トゥーマウス

大好き丸

文字の大きさ
15 / 32

第十四話 暗黒の帳

しおりを挟む
「ふはははは!!どうした悪魔人間!!この程度か?」

 声高らかに笑って煽るグラシャラボラス。自分が飛び出した穴を眺めていると、そこからぬぅっとグローブを嵌めた手が出てきた。

「ったく!無茶して!!」

 崩れた石畳から現れたのはもちろんリョウ。頭の口も怒り心頭である。地上に出て登ってきた穴を覗き込む。

「……そうだな……おかげで俺の仕事が減ったようだ……」

 対してウロボロスの悪魔崇拝者たちは地下で崩れた瓦礫に埋もれて死傷者を出していた。

「……おいお前ら、勝手に死ぬんじゃねぇぞ!聞きたいことがあるんだからな!」

 地下にリョウの声が反響する。信者たちは唸るばかりで返事を返す事は出来ないが、生きている事だけは分かる。あまり時間をかけると死にそうだ。頭上を見上げるとグラシャラボラスがこちらを見ている。

「……制限時間付きの討伐か……面倒なこったな……」

「なんで?ゲーム感覚で面白そうじゃん」

「……聞く分にはな……」

 実際戦うのはリョウである事を思えば頭の悪魔は気楽なものだ。中々動かないリョウに痺れを切らしたグラシャラボラスは翼を羽ばたかせてゆっくりと下に降りてくる。

「どうした悪魔人間?……ああ、飛ぶ事が出来ぬのか。惨めなものよなぁ、地を這うネズミというのは」

「……ざけんな。制空権を持っている奴が偉いってのか?お前なんぞ俺の敵じゃねぇよ……」

 目を外さない様に穴から離れる。足場が不安定だと動きづらい。相手にはいろいろ言うが、正直制空権があればこんなことを考える必要などない。

「ふっ……今に分かる」

 グラシャラボラスは鼻で笑うと、その大きな羽を目いっぱい広げてバサッと一つ羽ばたく。その瞬間多くの羽根が亜音速の速度を持って射出される。まばらに発射された羽根は絨毯爆撃のように頭上に降り注いだ。安全圏からの遠距離攻撃。制空権を持つものの基本中の基本。
 しかしその攻撃は地下で予習済みだ。余裕をもって避けられない程の弾幕に代わっただけである。リョウはコートを翻し動き出した。この弾幕から逃げる為、本気で踏ん張るとバコッとリョウの足場が抉れる。

「遅いな。それでは避けられ……」

 ズガンッ

 全ての羽根が同じタイミングで地面をたたく。地面が抉れ、リョウのコートも穴だらけになった。だが肝心のリョウの姿がない。グラシャラボラスの目が少し見開く。

「ほう、やるな……」

 思ったより速い。人間がこれだけの範囲、これだけの速度の攻撃を避けられるとは思えない。何かカラクリがあると察する。考察するグラシャラボラスの背後を取ったリョウは、コートを脱いだ身軽な姿で大砲から打ち出された砲弾のごとく殴り掛かった。

「しかし!!」

 ドンッ

 突如上昇したグラシャラボラスの勢いに負けて吹き飛ばされる。

「くっ……!」

 空中で体勢を立て直して難なく着地に成功するも、背後を取ったのに攻撃を与えられなかったことは大分悔しい。かなり高い空中で停止すると豆粒ほどのリョウをその光る眼で見下ろす。

「余を前に下手なトリックを使うとは生意気な人間よな。そんな汝に教えてやろう、余の二つ名の訳を」

 上顎と下顎を結ぶ布を両手で抱えるように取る。ガパァッと口を開けるとその口に黒い靄が姿を現した。

「包め!暗黒のとばり!」

 口から放たれた黒い靄は信じられない速度を持って辺り一帯を包み込む。破損したビルも天を衝く高い時計塔も一瞬の内に包み込まれた。

「なになになに?何なのこれ?」

 夜の闇より暗く、視界ゼロと言えるほどに全く見えない。まるで空気穴すら無い箱の中に入れられたような暗さだ。頭の口も何も見えなくなって困惑している。

『余の空間に閉じ込めた。もはや汝は袋のネズミよ』

 音が反響してどこに居るのか全く分からない。と、突如リョウは虚空に殴り掛かった。

「は?何してんの?」

 その変な行動に頭の口は呆れ気味だ。リョウは何も見えずひたすらキョロキョロしている。

『ふはははっ見えまい!そして分かるまい!余がどこに居るのか』

 その声が聞こえて少しすると、今度は鋭い後ろ回し蹴りを放った。当然空振り。

「ちょっとマジで大丈夫?」

 その問いにようやくリョウが答える。

「……あいつの声が反響して耳元で囁かれたように感じた……不味いな……音で判別も無理だ」

 目も見えない耳も駄目ならもう鼻しかない。

「……チッ……ここでお前が頼りになるとは……」

「あ、ふーん。そゆこと?あんた一人じゃどうしようもないって事ね?」

 ふっふーんと得意気になっている。これは日頃の鬱憤を晴らすチャンスだとニヤつき始めた時、敏感な鼻は感じ取った。

「あっ!後ろ!!」

 一も二もなく条件反射で教えてしまった。リョウはバッと後ろを振り返る。しかし、見えないし音も駄目なら攻撃のしようがない。あてずっぽうになるがとにかく思い切って攻撃を仕掛ける。

 ブォンッ

 外した。その時。

 ズバシュッ

 体中が切り刻まれる。何とか切断まではいかなかったが深い切り傷でさらにお気に入りのインナーがボロボロに引き裂かれた。

「がっ……!!」

『くふははははっ!!』

 また高らかに笑う。その笑い声が反響して鬱陶しい。敵を知覚する事が出来ないというのはどこまでも面倒な事だ。
 ”黒翼の暗殺者”の異名は、暗黒を武器に変えて一方的に殺すところから来ているようだ。視覚と聴覚を頼りにしている生き物にとってこれほど厄介な敵はいない。頭の口が感覚器官として持っている異常な嗅覚を自分が使えない限り攻撃は当たらないだろう。即ちリョウでは勝ち目がない。(最早これまでか……)と感じた正にその時。

「手を貸しましょうか?」

 女の声が耳元で聴こえた。グラシャラボラスの声ではないことに気付いて後ろを振り返る。そこにいたのは体から光を放ち、暗闇を払いのける女たち。アークの面々だ。暗闇の中で光るこの技は。

「……無限光アインソフオウルか……」

 それは生命の樹セフィロトになぞられて名がつけられたアークの誇る伝統の技。自らを輝かせることの出来る無限光アインソフオウルはこの暗闇の大敵。

「初めましてトゥーマウス。貴方に直に会いたいと思っていました。ようやく夢が叶った思いです」

 隊長格と思わしき美女が話しかけてくるが、今はそれどころではない。

『んん……何者だ?』

 またも新しい者たちが間に入ってきた。それも日光や電灯、火すら飲み込む暗闇をわずかながら払い、その姿を現している。経験則に無い存在に警戒を強める。スッと隊長格らしき女がこちらを見たのを察知した。

(馬鹿な……見えているのか?)

 女は薄っすら笑ってその姿勢のままリョウに話しかける。

「本当ならあなたも一緒に倒さなきゃダメなんですけどね。当面はあれを倒す事が我らアークの使命。どうでしょうか?敵の敵は味方って事で手を組みませんか?」

 それに答えたのは頭の口だ。若干嬉しそうに応える。

「ナイスな提案ね!乗らない手はないわ!ほら、あんたじゃ勝てないし」

 その通りだ。どうせこのままでは勝てなかったし、渡りに船とはこの事だろう。

「……良いだろう……だがこれだけは言っとくぞ?アークの女ども……」

 切り刻まれた痛ましい体をグッと伸ばして見せつけるように立つ。

「……こうなりたくなけりゃ前に出るな。お前らは俺の支援に回れ……相手はソロモンの悪魔だ。暗闇が払えるからと言って勝てるなんて思うな。お前らがどうなろうが知ったこっちゃねぇが、ヤバいと思ったら迷わず逃げろ……以上だ」

 一瞬何を言われているのか分からず全隊員がきょとんとする。リョウは真面目な顔で隊長の女の観ている方に顔を向ける。

「……どこにいる?」

「あそこ」

 スッと指を差すが、やはり見えない。

『弱きものほどすぐに群れるものよな。まぁしかしこうでもないと面白くない。遊女共も来た事だし血と肉の狂宴を始めようぞ』

 相変わらず声が反響して耳障りなことこの上ない。その時、右隣から肩をトントンと叩かれる。

「……何だ……?」

「ね、こいつ倒したら一杯飲みにでも行かない?」

 この場に似つかわしくない提案。頭の口は食い気味に応えた。

「お酒を!?飲みたいわ!リョウ!!さっさと滅ぼしちゃいましょ!!」

 口からペロペロと舌を出して酒の味を思い描いている。リョウは虚空を睨みながら口をへの字に曲げる。

「……お前ら馬鹿か?……ったく……もし万が一にもお前が生き残れたら考えてやるよ……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...