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第三話 会話
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「ありがとうございます!魔王さま!」
ポイ子との再会を喜んだ後、二人分のドリンクバーを頼み、乾杯することにした。
「いいって。こんくらいしか出来んけど」
ハンバーグプレートに一切口を付けられないままポイ子をじろじろ見てしまう。見た目は本当にただの人間である。器用にストローを使っているのを見ると、どうやって吸引しているのかと気になってしまった。
「ぷはっ!どうしました?じろじろ見て」
(おっと)と思って視線を切ってしまう。奇妙なものだ。この時を待っていたはずなのにこの世界に慣れてしまっているせいか、ものすごく不思議な生物を目にしている気分になっていた。
正直失礼だったと自戒して、向き直る。
「いや、この世界にはどうやって来たのかと思ってな」
「ああ、その事ですか?大魔導士マレフィア様に転移していただいたのですよ」
その名前には聞き覚えがあった。
およそ17年間、人として過ごしてきても忘れない事もあるものだと自分の記憶力を称賛しながらポイ子に尋ねる。
「馬鹿な……マレフィアは受難峠で死んだはず……」
「あれ?言ってませんでしたっけ?マレフィア様は当時、忌引き出されてましたよ。師である父がお亡くなりとかで」
それを聞いて当時の情景が蘇ってくる。マレフィアに受難峠の防衛網の進捗を聞いて、完璧である事を鵜呑みにしたのが二日前、それっきりだった。
「聞いてないな……あいつ適当な事しやがって……」
「急だったみたいですし、防衛網に関しては完璧と銘打っていたので、高を括ったのかと思われます」
「目算が甘いんだよ!」
声を荒げてしまった。ハッとして、キョロキョロ見渡す。大丈夫だったと胸をなでおろし、また話を再開する。
「……他の四天王は?」
「ええ、みんな生きています」
結局死んだのは一部の部下と自分だけらしい。複雑な気持ちになりながら、自分を卑下する。
「チッ……どうせ俺が死んだ後は、次代の魔王がとっととすげ替わったんだろうな」
「それがそういうわけにはいかなかったんですよ」
ポイ子はジュースを一口すする。
「は?なんでだ?まとめ役がいなきゃ崩壊するだけだろ?」
ポイ子はストローを口から外し、指で弄びながら物語を話す様に語り始める。
「魔王様がお亡くなりになった後、もちろん次期魔王候補が名乗りを上げて、勇者そっちのけで争い始めました。争いは激化して、収拾がつない程の喧嘩になったのです」
「なにやってんだよ……」
静かにツッコミつつポイ子に続きを促す。
「その内、何故自分たちが争っているか分からなくなってきた実力者たち」
「なんでだ!?次代の魔王を決めろよ!」
ポイ子の語り草にツッコミせずにいられない。
「疑問の矛先は人類の怒りとなり……」
「うん」
「勇者打倒を誓い……」
「うんうん」
「そもそも死んだ魔王様が悪いよねって事で……」
「うん?」
ポイ子はスッと椅子から立ち上がって
「候補たちが手を取り合って”魔族の会”という同盟を結びました、とさ。めでたしめでたし」
「終わるな、始まれ」
聞く限りでは、四天王たちはこぞって候補に名乗り出たはず。ここにいるポイ子も四天王の一体だが、強くはない。魔王に志願した所で激化した戦いについていけるはずはない。ポイ子は魔王ヴァルタゼアの庇護の下、上に立つ事を許された下位の魔族。とくれば、誰かの下に就いている事だろう。
「じゃ、今お前は誰の下に就いてる?」
「私?」
ポイ子は問われた質問に間髪入れずに答える。
「私は魔王様の下僕ですよ!」
嬉しそうに応える曇りなき屈託の笑顔は春田の心を揺さぶる。後光すら指すその笑顔は、春田の目には眩しすぎた。手で顔を覆って、その光を遮る。
「魔王様?」
その行動を不思議に見つめるポイ子。
自分の言動にそれほど感動する事がある事も知らずジュースを飲みつつ眺めるしかなかった。
ポイ子との再会を喜んだ後、二人分のドリンクバーを頼み、乾杯することにした。
「いいって。こんくらいしか出来んけど」
ハンバーグプレートに一切口を付けられないままポイ子をじろじろ見てしまう。見た目は本当にただの人間である。器用にストローを使っているのを見ると、どうやって吸引しているのかと気になってしまった。
「ぷはっ!どうしました?じろじろ見て」
(おっと)と思って視線を切ってしまう。奇妙なものだ。この時を待っていたはずなのにこの世界に慣れてしまっているせいか、ものすごく不思議な生物を目にしている気分になっていた。
正直失礼だったと自戒して、向き直る。
「いや、この世界にはどうやって来たのかと思ってな」
「ああ、その事ですか?大魔導士マレフィア様に転移していただいたのですよ」
その名前には聞き覚えがあった。
およそ17年間、人として過ごしてきても忘れない事もあるものだと自分の記憶力を称賛しながらポイ子に尋ねる。
「馬鹿な……マレフィアは受難峠で死んだはず……」
「あれ?言ってませんでしたっけ?マレフィア様は当時、忌引き出されてましたよ。師である父がお亡くなりとかで」
それを聞いて当時の情景が蘇ってくる。マレフィアに受難峠の防衛網の進捗を聞いて、完璧である事を鵜呑みにしたのが二日前、それっきりだった。
「聞いてないな……あいつ適当な事しやがって……」
「急だったみたいですし、防衛網に関しては完璧と銘打っていたので、高を括ったのかと思われます」
「目算が甘いんだよ!」
声を荒げてしまった。ハッとして、キョロキョロ見渡す。大丈夫だったと胸をなでおろし、また話を再開する。
「……他の四天王は?」
「ええ、みんな生きています」
結局死んだのは一部の部下と自分だけらしい。複雑な気持ちになりながら、自分を卑下する。
「チッ……どうせ俺が死んだ後は、次代の魔王がとっととすげ替わったんだろうな」
「それがそういうわけにはいかなかったんですよ」
ポイ子はジュースを一口すする。
「は?なんでだ?まとめ役がいなきゃ崩壊するだけだろ?」
ポイ子はストローを口から外し、指で弄びながら物語を話す様に語り始める。
「魔王様がお亡くなりになった後、もちろん次期魔王候補が名乗りを上げて、勇者そっちのけで争い始めました。争いは激化して、収拾がつない程の喧嘩になったのです」
「なにやってんだよ……」
静かにツッコミつつポイ子に続きを促す。
「その内、何故自分たちが争っているか分からなくなってきた実力者たち」
「なんでだ!?次代の魔王を決めろよ!」
ポイ子の語り草にツッコミせずにいられない。
「疑問の矛先は人類の怒りとなり……」
「うん」
「勇者打倒を誓い……」
「うんうん」
「そもそも死んだ魔王様が悪いよねって事で……」
「うん?」
ポイ子はスッと椅子から立ち上がって
「候補たちが手を取り合って”魔族の会”という同盟を結びました、とさ。めでたしめでたし」
「終わるな、始まれ」
聞く限りでは、四天王たちはこぞって候補に名乗り出たはず。ここにいるポイ子も四天王の一体だが、強くはない。魔王に志願した所で激化した戦いについていけるはずはない。ポイ子は魔王ヴァルタゼアの庇護の下、上に立つ事を許された下位の魔族。とくれば、誰かの下に就いている事だろう。
「じゃ、今お前は誰の下に就いてる?」
「私?」
ポイ子は問われた質問に間髪入れずに答える。
「私は魔王様の下僕ですよ!」
嬉しそうに応える曇りなき屈託の笑顔は春田の心を揺さぶる。後光すら指すその笑顔は、春田の目には眩しすぎた。手で顔を覆って、その光を遮る。
「魔王様?」
その行動を不思議に見つめるポイ子。
自分の言動にそれほど感動する事がある事も知らずジュースを飲みつつ眺めるしかなかった。
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