない温もりが。



「ここだよ、ここ。見覚えあるだろ?」

 三人とも不思議そうな目でおれを見る。
 近くの小屋のような場所までくるが、あの時いた女はいないし、誰かがいた形跡も見当たらない。

「霊体……だったのか?」

 俺は何もない小屋の壁を見つめていた。
 あれはなんだったのか。

「悠斗も見えるの?」

 突然背後からミミが顔をのぞきこんでくる。

「見える?」

「そそ。見えないものがみえちゃうやつ」

「幽霊とかそういう類のことがいいたいのか?」

「大正解! あたしは職業柄みえちゃうから気にしていないけど」

「もしさっき遭遇したやつに対していうなら、見えるどころじゃない。そこに存在がはっきりとあった。といえるな」

 ミミは顎に手を当てて何か考えごとか。

「星導術の反応がまったくないわ……いや、ちょっと待って、これって――いや、気のせいかしら」

 この小屋に何か仕掛けでもあるのかもしれない。
 俺の勘はあてにならないが、壁に手を当てて何かをさぐれるか試す。

 ミミはその間、何か折り紙を使い周囲を探索していた。
 何かが気になるのか、何度も試行錯誤しているように見える。

 俺自身何も進展していないわけで、少しいらだってきた。

「さっぱりわかんねぇな」

 今探っても、これ以上は意味がないだろう。

「ミミ、帰ろうぜ。何かがわかったとしてもどうにもならない」

「ええ、確かにそうね。少し気になったけど」

「何かきがかりか?」

 何か思い当たるのか、妙に悩む姿だ。

「式神よ。普通の人には見えないけど、痕跡がここにあるの」

 ミミは首をかしげ、唇の端をゆるめた。
 
「……可能性は、なくはないかな。ね、怖いでしょ?」

 ミミの笑みは軽かったが、その奥に、どこか探るような光があった。

「高度か低度かそのあたりはわかんねぇよ」

 だとしても俺に何かをさせたい奴が別にいるってことかもな。
 今はわかんねぇけど。

「これ以上は……無理ね」

 ようやくあきらめた様子だ。

「また次回な」

 踵を返すおれを迎えたのは、レジーネだ。

「悠斗さま、何かわかりました?」

「いんや、さっぱりさ」

「ふふ。でもみな無事でよかったと思います」

 まさに野に咲く花という感じで、やわらかい笑顔に救われる。
 光の残滓が背後の柱をかすめ、淡く揺らいだ。

「そうだな」

 俺たちは再び帰路についた。


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