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第三十話 待ち伏せ
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教室に着くと自分の席が何者かに占領されていた。
虎田と別れ、自分の席に向かう。教室内が朝の挨拶でにぎわう中、自分の席に座る女子生徒を近くで眺めていた。机に突っ伏して寝ているようにも見える。
(こいつ誰だっけ……)見たことある特徴的な髪形だが、いまいち思い出せない。正直、誰でも良かったが春田は困惑から声をかけられずにいた。トイレと昼休憩くらいしか席を立たない春田の席を、こうして占領されるのは、初めての事だったからだ。
とりあえず邪魔だったので、声をかける。
「なぁ、そこ俺の席なんだけど」
ピクッと体が動いて、顔だけがこっちに向く。「あっ」と思う。昨日、スーパーで万引き行為を働こうとしていた女だ。黒色で肩口まで伸ばし、針のように尖った髪と、この世を憂いている様な光が濁った瞳は忘れる事が出来ない。
「……や、おはよ」
この反応は待ち伏せされていたのだろう。
「お前は昨日の……」
女子生徒は突っ伏していた体を起こして欠伸をした後、体ごと春田に向く。
「昨日の事で話があるの……ちょっといいかな……?」
指をさして、外に出ようと促す。面倒だが、これを断るとHRまで席が空かないだろう。何を言われるのかも興味があった春田は、カバンを置いて女子生徒と廊下に出た。そのままついていくと、1Fの中庭に歩いて出て行く。
「おいおい、どこまで行くんだよ。ここらでいいんじゃないか?」
中庭に設置されているベンチに腰掛けた女子生徒は隣に座るよう合図する。それに従い隣に座ると、女子生徒に質問した。
「それで?何の用だよ」
「あんたさぁ……昨日の件……チクったりしないよね?」
まぁそうだろう。予想通りの質問だ。
「言うわけないだろ……何のために止めさせたと思ってるんだ?チクるならその場で店員に突き出してる」
「……超まじめくんのあんたが……何でアタシみたいな奴……助けんの……?」
「超まじめくんのあんた」この言葉でハッとする。(こいつクラスメイトだ)と。こんな特徴的な髪形の女子を覚えてないなんて、どれだけ人に興味がなかったか、かなり考えさせられた。
「……聞いてる?」
「き……気まぐれだって。だ……だってクラスメイトだしな!」
はははっと、から笑いを出す。そのから笑いをジトッとした目で見つめる。
「白々しい……アタシの事……知らなかったでしょ?」
「んな事は無いって……!」
ここで自分でも盛大に墓穴を掘ったと自覚する。それに気づいたが、既に言葉として出している時点でどうしようもない。目が泳ぎ、この女子をまともに見られなかった。
「……アタシの名前……言える?」
(そら来た!)大体、昨日「どっかの誰かさん」とか調子こいている。既に彼女に対し、無知な事への布石を打ってしまっていたのだ。この一連の流れから、気にしていたことは明白。
「……すいません」
始めから知らないと言えば、追い詰められることはなかったが、クラスメイトという関係上、知らないなんて口が裂けても言えない。進級したてならともかく、大分時間も経っている。知らないなんて非常識極まりない。ヤシャやポイ子の事をとやかく言えないと反省する。
「……あんたみたいのもいるんだ……」
彼女は濁った眼を一瞬輝かせて春田を見ていた。その目には憧憬が感じられる。
「……とは言ってもショックだな…クラスメイトなのに……」
耳が痛い。委員長、虎田の名前もろくに覚えてなかった。これを機に、クラスメイトぐらいは名前を覚えるべきだと思った。彼女はベンチから立ち、春田を置いて歩き出す。
(これで話は終わりか……)と思って、続いてベンチを立つと、彼女は振り返らずに春田の3歩前くらいで立ち止まる。
「……アタシは竹内……よろしく……春田」
といって購買の方へ歩きだす。
「あ、おい。HR始まるぞ?」
足を止めて竹内は振り返る。
「……サボる。じゃね……」
「え?おい、竹内!」
と呼びかけるが、竹内は手を振って去っていった。
「……竹内……ね。変な奴だ」
春田は謎に包まれた竹内の行動に首を傾げつつ、教室に戻った。今日も長い一日が始まる。
虎田と別れ、自分の席に向かう。教室内が朝の挨拶でにぎわう中、自分の席に座る女子生徒を近くで眺めていた。机に突っ伏して寝ているようにも見える。
(こいつ誰だっけ……)見たことある特徴的な髪形だが、いまいち思い出せない。正直、誰でも良かったが春田は困惑から声をかけられずにいた。トイレと昼休憩くらいしか席を立たない春田の席を、こうして占領されるのは、初めての事だったからだ。
とりあえず邪魔だったので、声をかける。
「なぁ、そこ俺の席なんだけど」
ピクッと体が動いて、顔だけがこっちに向く。「あっ」と思う。昨日、スーパーで万引き行為を働こうとしていた女だ。黒色で肩口まで伸ばし、針のように尖った髪と、この世を憂いている様な光が濁った瞳は忘れる事が出来ない。
「……や、おはよ」
この反応は待ち伏せされていたのだろう。
「お前は昨日の……」
女子生徒は突っ伏していた体を起こして欠伸をした後、体ごと春田に向く。
「昨日の事で話があるの……ちょっといいかな……?」
指をさして、外に出ようと促す。面倒だが、これを断るとHRまで席が空かないだろう。何を言われるのかも興味があった春田は、カバンを置いて女子生徒と廊下に出た。そのままついていくと、1Fの中庭に歩いて出て行く。
「おいおい、どこまで行くんだよ。ここらでいいんじゃないか?」
中庭に設置されているベンチに腰掛けた女子生徒は隣に座るよう合図する。それに従い隣に座ると、女子生徒に質問した。
「それで?何の用だよ」
「あんたさぁ……昨日の件……チクったりしないよね?」
まぁそうだろう。予想通りの質問だ。
「言うわけないだろ……何のために止めさせたと思ってるんだ?チクるならその場で店員に突き出してる」
「……超まじめくんのあんたが……何でアタシみたいな奴……助けんの……?」
「超まじめくんのあんた」この言葉でハッとする。(こいつクラスメイトだ)と。こんな特徴的な髪形の女子を覚えてないなんて、どれだけ人に興味がなかったか、かなり考えさせられた。
「……聞いてる?」
「き……気まぐれだって。だ……だってクラスメイトだしな!」
はははっと、から笑いを出す。そのから笑いをジトッとした目で見つめる。
「白々しい……アタシの事……知らなかったでしょ?」
「んな事は無いって……!」
ここで自分でも盛大に墓穴を掘ったと自覚する。それに気づいたが、既に言葉として出している時点でどうしようもない。目が泳ぎ、この女子をまともに見られなかった。
「……アタシの名前……言える?」
(そら来た!)大体、昨日「どっかの誰かさん」とか調子こいている。既に彼女に対し、無知な事への布石を打ってしまっていたのだ。この一連の流れから、気にしていたことは明白。
「……すいません」
始めから知らないと言えば、追い詰められることはなかったが、クラスメイトという関係上、知らないなんて口が裂けても言えない。進級したてならともかく、大分時間も経っている。知らないなんて非常識極まりない。ヤシャやポイ子の事をとやかく言えないと反省する。
「……あんたみたいのもいるんだ……」
彼女は濁った眼を一瞬輝かせて春田を見ていた。その目には憧憬が感じられる。
「……とは言ってもショックだな…クラスメイトなのに……」
耳が痛い。委員長、虎田の名前もろくに覚えてなかった。これを機に、クラスメイトぐらいは名前を覚えるべきだと思った。彼女はベンチから立ち、春田を置いて歩き出す。
(これで話は終わりか……)と思って、続いてベンチを立つと、彼女は振り返らずに春田の3歩前くらいで立ち止まる。
「……アタシは竹内……よろしく……春田」
といって購買の方へ歩きだす。
「あ、おい。HR始まるぞ?」
足を止めて竹内は振り返る。
「……サボる。じゃね……」
「え?おい、竹内!」
と呼びかけるが、竹内は手を振って去っていった。
「……竹内……ね。変な奴だ」
春田は謎に包まれた竹内の行動に首を傾げつつ、教室に戻った。今日も長い一日が始まる。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
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