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5章
46、意外な趣味
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広がる夜空。月明かりに照らされた久々の外を堪能する怪物。
”乾きの獣”や”満ちぬ器”など、様々な名前で呼ばれてきた最悪の存在グリード。雲の間をすり抜けて意気揚々と飛び回る。
「はぁ……空気が美味い」
すべてが新鮮ですべてが光り輝いて見える。つい先程まで永遠の闇に閉じ込められていたのが遠い昔のような気分だ。しかしその気分が現状を不快にさせる。
「……自由を満喫出来ているようで出来ていない……レッド=カーマインだと?何故人間ごときに手こずるのか……いや、それが今の状況を生んだのなら感謝すべきことなのか?複雑なものだよまったく……」
グリードは腕と足を組んで空に浮きながら座っているような格好で物を考える。まず手始めに何をすべきなのか。それを考えた今、すべてを破壊したい衝動に駆られる。
「それは少し我慢が足りなすぎるな。せっかく世界を自由に出来るというのに、壊してしまうのは非常に勿体無い。やはり先ずは今という時代の情報を集めるところからだな」
グリードの視線は森に漂う小さな光に向いていた。人里から離れた森にある灯りとくれば人間が野営をしているのは明白。たとえ魔物であっても問題ない。
「……いいね。食事の時間だ」
可愛らしい子供の顔が邪悪な笑顔で歪む。可愛さのかけらもない顔はグリードの本性をさらけ出しているようだった。
*
パチパチッ
焼けた木が弾けて音を立てる。焚き火を囲うのは冒険者たちだ。街から街への移動中の野営。メラメラとくゆる炎がほんのり明るく暖かい光を放つ。
枝で焚き火をつつく野伏と戦斧を肩に寄り掛からせる戦士。焚き火の側に寝転がる弓兵とドカッと座る森司祭の4人パーティー。その冒険者チームの名は”一迅の風”。リーダーは野伏のグルガンである。
「……静かな夜だなぁリーダー」
「ん?ああ、確かにそうだな。夜鳥のさえずりも聞こえないのは珍しい」
「ふんっ、良いことじゃないか。あいつらはうるさくていかん。野営とはいえ、少しでも深く眠りたいというのに邪魔ばかりしてくるからな」
「自然とはそういうものだ。我らだけが生きているわけじゃない」
「はぇ~達観してんねぇ」
「リーダーは仕事人だからな」
中級冒険者チームと名高い彼らは、その実それほど積極的なチームではない。ダンジョンは稼げる程度に潜り、命を削るような真似を避ける。緩く長くをモットーに活動している良く言えば堅実、悪く言えばつまらないチームだ。
「なぁリーダー。久々に故郷に帰ったらどうだい?仕送りがてら奥さんと子供に顔を見せるってのは」
「……確かにそうだな。方向が一緒だし、ちょっと寄るのもありだ。しかし我の用事だけで故郷に帰るのも気が引ける」
「それなら問題ねぇよ。俺だってちょっとした用事って奴があるからさ……」
「ははっ!こいつまたあの女にプロポーズするつもりだぞ!」
「おいおい何度目だよ。もう諦めたらどうだ?」
「っるせぇなぁ。俺の勝手だろ?」
はははっと静かな森に木霊する笑い声。グルガンはこの状況を心の底から楽しんでいた。
(ああ、楽しいな。心が洗われるようだ。人間らと旅をしている時は特に……)
一迅の風のリーダーであるグルガンは人間ではない。見た目は気の良いゴツいヒューマンのおっさんだが、実は魔法で姿形を変えている魔族だ。
本当の名はゴライアス=公爵=グルガン。獅子の獣人である彼は、皇魔貴族のナンバー2でトップレベルに強い存在である。そんな彼が人間に化けて、自分より遥かに弱い奴らと旅をしているのは、単なる趣味である。
(強いだけが全てなどくだらん。弱くとも重要なことがある)
皇魔貴族の考え方はより強いものが上に立つべきという力至上主義なのだが、グルガンはその野蛮な考えが苦手な部類だ。獅子の見た目にそぐわない平和主義とも呼ぶべき思想を持っている。魔族と人間は手を取り合うべきで、いがみ合うのをやめたいのだ。人間の産み出す物は緻密かつ繊細で素晴らしいと感じていて、人間の思想信条の方がグルガンの性格に合っていたのが人間を好きになった理由である。
そしてグルガンのお陰で人間が滅んでいないと言っても過言ではない。公爵の地位を最大限活用して皇魔貴族を抑え付けたのが、人間が皇魔貴族を認識していない理由である。
現在、皇魔貴族の頂点であるフィニアスが穏健派であるため、最近までグルガンが気を張る必要がなくなっていたのだが、頭を悩ませる問題が浮上する。
(チッ……フィニアスめ。乾きの獣を解き放つなどバカなことをしよって……)
同胞の前ではグリード解放に同調して顔には出さなかったものの、あの時は内心イライラしていた。グリードが大暴れするだろうことを考え、チームの仲間を安全地帯に移動をしなければならなくなったのもイライラに拍車を掛けた。
自領に連れていけば何とでもなるとチームを強引に連れ出したが、これに対して不満が出なかったのが不幸中の幸いか。物分りの良い仲間のお陰で、明日の昼頃には自領に着いて呑気に酒を呷っていることだろう。
──カサッ
だがその楽観的な思考は静かな森に小さく鳴った草の擦れる音で吹き飛ぶ。
弓兵は寝転がっていた体を一息に起こして弓矢を構える。戦士と森司祭も膝立ちでグルッと回転し、メイスや戦斧を振りかざす。グルガンは眼の前に現れた音の元凶をただ呆然と見ていた。
「やっぱり野営か。人間は昔からちっとも変わらない」
見た目は少年、中身は魔族、最強最悪のお墨付き。しかしてその実態は乾きの獣グリード。
「……ガキ?迷子か?」
「んなわけねぇだろ。魔物の幻影か変身能力か……どっちでもいいがこんなもんじゃ釣られねぇぞ」
「甘く見られたものだ。本体は近くに居るはずだな。リーダー、いつもの索敵を頼む」
戦う気満々の仲間たち。だがグリードを相手に人間が勝てるはずもない。
「逃げろ!こいつは相手にしてはいけない!!」
グルガンは臨戦態勢の仲間たちに逃走を促す。その真意を理解出来ずに混乱しながらついつい振り向いてしまう森司祭。それが命取り。
「いけないなぁ余所見は。それじゃ殺してくださいと言っているようなものだよ?」
グリードは真正面にいる森司祭に向けて手をかざす。直後、森司祭は前のめりにドサッと倒れた。
「!?」
急な状況に理由も分からず反応したのは弓兵。引き絞った弦を離し、弓矢をグリードに向けて発射。魔力を纏いながら中空を駆ける弓矢。しかし当たり前のように途中でパチンと弾けて原型が失くなった。
「チィッ!」
次の矢を番えるが、放たれることはなかった。
ゴンッ
弓兵も森司祭と同様に前のめりに倒れ、先ほどまで枕に使っていた木の根に額から突っ込んだ。
「なんだ弱すぎるなぁ……食いがいのない雑魚どもだ。3点」
戦士は目を剥いて驚きながらも倒れた2人の前に躍り出る。
「スキルも魔力も無さそうな戦士なんて腐った果実にも劣るが……ま、無いよりはマシか」
「リーダー逃げろ!!ここは俺が食い止める!!」
「ダメだ!!そいつは……!!」
「うおおおぉぉっ!!!」
戦士はグルガンを無視して戦斧で斬りかかる。グリードに向けた戦斧の刃先が頂点に達した時、戦士の手からスポッと戦斧が離れた。戦士はその屈強な体を使用することが出来ずにグリードの手前で人形のように崩れ落ちた。
「1点だな。……無謀で無策で無力。この3人を表現するとしたらこうだな。君だけは僕の強さを頭から理解していたみたいだけどね」
グリードはヘラヘラしながら戦士の背中を踏みつけ、トコトコと焚き火まで歩いてきた。
「君を言葉で表すとしたら……無意味かな?」
グリードはグルガンに手をかざす。だが何も起こらなかったことにグリードは訝しい顔を向けた。
「何?どうして……」
「……当然無理に決まっている。それは貴様の力を大きく超えた問題だからだ」
グルガンはこれ以上隠すことが無駄だと本当の姿を現した。ゆらりと燻る陽炎の下から獅子の顔が覗く。その顔に見覚えがあったグリードは犬歯をのぞかせるように口角を限界まで上にあげた。
「これはこれは……君は裏切り者だったわけだ」
「裏切ってなどいない。人間の情報を手に入れるために我が進んでやっているだけのこと」
「なるほどなるほど。公爵の地位であられる御仁がなかなか良い趣味をしておられる。現当主のフィニアス閣下はこれをご存知なのかな?」
もちろん知るわけがない。人間の情報を流したのは確かだが、冒険者が危険な存在であると喧伝して手出しを避けるように皇魔貴族を制御していた。グリードの言う通りただの趣味であり、皇魔貴族の知るところとなれば裏切り者の誹りは免れない。証拠があろうがなかろうが、人間の格好で人間の街を出入りしていたと噂されるだけで針のむしろだ。特にフィニアスを信仰するベルギルツに知られれば面倒この上ない。
「……ここで黙ると言うことは自分のしていることが不味いことぐらいは理解しているようだな。さてどうすべきか?図らずも弱みを握ってしまったようだ。ククク……なかなか面白い展開じゃないか。85点」
「チッ……なんとでも言え。どれだけイキろうともレッド=カーマインを倒さないことには何も始まらない。自由に生きたいなら寄り道などせずに仕事をしろ」
「おっとっと。そうだったそうだった。それじゃ君が教えてくれないかな?レッド=カーマインの居場所をさ。ほら、人間のツテを使ってさぁ」
ニヤニヤと笑いながら煽るように手を広げた。転がる仲間たちの骸を指し示すように。グルガンは冷たくなった仲間たちをチラリと見る。傷ひとつない綺麗な亡骸。グリードの最強の能力がこれを可能にしている。
グリードのスキル『理不陣(インペリアル・フィールド)』。それは相手の能力を奪うというもの。体力、腕力、敏捷、防御、魔力、そしてスキル。様々な生物が多種多様な形で持ち合わせている能力のすべてをグリードは自分のものにすることが出来る。奪える力に制限がなく、かつ際限なく奪い取る。この力で多くの生物を死に至らしめ、同胞をも手に掛けた。その結果が同胞による隙を狙われた全力の封印である。
そんなグリードから逃げるためにやったグルガンの今までのすべてが完全に裏目。人間で真っ先に犠牲になったのが共に戦ってきた最高の仲間たちとは最悪の悲劇だ。丁重に埋葬したい気持ちを抑え、奥歯を噛み締めながらも何とか返答した。
「……よかろう。レッド=カーマインを亡き者とするのは我らの最優先事項。断る理由はない」
「よろしく頼むよ。ああそれと、このことは一生忘れないからそのつもりでいなよ。裏切り者のグルガンくん」
”乾きの獣”や”満ちぬ器”など、様々な名前で呼ばれてきた最悪の存在グリード。雲の間をすり抜けて意気揚々と飛び回る。
「はぁ……空気が美味い」
すべてが新鮮ですべてが光り輝いて見える。つい先程まで永遠の闇に閉じ込められていたのが遠い昔のような気分だ。しかしその気分が現状を不快にさせる。
「……自由を満喫出来ているようで出来ていない……レッド=カーマインだと?何故人間ごときに手こずるのか……いや、それが今の状況を生んだのなら感謝すべきことなのか?複雑なものだよまったく……」
グリードは腕と足を組んで空に浮きながら座っているような格好で物を考える。まず手始めに何をすべきなのか。それを考えた今、すべてを破壊したい衝動に駆られる。
「それは少し我慢が足りなすぎるな。せっかく世界を自由に出来るというのに、壊してしまうのは非常に勿体無い。やはり先ずは今という時代の情報を集めるところからだな」
グリードの視線は森に漂う小さな光に向いていた。人里から離れた森にある灯りとくれば人間が野営をしているのは明白。たとえ魔物であっても問題ない。
「……いいね。食事の時間だ」
可愛らしい子供の顔が邪悪な笑顔で歪む。可愛さのかけらもない顔はグリードの本性をさらけ出しているようだった。
*
パチパチッ
焼けた木が弾けて音を立てる。焚き火を囲うのは冒険者たちだ。街から街への移動中の野営。メラメラとくゆる炎がほんのり明るく暖かい光を放つ。
枝で焚き火をつつく野伏と戦斧を肩に寄り掛からせる戦士。焚き火の側に寝転がる弓兵とドカッと座る森司祭の4人パーティー。その冒険者チームの名は”一迅の風”。リーダーは野伏のグルガンである。
「……静かな夜だなぁリーダー」
「ん?ああ、確かにそうだな。夜鳥のさえずりも聞こえないのは珍しい」
「ふんっ、良いことじゃないか。あいつらはうるさくていかん。野営とはいえ、少しでも深く眠りたいというのに邪魔ばかりしてくるからな」
「自然とはそういうものだ。我らだけが生きているわけじゃない」
「はぇ~達観してんねぇ」
「リーダーは仕事人だからな」
中級冒険者チームと名高い彼らは、その実それほど積極的なチームではない。ダンジョンは稼げる程度に潜り、命を削るような真似を避ける。緩く長くをモットーに活動している良く言えば堅実、悪く言えばつまらないチームだ。
「なぁリーダー。久々に故郷に帰ったらどうだい?仕送りがてら奥さんと子供に顔を見せるってのは」
「……確かにそうだな。方向が一緒だし、ちょっと寄るのもありだ。しかし我の用事だけで故郷に帰るのも気が引ける」
「それなら問題ねぇよ。俺だってちょっとした用事って奴があるからさ……」
「ははっ!こいつまたあの女にプロポーズするつもりだぞ!」
「おいおい何度目だよ。もう諦めたらどうだ?」
「っるせぇなぁ。俺の勝手だろ?」
はははっと静かな森に木霊する笑い声。グルガンはこの状況を心の底から楽しんでいた。
(ああ、楽しいな。心が洗われるようだ。人間らと旅をしている時は特に……)
一迅の風のリーダーであるグルガンは人間ではない。見た目は気の良いゴツいヒューマンのおっさんだが、実は魔法で姿形を変えている魔族だ。
本当の名はゴライアス=公爵=グルガン。獅子の獣人である彼は、皇魔貴族のナンバー2でトップレベルに強い存在である。そんな彼が人間に化けて、自分より遥かに弱い奴らと旅をしているのは、単なる趣味である。
(強いだけが全てなどくだらん。弱くとも重要なことがある)
皇魔貴族の考え方はより強いものが上に立つべきという力至上主義なのだが、グルガンはその野蛮な考えが苦手な部類だ。獅子の見た目にそぐわない平和主義とも呼ぶべき思想を持っている。魔族と人間は手を取り合うべきで、いがみ合うのをやめたいのだ。人間の産み出す物は緻密かつ繊細で素晴らしいと感じていて、人間の思想信条の方がグルガンの性格に合っていたのが人間を好きになった理由である。
そしてグルガンのお陰で人間が滅んでいないと言っても過言ではない。公爵の地位を最大限活用して皇魔貴族を抑え付けたのが、人間が皇魔貴族を認識していない理由である。
現在、皇魔貴族の頂点であるフィニアスが穏健派であるため、最近までグルガンが気を張る必要がなくなっていたのだが、頭を悩ませる問題が浮上する。
(チッ……フィニアスめ。乾きの獣を解き放つなどバカなことをしよって……)
同胞の前ではグリード解放に同調して顔には出さなかったものの、あの時は内心イライラしていた。グリードが大暴れするだろうことを考え、チームの仲間を安全地帯に移動をしなければならなくなったのもイライラに拍車を掛けた。
自領に連れていけば何とでもなるとチームを強引に連れ出したが、これに対して不満が出なかったのが不幸中の幸いか。物分りの良い仲間のお陰で、明日の昼頃には自領に着いて呑気に酒を呷っていることだろう。
──カサッ
だがその楽観的な思考は静かな森に小さく鳴った草の擦れる音で吹き飛ぶ。
弓兵は寝転がっていた体を一息に起こして弓矢を構える。戦士と森司祭も膝立ちでグルッと回転し、メイスや戦斧を振りかざす。グルガンは眼の前に現れた音の元凶をただ呆然と見ていた。
「やっぱり野営か。人間は昔からちっとも変わらない」
見た目は少年、中身は魔族、最強最悪のお墨付き。しかしてその実態は乾きの獣グリード。
「……ガキ?迷子か?」
「んなわけねぇだろ。魔物の幻影か変身能力か……どっちでもいいがこんなもんじゃ釣られねぇぞ」
「甘く見られたものだ。本体は近くに居るはずだな。リーダー、いつもの索敵を頼む」
戦う気満々の仲間たち。だがグリードを相手に人間が勝てるはずもない。
「逃げろ!こいつは相手にしてはいけない!!」
グルガンは臨戦態勢の仲間たちに逃走を促す。その真意を理解出来ずに混乱しながらついつい振り向いてしまう森司祭。それが命取り。
「いけないなぁ余所見は。それじゃ殺してくださいと言っているようなものだよ?」
グリードは真正面にいる森司祭に向けて手をかざす。直後、森司祭は前のめりにドサッと倒れた。
「!?」
急な状況に理由も分からず反応したのは弓兵。引き絞った弦を離し、弓矢をグリードに向けて発射。魔力を纏いながら中空を駆ける弓矢。しかし当たり前のように途中でパチンと弾けて原型が失くなった。
「チィッ!」
次の矢を番えるが、放たれることはなかった。
ゴンッ
弓兵も森司祭と同様に前のめりに倒れ、先ほどまで枕に使っていた木の根に額から突っ込んだ。
「なんだ弱すぎるなぁ……食いがいのない雑魚どもだ。3点」
戦士は目を剥いて驚きながらも倒れた2人の前に躍り出る。
「スキルも魔力も無さそうな戦士なんて腐った果実にも劣るが……ま、無いよりはマシか」
「リーダー逃げろ!!ここは俺が食い止める!!」
「ダメだ!!そいつは……!!」
「うおおおぉぉっ!!!」
戦士はグルガンを無視して戦斧で斬りかかる。グリードに向けた戦斧の刃先が頂点に達した時、戦士の手からスポッと戦斧が離れた。戦士はその屈強な体を使用することが出来ずにグリードの手前で人形のように崩れ落ちた。
「1点だな。……無謀で無策で無力。この3人を表現するとしたらこうだな。君だけは僕の強さを頭から理解していたみたいだけどね」
グリードはヘラヘラしながら戦士の背中を踏みつけ、トコトコと焚き火まで歩いてきた。
「君を言葉で表すとしたら……無意味かな?」
グリードはグルガンに手をかざす。だが何も起こらなかったことにグリードは訝しい顔を向けた。
「何?どうして……」
「……当然無理に決まっている。それは貴様の力を大きく超えた問題だからだ」
グルガンはこれ以上隠すことが無駄だと本当の姿を現した。ゆらりと燻る陽炎の下から獅子の顔が覗く。その顔に見覚えがあったグリードは犬歯をのぞかせるように口角を限界まで上にあげた。
「これはこれは……君は裏切り者だったわけだ」
「裏切ってなどいない。人間の情報を手に入れるために我が進んでやっているだけのこと」
「なるほどなるほど。公爵の地位であられる御仁がなかなか良い趣味をしておられる。現当主のフィニアス閣下はこれをご存知なのかな?」
もちろん知るわけがない。人間の情報を流したのは確かだが、冒険者が危険な存在であると喧伝して手出しを避けるように皇魔貴族を制御していた。グリードの言う通りただの趣味であり、皇魔貴族の知るところとなれば裏切り者の誹りは免れない。証拠があろうがなかろうが、人間の格好で人間の街を出入りしていたと噂されるだけで針のむしろだ。特にフィニアスを信仰するベルギルツに知られれば面倒この上ない。
「……ここで黙ると言うことは自分のしていることが不味いことぐらいは理解しているようだな。さてどうすべきか?図らずも弱みを握ってしまったようだ。ククク……なかなか面白い展開じゃないか。85点」
「チッ……なんとでも言え。どれだけイキろうともレッド=カーマインを倒さないことには何も始まらない。自由に生きたいなら寄り道などせずに仕事をしろ」
「おっとっと。そうだったそうだった。それじゃ君が教えてくれないかな?レッド=カーマインの居場所をさ。ほら、人間のツテを使ってさぁ」
ニヤニヤと笑いながら煽るように手を広げた。転がる仲間たちの骸を指し示すように。グルガンは冷たくなった仲間たちをチラリと見る。傷ひとつない綺麗な亡骸。グリードの最強の能力がこれを可能にしている。
グリードのスキル『理不陣(インペリアル・フィールド)』。それは相手の能力を奪うというもの。体力、腕力、敏捷、防御、魔力、そしてスキル。様々な生物が多種多様な形で持ち合わせている能力のすべてをグリードは自分のものにすることが出来る。奪える力に制限がなく、かつ際限なく奪い取る。この力で多くの生物を死に至らしめ、同胞をも手に掛けた。その結果が同胞による隙を狙われた全力の封印である。
そんなグリードから逃げるためにやったグルガンの今までのすべてが完全に裏目。人間で真っ先に犠牲になったのが共に戦ってきた最高の仲間たちとは最悪の悲劇だ。丁重に埋葬したい気持ちを抑え、奥歯を噛み締めながらも何とか返答した。
「……よかろう。レッド=カーマインを亡き者とするのは我らの最優先事項。断る理由はない」
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