「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜

大好き丸

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3章

24、特別任務

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 デーモンたちは作戦を終えてヴォーツマス墳墓に戻ってきた。

 あまり褒められた戦果ではなかったものの、多少なりとも人間に脅威を与えたのだ。脅威の排除のためにデーモンが帰還していく方向を確認し、この墳墓に攻めて来ることは間違いない。

 誤算だったのはビフレストのチーム力だ。アークデーモンは自分の能力にかなりの自信を持っていた。人間程度に傷付けられるはずはないとタカを括っていた。
 だが蓋を開けてみれば、片腕を失い、火傷と切り傷を負わされ、おめおめと逃げ帰って来てしまった。

 これをあるじであるハウザーがどう見るのか。アークデーモンは体を震わせながらハウザーの前に跪いた。

「おいおーい、何を気にしてんだよ?俺がお前らに命じたのは人間の挑発だ。半分くらい殺せっつったのはそんくらいの気概で臨めってこった。おびき出せたんなら文句はねーよ」

 ハウザーの言葉に内心ホッとする。ハウザーと対立しているロータスは報告を聞いた途端に癇癪を起こしてデーモンを殺してしまったと聞く。そんな主の下にいれば、いつ命が取られるか分かったものではない。

「しっかし何だな。その腕。まさか物理も魔法にも耐性のあるお前がそのザマとは……中々骨のある奴らが居るようだ」
「はっ……現在アヴァンティアには冒険者が集中しているようです。祭日か何かと重なったとしか思えない状況でして……」
「ほぉ?しくは俺たちの動きを読んだかのどちらかか?」
「……それも考えられるかと」

 ハウザーは満足そうに笑う。

「良いね良いね!人間どもが簡単におっんじまうのも面白くないからなぁ!……ところでお前。それ痛いんじゃねぇか?」
「いえ、このくらいは問題ありません」
「痩せ我慢は良くねぇぜ?腕まで取れちまって可哀想に」
「……恐縮です。全ては私の不徳の致すところ」
「慰めにしかなんねーが、俺が一肌脱いでやろう」
「……あの……それはどういう……」
「気にすることはないぜ。俺は優しいんだ」

 急に会話が通じなくなることに違和感を覚えたのも束の間、ハウザーの真意に思い至ったアークデーモンは脱兎の如く逃げ出した。自慢の健脚と自慢の羽を駆使して一気に距離を開ける。なりふり構わず逃げ出したアークデーモンにハウザーは組んだ足を解いた。

「!?……あがあぁぁぁぁ……っ!!」

 木霊したアークデーモンの悲痛な叫びはダンジョン内を駆け巡る。この日アークデーモンの命は失われた。

「ひっでぇなぁ……アレじゃロータス様と変わらないだろ……」
「しっ!……聞こえるぞ。ハウザー様とロータス様はいがみ合っているんだからな……そんなことより別働隊が帰って来てないのはどういう了見だ?街の裏に回ってそのあと何があった?」
「知るか。あの裏切り者ども……死んでも何とも思わんさ」

 デーモンはため息をつきながら持ち場に戻って行った。



 アヴァンティア防衛戦を制した冒険者たちはヴォーツマス墳墓に向けて首都を出発した。

 冒険者ギルドに確認を取り、選ばれしチーム以外の参加と墳墓への侵入を禁止し、新たな依頼クエストが誕生した。
 ヴォーツマス墳墓の攻略。

「お金が出るから参加しましたけども、死ぬのはゴメンでしてよ?」

 集まった冒険者チームは4組。ビフレスト、ラッキーセブン、シルバーバレット、風花の翡翠。”破城槌ブレイカー”ディロンは単独での参加なので同行という形となる。

 その内の1つ”風花の翡翠”は女性リーダーのルーシー=エイプリルを筆頭としたほぼ女性のチーム構成をしている。ラッキーセブンと同様に男性が一人、ほとんどが女性という構成だ。その男性も女装していて、一見すると全員女性のチームだと錯覚させる。

 ルーシーはエイプリル家の末女でわがままいっぱいに育てられたお嬢様。容姿端麗な外見ながらその性格上、貴族の男性から相手にされずに両親からも心配されていたが、魔力や身体能力が異常に高く、冒険者として才覚を発揮。以後、彼女の侍女であるジューンを連れて冒険者チーム”風花の翡翠”を発足した。
 ドレスと見まごう特注の鎧が目を引く豪華絢爛のおてんば姫。ちなみにエイプリル家の領地から出た後に自分で稼いだお金で鎧を作成した努力家でもある。

「……まさかルーシーにもあの気が感じられたとは意外だったわね」
「うん……見かけによらない実力者ってのは居るものね」

 コソコソと話すラッキーセブンのメンバー。

「それは褒め言葉かしら?それとも侮辱?」

 いつからそこに居たのかルーシーが怪訝な顔をして背後に立っていた。「うわっ!」と驚き戸惑う。
 前方に立っていたはずの彼女が、誰にも知覚されずに背後に回り込んでいた。昨晩のデーモン襲撃で手傷を負っていないことを考えれば、かなりの腕前であることは明らかだが、本当の実力は想像以上だろう。
 職業は”騎士ナイト”であり、槍を巧みに操る。

「しっかし思った以上に少なかったね~。あと5チーム……いや、2チームは居て欲しかったけどね~」

 ヘクターは小さくため息をつく。それにライトも同調した。

「確かにそうだな。昨今冒険者の質が落ちている気がしてならない。ニール、貴様はどう思う?」
「僕としてはその考えに賛同しかねるね。どう考えても質は上がっているよ。ギルドの資料を見ても圧倒的さ。強い冒険者がこんなにも居ることに驚愕しているところだよ」
「ん?そうか?」
「そうさ。ただヘクターの言う通り、僕もあと2チームはみんなと比肩し得るチームが居ると思っていたよ。そういう意味では君と同じく落胆している部分もあるかな」

 ニールは苦笑いで返答する。それにはディロンが苦言を呈す。

「ふんっ……オレはこれ以上同行者が増えるのは御免被るぜ。今だって無駄話が多すぎてうるせぇからな」

 普段一人旅のディロンにはこの状況は煩わしささえある。リーダー同士が会話しているようにメンバーの垣根を超えて冒険者同士で会話しながら墳墓に向かっている。
 これから始まるレイド戦に向けて信頼関係を結んでおくのは重要だ。何か会った時に助け合えなければ勝ち目が無くなってしまう。
 それが分からない訳では無いが、ディロンにとってストレスであることは確かだ。

「オラァ!オメーら!もうすぐ着くぞコラァ!」

 茶色だった土の色が徐々に灰色に変わっていく。先程まで茂っていた雑草もなくなり、不毛の大地を歩く即席部隊。煙のように漂う霧を体に纏いながらしばらく歩くと墓地が見えてきた。

「ここが……ヴォーツマス墳墓」

 アヴァンティアから二番目に近いダンジョンだが、あまりに人気が無いために一度も来たことがない冒険者は多い。特に”風花の翡翠”は陰気な墳墓とは無縁である。

 ダンジョンの入口となる神殿を探して歩いていると、示し合わせたかのように全員が同じタイミングでピタッと足を止めた。
 各々の武器を構えてキョロキョロと辺りの様子を窺っている。

「……墓の裏」
「地面にも何体か隠れてる」
「上空からも気を感じるネ」
「霧に紛れて囲もうとしているな」
「違うね。既に囲まれている」
「ちょちょっ……!どうするのよ!」
「どうって……戦うしか無いでしょ」

 それぞれのフォーメーションを組もうと動き出したその時、即席部隊を囲んだ敵がゾロゾロと出て来た。
 その姿はスケルトンやアンデッドといったゾンビから、昨晩戦ったデーモンたちだ。
 先程まで様子を窺っていたであろう連中とは思えない大胆さ。既にバレているのだから関係ないと開き直ったのか。詳細は不明だが、分かることがある。
 ここで戦わされるということは疲弊させられるということ。奥のボスクラスと戦う時に全力が出せなくなるのは不味い。

「考えている場合じゃないか……」

 とにかく敵の部下の数を減らしておくのが重要だろう。表を全滅させ、一旦引いて再度突入。邪魔されるたびに敵を倒していては時間が勿体無く感じるが、少しでも生存率を上げるために背に腹は代えられない。
 部隊の面々が戦う決心をしたと同時に不可解なことが起こった。

 ──ザッ

 アンデッドもデーモンも関係なく一斉に跪く。全ての音が揃って聞こえ、大きな音へと拡張された。
 急に跪かれたので面食らっていると、爆竹が弾けるような音が3度鳴った。それが柏手だと気付くのに3秒掛からなかった。
 前があまり見えないほどに濃かった霧が徐々に晴れていく。少し先に神殿がぼんやり見え始め、その姿がくっきりしていくごとに冒険者たちの顔が真剣になっていく。

「はっはぁっ!よく来たな人間ども!わざわざご苦労なこって!」

 真っ黒で鋼のような光沢のある体。盛り上がった胸筋に8つに割れた腹筋。太ももかと見まごうほど太い二の腕。真っ白な髪の毛を腰まで伸ばし、たなびかせている。
 鼻が高く、堀の深い、顔立ちのハッキリした青年を思わせる。袴を履いたゴツい兄ちゃんといった感じだ。

 異質なのは胸の中心にぽっかりと穴が開いていることと、そこにあったであろう心臓を右手に持っていることだ。

(こいつが……?)

 ディロンは訝しい顔を向ける。

「えぇ~!?何で内臓を持ってますの?!キモすぎ!」
「ルーシー樣。お下がりください。見てはいけません」

 侍女のジューンがルーシーの盾になって眼の前のアンデッドから守る。

「おいおい汚物扱いかよ。こいつは俺の心臓だぜ?お前らがこれを傷付けることが出来たなら俺は即死。むしろ大喜びで外に出ていることを感謝してもらいたいくらいだぜ」

 ニヤニヤしながら心臓をかざす。

「それが嘘か誠かは分からんが、貴様がダンジョンの主であるなら丁度良い。攻略の手間が省けた」
「ヒューッ!良い勘してるぅ!いやぁ正にその通り。俺がこの神殿の主、ブラッド=伯爵アール=ハウザーだ!!」

 ──……ォオッ

 急に身体が重くなったと思える重圧が掛かる。ハウザーが力の片鱗を見せた証拠だろう。この中で唯一気を感じ取れなかったリックも心胆に響く殺気に膝を屈しそうになるが、奥歯を噛み締めて堪える。

「……違うな……まだ本気じゃないのか?」

 凄まじい気迫を感じるのだが、昨日感じたものと違うことが何よりディロンの疑問を呼んでいる。
 ただ強いことだけは覆せない事実。ハウザーの闘志にディロンは触発される。

「オレが最初に出る。隙を見て参戦しろ」
「え?」

 筋骨隆々の体がさらに盛り上がり、ディロンは砲弾のような勢いでハウザーに飛び掛かった。

「バカやろ……!!あいつ!!」

 止める暇もなく接敵したディロンに悪態の一つもきたくなる。しかしこれはチャンスでもある。ダンジョンの主、ハウザーの力が測れるということだ。
 本来単独で行かせるのは死にに行かせるものだが、ディロンに限ってはその常識は当てはまらない。ドラゴン単独撃破の称号”ドラゴンスレイヤー”に最も近い男の中の男。

 その斧はハウザーのかざした心臓に振り下ろされた。
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