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第十三話 中庭
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「ふぅ……危なかったぜ……」
三限目の科学の授業。
実のところ少し間に合わなかったが、日頃の行いと委員長の口添えで遅刻を免れた。
それに関しては素直に感謝したいが、クラスで行事ごとに駆り出される中心人物に観測されてしまったのは、正直面倒という他ない。
ここまで日陰者として注目されずにやって来たのに、ここで唐突に注目を浴びるのは絶対に嫌だった。今後は身の振り方を考えようと決意する。
(とりあえず中庭に行って、ポイ子にガツンと言わなきゃ……)
春田は教室に教科書を置いて、中庭に出る。休憩が始まったばかりと言う事もあって、チラホラ中庭に出ている人を見かける。
(しまった……これじゃ声かけられないな……)
ポイ子がいるであろう木の下に行き、上をチラリと見上げる。先程と同じように、当然見当たらない。時間もないし、どうするかとウロウロしていると、
「もし……どうかされましたか?」
と声をかけられた。ここで春田に敬語で話しかけるのは一人しかいない。まさかあの姿で声をかけてきたのかとビビッて勢いよく振り向くと、知らない顔がそこにはあった。
「……なっ!?」
立っていたのは170cmの長身の女性。前髪が顔を右半分隠し、後ろ髪は腰まで届くほどの長髪。胸が制服を押し退けんばかりに盛り上がる。見た感じグラビアアイドルのように性的な見た目だ。顔は元の顔と比べれば、可愛さよりむしろ綺麗な顔立ちで、シュッとした鼻筋をしている。
ポイ子は自身の姿を変えることが出来る。この学園を観察して、服装を真似たのだろう。顔まで変えるとは凝ったことをする。
「?」
「いや、何でもない……。ちゃんと擬態できてるようで安心したよ。あ、そういえば家の鍵はかけたのか?」
「ぎた……え?」
畳み掛けるように質問する春田にどもる。
「だから、鍵はかけたのか?」
「え?……ええ」
春田はとりあえず安心して、腕時計を確認する。
「ならいいんだ。それだけが心配でな……っと、そろそろだな。すまないがまだ三限目だから、帰れないんだ。放課後……っても分からないか。みんなが帰る頃に校門……入り口で待ってろ」
女子生徒は首をかしげる。
「……はい?」
「俺が帰れるまで待ってろって事。じゃあまた後でな」
四限目が始まる前に走って教室に戻る。走り去った後の風景をしばらく眺めていた。何を言われたのか反芻しながら、解を求めていると、
「滝澤さん!」
滝澤と呼ばれた女子生徒は声の方にハッとして振り向く。そこには彼女の見知った顔があった。
「ここにいらしたんですか?もう次の授業始まりますよ?」
「……ええ、ありがとうございます」
そう、彼女はポイ子ではない。学校でも名の知れた有名人であり、誰もが憧れる、才色兼備のお嬢様である。
間抜けな話だが、春田は人との関わりを極力絶っているために、そんな事など全く知らず、ポイ子と思って、軽口を叩いてしまったのだ。
そして、図らずも彼女の琴線に触れた。
「擬態……また後で……ふふっ……なんの事だか……」
自分の教室に戻る最中、チラリと春田が走り去った方向を見る。
「……強引な殿方」
三限目の科学の授業。
実のところ少し間に合わなかったが、日頃の行いと委員長の口添えで遅刻を免れた。
それに関しては素直に感謝したいが、クラスで行事ごとに駆り出される中心人物に観測されてしまったのは、正直面倒という他ない。
ここまで日陰者として注目されずにやって来たのに、ここで唐突に注目を浴びるのは絶対に嫌だった。今後は身の振り方を考えようと決意する。
(とりあえず中庭に行って、ポイ子にガツンと言わなきゃ……)
春田は教室に教科書を置いて、中庭に出る。休憩が始まったばかりと言う事もあって、チラホラ中庭に出ている人を見かける。
(しまった……これじゃ声かけられないな……)
ポイ子がいるであろう木の下に行き、上をチラリと見上げる。先程と同じように、当然見当たらない。時間もないし、どうするかとウロウロしていると、
「もし……どうかされましたか?」
と声をかけられた。ここで春田に敬語で話しかけるのは一人しかいない。まさかあの姿で声をかけてきたのかとビビッて勢いよく振り向くと、知らない顔がそこにはあった。
「……なっ!?」
立っていたのは170cmの長身の女性。前髪が顔を右半分隠し、後ろ髪は腰まで届くほどの長髪。胸が制服を押し退けんばかりに盛り上がる。見た感じグラビアアイドルのように性的な見た目だ。顔は元の顔と比べれば、可愛さよりむしろ綺麗な顔立ちで、シュッとした鼻筋をしている。
ポイ子は自身の姿を変えることが出来る。この学園を観察して、服装を真似たのだろう。顔まで変えるとは凝ったことをする。
「?」
「いや、何でもない……。ちゃんと擬態できてるようで安心したよ。あ、そういえば家の鍵はかけたのか?」
「ぎた……え?」
畳み掛けるように質問する春田にどもる。
「だから、鍵はかけたのか?」
「え?……ええ」
春田はとりあえず安心して、腕時計を確認する。
「ならいいんだ。それだけが心配でな……っと、そろそろだな。すまないがまだ三限目だから、帰れないんだ。放課後……っても分からないか。みんなが帰る頃に校門……入り口で待ってろ」
女子生徒は首をかしげる。
「……はい?」
「俺が帰れるまで待ってろって事。じゃあまた後でな」
四限目が始まる前に走って教室に戻る。走り去った後の風景をしばらく眺めていた。何を言われたのか反芻しながら、解を求めていると、
「滝澤さん!」
滝澤と呼ばれた女子生徒は声の方にハッとして振り向く。そこには彼女の見知った顔があった。
「ここにいらしたんですか?もう次の授業始まりますよ?」
「……ええ、ありがとうございます」
そう、彼女はポイ子ではない。学校でも名の知れた有名人であり、誰もが憧れる、才色兼備のお嬢様である。
間抜けな話だが、春田は人との関わりを極力絶っているために、そんな事など全く知らず、ポイ子と思って、軽口を叩いてしまったのだ。
そして、図らずも彼女の琴線に触れた。
「擬態……また後で……ふふっ……なんの事だか……」
自分の教室に戻る最中、チラリと春田が走り去った方向を見る。
「……強引な殿方」
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