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21話:管制の鏡、三つの選択
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「なんだ? 何が起きた」
階段がほどけるように消え、世界はまた鏡になった。
【鏡面に文字列が走る】
《DADA応答確認。交差兵装“黒牙/白牙”――民生干渉権限、有効》
笑わない“俺”が、俺の声で言う。
「選べ。従うか、離れるか、分け合うか」
意味がわからず、問いただす。
「何を選び、誰に従い、どこから離れ、誰と何を分け合うだと?」
鏡の“俺”は微かに表情をずらし、機械の抑揚で続けた。
《選択肢を定義――従属:管制復帰。離脱:独立稼働(敵性判定リスク)。分割:権限鍵の共有》
《識別名:DADA-ユウト。軍用魔法保持者。交差兵装“黒牙/白牙”――正規所持》
《随伴個体:人型雌×2――民生魔法。脅威度、低》
《民生魔法に対する優先権限:有効。必要に応じ干渉・停止可》
ミミが息を呑む。
「……私の魔法、止められるの?」
投影体は俺をなめるように観察し、結論を落とす。
《ライフスレッド生成、検出。準不滅個体。倫理コード――要監査》
だんまりか。空気が重い。全員、周囲に警戒を散らす。
めんどくせぇ。やるならさっさとやれ。
「レジーネ、こういうの知ってるか」
「いいえ、初めて見ます」
「ミミは」
「私も初よ」
「リリは?」
「リリはあったことあるよー。……忘れちゃったけど」
心の中で頭を抱える。そこ忘れるな。まあいい、すぐわかる。
鏡が低く唸り、声が落ちてきた。今まで黙っていたのが嘘みたいに。
《軍用魔法――コード勇者、確認。軍用勇者認定。危険度、極めて高い。対処命令:即時排除》
《捕食生体“ゴイズ”――封鎖解除》
「おい、今なんと言った」
レジーネが短く答える。
「“勇者は極めて危険、排除”と」
「俺は勇者なんて呼ばれた覚えはないぞ。……ゴイズって何だ」
ミミは素早く式神を取り出し構え始めた。
「悠斗! 式神はまだ使えるわ!」
「わかった! レジーネ攻撃は?」
「はい! 氷結魔法行きます!」
足元の鏡が、内側から波打った。金属の匂い。遠くで、歯が擦れる音。
「見つけ次第、思考加速と牙で攻める」
「わかったわ! 弱点援護する」
「はい! 氷結を放ちます」
「私は皆を癒すよー」
クソッ、なんだこの緊張感は。
肌がびりつき、硝煙の匂いが鼻をつく。
こめかみを伝う汗が、すでに冷たい。
何かが近づいてきている。
それは明白だった。
俺の声をした奴が言ったのだ『封鎖解除』と。
「グハッ!」
開幕初戦、俺は心臓を何かで貫かれた。
【致命傷 予備1と切り替えます】
結線!
【稼働残:58分23秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】
「くそッどこだ!」
黒顎が反応した。
尻尾か!
咥えた先に胴体ほどもある尾を咥え、噛み切った。
「ギャオぉおおお」
手間の化け物が雄叫びをあげると同時に噛み切った先から、ぶくぶくと泡を吹き出す。
黒牙の口がただれるが、修復はすぐに始まる。
チッ! 体液が猛毒の奴か。
どうする? 考えてもでてこない。
白顎いけ!
奴の左腕を肩から根こそぎ噛み切ったはずだった。
ずぼっ!
「なんだと!」
根本から腕が一気に生えだした。
なるほど。重要な器官は再生するって奴か。厄介だな。
俺の全身はすでに、水を被ったと思えるほどの汗が伝う。
奴も俺を脅威と感じたのか、違いに睨み合いだ。
レジーネの氷結魔法が不発になっている。
やはり、何か得体のしれない奴からの妨害なのか。
ミミは、発動はしているが奴の尻尾が手かと思うほど、起用に動き防がれている。
手強い。
異界出身である俺たちにしか、今は攻撃できそうにない。
今俺ができるのは、右腕の黒牙での近接戦。左腕の白牙で突貫。
後は戦利品の剣で……。そうか! 剣だ。
「ミミ、俺は突っ込む」
「わかった。可能な限り援護する」
一気に接近戦に持ち込む。
距離を半分まで詰めたタイミングで、白牙を射出。
正面から俺が黒牙で猛攻をかける。
奴は白牙と対峙している最中、黒牙で攻める。
俺の方を向いた瞬間。
奴の首は地面に落ちた。
白牙の口から剣が飛び出している。白牙が剣の柄を咥えてたった一度振り回しただけだった。
「俺の方を向いてくれたからできたな。ヤバかった」
スロット内のアンカーで剣を引き上げ格納する。
「なんとかなったわね」
ミミは変わらずあっけらかんとしていた。
「ああ。ミミ、サンキューな。レジーネもな」
「私は魔法が発動できませんでした。何か、魔力が出そうで出ない不思議な感覚です」
レジーネは困惑というよりは、想定外の出来事で戸惑いの方が大きそうだ。
俺自身、大きな違和感が一つだけあった。
「俺は戦闘に入る前に思考加速をするつもりだった。けど、それを忘れて必死になるのもおかしい。なんで忘れたんだってことだ」
「うーん。それ、なんか変よね。何もかもがおかしいわ」
顎に手を当て一瞬ミミは黙り込むと、ニヤリといつもの含みを持たせた笑みを見せる。
「そしたらさ、Hしよ?」
おいおい。こんな時でも期待しちまうぞ。ヤメロ。
「お前、何言ってるんだ?」
変わらずニヤリとするミミ。
「じょーだんよ。冗談。びっくりした? ……でも肩、固いよ。ほら、ストレッチ」
「当たり前だろ。……でもな、ありがとな」
キョトンとした表情を見る限り、出し抜いてやったぜ。でも、マジなお礼でもあるけどな。
「何? 何が?」
「今、空気変えてくれただろ? 俺、疑心暗鬼になりかけてたからな」
「なら、良かった」
この鏡の部屋は、早々に出ることにした。
俺の中では『軍用』この二文字が気掛かりでしかない。
新たな悩みの種というか、これが基本軸になりそうな予感さえしていた。
『軍用魔法』。知らないのも当然だった。
名前からして、平和とはほど遠い魔法だろう。
それにしたってこの「軍用」というひびきは、なんともきな臭い。
ゴダードが言っていた歪みをならす仕事ってのも、どこかの見知らぬ第3者から、唐突に指示でもうけてやるんだろう。
その時おこなわれるのは、粛清という形で……。
ここは、恐らく大陸辺境の地。情報も人々も少ない。
当然、『軍用勇者』も恐らくは、いない。
てか、なんだよ軍用ってよお。
軍用だの民生など言い出し、界人なんてのもあるし。
結局のところ、奴らの都合のいい道具ってだけじゃねぇのか。
鬱屈とした物が折り重なる。
今はあの魔女との交換条件の品を集めなきゃだな。
俺は、リリとレジーネの誘導の元、この部屋を後にした。
迷うな。今を見ろ。
誰も助けちゃくれない。
自分の命は自分でどうにかする。
新たな情報があったとしても俺自身の大事なことは何ら変わりない。
そう、『命をこねる』ことだ。
数分、数時間先を生き抜くため今が必死なんだよな。
普通に生きれる奴らとは、そもそも違う。
今の俺の稼働残だ。
【稼働残:28分10秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】
レジーネの分を最優先で作らないとな。
とはいえ、それはできないんだったな。
俺以外はストックできないんだった。
いや、俺のを与えればいいから、できるか……。
【レジーネ稼働残 1日8時間20分6秒】
【製作】偽命(25分11秒)→ 破棄:集中-
【製作】偽命(34分3秒)→ 破棄:集中-
ここは稼げる。歩きながら、ひたすらこねる。
命をこねるにはいい時間だ。
でもな、まるでみつからん。
〈鐘胆録(しょうたんろく)〉という名の石盤はどこにあるんだ。
「ダダさま~こっちー!」
何やらリリがさわがしい。
俺は、リリが急かす方向へ小走りにむかっていった。
階段がほどけるように消え、世界はまた鏡になった。
【鏡面に文字列が走る】
《DADA応答確認。交差兵装“黒牙/白牙”――民生干渉権限、有効》
笑わない“俺”が、俺の声で言う。
「選べ。従うか、離れるか、分け合うか」
意味がわからず、問いただす。
「何を選び、誰に従い、どこから離れ、誰と何を分け合うだと?」
鏡の“俺”は微かに表情をずらし、機械の抑揚で続けた。
《選択肢を定義――従属:管制復帰。離脱:独立稼働(敵性判定リスク)。分割:権限鍵の共有》
《識別名:DADA-ユウト。軍用魔法保持者。交差兵装“黒牙/白牙”――正規所持》
《随伴個体:人型雌×2――民生魔法。脅威度、低》
《民生魔法に対する優先権限:有効。必要に応じ干渉・停止可》
ミミが息を呑む。
「……私の魔法、止められるの?」
投影体は俺をなめるように観察し、結論を落とす。
《ライフスレッド生成、検出。準不滅個体。倫理コード――要監査》
だんまりか。空気が重い。全員、周囲に警戒を散らす。
めんどくせぇ。やるならさっさとやれ。
「レジーネ、こういうの知ってるか」
「いいえ、初めて見ます」
「ミミは」
「私も初よ」
「リリは?」
「リリはあったことあるよー。……忘れちゃったけど」
心の中で頭を抱える。そこ忘れるな。まあいい、すぐわかる。
鏡が低く唸り、声が落ちてきた。今まで黙っていたのが嘘みたいに。
《軍用魔法――コード勇者、確認。軍用勇者認定。危険度、極めて高い。対処命令:即時排除》
《捕食生体“ゴイズ”――封鎖解除》
「おい、今なんと言った」
レジーネが短く答える。
「“勇者は極めて危険、排除”と」
「俺は勇者なんて呼ばれた覚えはないぞ。……ゴイズって何だ」
ミミは素早く式神を取り出し構え始めた。
「悠斗! 式神はまだ使えるわ!」
「わかった! レジーネ攻撃は?」
「はい! 氷結魔法行きます!」
足元の鏡が、内側から波打った。金属の匂い。遠くで、歯が擦れる音。
「見つけ次第、思考加速と牙で攻める」
「わかったわ! 弱点援護する」
「はい! 氷結を放ちます」
「私は皆を癒すよー」
クソッ、なんだこの緊張感は。
肌がびりつき、硝煙の匂いが鼻をつく。
こめかみを伝う汗が、すでに冷たい。
何かが近づいてきている。
それは明白だった。
俺の声をした奴が言ったのだ『封鎖解除』と。
「グハッ!」
開幕初戦、俺は心臓を何かで貫かれた。
【致命傷 予備1と切り替えます】
結線!
【稼働残:58分23秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】
「くそッどこだ!」
黒顎が反応した。
尻尾か!
咥えた先に胴体ほどもある尾を咥え、噛み切った。
「ギャオぉおおお」
手間の化け物が雄叫びをあげると同時に噛み切った先から、ぶくぶくと泡を吹き出す。
黒牙の口がただれるが、修復はすぐに始まる。
チッ! 体液が猛毒の奴か。
どうする? 考えてもでてこない。
白顎いけ!
奴の左腕を肩から根こそぎ噛み切ったはずだった。
ずぼっ!
「なんだと!」
根本から腕が一気に生えだした。
なるほど。重要な器官は再生するって奴か。厄介だな。
俺の全身はすでに、水を被ったと思えるほどの汗が伝う。
奴も俺を脅威と感じたのか、違いに睨み合いだ。
レジーネの氷結魔法が不発になっている。
やはり、何か得体のしれない奴からの妨害なのか。
ミミは、発動はしているが奴の尻尾が手かと思うほど、起用に動き防がれている。
手強い。
異界出身である俺たちにしか、今は攻撃できそうにない。
今俺ができるのは、右腕の黒牙での近接戦。左腕の白牙で突貫。
後は戦利品の剣で……。そうか! 剣だ。
「ミミ、俺は突っ込む」
「わかった。可能な限り援護する」
一気に接近戦に持ち込む。
距離を半分まで詰めたタイミングで、白牙を射出。
正面から俺が黒牙で猛攻をかける。
奴は白牙と対峙している最中、黒牙で攻める。
俺の方を向いた瞬間。
奴の首は地面に落ちた。
白牙の口から剣が飛び出している。白牙が剣の柄を咥えてたった一度振り回しただけだった。
「俺の方を向いてくれたからできたな。ヤバかった」
スロット内のアンカーで剣を引き上げ格納する。
「なんとかなったわね」
ミミは変わらずあっけらかんとしていた。
「ああ。ミミ、サンキューな。レジーネもな」
「私は魔法が発動できませんでした。何か、魔力が出そうで出ない不思議な感覚です」
レジーネは困惑というよりは、想定外の出来事で戸惑いの方が大きそうだ。
俺自身、大きな違和感が一つだけあった。
「俺は戦闘に入る前に思考加速をするつもりだった。けど、それを忘れて必死になるのもおかしい。なんで忘れたんだってことだ」
「うーん。それ、なんか変よね。何もかもがおかしいわ」
顎に手を当て一瞬ミミは黙り込むと、ニヤリといつもの含みを持たせた笑みを見せる。
「そしたらさ、Hしよ?」
おいおい。こんな時でも期待しちまうぞ。ヤメロ。
「お前、何言ってるんだ?」
変わらずニヤリとするミミ。
「じょーだんよ。冗談。びっくりした? ……でも肩、固いよ。ほら、ストレッチ」
「当たり前だろ。……でもな、ありがとな」
キョトンとした表情を見る限り、出し抜いてやったぜ。でも、マジなお礼でもあるけどな。
「何? 何が?」
「今、空気変えてくれただろ? 俺、疑心暗鬼になりかけてたからな」
「なら、良かった」
この鏡の部屋は、早々に出ることにした。
俺の中では『軍用』この二文字が気掛かりでしかない。
新たな悩みの種というか、これが基本軸になりそうな予感さえしていた。
『軍用魔法』。知らないのも当然だった。
名前からして、平和とはほど遠い魔法だろう。
それにしたってこの「軍用」というひびきは、なんともきな臭い。
ゴダードが言っていた歪みをならす仕事ってのも、どこかの見知らぬ第3者から、唐突に指示でもうけてやるんだろう。
その時おこなわれるのは、粛清という形で……。
ここは、恐らく大陸辺境の地。情報も人々も少ない。
当然、『軍用勇者』も恐らくは、いない。
てか、なんだよ軍用ってよお。
軍用だの民生など言い出し、界人なんてのもあるし。
結局のところ、奴らの都合のいい道具ってだけじゃねぇのか。
鬱屈とした物が折り重なる。
今はあの魔女との交換条件の品を集めなきゃだな。
俺は、リリとレジーネの誘導の元、この部屋を後にした。
迷うな。今を見ろ。
誰も助けちゃくれない。
自分の命は自分でどうにかする。
新たな情報があったとしても俺自身の大事なことは何ら変わりない。
そう、『命をこねる』ことだ。
数分、数時間先を生き抜くため今が必死なんだよな。
普通に生きれる奴らとは、そもそも違う。
今の俺の稼働残だ。
【稼働残:28分10秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】
レジーネの分を最優先で作らないとな。
とはいえ、それはできないんだったな。
俺以外はストックできないんだった。
いや、俺のを与えればいいから、できるか……。
【レジーネ稼働残 1日8時間20分6秒】
【製作】偽命(25分11秒)→ 破棄:集中-
【製作】偽命(34分3秒)→ 破棄:集中-
ここは稼げる。歩きながら、ひたすらこねる。
命をこねるにはいい時間だ。
でもな、まるでみつからん。
〈鐘胆録(しょうたんろく)〉という名の石盤はどこにあるんだ。
「ダダさま~こっちー!」
何やらリリがさわがしい。
俺は、リリが急かす方向へ小走りにむかっていった。
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