魔王復活!

大好き丸

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第二十九話 ザ・委員長

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「いってきまーす」

春田はポイ子とヤシャを残し、学校に行く。

「待て待て」

ヤシャはドスドスとリビングから小走りにやって来る。ポイ子もそれに続いてやって来た。

「連れていけないぞ?昼飯代はポイ子に渡したし、何かあればポイ子に頼めよ。学校が終わったらすぐ帰るから、それまでは留守ば……」

言い終わる前にヤシャは春田を抱きしめた。「ぎゅーっ」と口で言って、心地いいくらいに抱きしめる。それをポカンとしてみるのはポイ子。春田も突然の事に何もできない。

少しの時間の後、離される。ポッと赤くなった顔はヤシャの体温のせいだ。

「行ってこい、ヴァルタゼア。私はここで待ってるぞ!」

二カッといい笑顔を見せる。

「私も私も!」

ポイ子も張り合って春田に飛びつく、どさくさに紛れて唇を奪おうとするが、それに対して全力で避ける。

「うおっ!お前馬鹿か!!ハグだけにしろ!」

二人に送り出され、春田は気分よく外に出た。

「こういうのも……いいな……」

春田が出て行った扉をしばらく眺めていたヤシャとポイ子。ポイ子は不思議そうにヤシャを見る。

「ヤシャ様?なんであんなことをしたんですか?生前の魔王様には抱き着いたりしなかったのに……」

「あの威厳ある魔王に抱きつけるわけないだろ…。それを言えばお前だって当時より馴れ馴れしくないか?」

ポイ子とヤシャは顔を見合う。視線が合うと、二人でくすっと笑った。いがみ合っていた二人は元魔王への気持ちの共有に一体感を感じたからだ。

「……ゲームでもしません?」

「ゲーム?遊びか?何があるんだ?」

春田が帰ってくるまで暇な二人はリビングに向かった。

………

登校途中、委員長を見つけた。
無遅刻無欠席を信条に学校に通う春田と同じように、無遅刻無欠席を維持する同種の人間。

義務や、その責任を重きに置く彼女は立派で潔癖だ。

後ろ5mの距離を保ちつつ、登校する。何となく挨拶するのは、昨日の件もあって気が引けた。

しばらくそのまま進むと、何を思ったか委員長はふっと後ろを向いた。

「「あっ」」

二人の間抜けな声が被る。先に挨拶をしたのは春田だった。

「お、おはよう。委員長」

「うん。おはよう春田くん。もしかしてずっと後ろにいた?」

ドキッとするが、どういったら良いか分からず「かもな」と一言言って追い抜かそうとする。

すると委員長の方から並んで歩きだした。

同じ学校で同じクラスだから並んで歩いても変ではないが、気恥ずかしくなる。大体、ちゃんと喋ったのも昨日が初めてだし、並行されると緊張してしまう。コミュ障全開である。

「昨日とは逆の立場じゃない?」

「え?」

春田が校門付近で委員長と目が合ってしまった事を言っている。確かあの時は委員長から声をかけられ、受け答えしたと思う。

「あー、そう……だな……」

委員長は春田の目を見ようと並行しつつ覗き込む。

「なんでさっき声をかけてくれなかったの?」

「なんでって……委員長かどうか分かんなかったし?知らない奴に声かけちゃって大ごとになったら嫌だしな」

目を合わせない様にプイッと横を向く。「ふーん」と言って委員長も前を向く。

ホッとして正面を向くと、

「てかさ、委員長委員長って昨日からそう呼ぶけど、私は虎田って名前があるんだよね。名前で呼んでくれない?」

眉をそば立て、怒り気味に声を出す。春田は焦った。(まさか知らなかったとは言えないよな……)と思いつつ、
いい案を考える。

「いや、なんていうか虎田さんはさ……ザ・委員長って見た目だから、ついな……。気に障ったなら謝るよ。ごめん」

「いいよ、許してあげる。これからは名前で呼んでよね」

チラリと委員長を見ると、機嫌が悪くなってる風ではない。どちらかと言えば、まんざらでもない顔だ。本気で怒ってたわけではないと確信し、少し安心する。しかし、この”まんざら”でもない顔というのが喉に刺さった小骨の様に春田の心に、ちょっとだけ違和感を生んでいた。

「……分かったよ、委員長」

「あ!ほらまた!!」

ズビシッと指をさされる。意識しないと名前が出ない。

「ご、ごめん。委員……虎田さん」

「もー、わざとでしょ。結構いじわるなんだ」

くすっと笑って、春田と虎田の距離が心なしか近くなる。

初めての感覚に戸惑い、緊張が解けぬまま学校に着いた。
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