魔王復活!

大好き丸

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第十一話 日陰者

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日本、某所――。

東高校と呼ばれるこの学校は部活が強いというわけでもなく一応、進学校という体ではあるが、市内で有名な西高校と比べると一段落ちる。

何とも中途半端な学校である。

その学園の二階に春田のクラスはあり、退屈な授業を受けていた。

というのも二時限目の授業は優しくて怒ることの無いという理由で生徒からも嘗められている現国で、さぼるのにはうってつけの授業だ。

先生の放つヒーリングボイスは聞くものを眠りにいざなう。おっとりした先生で注意こそすれ、キレる事がない。その為、既に寝ている連中もチラホラいる。

そんな中にあって真面目に授業を受けるのは、それこそ稀有と言える。春田もその一人だ。

特別、この先生の授業だからだというわけではなく、全授業において、決して優秀ではないが必ず一定の成績を収めている。

理由はごく単純で、目立ちたくないのだ。クラスでは陰に徹している。常に普通である事は悲惨な幼少期を過ごした、春田の精神安定の為でもある。

チャイムが鳴る五分前には起きている生徒の方が少なくなっていた。しかし、これはいわゆるいつもの事であり、特段珍しい事ではない。

「ほら、みんなぁ~。もうちょっとだからがんばって~」

ふわふわした声で何となく声を出すが、生徒に届くことなく、空しく消え去る。

「もう……じゃあ、最後にこの一文だけ読んでもらおうかしら。春田くん、お願いできる?」

これは現国の授業のパターンと化していた。授業終わりに何となく締めで読ませる。その際、起きている奴にとりあえず読ませるだけの一応、形として授業しましたという、先生の個人的な自己満足の一環である。

(ちっ……またか……。先生も面倒臭がらずに起こせよな……)と心では毒づくが、「はい」と言って即座に立つ。

こうして何事もなく現国の授業は過ぎていく。春田の犠牲と共に……。

チャイムが鳴り、先生が片付けて帰っていく。

クラスメイトもさっきまでの気だるさが消えて元気に教室を出て行く。廊下で駄弁ったり、別のクラスの仲間のとこに行ったり、トイレ行ったり。次の科学の授業の為に理科室に移動したりと大忙しだ。

春田も遅れないように教科書を用意する。もう皆が出て行って静かになったかと思う頃、声をかけられた。

「春田くん」

朝、校門で挨拶した女子生徒だ。

身長160cm前後、黒髪をポニーテールで結い黒縁の眼鏡をかけたいかにも真面目を絵に描いた女性。

失礼な話、そこまで発育が良いようには見えない。身長はそこそこあるので、スレンダーという言葉が似合う。そして、さらに失礼なのは、名前を憶えていない。確かこのクラスの委員長だったと、今しがた思い出した。

「あぁ……なに?委員長」

「委員長って……まぁいいや、現国の時間に毎回当てられて嫌じゃないのかなって思って。先生に抗議しに行かない?」

委員長は春田と同じく、真面目に授業を受ける稀有な存在の一人だ。無論、今回は春田だったが、前々回くらいは委員長が当てられていた。

「いや、俺は別に……」

今後も毎回、現国の時間は先生に当てられることを思えば、抗議した方が良いに決まっている。しかし、事なかれを貫く春田には正直どうでもいい。行くなら勝手にどうぞだ。

何を隠そうこの子、抗議を授業中にしたので休み時間まで波及したことがあったのだ。見た目にそぐわず中々過激である。

先生に授業中抗議しなかったのは、この子の事があった為である。(俺を巻き込むんじゃねぇ!)と思いつつ、踏み込めない。

「じゃあこのままでいいの?」

「そうは言わねぇけどさ……」

「なら行こうよ」

(まいったな…変なのに絡まれた……)

それもこれもあの目の端に映った「PS」のせいである。無駄に挨拶したせいで、隙を生んだのだ。まぁこの様子なら、あと二、三回、授業で同じことがあった際、関わりがあろうがなかろうが来たかもしれないが……。

どうするか悩んでいた時、窓の外に見える中庭の木が揺れた。(ん?)と思って、目を凝らすとそこには見知った顔がクラスを覗いていた。

「あっ!」と、思わず声が出る。

「え?なによ?」

と後ろを振り向くが、それを即座に回り込んでブロックする。窓の外が見えない様に貧弱な体で遮りつつ、さらに両肩を挟み込んだ。

「え!ちょ……ちょっと……」

「ああっとなんだっけ?先生に抗議?だったか?早く行こうぜ!次の授業が始まっちまうよ!」

焦って早口になる春田。後ろが気になるが、とにかくここから出る事を優先する。

「え?そ……そうね。じゃあ行きましょうか……」

委員長は顔を赤くしながらそっぽを向く。

突然の事にどうすれば言いか分からず、職員室を目指す春田についていくのだった。
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