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第十話 異世界
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異世界「神の箱庭」
魔王が討伐されて幾星霜、魔族は光の世界から逃げ延び裏の世界と呼ばれる「逢魔」に姿を隠した。
ここでは時が制止し、歳をとることがない代わりに一切の欲望を満たす事が出来ない。強くなる事もできないので、もし欲を満たしたいなら正史の世界に戻る必要があるのだが、侵入した所で、強さが変わることの無い魔族達は、鍛え上げた人間に蹂躙されるのみだ。
その上、唯一魔族が正史世界に侵入する方法は、黄昏時に特定の場所から出てくる他ない。
人はその時を逢魔時と名付け忌み嫌い、魔族出現に備え、力を蓄え続ける。最近では出現場所も把握されつつあり、待ち伏せされて殺される事例は年々増える一方だった。
魔族は殺風景だった逢魔に城や居住区を取り込み、欲望が満ちぬこの世界で悶々と暮らしている。
そんな時、ある城でドカドカと歩く音が鳴り響く。
故魔王ヴァルタゼアの元配下であり四天王が一人オーガの娘、鬼神 ヤシャである。
身長は190cm前後、額から頭一個分伸びた牛の様な角が二本、歪曲して生えている。腰に届く長い髪は艶のある黒髪。目は猫のように吊り上がり、筋骨隆々で赤みがかった肌が、見ただけで強さを感じさせる。顔はシュッとして綺麗な顔立ちだが、下あごから牙が二本覗いている。
戦闘時は鎧を着こみ、素の防御力を底上げする彼女だが、普段はビキニアーマーの様な肌を多く露出させている。
掃除が行き届いていないこの城は小石が転がっているが、そんな事お構いなしに裸足で歩き回る。
目的の場所に到着すると、ノックすら惜しんで扉を開ける。荒々しく開けたので、扉が壊れそうな程だった。
「壊さないでくれよ。ヤシャっち」
そこにいたのはヤシャと正反対な見た目の女性だ。つばの広い尖がり帽子に、厚手のクローク。黒のタイツでほとんどの露出を無くし、その上に黒っぽいワンピースを着た、いかにもな魔女。
肌の露出は顔と指先だけ。肌は青白く病的だ。
目はトロンとした垂れ目で、前髪のせいでほとんど見えないが愛くるしい顔立ちだ。
髪は銀髪で、足首にかかりそうなほど長い。身長は150cm前後で低く、小柄な為、背後から見たら蓑笠のように体を覆い隠してしまう。
こちらも元配下、四天王が一人。
幽鬼の魔女、大魔導士 マレフィアだ。
そんなマレフィアの注意に耳を貸さず腕を組んで、近くの椅子にドカッと座る。
「聞いたぞマレフィア。奴を見つけたとな」
その言葉にニヤニヤしながら振り返る。
「はて……誰の事かな?」
「とぼけるな!ヴァルタゼアの事だ!」
苛立ちから大声を張り上げる。(今も昔も変わらず短気な奴……)と思いながら、ヤシャの向かいの椅子に座る。
「そうだよ。ポイ子ンが7つの世界を旅してようやく見つけたんだ……」
マレフィアが手を振ると、ふわふわとお茶が出てくる。机の上に置かれたお茶を持つ、飲んでも意味がないがヤシャはそれを一口すする。のどの渇きは癒えないが一応のプラシーボ効果という奴で気分だけでも、一息つくと、そわそわした様子で質問を投げかける。
「それで、奴はいつ帰るんだ?」
「ヴァルちゃんは帰ってこないよ」
それを聞いてガキャッという音と共に湯飲みを握りつぶす。
「なっ!?何故だ!!お前の力ならどうにでもなるはずだろ!現に何度も、ポイ子の奴を転移させ続けているじゃないか!」
壊れた湯飲みを魔法で再生させると、元の棚に戻す。
「壊さないでってば、治すのが面倒なんだかんね……それにうちの能力どうこうじゃないんだよ。要はヴァルちゃんの気持ちの問題さ……」
「……奴が帰りたくないと?」
言葉の先を察して言葉を紡ぐ。それに頷きで答えるマレフィア。
「さぞ悔しい思いをしただろうな…慰めてやるとしよう。ポイ子は今どこにいるんだ?」
マレフィアはとぼけた顔でヤシャを見た後、
「今はヴァルちゃんの所に行ってるよ?あの子も言い出したら止まらない子だからね」
「は?じゃ……じゃあポイ子は今、異世界にいるのか?奴と一緒に?」
マレフィアがお茶をすすると一息ついて
「まぁ……止める理由もないし、承諾したけどね」
「いや……仮にも四天王で領地まで持っているんだぞ?一応、魔族の会のまとめ役もやってるし……あいつがいないと駄目じゃないか?」
ポイ子は戦闘能力に難があるものの、内政はピカイチであり領主としての信頼も厚い。ヤシャの言いたいことも分かるが……。
「この次元で領地なんてまるで意味ないでしょ。ほっといたってどうにもならないさ」
ヤシャは矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「そ……それに精神安定としての効果もあっただろ?ほら、あいついっつもとぼけたこと言って面白いし、冷たくて気持ちいいし……」
「ここじゃ気持ちいいなんて感じないでしょ。いっつもポイ子の言葉にイラっとして物理無効を良い事にストレスのはけ口に使ってたくせに……」
ガタンッと椅子から荒々しく立ち上がるヤシャ。赤い顔をさらに赤くして抗議しようとする。
「お……お前なぁ!!」
「だってヤシャっち建前ばっかりだもん。何が言いたいのかさっぱりだよ?」
口をとがらせて可愛さアピールするマレフィア。
「………」
それに対して何も言えないヤシャ。
「言ってみなよ。うちは大魔導士マレフィア様だよ?できる事はおおよそなんだって出来るんだ」
魔王が討伐されて幾星霜、魔族は光の世界から逃げ延び裏の世界と呼ばれる「逢魔」に姿を隠した。
ここでは時が制止し、歳をとることがない代わりに一切の欲望を満たす事が出来ない。強くなる事もできないので、もし欲を満たしたいなら正史の世界に戻る必要があるのだが、侵入した所で、強さが変わることの無い魔族達は、鍛え上げた人間に蹂躙されるのみだ。
その上、唯一魔族が正史世界に侵入する方法は、黄昏時に特定の場所から出てくる他ない。
人はその時を逢魔時と名付け忌み嫌い、魔族出現に備え、力を蓄え続ける。最近では出現場所も把握されつつあり、待ち伏せされて殺される事例は年々増える一方だった。
魔族は殺風景だった逢魔に城や居住区を取り込み、欲望が満ちぬこの世界で悶々と暮らしている。
そんな時、ある城でドカドカと歩く音が鳴り響く。
故魔王ヴァルタゼアの元配下であり四天王が一人オーガの娘、鬼神 ヤシャである。
身長は190cm前後、額から頭一個分伸びた牛の様な角が二本、歪曲して生えている。腰に届く長い髪は艶のある黒髪。目は猫のように吊り上がり、筋骨隆々で赤みがかった肌が、見ただけで強さを感じさせる。顔はシュッとして綺麗な顔立ちだが、下あごから牙が二本覗いている。
戦闘時は鎧を着こみ、素の防御力を底上げする彼女だが、普段はビキニアーマーの様な肌を多く露出させている。
掃除が行き届いていないこの城は小石が転がっているが、そんな事お構いなしに裸足で歩き回る。
目的の場所に到着すると、ノックすら惜しんで扉を開ける。荒々しく開けたので、扉が壊れそうな程だった。
「壊さないでくれよ。ヤシャっち」
そこにいたのはヤシャと正反対な見た目の女性だ。つばの広い尖がり帽子に、厚手のクローク。黒のタイツでほとんどの露出を無くし、その上に黒っぽいワンピースを着た、いかにもな魔女。
肌の露出は顔と指先だけ。肌は青白く病的だ。
目はトロンとした垂れ目で、前髪のせいでほとんど見えないが愛くるしい顔立ちだ。
髪は銀髪で、足首にかかりそうなほど長い。身長は150cm前後で低く、小柄な為、背後から見たら蓑笠のように体を覆い隠してしまう。
こちらも元配下、四天王が一人。
幽鬼の魔女、大魔導士 マレフィアだ。
そんなマレフィアの注意に耳を貸さず腕を組んで、近くの椅子にドカッと座る。
「聞いたぞマレフィア。奴を見つけたとな」
その言葉にニヤニヤしながら振り返る。
「はて……誰の事かな?」
「とぼけるな!ヴァルタゼアの事だ!」
苛立ちから大声を張り上げる。(今も昔も変わらず短気な奴……)と思いながら、ヤシャの向かいの椅子に座る。
「そうだよ。ポイ子ンが7つの世界を旅してようやく見つけたんだ……」
マレフィアが手を振ると、ふわふわとお茶が出てくる。机の上に置かれたお茶を持つ、飲んでも意味がないがヤシャはそれを一口すする。のどの渇きは癒えないが一応のプラシーボ効果という奴で気分だけでも、一息つくと、そわそわした様子で質問を投げかける。
「それで、奴はいつ帰るんだ?」
「ヴァルちゃんは帰ってこないよ」
それを聞いてガキャッという音と共に湯飲みを握りつぶす。
「なっ!?何故だ!!お前の力ならどうにでもなるはずだろ!現に何度も、ポイ子の奴を転移させ続けているじゃないか!」
壊れた湯飲みを魔法で再生させると、元の棚に戻す。
「壊さないでってば、治すのが面倒なんだかんね……それにうちの能力どうこうじゃないんだよ。要はヴァルちゃんの気持ちの問題さ……」
「……奴が帰りたくないと?」
言葉の先を察して言葉を紡ぐ。それに頷きで答えるマレフィア。
「さぞ悔しい思いをしただろうな…慰めてやるとしよう。ポイ子は今どこにいるんだ?」
マレフィアはとぼけた顔でヤシャを見た後、
「今はヴァルちゃんの所に行ってるよ?あの子も言い出したら止まらない子だからね」
「は?じゃ……じゃあポイ子は今、異世界にいるのか?奴と一緒に?」
マレフィアがお茶をすすると一息ついて
「まぁ……止める理由もないし、承諾したけどね」
「いや……仮にも四天王で領地まで持っているんだぞ?一応、魔族の会のまとめ役もやってるし……あいつがいないと駄目じゃないか?」
ポイ子は戦闘能力に難があるものの、内政はピカイチであり領主としての信頼も厚い。ヤシャの言いたいことも分かるが……。
「この次元で領地なんてまるで意味ないでしょ。ほっといたってどうにもならないさ」
ヤシャは矢継ぎ早に質問を繰り返す。
「そ……それに精神安定としての効果もあっただろ?ほら、あいついっつもとぼけたこと言って面白いし、冷たくて気持ちいいし……」
「ここじゃ気持ちいいなんて感じないでしょ。いっつもポイ子の言葉にイラっとして物理無効を良い事にストレスのはけ口に使ってたくせに……」
ガタンッと椅子から荒々しく立ち上がるヤシャ。赤い顔をさらに赤くして抗議しようとする。
「お……お前なぁ!!」
「だってヤシャっち建前ばっかりだもん。何が言いたいのかさっぱりだよ?」
口をとがらせて可愛さアピールするマレフィア。
「………」
それに対して何も言えないヤシャ。
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