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第四十七話 マイペース
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春田は小走りで学校に急ぐ。
交差点の赤信号に止められた時、休憩がてら息を整えていると、前方にトロトロ歩く女子高生が見えた。
(虎田だ。珍しいな)
いつもならとっくに学校についているであろう人物を見て不思議に思う。寝坊でもしたのかもしれない。空を見上げ(今日傘持ってきてないな……)と曇った空を見る。
ほどなくして虎田に追いつく。
「おはよう虎田さん」
後ろから声をかけると、虎田の体がビクンと跳ねた。
「あっ春田くん!おは……ゴホゴホ……おはよう!」
何を焦っているのか、顔が真っ赤で動揺し、咽てまでいる。春田は空気が読めないわけではないので、そこは華麗に無視して対話を続ける。
「珍しいなこんな時間にまだこの辺なんて、寝坊でもしたか?」
「春田くんだって遅いじゃん。いつもならとっくに席についてそうなのに」
ちょっと機嫌が悪そうになる。「寝坊」は図星だったのか、口をとがらせ、プッとふくれっ面になった。
「悪い悪い。怒らせるつもりはなかったんだが、気に障ったなら謝るよ」
怒らせたくて近寄ったわけではない。昨日の事もあるし、声をかけなければ何を言われるか分かったものではない。それに急いでいる関係上、目の前でトロトロ歩かれてはたまったものではない。
「お、怒っているわけではなくて……ただ、春田くんの事……待ってただけ……みたいな……」
「ん?なんて?」
「ただ、春田くんの事……」から急激に小声になって、聞き取りが困難になった。
「何でもない……早く学校いかなきゃ遅刻しちゃうよ!」
と、突然走り出した虎田。いきなりの事についていけなかったが、「早く―!」と急かされて、困惑しながらも虎田の後をついていった。
一応、遅刻を覚悟していた春田にとって、思ったより早めに到着したことは嬉しい誤算だった。虎田の足が思ったより早かったおかげだ。ついていくのに必死だった為、大幅な短縮を生んだのだ。
何とか息を整え、教室に入る。虎田はあれだけ走った後だというのに涼しい顔でクラスメイトに挨拶している。
春田も早々に席について一息つきたかったが、その席には竹内が居座っていた。(こいつ……何で俺の席で寝ているんだ?)自分の席で寝ればいいのに、まるでそこが定位置かの様に机に突っ伏して寝ている。
起こそうと、肩に触れようとすると、鋭利な髪が手に刺さった。「……っ!」驚いて手を離す。一瞬痛いと感じた為の行為だった。
「え?嘘……え?」
と、その不思議な髪に触れる。硬い。まるで整髪料で固めたようなそんな硬さだ。(これ整えているのか?)その不思議さに髪をいじる手が止まらない。
「……何を……しているんだ?」
竹内が顔を横向きにしてこちらを睨んでいる。「え?あ!……いや……」思わず飛び退き、恥ずかしくなる。
「……女性の髪を、むやみに触るものじゃないぞ……」
竹内は起き上がってふんぞり返る。
「わ、悪い……」教室内の一部の注目を集めてしまい、少々居心地が悪い。ふっと鼻で息をつく、「……冗談だ」というが顔は笑っていない。表情筋が固いのか、柔和な声に無表情という違和感を産み出す。
「ところで……竹内、お前は何をしている?」
「……何とは無粋だな。まずは、おはようの挨拶からしようよ……」
マイペースを貫く竹内。
「……あぁ、おはよう。俺の席だから退いて」
退ける様に手を振って示す。「ふんっ」と席から立ち、すぐ目の前の席に座る。
「あれ?」
すぐ目の前の席は記憶が正しければ、男子だったと思うが、いつの間に竹内に替わったのか?
「おいおい、迷惑になるから自分の席に戻れよ」
春田も席について、指摘する。
「……何を言っている。今日からアタシの席はここだ。佐渡の奴が替わってくれた」
(そういえば、前の席の奴は佐渡って名前だったな)と思いつつ、呆れたようにため息をつく。マイペースここに極まり。
「ちょっと、竹内さん」
そこに虎田が介入してきた。
「ん?……何?委員長」
「まだ席替えしてないのに、勝手にこういうことするの止めてくれるかなぁ」
注意しにやって来た。(いいぞ!虎田!やっちまえ!)心の中で応援する。
「勝手にやってないよ……黒峰に聞いてみな?昨日交渉したからここにいるんだよ……」
何と担任にも話を通してあるらしい。昨日連れていかれてから説教されていたが、まさか交渉までしていたとは……。(何とも手回しの良いことで……)
「ええ、聞かせてもらうわ。こんな横暴許さないから」
フンッと踵を返して自分の席に戻る。黒峰先生が来るまでもう少し、竹内は後ろを向いて春田の方を見ている。
「……なんだって俺の前に来るんだ?」
「……もうサボらないことを条件にここに来たんだ。楽しませてくれよ……春田」
(一体何の話だよ……)困惑しながらも面倒臭くなった春田はそれ以上は追及しない。それからすぐにやって来た黒峰に虎田が詰めたが、その日のHRで席替えを提案され、竹内だけでなく皆が移動を余儀なくされた。
交差点の赤信号に止められた時、休憩がてら息を整えていると、前方にトロトロ歩く女子高生が見えた。
(虎田だ。珍しいな)
いつもならとっくに学校についているであろう人物を見て不思議に思う。寝坊でもしたのかもしれない。空を見上げ(今日傘持ってきてないな……)と曇った空を見る。
ほどなくして虎田に追いつく。
「おはよう虎田さん」
後ろから声をかけると、虎田の体がビクンと跳ねた。
「あっ春田くん!おは……ゴホゴホ……おはよう!」
何を焦っているのか、顔が真っ赤で動揺し、咽てまでいる。春田は空気が読めないわけではないので、そこは華麗に無視して対話を続ける。
「珍しいなこんな時間にまだこの辺なんて、寝坊でもしたか?」
「春田くんだって遅いじゃん。いつもならとっくに席についてそうなのに」
ちょっと機嫌が悪そうになる。「寝坊」は図星だったのか、口をとがらせ、プッとふくれっ面になった。
「悪い悪い。怒らせるつもりはなかったんだが、気に障ったなら謝るよ」
怒らせたくて近寄ったわけではない。昨日の事もあるし、声をかけなければ何を言われるか分かったものではない。それに急いでいる関係上、目の前でトロトロ歩かれてはたまったものではない。
「お、怒っているわけではなくて……ただ、春田くんの事……待ってただけ……みたいな……」
「ん?なんて?」
「ただ、春田くんの事……」から急激に小声になって、聞き取りが困難になった。
「何でもない……早く学校いかなきゃ遅刻しちゃうよ!」
と、突然走り出した虎田。いきなりの事についていけなかったが、「早く―!」と急かされて、困惑しながらも虎田の後をついていった。
一応、遅刻を覚悟していた春田にとって、思ったより早めに到着したことは嬉しい誤算だった。虎田の足が思ったより早かったおかげだ。ついていくのに必死だった為、大幅な短縮を生んだのだ。
何とか息を整え、教室に入る。虎田はあれだけ走った後だというのに涼しい顔でクラスメイトに挨拶している。
春田も早々に席について一息つきたかったが、その席には竹内が居座っていた。(こいつ……何で俺の席で寝ているんだ?)自分の席で寝ればいいのに、まるでそこが定位置かの様に机に突っ伏して寝ている。
起こそうと、肩に触れようとすると、鋭利な髪が手に刺さった。「……っ!」驚いて手を離す。一瞬痛いと感じた為の行為だった。
「え?嘘……え?」
と、その不思議な髪に触れる。硬い。まるで整髪料で固めたようなそんな硬さだ。(これ整えているのか?)その不思議さに髪をいじる手が止まらない。
「……何を……しているんだ?」
竹内が顔を横向きにしてこちらを睨んでいる。「え?あ!……いや……」思わず飛び退き、恥ずかしくなる。
「……女性の髪を、むやみに触るものじゃないぞ……」
竹内は起き上がってふんぞり返る。
「わ、悪い……」教室内の一部の注目を集めてしまい、少々居心地が悪い。ふっと鼻で息をつく、「……冗談だ」というが顔は笑っていない。表情筋が固いのか、柔和な声に無表情という違和感を産み出す。
「ところで……竹内、お前は何をしている?」
「……何とは無粋だな。まずは、おはようの挨拶からしようよ……」
マイペースを貫く竹内。
「……あぁ、おはよう。俺の席だから退いて」
退ける様に手を振って示す。「ふんっ」と席から立ち、すぐ目の前の席に座る。
「あれ?」
すぐ目の前の席は記憶が正しければ、男子だったと思うが、いつの間に竹内に替わったのか?
「おいおい、迷惑になるから自分の席に戻れよ」
春田も席について、指摘する。
「……何を言っている。今日からアタシの席はここだ。佐渡の奴が替わってくれた」
(そういえば、前の席の奴は佐渡って名前だったな)と思いつつ、呆れたようにため息をつく。マイペースここに極まり。
「ちょっと、竹内さん」
そこに虎田が介入してきた。
「ん?……何?委員長」
「まだ席替えしてないのに、勝手にこういうことするの止めてくれるかなぁ」
注意しにやって来た。(いいぞ!虎田!やっちまえ!)心の中で応援する。
「勝手にやってないよ……黒峰に聞いてみな?昨日交渉したからここにいるんだよ……」
何と担任にも話を通してあるらしい。昨日連れていかれてから説教されていたが、まさか交渉までしていたとは……。(何とも手回しの良いことで……)
「ええ、聞かせてもらうわ。こんな横暴許さないから」
フンッと踵を返して自分の席に戻る。黒峰先生が来るまでもう少し、竹内は後ろを向いて春田の方を見ている。
「……なんだって俺の前に来るんだ?」
「……もうサボらないことを条件にここに来たんだ。楽しませてくれよ……春田」
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