寿命スロット×俺は命だけ偽造する ―異世界で5秒から始まる延命サバイバル―

雪ノ瞬キ

文字の大きさ
21 / 30

21話:管制の鏡、三つの選択

しおりを挟む
 「なんだ? 何が起きた」

 階段がほどけるように消え、世界はまた鏡になった。
 
【鏡面に文字列が走る】
《DADA応答確認。交差兵装“黒牙/白牙”――民生干渉権限、有効》

 笑わない“俺”が、俺の声で言う。
 
「選べ。従うか、離れるか、分け合うか」

 意味がわからず、問いただす。
 
「何を選び、誰に従い、どこから離れ、誰と何を分け合うだと?」

 鏡の“俺”は微かに表情をずらし、機械の抑揚で続けた。
 
《選択肢を定義――従属:管制復帰。離脱:独立稼働(敵性判定リスク)。分割:権限鍵の共有》
《識別名:DADA-ユウト。軍用魔法保持者。交差兵装“黒牙/白牙”――正規所持》
《随伴個体:人型雌×2――民生魔法。脅威度、低》
《民生魔法に対する優先権限:有効。必要に応じ干渉・停止可》

 ミミが息を呑む。
 
「……私の魔法、止められるの?」

 投影体は俺をなめるように観察し、結論を落とす。
《ライフスレッド生成、検出。準不滅個体。倫理コード――要監査》

 だんまりか。空気が重い。全員、周囲に警戒を散らす。
 めんどくせぇ。やるならさっさとやれ。

「レジーネ、こういうの知ってるか」
 
「いいえ、初めて見ます」
 
「ミミは」
 
「私も初よ」
 
「リリは?」
 
「リリはあったことあるよー。……忘れちゃったけど」
 
 心の中で頭を抱える。そこ忘れるな。まあいい、すぐわかる。
 鏡が低く唸り、声が落ちてきた。今まで黙っていたのが嘘みたいに。
 
《軍用魔法――コード勇者、確認。軍用勇者認定。危険度、極めて高い。対処命令:即時排除》
《捕食生体“ゴイズ”――封鎖解除》

「おい、今なんと言った」
 
 レジーネが短く答える。
 
「“勇者は極めて危険、排除”と」
 
「俺は勇者なんて呼ばれた覚えはないぞ。……ゴイズって何だ」
 
 ミミは素早く式神を取り出し構え始めた。
 
「悠斗! 式神はまだ使えるわ!」
 
「わかった! レジーネ攻撃は?」
 
「はい! 氷結魔法行きます!」
 
 足元の鏡が、内側から波打った。金属の匂い。遠くで、歯が擦れる音。
 
「見つけ次第、思考加速と牙で攻める」
 
「わかったわ! 弱点援護する」
 
「はい! 氷結を放ちます」
 
「私は皆を癒すよー」
 
 クソッ、なんだこの緊張感は。
 肌がびりつき、硝煙の匂いが鼻をつく。
 こめかみを伝う汗が、すでに冷たい。
 何かが近づいてきている。
 それは明白だった。
 俺の声をした奴が言ったのだ『封鎖解除』と。

「グハッ!」
 
 開幕初戦、俺は心臓を何かで貫かれた。
 
【致命傷 予備1と切り替えます】

 結線!
 
【稼働残:58分23秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】


「くそッどこだ!」

 黒顎が反応した。
 尻尾か!
 咥えた先に胴体ほどもある尾を咥え、噛み切った。

「ギャオぉおおお」

 手間の化け物が雄叫びをあげると同時に噛み切った先から、ぶくぶくと泡を吹き出す。
 黒牙の口がただれるが、修復はすぐに始まる。

 チッ! 体液が猛毒の奴か。

 どうする? 考えてもでてこない。
 白顎いけ!

 奴の左腕を肩から根こそぎ噛み切ったはずだった。

 ずぼっ!

「なんだと!」

 根本から腕が一気に生えだした。
 なるほど。重要な器官は再生するって奴か。厄介だな。
 俺の全身はすでに、水を被ったと思えるほどの汗が伝う。

 奴も俺を脅威と感じたのか、違いに睨み合いだ。

 レジーネの氷結魔法が不発になっている。
 やはり、何か得体のしれない奴からの妨害なのか。

 ミミは、発動はしているが奴の尻尾が手かと思うほど、起用に動き防がれている。

 手強い。
 異界出身である俺たちにしか、今は攻撃できそうにない。

 今俺ができるのは、右腕の黒牙での近接戦。左腕の白牙で突貫。
 後は戦利品の剣で……。そうか! 剣だ。

「ミミ、俺は突っ込む」

「わかった。可能な限り援護する」

 一気に接近戦に持ち込む。
 距離を半分まで詰めたタイミングで、白牙を射出。
 正面から俺が黒牙で猛攻をかける。

 奴は白牙と対峙している最中、黒牙で攻める。
 俺の方を向いた瞬間。

 奴の首は地面に落ちた。

 白牙の口から剣が飛び出している。白牙が剣の柄を咥えてたった一度振り回しただけだった。

「俺の方を向いてくれたからできたな。ヤバかった」

 スロット内のアンカーで剣を引き上げ格納する。

「なんとかなったわね」
 
 ミミは変わらずあっけらかんとしていた。
 
「ああ。ミミ、サンキューな。レジーネもな」
 
「私は魔法が発動できませんでした。何か、魔力が出そうで出ない不思議な感覚です」
 
 レジーネは困惑というよりは、想定外の出来事で戸惑いの方が大きそうだ。
 俺自身、大きな違和感が一つだけあった。
 
「俺は戦闘に入る前に思考加速をするつもりだった。けど、それを忘れて必死になるのもおかしい。なんで忘れたんだってことだ」
 
「うーん。それ、なんか変よね。何もかもがおかしいわ」
 
 顎に手を当て一瞬ミミは黙り込むと、ニヤリといつもの含みを持たせた笑みを見せる。
 
「そしたらさ、Hしよ?」

 おいおい。こんな時でも期待しちまうぞ。ヤメロ。
 
「お前、何言ってるんだ?」
 
 変わらずニヤリとするミミ。
 
「じょーだんよ。冗談。びっくりした? ……でも肩、固いよ。ほら、ストレッチ」
 
「当たり前だろ。……でもな、ありがとな」
 
 キョトンとした表情を見る限り、出し抜いてやったぜ。でも、マジなお礼でもあるけどな。
 
「何? 何が?」
 
「今、空気変えてくれただろ? 俺、疑心暗鬼になりかけてたからな」
 
「なら、良かった」
 
 この鏡の部屋は、早々に出ることにした。
 俺の中では『軍用』この二文字が気掛かりでしかない。
 新たな悩みの種というか、これが基本軸になりそうな予感さえしていた。

『軍用魔法』。知らないのも当然だった。
 名前からして、平和とはほど遠い魔法だろう。

 それにしたってこの「軍用」というひびきは、なんともきな臭い。
 ゴダードが言っていた歪みをならす仕事ってのも、どこかの見知らぬ第3者から、唐突に指示でもうけてやるんだろう。

 その時おこなわれるのは、粛清という形で……。

 ここは、恐らく大陸辺境の地。情報も人々も少ない。
 当然、『軍用勇者』も恐らくは、いない。

 てか、なんだよ軍用ってよお。
 軍用だの民生など言い出し、界人なんてのもあるし。
 結局のところ、奴らの都合のいい道具ってだけじゃねぇのか。
 鬱屈とした物が折り重なる。

 今はあの魔女との交換条件の品を集めなきゃだな。



 俺は、リリとレジーネの誘導の元、この部屋を後にした。

 迷うな。今を見ろ。
 誰も助けちゃくれない。
 自分の命は自分でどうにかする。

 新たな情報があったとしても俺自身の大事なことは何ら変わりない。
 そう、『命をこねる』ことだ。

 数分、数時間先を生き抜くため今が必死なんだよな。
 普通に生きれる奴らとは、そもそも違う。

 今の俺の稼働残だ。
 
【稼働残:28分10秒|予備①:なし|予備②:3時間50分41秒】

 レジーネの分を最優先で作らないとな。
 とはいえ、それはできないんだったな。
 俺以外はストックできないんだった。
 いや、俺のを与えればいいから、できるか……。
 
【レジーネ稼働残 1日8時間20分6秒】
【製作】偽命(25分11秒)→ 破棄:集中-
【製作】偽命(34分3秒)→ 破棄:集中-

 ここは稼げる。歩きながら、ひたすらこねる。
 命をこねるにはいい時間だ。
 でもな、まるでみつからん。
〈鐘胆録(しょうたんろく)〉という名の石盤はどこにあるんだ。
 
「ダダさま~こっちー!」
 
 何やらリリがさわがしい。
 俺は、リリが急かす方向へ小走りにむかっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

構造理解で始めるゼロからの文明開拓

TEKTO
ファンタジー
ブラック企業勤めのサラリーマン・シュウが転生したのは、人間も街も存在しない「完全未開の大陸」だった。 ​適当な神から与えられたのは、戦闘力ゼロ、魔法適性ゼロのゴミスキル《構造理解》。 だが、物の仕組みを「作れるレベル」で把握できるその力は、現代知識を持つ俺にとっては、最強の「文明構築ツール」だった――! ​――これは、ゴミと呼ばれたスキルとガラクタと呼ばれた石で、世界を切り拓く男の物語。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...