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20話:鏡の中の意思
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「いくぞ」
起床した皆を引きつれ、俺は扉を開けて潜った。
その先は、今までと異なる奇妙な空間だった。
全体が鏡面でできたかのように、あらゆるものが映り込み、距離感が狂う。
上下左右すべてが鏡だ。
一歩進むたびに、靴音が薄れていく。
最初は反響していたはずの足音が、気づけば鏡に吸い込まれていた。
音が奪われていく――いや、俺の中の“音”そのものが削がれていく気がした。
第十九の女が言っていた「音を代価にする」という言葉が、遅れて蘇る。
息は白むほど冷え切り、氷水で冷やされた空気を肺へ流し込むような感覚。
理由も意図も検討がつかないこの広間は、先の場所と同等の広さに思える。相変わらず天井は高く、見えない。
リリはいつも通り無邪気にあたりを見渡し、レジーネは警戒を強めていた。
ミミはこれまでの式神を駆使していくようにみえた。
「式神は大丈夫か?」
周囲を見渡す。
この奇妙な空間で、何をさせたいのか検討がつかない。
「何もないし、誰も来ないな」
思わずつぶやくと、レジーネが慌てて告げる。
「悠斗さま、ここは洗脳部屋です」
言葉の危機感と、目の前の様子が噛み合わない。
俺がいる?
鏡に映るのは確かに俺だ。
だが、不敵に笑っていやがる。しかもかなり悪そうな笑みだ。
「おい、そんなクセェ笑みを見せんなよ。聖人ぶってんのか?」
だが、鏡の中のヤツはしゃべらない。音を発しない。
ただ視線を送るだけだ。
その視線の奥に、どこか“理解されている”感覚があった。まるで俺より俺を知っている。
すべてが鏡に覆われ、ミミもレジーネもリリもいない。
何が起きたのか。地平線すら見える。
一体どうすりゃいいんだ。
突然、一部が景色に切り替わった。
そこに俺がまたいた。
なんだよあの姿。変身?
やっていることは、敵対する相手を蹂躙する姿だ。
圧倒的な暴力。
あんな攻撃、防げるわけもなく、相手は殲滅されていく。
おいおい。無差別はひどくねぇか?
俺の発した言葉に気がついたのか、目の前の“俺”は俺を見る。
またしても黒い笑みを浮かべていた。
いや、俺じゃない。
そう否定したいが、どこかしっくりくる。
なんだよ。俺はあっち側ってことか。
今度は何か口を動かしている。
何を言っているんだ。聞こえねぇよ。
けれど、鏡面越しの唇が確かに形作った――
『……おまえの意思は、どちらだ?』
その言葉のあと、すべてが光に塗り潰された。
音も、冷気も、意識も、いっぺんに消えた。
◇
数刻後かもしれない。
「悠斗、おはよ」
ミミの声が耳をくすぐる。
俺は床の上で寝ていて、左右にミミとレジーネが並んでいた。
「夢?」
曖昧な記憶の中で、俺の意識を吸い上げたのは夢だったのか。
「うん。夢だよ。人によっては悪夢かもね」
寝ていたのか? 一体どこからどこまでだ。
なんだ、本当に夢なのか。俺は化かされていないか。
わけがわからない。だが、覚えている感覚は紛れもなく本物に思える。
「急ぎ脱出といきたいところだが、出口はどこだ?」
「光を当てると、抜ける箇所があります。そこが通路になっているはずです」
レジーネは光の玉を作り、空中に浮かせて周囲を徘徊させる。
「悠斗様、ありました。あちらです」
視界の先には、大理石に近い白い壁が続く。
壁の奥から、誰かの足音が“鏡越し”に響いた。
光を当てた瞬間、反対側の“俺”が微笑んだ。
「行こうぜ」
意を決して歩を進めるが、内心はだいぶ参っている。
またしても一本道が続く。
「階段? なんでこんな――」
これまでの通路の幅のまま、階段が延々と続く。これを上るのか。
階段に足をかけた瞬間、違和感があった。
ん? 俺は今一段あがったよな?
あがったはずなのにその場から動いていない。
もう一度試すが同じだ。
なら、跳躍し数段先にのる。
するとそのまま段が下におりていく。
どうなっているんだ。
後ろを振り返ると、いたはずのミミやレジーネがいない。
『意思だけで登れ』
誰だ?
鏡の中の俺がしゃべりやがった。
意思だけだと? 何言ってんだ。
ならば階段を降りようと下を向き、下り始める。
これもその場で、階段が俺の足に合わせて動き、その場で空回りしている感じだ。
黒顎、白顎を出しあたりを喰らいつくそうとしたが透過し、すり抜ける。
何がなんだか、わけがわからない。
それならと俺はしゃがんだ。
それでそのまま階段を背に寝転がる。
もうどうでもいい。
お前らの世界で好きにやってろ。
その言葉を合図に、再び視界が暗くなり始めた。
鏡の奥で、ほんの一瞬――笑わない“俺”がいた気がした。
そしてまた光が消えて視界が暗転した。
◇
「悠斗さま大丈夫ですか? 悠斗様」
俺をゆするレジーネに起こされたようだ。
なんだ。今度は本当に現実なのか?
さっきのは一体。
「俺は寝ていたのか?」
「はい。かなりうなされていました」
「そうなのか」
「なので、申し訳ないですが、強くゆすり起こしました」
「助かったよ。わけがわからなかった」
「ええ、この部屋は何度も夢を見させて、どれが現実か混乱させるのが目的です」
「ここから早くでよう」
「はい、向こう側がこの部屋の出口です。いきましょう」
俺は膝をつきおきあがると、鏡に映る俺は笑わなかった。
ようやく戻ってきたようだ。
けれど、離れる直前、鏡の奥で“何か”が口を動かした気がした。
今度は――聞き取れなかった。
起床した皆を引きつれ、俺は扉を開けて潜った。
その先は、今までと異なる奇妙な空間だった。
全体が鏡面でできたかのように、あらゆるものが映り込み、距離感が狂う。
上下左右すべてが鏡だ。
一歩進むたびに、靴音が薄れていく。
最初は反響していたはずの足音が、気づけば鏡に吸い込まれていた。
音が奪われていく――いや、俺の中の“音”そのものが削がれていく気がした。
第十九の女が言っていた「音を代価にする」という言葉が、遅れて蘇る。
息は白むほど冷え切り、氷水で冷やされた空気を肺へ流し込むような感覚。
理由も意図も検討がつかないこの広間は、先の場所と同等の広さに思える。相変わらず天井は高く、見えない。
リリはいつも通り無邪気にあたりを見渡し、レジーネは警戒を強めていた。
ミミはこれまでの式神を駆使していくようにみえた。
「式神は大丈夫か?」
周囲を見渡す。
この奇妙な空間で、何をさせたいのか検討がつかない。
「何もないし、誰も来ないな」
思わずつぶやくと、レジーネが慌てて告げる。
「悠斗さま、ここは洗脳部屋です」
言葉の危機感と、目の前の様子が噛み合わない。
俺がいる?
鏡に映るのは確かに俺だ。
だが、不敵に笑っていやがる。しかもかなり悪そうな笑みだ。
「おい、そんなクセェ笑みを見せんなよ。聖人ぶってんのか?」
だが、鏡の中のヤツはしゃべらない。音を発しない。
ただ視線を送るだけだ。
その視線の奥に、どこか“理解されている”感覚があった。まるで俺より俺を知っている。
すべてが鏡に覆われ、ミミもレジーネもリリもいない。
何が起きたのか。地平線すら見える。
一体どうすりゃいいんだ。
突然、一部が景色に切り替わった。
そこに俺がまたいた。
なんだよあの姿。変身?
やっていることは、敵対する相手を蹂躙する姿だ。
圧倒的な暴力。
あんな攻撃、防げるわけもなく、相手は殲滅されていく。
おいおい。無差別はひどくねぇか?
俺の発した言葉に気がついたのか、目の前の“俺”は俺を見る。
またしても黒い笑みを浮かべていた。
いや、俺じゃない。
そう否定したいが、どこかしっくりくる。
なんだよ。俺はあっち側ってことか。
今度は何か口を動かしている。
何を言っているんだ。聞こえねぇよ。
けれど、鏡面越しの唇が確かに形作った――
『……おまえの意思は、どちらだ?』
その言葉のあと、すべてが光に塗り潰された。
音も、冷気も、意識も、いっぺんに消えた。
◇
数刻後かもしれない。
「悠斗、おはよ」
ミミの声が耳をくすぐる。
俺は床の上で寝ていて、左右にミミとレジーネが並んでいた。
「夢?」
曖昧な記憶の中で、俺の意識を吸い上げたのは夢だったのか。
「うん。夢だよ。人によっては悪夢かもね」
寝ていたのか? 一体どこからどこまでだ。
なんだ、本当に夢なのか。俺は化かされていないか。
わけがわからない。だが、覚えている感覚は紛れもなく本物に思える。
「急ぎ脱出といきたいところだが、出口はどこだ?」
「光を当てると、抜ける箇所があります。そこが通路になっているはずです」
レジーネは光の玉を作り、空中に浮かせて周囲を徘徊させる。
「悠斗様、ありました。あちらです」
視界の先には、大理石に近い白い壁が続く。
壁の奥から、誰かの足音が“鏡越し”に響いた。
光を当てた瞬間、反対側の“俺”が微笑んだ。
「行こうぜ」
意を決して歩を進めるが、内心はだいぶ参っている。
またしても一本道が続く。
「階段? なんでこんな――」
これまでの通路の幅のまま、階段が延々と続く。これを上るのか。
階段に足をかけた瞬間、違和感があった。
ん? 俺は今一段あがったよな?
あがったはずなのにその場から動いていない。
もう一度試すが同じだ。
なら、跳躍し数段先にのる。
するとそのまま段が下におりていく。
どうなっているんだ。
後ろを振り返ると、いたはずのミミやレジーネがいない。
『意思だけで登れ』
誰だ?
鏡の中の俺がしゃべりやがった。
意思だけだと? 何言ってんだ。
ならば階段を降りようと下を向き、下り始める。
これもその場で、階段が俺の足に合わせて動き、その場で空回りしている感じだ。
黒顎、白顎を出しあたりを喰らいつくそうとしたが透過し、すり抜ける。
何がなんだか、わけがわからない。
それならと俺はしゃがんだ。
それでそのまま階段を背に寝転がる。
もうどうでもいい。
お前らの世界で好きにやってろ。
その言葉を合図に、再び視界が暗くなり始めた。
鏡の奥で、ほんの一瞬――笑わない“俺”がいた気がした。
そしてまた光が消えて視界が暗転した。
◇
「悠斗さま大丈夫ですか? 悠斗様」
俺をゆするレジーネに起こされたようだ。
なんだ。今度は本当に現実なのか?
さっきのは一体。
「俺は寝ていたのか?」
「はい。かなりうなされていました」
「そうなのか」
「なので、申し訳ないですが、強くゆすり起こしました」
「助かったよ。わけがわからなかった」
「ええ、この部屋は何度も夢を見させて、どれが現実か混乱させるのが目的です」
「ここから早くでよう」
「はい、向こう側がこの部屋の出口です。いきましょう」
俺は膝をつきおきあがると、鏡に映る俺は笑わなかった。
ようやく戻ってきたようだ。
けれど、離れる直前、鏡の奥で“何か”が口を動かした気がした。
今度は――聞き取れなかった。
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