トゥーマウス

大好き丸

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第十六話 絶望の中の愉悦

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 難しい事は無い。強いか弱いか、ただそれだけだ。

 ジューンはへたり込む。自分の目の前にいるリナと名乗ったこの少女は、悪魔のぬいぐるみを抱えニヤニヤといやらしく笑っている。

 道路に広がる血と肉片はあちこちに散らばり、少女が泣いていたあの路地裏を思い出させた。すべてこの少女の仕業だったと、この惨状が物語っている。ガタガタ震えながら、光の消えたデルタチームの隊長の目を見る。
 どんな状態でも動けるように鍛えてきたはずなのに、いざ死ぬかもしれない状態に曝されると積み重ねの何と脆い事か……。練習は所詮練習でしかないと身につまされる。

 少女は結界に触れる。その時ふと手が焼け爛れるのを想像した。ここまで人外な行動をしてきたのだ。この少女事態が悪魔だった方が腑に落ちる。
 しかし想像とは裏腹にペタリペタリと何事もなく壁を触る。この事からリナは悪魔ではないと証明された。この年頃の女の子が人を殺してニヤニヤ笑うなど世も末である。

「かったーい。これじゃ通れないね」

 コンコンとノックをして堅さをアピールする。確認後、ジューンに向かって振り向いた。

「ねー。どうすればこの中に入れるの?」

「……と、解くことなんて出来ないよ!諦めて何処かに行って!」

 とにかく命の惜しい彼女はリナに離れるように突き放す。

「……お姉ちゃんさっきまで優しかったのに意地悪になっちゃった。ねープルソン、私悲しい……」

 ライオンのぬいぐるみをぎゅっと抱き締める。ぬいぐるみの目が赤く光を放つと、手や足が独りでにくねくね動き出す。ミキミキ音を立てると心なしか少し大きくなったように感じる。

「!……!?」

 何が起こっているのか分からず、困惑しながら見ていることしか出来ないジューン。

「あ、ダーメ」

 リナはぬいぐるみの頭を軽くポンッと叩いた。忙しなく動いていたぬいぐるみはピタリと動きを止め、風船が萎むように小さくなった。

「約束は守らないとね……分かったよお姉ちゃん。また後で会いましょ」

 ニコリと笑って結界の壁に沿って歩いて行ってしまった。何か分からないが、何故か助かったということに安堵し、涙が溢れてきた。
 自分には何も出来ないことが分かってしまったのと隊長の喪失、救ったと思ったら悪魔の手先だった少女。こんな最悪の失態は組織中探しても自分くらいだろう。自分の無能さ加減を自戒しつつも、すぐに無線で連絡を入れる。

「で、伝令!避難民に混じって悪魔の手先が入り込んでいました!デルタチームの隊長及び隊員一人が死亡!勝ち目はありません!遭遇したら即刻逃げてください!!」

 すぐに連絡が返ってくる。

『……容姿はどんな奴……?』

 その声はそっと聞くように聞いてきた。

「十代前半の女の子です!大きなリボン!オーバーオールのスカート!長い髪が特徴です!」

 ジューンも即返答する。次の返信は一拍置いてからだった。

『ここにそれらしき少女が向かって来ているんだが、こいつがそうなんだろうか?』

「ぬいぐるみが悪魔です!デルタの隊長もやられました!逃げてください!攻撃がいきなり来ます!!」

 大声で警告を出すが元から逃げるつもりが無いのか、近場でパァンッと乾いた破裂音が木霊する。銃を抜いたのだ。自分には出来なかっことに驚き戸惑うも、「もしかして……」という気になる。
 その後数発の破裂音が鳴り、しばらく静かになった。結界を張ったのはブラボーチーム。結界の外側で銃を撃ったことを思えば、リナに攻撃したのは間違いなくブラボーチームだ。

「……も、もしかして倒した?」

 まだ連絡はないが、それ以外考えられない。無線を取ると、恐る恐る通話する。

「あ、ブラボーチーム……。応答してください。ブラボーチーム」

 何度か呼ぶも返事がない。

「……ブラボーチーム!」

 痺れを切らして大声で無線機に叫ぶ。その時、ジジジッと無線機を弄る音が聞こえる。それを聞くだけで安心できた。それも一時だけだが……。

『あー、あー、聞こえますかー。どうぞー』

 声を聞いた途端、絶望が押し寄せる。さっき銃を撃った隊員はどうやら無力化されたようだ。

『どうもー、リナっていいます。初めましてー。あのー早速ですが、この壁を解いてください。どうやったら解けるのか分からなくて困ってまーす。よろしくお願いしまーす』

 アルファチームの隊長に負けず劣らずの呑気な雰囲気だ。だが、違うと言えるのは幼いと言うことと、邪悪であるということ。誰も彼も返信しない。

『ふーん、無視するんだー。そういう悪い子達にはお仕置きしちゃうもんねー。もう1人1人に聞きに行くからそれまでに言い訳とー、ごめんなさいとー、この結界を解く方法を私にも分かるように考えといてよね』

 それを最後にブツッと通信を切った。あの悪魔は飛び道具も意味をなさないようだ。いよいよ勝ち目のない戦いにホワイト次官の顔が浮かんだ。

「もう……もう、貴女しかいません……。早く……早く来てください……エリーナ様……」

 涙を流して懇願する。その言葉は空しく虚空に溶けていった。

………

 その通信は結界の中にも届いていた。

「……何?今の……」

 目の前に手が離せない敵がいる中で思っても見なかった伏兵が避難民の中に紛れ込んでいたようだ。
 確かエコーチームが殺された時、路地裏で救出された少女の話があったが、先の無線を聞けばこの少女が伏兵だろう。
 グラシャラボラスを疑っていたが、どうやら違うらしい。すぐにも加勢に行きたいが、当面の敵は目の前の悪魔だ。今一人でも欠けると厳しいのは目に見えている。

「ほんと厄介なこと……」

 隊長はポツリと愚痴を溢す。一連の流れを聞いていたリョウは肩を震わせて何かを我慢している。そして弾けたように高笑いした。

「かっ!はーっはっはっは!!」

 突然の奇行に驚くアークの面々。この高笑いにはグラシャラボラスも訝しんだ。

『何がおかしい!?』

 しばらく笑い転げて突然ピタリと笑うのをやめると、頭の口に語りかけた。

「……気が変わった……お前の力、使うぜ……」

 それを聞いた頭の口はニヤリと笑う。

「んもーしょうがないわね!」
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