49 / 151
第四十八話 席替え
しおりを挟む
春田はこの現状を窮屈に感じていた。
席替えにより、窓際の一番奥の席に追いやられた。真面目に授業を受ける春田は、特に一番前だろうと真ん中だろうとどこでも良かったわけだが、決まったことに対して否定、拒否ができる程コミュニケーション能力が高くない。
何よりくじ引きで、一番良いと言われる端っこの席をわざわざ「替えてほしい」なんて正気を疑われる。
仕方なしに享受するわけだが、ここまで面倒に思うには理由がある。それというのも隣が虎田で前が竹内なのだ。
竹内は春田の前になる事があらかじめ決まっていたので仕方ないとして、虎田に関しては、偶然だった。虎田が単なる真面目なら特に何も言うつもりは無いが、竹内と敵対関係にある上、隣になった後の圧がすごい。
何故か春田に対して、自分を売り込もうとしているいうか、休み時間になれば、竹内との会話に参加してこようとする。
竹内はなんで「会話に入って来るの?」というスタンスだったが、虎田が徐々に距離を詰め、竹内は半分諦めた態度を示す。春田はこの空気や距離感を掴めず、流されるがままに過ごす。
事が動いたのは3時限目の後の休み時間だ。
「……は、春田くん」
虎田が意を決したような表情を見せてこちらを見ていた。
「なに?」
いたって普通に返答するが、心では内心訝しんでいた。虎田は真面目で正義感が強く、悪い事は見過ごせないタイプの女子だ。菊池程じゃないが、やる事なす事、実直に行動している。だが、不穏な空気もいくらか持っている事も事実だ。
現国の三國に反発してみたり、竹内に絡んでみたり、危ない所に飛び込んでいったりメンタルの強さや、自分は間違ってないという絶対正義のスタンスを保っている。
誇るべきところだし、変えていく必要性など皆無だが、その正義の行動に付き合わされたことを忘れた日などない。
「俺を巻き込まないなら称賛する」という事だ。
この空気感はあの時以上の緊張を感じる。今度はゲーセンにたむろしている不良共を蹴散らしに行こうとか言われた日にはたまったものではない。何とか断る方向で頭を悩ませていると、
「今日さ……あの……お弁当、作って来たんだけど……いる?」
「いや、俺は……お弁当?」すぐ様、否定に入ろうとした春田の気持ちを打ち砕く内容だった。(お弁当を、作った?誰に?俺に?……んなわけない)
「……いいのか?作りすぎたとかそんな感じ?」
虎田は少し考えた後、頷く。
「ひ、久々にさ、自分で作ろうとか思ったら張り切って作りすぎちゃって……。いつものメンバーに囃されるのが嫌だから、もしよかったら処理してくれないかな~……なんて……」
(なるほど。そういう事か……)もうすぐ昼食。いつも飯食ってる面子で喰うつもりだったが、ギリギリまで悩んでやっぱり恥ずかしくなったという事なのだろう。
分かるような分からない話だが、昼食代が浮くのは願ってもない事だった。
「い、いやだったらいいんだけど……さ」
「い、いやいや!欲しい欲しい、頂戴頂戴。ありがとう、恩に着るよ。あ、今日遅れた理由ってもしかして作るのに夢中になってとか?」
春田は弁当を貰うべく手を出す。虎田は頭から蒸気が出る程に顔を赤くして、それでも何とか弁当を差し出す。(そんな恥ずかしいなら作らなきゃいいのに……)と思いつつ、受け取る。
弁当を包める程度の可愛い風呂敷に包まれた少し大きめの弁当箱。布地にはデフォルメされた犬と猫の柄が所々に印刷された実に女の子らしい物だった。
男が持つには恥ずかしいが、無地のイメージがある虎田の物だと思うと若干、クスリと笑顔になるくらい可愛かった。
「ありがとう。洗ってまた返すよ」
「うん……感想……聞かせてね」
虎田はそれだけ言うと突っ伏してしまう。滅茶苦茶恥ずかしそうだ。きっとバレるのも嫌なのだろう。春田はすぐにカバンの中に隠す。カバンの中で位置調整をしていると、
「……何してんの?」
トイレから戻ってきた竹内が春田の行動を訝し気に聞いてきた。「ん?」と顔を上げると、虎田がビクッと動いたのが目の端に映る。竹内も「え?」という感じで一瞬虎田を見たが、すぐに視線を戻す。
竹内が席から離れた瞬間を狙ったことを察する春田は、
つまりさっきの考えが正しいと確信する。
「そうだな……今日は弁当があってな。型崩れすると面倒だから位置調整してたんだ」
「意外だな……料理できるのか?」
「できなくはないぞ?朝、時間があったから、ちょこっと多めに……な」
「ふーん」と気のない返事をして席に座る。この間、虎田を盗み見ると未だ突っ伏して、顔を上げようとしない。
「……じゃあさ、アタシにも分けてよ」
「ええ~……俺の昼飯だぞ?」
「良いじゃん良いじゃん」と問答していると、虎田が突っ伏した机からスゥッと起き上がる。竹内を見据えると声を出した。
「私も一緒に食べていい?」
席替えにより、窓際の一番奥の席に追いやられた。真面目に授業を受ける春田は、特に一番前だろうと真ん中だろうとどこでも良かったわけだが、決まったことに対して否定、拒否ができる程コミュニケーション能力が高くない。
何よりくじ引きで、一番良いと言われる端っこの席をわざわざ「替えてほしい」なんて正気を疑われる。
仕方なしに享受するわけだが、ここまで面倒に思うには理由がある。それというのも隣が虎田で前が竹内なのだ。
竹内は春田の前になる事があらかじめ決まっていたので仕方ないとして、虎田に関しては、偶然だった。虎田が単なる真面目なら特に何も言うつもりは無いが、竹内と敵対関係にある上、隣になった後の圧がすごい。
何故か春田に対して、自分を売り込もうとしているいうか、休み時間になれば、竹内との会話に参加してこようとする。
竹内はなんで「会話に入って来るの?」というスタンスだったが、虎田が徐々に距離を詰め、竹内は半分諦めた態度を示す。春田はこの空気や距離感を掴めず、流されるがままに過ごす。
事が動いたのは3時限目の後の休み時間だ。
「……は、春田くん」
虎田が意を決したような表情を見せてこちらを見ていた。
「なに?」
いたって普通に返答するが、心では内心訝しんでいた。虎田は真面目で正義感が強く、悪い事は見過ごせないタイプの女子だ。菊池程じゃないが、やる事なす事、実直に行動している。だが、不穏な空気もいくらか持っている事も事実だ。
現国の三國に反発してみたり、竹内に絡んでみたり、危ない所に飛び込んでいったりメンタルの強さや、自分は間違ってないという絶対正義のスタンスを保っている。
誇るべきところだし、変えていく必要性など皆無だが、その正義の行動に付き合わされたことを忘れた日などない。
「俺を巻き込まないなら称賛する」という事だ。
この空気感はあの時以上の緊張を感じる。今度はゲーセンにたむろしている不良共を蹴散らしに行こうとか言われた日にはたまったものではない。何とか断る方向で頭を悩ませていると、
「今日さ……あの……お弁当、作って来たんだけど……いる?」
「いや、俺は……お弁当?」すぐ様、否定に入ろうとした春田の気持ちを打ち砕く内容だった。(お弁当を、作った?誰に?俺に?……んなわけない)
「……いいのか?作りすぎたとかそんな感じ?」
虎田は少し考えた後、頷く。
「ひ、久々にさ、自分で作ろうとか思ったら張り切って作りすぎちゃって……。いつものメンバーに囃されるのが嫌だから、もしよかったら処理してくれないかな~……なんて……」
(なるほど。そういう事か……)もうすぐ昼食。いつも飯食ってる面子で喰うつもりだったが、ギリギリまで悩んでやっぱり恥ずかしくなったという事なのだろう。
分かるような分からない話だが、昼食代が浮くのは願ってもない事だった。
「い、いやだったらいいんだけど……さ」
「い、いやいや!欲しい欲しい、頂戴頂戴。ありがとう、恩に着るよ。あ、今日遅れた理由ってもしかして作るのに夢中になってとか?」
春田は弁当を貰うべく手を出す。虎田は頭から蒸気が出る程に顔を赤くして、それでも何とか弁当を差し出す。(そんな恥ずかしいなら作らなきゃいいのに……)と思いつつ、受け取る。
弁当を包める程度の可愛い風呂敷に包まれた少し大きめの弁当箱。布地にはデフォルメされた犬と猫の柄が所々に印刷された実に女の子らしい物だった。
男が持つには恥ずかしいが、無地のイメージがある虎田の物だと思うと若干、クスリと笑顔になるくらい可愛かった。
「ありがとう。洗ってまた返すよ」
「うん……感想……聞かせてね」
虎田はそれだけ言うと突っ伏してしまう。滅茶苦茶恥ずかしそうだ。きっとバレるのも嫌なのだろう。春田はすぐにカバンの中に隠す。カバンの中で位置調整をしていると、
「……何してんの?」
トイレから戻ってきた竹内が春田の行動を訝し気に聞いてきた。「ん?」と顔を上げると、虎田がビクッと動いたのが目の端に映る。竹内も「え?」という感じで一瞬虎田を見たが、すぐに視線を戻す。
竹内が席から離れた瞬間を狙ったことを察する春田は、
つまりさっきの考えが正しいと確信する。
「そうだな……今日は弁当があってな。型崩れすると面倒だから位置調整してたんだ」
「意外だな……料理できるのか?」
「できなくはないぞ?朝、時間があったから、ちょこっと多めに……な」
「ふーん」と気のない返事をして席に座る。この間、虎田を盗み見ると未だ突っ伏して、顔を上げようとしない。
「……じゃあさ、アタシにも分けてよ」
「ええ~……俺の昼飯だぞ?」
「良いじゃん良いじゃん」と問答していると、虎田が突っ伏した机からスゥッと起き上がる。竹内を見据えると声を出した。
「私も一緒に食べていい?」
0
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる