魔王復活！

第一話 復活

地球、日本の某所―。

広い大通りに面したファミリーレストラン。
その名も”ボスト”。

晩御飯を済ませた家族が出入り口から出て行く。広い店内には客が一組だけとなり閑散としていた。その一組もそろそろ食べ終わるかと思う頃、一人の客が来店した。

「いらっしゃいませーー。お好きな席にどうぞ―ー」

先ほど出て行った家族の食器を片しながら、流れるようにウェイトレスが言葉を発する。

リュックを右肩に下げた男性。見た目は学生風で若い。175ｃｍくらいの背で、やせ気味の体系。寝ぐせの様な髪をざんばらに遊ばせ、動きやすい灰色のパーカーとジーパンでファッションセンスなど皆無。
唯一、靴はちょっと高めのもので有名ブランドのスニーカーだ。歩きやすさを考え実装したような機能美にあふれるデザインである。

顔はどこにでもいそうな一般男性の顔立ちだが、三白眼の下は黒々としたクマで塗られ、不健康そうに見える。

この店の常連である彼は、店の隅の席、いわゆる定位置に腰かけると、メニューを開く。
そして、ここに来ればいつも食べているハンバーグプレートＡセットに目が行く。

ウェイトレスにそれを注文し、メニュー立てに戻す。

「いつもの」で済むレベルの話で、毎回メニュー表を開くのは何となくである。

店内を見渡すと、食事を終えた一組が会計を済ませ出て行くのが見える。この店は貸し切り状態だ。
彼はこの時間を得る為に決まった時間に訪れる。それが丁度、今時分と言う事だ。

ポツンと一人になった店内で机に向かって物思いにふける。

彼の名前は春田 聖也（はるた せいや）。
東高校に通う高校二年生。

魔王ヴァルタゼア、転生後の姿である。

彼は一般家庭に生まれ、幼少期から”変な子”のレッテルを張られて生きてきたかわいそうな少年である。

魂と記憶は不滅であった為に、復活の時に死ぬほど驚いた。全く知らない世界に放り出されたのだ。

最初こそ訳も分からず泣き喚いていたが、赤ちゃんだった為、怪しまれることもなく、よく両親にあやされた。一年、二年と経つ毎に冷静に現状を分析する事にした。

しかし気性までは変えられず、規則も法則も不明なこの世界で、「俺は魔王だ！」と言い続けた結果、頭の病気を疑われ、家族からも腫れ物に触るような態度になり、今に至る。

自業自得であるがゆえ、実に哀れだ。

幼少期こそ、「いずれ力が戻る」「部下が助けに来る」と信じてやまず、その日を待ちわびたが、現在は目立たない様、出身地から離れたここに単身で移住し、親の仕送りで勉学に勤しんでいた。

（あぁ～……魔力使いてぇ……）

こう思うのも何度目か…

時々、元魔王だったことを思い出してはこうして理不尽に思う気持ちを食事で発散していた。

「お待たせいたしました！ハンバーグＡプレートでーす！」

ハッとして声の方に目を向けると、いつのまにやら横にウェイトレスが立っていた。

「あ……どうも」

目の前に食事を置かれ、「ごゆっくりどーぞーー」という掛け声の後、キッチンに戻っていった。

湯気の立つ温かいハンバーグを見ると、ほろりと涙が落ちそうになる。みじめな自分に差し出された唯一の楽しみ。

目頭が熱くなるのを袖で拭って、フォークとナイフに手を伸ばす。

「この世界に来てこれだけは良かったと言えるぜ……」

肉厚のハンバーグを切って、肉汁が垂れるのを観察する。実に子供っぽいが、一番好きな料理は言わずもがなハンバーグだ。
大好物の食べ物をまじまじと見た後、

「いただきまーす」

と、嬉しそうに口に持っていく。肉を頬張る直前。その声は耳に届いた。

「魔王様？」