魔王復活!

大好き丸

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第二話 疑問

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それを聞いた時の春田 聖也の反応は、驚くほど顕著だった。

「魔王様?」この17年間、一度たりとも呼ばれた事の無い、正に奇跡の一言。

開いた口がふさがらず、石のように停止した。

目の前に立つのは自分より1つか2つくらい上のお姉さんといった風貌だ。かわいらしい顔立ちで童顔だが、160cm前後の成長しきった体までは誤魔化せない。

肩口で切りそろえた髪に、黄色いスマイルフェイスを口許だけ変えたような缶バッチが付いたキャップを被り、「PS」のロゴの入ったスタジャンを着ている。

よく見れば、キャップとおそろいのメーカーみたいだ。「PS」なんて聞いたことないが、どこかにあるのだろう。下には無地の白シャツを着用し、スリムデニムで下半身のラインがハッキリわかるパンツとこれまた「PS」のついたスニーカーを履いている。

一拍置いて、何とか動けるようになった春田はフォークに指したハンバーグを一旦おいて、聞き返す。聞き間違いの可能性もあるからだ。

「……俺のことを知っているのか?」

単刀直入に聞いてしまった。
万が一、なりふり構わず喚き散らしていた頃を知っていて、からかう為に来ていれば、せっかく出身地を離れたのに、意味がなくなる。

人生において初めての経験だったせいだろう。焦っている証拠だ。小技が出せないまま大ぶりに振りかぶった攻撃を仕掛けるなんて、カウンターを入れて下さいと言っているようなもの。

だが、その女性の変化も劇的だった。

「やっぱりそうですね!!探したんですよ!魔王様ぁ!!」

その声は店内に響き、事情を知らない店員はおろか、事情を知る春田ですらビビった。

「ちょっ……落ち着けって!なんなんだよ……」

周りを見渡し誰もいない事を確認するも、すぐ傍にはウェイトレスが立っていた。「申し訳ございませんが…」と、春田に対して注意を促される。

(俺じゃねぇだろ!!)と思いながらも、長年の陰の生活からすぐさま平謝りをして、注意を受け止める。

ウェイトレスが離れた事を確認すると、お姉さんを向かいに座らせて、状況の確認に入った。

「よし……それじゃ、あんたは誰だ?」

「やだなぁ、忘れちゃったんですか?ポイズンスライムですよ!昔はポイ子って可愛がっていただきましたねぇ~」

その答えを聞いて目を疑う。

自分の覚えているポイズンスライムとは不定形で特定の形を持っていなかった。

「いや、ポイ子とは似ても似つかない」

「? そりゃそうですよ。擬態してますもん」

(じゃわかんねぇだろ……)と思いながらもやっぱり信じられない。

「証拠は?」

ポイ子は両手を上げて、春田の目の前に見せる。右手はそのままに、左手が不定形に変化する。

「ほら!」

「うおっ!本当だ……」

その様子に驚く。この世界ではあり得ない事が目の前で起こっている。手が突然溶け出す様など知らない人が見れば発狂モノだ。

「何です?疑り深いですねぇ。何かありました?」

春田は二人がけのソファにもたれかかり、リラックスした後、ため息をつく。

「しょうがないだろ?この世界では誰も知り合いがいないし、全く力がない。魔王って触れ回れば、頭がおかしいと言われ、自分を隠して生きる以外道はなかったからな……」

過去を思い出し、つらさに悲しくなる。
17年。力を行使できず、たった一人で孤独にストレスを溜め続けた期間である。だが、それも今日で終わったと喜びと安心が湧き上がる。

目の前のポイ子は魔王であった頃を知る唯一の存在。思わぬ形で夢が達成した。

それを聞いたポイ子は憐れんだ目で春田を見ていた。

「おい、やめろ。その目は幼少期の俺の心を深く傷つけた最悪の目だ。弱冠トラウマだから、憐れむな」

「うぅ……魔王さま……おいたわしや……」

ポイ子の目からポロポロ涙がこぼれる。

「だからやめろって。泣かれるのはもっとヤバイ。産みの親に泣かれたことあるから、やめてくれ……」

ふと(ん?こいつなんで泣けるんだ?)と思ったが、春田はその疑問を胸に仕舞い込んだ。
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