2 / 32
第一話 霧の都
しおりを挟む
ヒリつく空気の中、霧の都は今日も静かに夜の帳が下りる。
街灯は影を照らすには力が足りない。その上、立ち並ぶ間隔は遠くせいぜいが足元を照らすだけで合間合間に闇が広がる。
闇は奴らの住処。その暗がりからたくさんの笑い声や囁き声がそこらかしこに響いてくる。最近この都で頻発している失踪事件は女子供問わず、屈強な男であれ失踪している。最初の内はホームレスの失踪事件から始まり、特に大きな事件とはならなかったが、ある一家の失踪から事件は急変する。
この国の事務次官が狙われたのだ。勿論、国家を挙げての大捜索となったが痕跡すら見つからず、今でも引き続き捜索が行われている。各国から来たボランティアも参加し、失踪した全ての人間の捜索も合わせて行われた。
そしてそのボランティアの人たちにも失踪者が出始めた頃、事務次官の捜索以外打ち切りが発令され、ボランティアも逃げるように国に帰っていった。
この時を境に夜の闇から囁きや笑い声、苦しむ声や助けを呼ぶ声を聴くようになる。失踪者が死んでからも自分たちを探してほしいと呼びかけているのだと、死者が生者を引き込もうと躍起になって呼んでいるのだと恐れられ、誰も夜には出歩かなる程に警戒される。
失踪者の居所についても、何の痕跡も見つけられない今の事態から次第に悪魔の仕業ではないかと噂される様になる。教会には連日多くの人が訪れ、自分が失踪しない様に祈る。それを馬鹿にし、教会に訪れなかった者の失踪が騒がれた時、より一層の信者たちが集まりだした。
「皆様、ここなら安全です。悪魔の侵攻はこの街を害し、我々の平和な暮らしを妨げています。神に祈りましょう。我らに祝福を……」
夜だというのに教会の椅子が満杯になる程信者たちが座り、祈りを捧げている。家に閉じこもるのも危険と捉えた信者たちが常に身の危険を感じ、詰めかけたせいだ。連日連夜、祈りを捧げ続ける信者たちを思い神父も疲労が溜まっていた。
ある日の夜、そんなに大きくないこの教会には人が押し寄せ、座る場所すらなくなっていた。人々とは怯え切って震え上がり、大人数だというのに小さく縮こまって見える。
「これは……一体、どうしたのですか?」
神父は日頃の疲労から夢を見ている様な変な気分になる。そういえば今日は外から聴こえてくる妙な声が大きく、いつもより多いような気がする。
「神父様!お願いします!奴らを追っ払って下さい!!」
そこらかしこから聴こえるこの声は教会を取り囲み、人の出る隙間さえ失くしている。
「皆様!落ち着いて下さい!悪魔は入ってこられない!ここなら安全です!大丈夫です!」
怯え切った民衆を宥める為、大声でとにかく自分の言葉を伝える。その瞬間、教会の外で聴こえていた声はまるで何事もなかったかの様にスッと治まってしまう。
その様子に気付いた教会内の人間が怯えて騒いでいた人たちに、静かにする様促す。静まり返った事が皆に知れ渡ると、教会内の人たちはホッと胸をなでおろした。
『本当にそうかな?』
たくさんの声が折り重なってできた気味の悪い声が多少のズレはあるものの同じ言葉を発していた。その声は外から聴こえ、今まで聴こえていたとされるどの声よりハッキリと分かる言葉を出した。
『この建物は本当に安全なのかな?』
その不気味な声は民衆の心を揺さぶるのに効果覿面だった。恐れ慄き、大の大人も泣き出す者が出てきた。
「惑わされてはいけません……奴らは外に出そうと考えています。ああして我々を謀るのは入れないからです。安心してください」
「そうだ!」
「神の家には入れないんだ!」
民衆も希望を取り戻し、外の悪魔に牽制する。皆の心が一致団結した頃。教会はミシミシと悲鳴を上げ始める。天井や梁にたまった埃が降り注ぎ、頭に降りかかる。子供たちは一層泣き始め、この世の終わりと悲観する。だがそれも一時だ。地震のように起こった家鳴りも特段目立った痕跡もないまま治まる。
「ビビらせやがって!神の力を思い知れぇ!!」
一人の大柄な男性がいきり立って叫び出す。その時、ゴボッという音と水が滴る音が壇上から……いや、神父から聴こえてくる。民衆が壇上に注目すると神父は口から血を吐き出し、泡を吹いて白目を向いていた。「キャー!」という女性の甲高い声が聴こえたかと思うと神父は宙に浮き始め民衆の真上に来る。
「み……な……さ……いの……祈りを……」
神父は最後の力を振り絞ってそれだけを絞り出す。その言葉を最期に神父の体は破裂した。血が降り注ぎ、民衆にかかると大半が発狂してその場で叫び散らしている。その叫びと同時に入り口が開け放たれ、はめ込まれたステンドグラスは弾け飛んだ。いきり立った男は腰砕けになり、その場にへたれ込む。
灯された蝋燭は一瞬で吹き消され、暗闇が押し寄せる。その場に無数にして赤い目が光りを放ち、生者を睨む。闇は瞬く間に侵入し、民衆を飲み込んだ。
街灯は影を照らすには力が足りない。その上、立ち並ぶ間隔は遠くせいぜいが足元を照らすだけで合間合間に闇が広がる。
闇は奴らの住処。その暗がりからたくさんの笑い声や囁き声がそこらかしこに響いてくる。最近この都で頻発している失踪事件は女子供問わず、屈強な男であれ失踪している。最初の内はホームレスの失踪事件から始まり、特に大きな事件とはならなかったが、ある一家の失踪から事件は急変する。
この国の事務次官が狙われたのだ。勿論、国家を挙げての大捜索となったが痕跡すら見つからず、今でも引き続き捜索が行われている。各国から来たボランティアも参加し、失踪した全ての人間の捜索も合わせて行われた。
そしてそのボランティアの人たちにも失踪者が出始めた頃、事務次官の捜索以外打ち切りが発令され、ボランティアも逃げるように国に帰っていった。
この時を境に夜の闇から囁きや笑い声、苦しむ声や助けを呼ぶ声を聴くようになる。失踪者が死んでからも自分たちを探してほしいと呼びかけているのだと、死者が生者を引き込もうと躍起になって呼んでいるのだと恐れられ、誰も夜には出歩かなる程に警戒される。
失踪者の居所についても、何の痕跡も見つけられない今の事態から次第に悪魔の仕業ではないかと噂される様になる。教会には連日多くの人が訪れ、自分が失踪しない様に祈る。それを馬鹿にし、教会に訪れなかった者の失踪が騒がれた時、より一層の信者たちが集まりだした。
「皆様、ここなら安全です。悪魔の侵攻はこの街を害し、我々の平和な暮らしを妨げています。神に祈りましょう。我らに祝福を……」
夜だというのに教会の椅子が満杯になる程信者たちが座り、祈りを捧げている。家に閉じこもるのも危険と捉えた信者たちが常に身の危険を感じ、詰めかけたせいだ。連日連夜、祈りを捧げ続ける信者たちを思い神父も疲労が溜まっていた。
ある日の夜、そんなに大きくないこの教会には人が押し寄せ、座る場所すらなくなっていた。人々とは怯え切って震え上がり、大人数だというのに小さく縮こまって見える。
「これは……一体、どうしたのですか?」
神父は日頃の疲労から夢を見ている様な変な気分になる。そういえば今日は外から聴こえてくる妙な声が大きく、いつもより多いような気がする。
「神父様!お願いします!奴らを追っ払って下さい!!」
そこらかしこから聴こえるこの声は教会を取り囲み、人の出る隙間さえ失くしている。
「皆様!落ち着いて下さい!悪魔は入ってこられない!ここなら安全です!大丈夫です!」
怯え切った民衆を宥める為、大声でとにかく自分の言葉を伝える。その瞬間、教会の外で聴こえていた声はまるで何事もなかったかの様にスッと治まってしまう。
その様子に気付いた教会内の人間が怯えて騒いでいた人たちに、静かにする様促す。静まり返った事が皆に知れ渡ると、教会内の人たちはホッと胸をなでおろした。
『本当にそうかな?』
たくさんの声が折り重なってできた気味の悪い声が多少のズレはあるものの同じ言葉を発していた。その声は外から聴こえ、今まで聴こえていたとされるどの声よりハッキリと分かる言葉を出した。
『この建物は本当に安全なのかな?』
その不気味な声は民衆の心を揺さぶるのに効果覿面だった。恐れ慄き、大の大人も泣き出す者が出てきた。
「惑わされてはいけません……奴らは外に出そうと考えています。ああして我々を謀るのは入れないからです。安心してください」
「そうだ!」
「神の家には入れないんだ!」
民衆も希望を取り戻し、外の悪魔に牽制する。皆の心が一致団結した頃。教会はミシミシと悲鳴を上げ始める。天井や梁にたまった埃が降り注ぎ、頭に降りかかる。子供たちは一層泣き始め、この世の終わりと悲観する。だがそれも一時だ。地震のように起こった家鳴りも特段目立った痕跡もないまま治まる。
「ビビらせやがって!神の力を思い知れぇ!!」
一人の大柄な男性がいきり立って叫び出す。その時、ゴボッという音と水が滴る音が壇上から……いや、神父から聴こえてくる。民衆が壇上に注目すると神父は口から血を吐き出し、泡を吹いて白目を向いていた。「キャー!」という女性の甲高い声が聴こえたかと思うと神父は宙に浮き始め民衆の真上に来る。
「み……な……さ……いの……祈りを……」
神父は最後の力を振り絞ってそれだけを絞り出す。その言葉を最期に神父の体は破裂した。血が降り注ぎ、民衆にかかると大半が発狂してその場で叫び散らしている。その叫びと同時に入り口が開け放たれ、はめ込まれたステンドグラスは弾け飛んだ。いきり立った男は腰砕けになり、その場にへたれ込む。
灯された蝋燭は一瞬で吹き消され、暗闇が押し寄せる。その場に無数にして赤い目が光りを放ち、生者を睨む。闇は瞬く間に侵入し、民衆を飲み込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
しずめ
山程ある
ホラー
かつてN県の六森谷村には、その村域に侵さざる六つの森があった。
フォトグラファー・那須隼人は、タウン誌に掲載する写真の依頼を受け、中学の一時期を過ごしたこの町を再度訪れる。
しかし、大規模な開発によって森は削られ、田畑と木々ばかりだった風景は整然とした住宅街へと変わっており、そこはもう彼が知る町ではなかった。
さらには、町を守ってきた森の消失とともに、不可解な失踪事件や怪異が相次ぐようになっていた。
『谷には六つのモリサマがある。モリサマは村を守っている。モリサマに入ってはいけない。枝の一本も切ってはいけない』
古くから言い伝えられていた戒め。祭り。神事。
シズメの森の神への供物〝しずめめ〟の因習。
写真に写った〝そこにはないはずのない森〟
――そして三年前、隼人の恋人・藤原美月が姿を消したのもこの町でだった。
過去と現在が交錯する中、隼人は郷土史家・見学の協力を得て村の真実へと近づいていく。
森に秘された禁忌が解かれ、恋人を連れ去った運命と対峙したとき、隼人が目にするものとは――
過去に葬られた因習と、人の闇が交錯する民俗ホラーミステリー
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる