トゥーマウス

大好き丸

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第十七話 ダークヒーロー

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 グラシャラボラスは人間たちに苛立ちを覚えながらも弱体化した体と武器のせいで攻めあぐねていた。
 アークの聖なる力のせいで折角の暗闇が多少照らされてしまって、リョウに攻撃を許してしまう痛い結果となった。リョウを圧倒した時はこの程度の力でも人間程度になら勝てると踏んでいたわけだが、完全に見込み違いだった。その上、人間に突然笑われるという屈辱的な状態。

『もう良い!!』

 グラシャラボラスは叫んで羽を広げる。バサッという音に身構えたが、特に羽根が飛んでくることがなかったので何をしているのかアークの面々は様子を窺っていると、ドーム状に包まれた暗黒空間が突如液体のように一気に降り注いだ。ただこの暗闇は特に人体に影響があるわけではなく、体を投下して全て地面に落ちる。
 液体のようにバシャッと地面に打ち付けるような音が鳴り、凄まじい勢いで広がっていく。

「?……何これ?」

 不思議な顔で下を見ていると、隊長はゾッとする。この暗闇は地面を覆いつくし、底の見えない暗闇へと姿を変えたのだ。この後に起こる事は少し考えれば想像がつく。

「みんな!!高い所に登って!!早く……!!」

 言い終わる前に足場が頼りなくぐらついた。隊員たちも気づく。このままここにいたら地面がなくなりこの暗闇に真っ逆さまに落ちるのではないかと。焦り始めた瞬間にグラシャラボラスが手をかざした。

「遅いわ!!落ちろ!奈落の闇沼あんしょう!!」

 瞬間、地面が消える。アルファチームの八人とリョウ、さらに近くにあった建物さえもは闇に絡め取られ、アークの隊員たちの叫ぶ声も空しく闇の底なし沼に消えていった。アークの隊員たちとリョウが取り込まれたのを確認すると、広がった闇を縮めていく。

「遊んでやってたところで死んでいれば楽に死ねたものを……余の闇の中でじわじわと死ぬがよい」

 苛立っていた気持ちは敵を完全に飲み込んだことで落ち着きを取り戻し地面に降り立つ。闇の沼を掌大まで小さくして手に収めようとすると違和感が生まれた。何かが闇の中で蠢いている。

「ん?これは……?」

………

 闇に包まれたリョウは沼のように沈むこの場所で、焦ることなく沈むままに頭に被ったニット帽を弄っていた。

 ジュゥゥゥゥッ

「熱い!!熱あつアツ!!あっつぅ!!」

 聖骸布のレプリカで触られた頭の悪魔は湯気を出しながら身もだえる。何かを考えるようにしばらくニット帽の端っこを持ったままで悪魔の熱がる様子を眺める。

「ちょちょちょっ!いい加減にしなさいよバカ!!やるならとっととやりなさいよ!!」

「……あ、悪い悪い。考え事をしててな……」

 わざとらしく返事をした後、自身の顔に被せる。頭にあった大きな口が自分の口と同じ位置に来るように調整した。さらに目の位置に手を持って行くとジュワッと肉を焼くような大きな音を立てた。

「ぐがあああぁぁっ……!!」

 リョウは体を大きく揺らし身もだえる。叫ぶ声に女の声が混じってきて声が二重に聞こえ始めた頃、悶えていた体はピタリと止まる。
 手を離した湯気の立つニット帽には白い傷の様な大きな模様が出来ていた。よく見れば、目の位置にある白い大きな模様と元々あった口のせいで、レスラーマスクを付けているような見た目となった。そして真っ黒だった髪の毛は、目の部分のように白く変色していた。
 相変わらずジュゥゥッという肉を焼く音は健在で、手から止めどなく湯気が立つ。

「ねーこれ取らない?熱いんだけど?」

 さっきまで男らしく立っていたリョウはクネッとなよなよしいポーズを取りつつ手を眺める。その時、ギッと顔が突然そっぽを向いて、なよっとしたポーズを止める。フシューッと息を細く長く吐いて気を整えた。

『……駄目だ……こいつを外すとすぐに体を乗っ取ろうとするからな……今もそうだ。馬鹿め……お前は俺の心の奥底で指を咥えて見ていろ』

 途端にリョウの男らしい声と頭の口から出ていた女らしい声が二重に聞こえるように言葉を紡いだ。
 ミキィッと体が軋むほど力を入れると体から黒紫色のオーラが滲み出てくる。流動的に動くオーラを全身に纏うと『オオオオォォォオォオ!!!』と唸った。

………

(あー……参ったな……)

 アルファチームの隊長は闇に包まれながら進退窮まったことを悟る。無限光アインソフオウルの力も無限ではない。今は何となく浮かんでいるだけだが、力を使い果たした時にこの闇がどんな効力を発揮するのか考える。間違いなく死ぬ奴だ。グラシャラボラスの魔力に侵され、何も出来ぬまま汚されて死んでいく。
 いずれ戦いの中で死ぬとは思っていたが、こうもあっさり死ぬ事になるとは夢にも思わなかった。

(まったく時間稼ぎにもならなかったなー……私も大概だったって事だよね……)

 エコーチームがやられた時、内心情けないと見下していた。自分ならこう出来たとか、一人だけでも逃げられただろうとか、せめて無線機で連絡を取れとか様々考えていたが、いざ自分が同じ立場になれば何も出来なかったと実感させられた。

「脆いなぁ……あーあ、こんなことならエリーナが必死に隠そうとしてたあのワイン飲むんだったなー……」

 いつもの調子で呑気に独り言を言っているが、助からないであろう状況に背筋に冷たい汗が流れた。どれだけ強がろうと、死が押し寄せる状況は彼女の心を間違いなく蝕んだ。その時。

 メキュッ

 その音はこの空間全体で鳴ったように感じた。

「……ん?」

 全隊員が悲壮感で潰されそうな時に聞こえたこの音は何なのか?あるものはこの空間ごと自分たちを圧し潰そうとする音だと感じたり、あるものは出入り口部分が閉じた音だと感じた。
 どれも違う事が分かったのは一筋の光が射しこんだ時だった。

………

 閉じ込めた闇をじっと見ていたグラシャラボラス。蠢く闇をじっと見ていると、そこからニュッとリョウの右手が出てきた。

「な……!?」

 初めての経験だった。この闇は敵となった奴らを閉じ込め、何もさせぬまま殺してきた破る事の出来ぬ檻。一度だってここまで封じ込めた敵が息を吹き返したためしがない。

(いや、待て……手が出ただけだ。どうしようもないだろう)

 湯気の出る手を眺めながら落ち着こうと気を抑えようとするが失敗する。左手もニュッと出てきた為である。その手が闇の両端を掴んだ。何故掴めたのかが分からない。これは影を掴むようなもの、つまり不可能な事なのだ。

 メキュッ

 何かをしようと考える前に穴を広げる湯気の出る両手。

「やめろ!!」

 焦って手をかざした後、ギュッと拳を作る。その穴は一気に縮小しようとキュッと閉まるが、それも一時の事。穴を広げようとする手はその力を増し、ドンドン穴が広がっていく。握り締めた手が徐々に開いていき、完全に開き切った後もさらに開かれる穴と連動して指の関節が反対に曲がっていった。

 ベキベキッ

 枯れ枝を折る様な音と共に指がへし折れ「ぎゃあ!!」という叫び声をあげて手を庇う。その時、パァンッと闇が弾けた。
 闇に捕らわれていたアークの隊員たちと、すっかり様変わりしたリョウが闇に包まれる前に立っていた場所に出現した。ぱちくりしながら現在の状況に脳が追い付かない隊長は言葉を絞り出した。

「……たすか……った?」

 体を丸めて痛がるグラシャラボラスに目を向ける。

「がっ……!ぐあっ……!キサマ!!」

 まったく余裕なく叫び散らす。その視線の先に指の骨をポキポキ鳴らす変身ヒーローのように顔を隠したリョウがいた。

『……俺の独断場だ……諦めて死ね』

「!?……包め!暗黒の……」

 今一度領域を作ろうと口を開くが、それを許すわけがない。

 ボゴッ

 地面を蹴ると当たり前のように抉れ、リョウの体が消える。

 ゴキッ

 グラシャラボラスの顔が歪んで顎が変形する。牙が折れて飛び散った。グラシャラボラスは耐える事も出来ず、後方に吹き飛んで建物をぶち抜いた。右腕を振り抜いた状態でニヤリと笑うとぶっ壊れた建物を見る。

『……させるかよ』
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