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第五十話 お弁当 2
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春田は屋上の階段のところで、急いで弁当をかき込む。
虎田の恥を抹消するためにどんどん口に頬張っていく。だが、許容量というものが存在する。美味い美味いと思いつつも、頬張った量が多すぎて、喉を通らない。
飲み下すためには飲み物が必要になるわけだが、今ここに飲み物はない。(し、しまった!焦りすぎたか!!)今から虎田の元に戻って水筒の飲み物を貰う?いや、飲み物を買いに行くという理由で出て行ったのに、飲み物を貰いに行くのは意味不明すぎる。
しかし、1階まで下りて行って買うというのはハッキリ言って不可能だろう。きっと途中で窒息するか、吐き出す。
そんなもったいない事は出来ないが死にたくはない。そこでパッと思い出す。各階に点在するウォータークーラーの存在を。(行ける!)すぐ傍にウォータークーラーがある。1年のクラスの前だが、この際関係ない。
腰を上げて立ち上がろうとすると、目の前に水筒を出された。「!?」突然の事に驚いて、腰を抜かすのと同時に喉に詰まっていたおかずを一気に飲み下した。
「ぶはっ!」何とか息継ぎの機会を得られ、肺に空気を入れられる。
「そんなに急いで、どうされたんですか?」
そこには滝澤が立っていた。菊池も一緒だ。水筒を差し出すのは滝澤。水筒を受け取れといった感じでズイッと差し出す。
「……ど、どうも」
水筒を受け取り、口から離して空中で、水筒からお茶を器用に口に流す。胸につっかえた物もなくなり、一息つくと、感謝を述べて水筒を返す。
「こんなところで食べていたら埃も一緒に食べてしまうのではないですか?」
「そうだ、それに階段で食事など……人の往来を考えたら普通はしないだろう」
滝澤は衛生面を、菊池はそれに合わせて邪魔だと暗に伝える。
「まぁまぁ、そういうなよ……これからご飯?」
「……ですか」
菊地の言葉に「ん?」となる春田。
「滝澤さんに失礼だろ。正しい言葉で話せ」
滅茶苦茶上から目線での言葉だが、となれば春田への言葉はいいのか?
「菊池、わたしくしと春田さんは友達なのよ?他人であるという距離感は大事だけど、格差ある関係は望んでないの。あまり、春田さんを困らせては行けません」
「し、失礼しました……」
見る間にショボンとする。さっきまでキリッとしていた
眉毛は滝澤のお叱りで一気に困り顔に変化する。飼い主と飼い犬のような関係が微笑ましくも歪に見える。
「俺は気にしてないよ。そういう感じが菊池らしいし、俺には普段通りで来いよ」
「あら?春田さんったらいつの間に菊池と仲良くなってたの?」
「い、いえ……そんな、仲良くだなんて……」
(なんだその反応は?)菊地は顔を赤くして首を振る。
「羨ましいわ。わたくしだって呼び捨てにされたいのに……」
はは、と誤魔化し笑いをしたところで、二人が手に持つ弁当を見る。
「まだご飯食べてないんだろ?屋上で一緒に食おうぜ」
春田は二人を誘って、竹内たちのところへ行く。「どうもー」とか「……増えた」とか、虎田の自己紹介とかで騒がしくなる。春田は五人の輪の中に腰を下ろす。そこでふと、(あれ男子俺だけじゃん……)ということに気付く。華のある女性陣の中に1人の異物。考えただけでも注目の的だ。もっとも厄介なのは滝澤というビッグネーム。
屋上入り口からここに来るまでの間、しんっと静まり返ったのは滝澤の存在の成せる業だ。気にしてないと言えば半分嘘になるが、最初ほどのインパクトは消え失せ、春田の心に去来したのは(どうにでもなれ~)だった。
もうおかずのなくなった弁当箱を開いて残りのご飯を食べようと箸をつける。
「あらあら、春田さんは先に好きなものから食べてしまうのですか?ご飯だけでは厳しいでしょう?」
滝澤に指摘されるが、既におかずはない。竹内はその様子に体を震わせる。顔は無表情だが、必死に笑いをこらえている。
「あ、じゃあ私がおかずあげるね」
と申し出たのは虎田だ。必死になって隠してくれた春田に報いろうと、からあげを渡す。そこで竹内は堪えきれず誰にも見られないよう後ろを振り替えって吹き出した。
「あぁ……そんな、委員長って案外ドSなんだね……」
と震える声で絞り出す。1人で勝手にウケている竹内をよそに、「わたくしも」と滝澤も弁当を開けて、春田にミートボールを渡す。見た感じはかなり庶民的だ。
というより、ミートボールの存在だけか浮いている。そのお弁当は、言うなれば和食膳。サワラの塩焼きとほうれん草のおひたし、ひじきの煮物と高野豆腐。だし巻き玉子と漬け物を入れて、最後にミートボールを添えたお弁当。
菊池も「じゃあ私も……」といってコロッケを渡す。菊池の弁当は力が付きそうな日の丸弁当だ。1段目はご飯がぎちぎちに詰められ、大きな梅干しの入ったまさに日の丸。2段目にコロッケとトンカツという揚げ物で埋めつくし、
野菜を別の箱に入れた3段弁当。青じそドレッシングの小袋が添えられている。
春田は白一色だった弁当が、3人の力で茶色と白の二色弁当へと昇華する。正直、白飯だけでも全然食えたが、あやかることにした。
屋上の生徒全員からの視線を浴び、食す弁当はほとんど味がしなかった。
虎田の恥を抹消するためにどんどん口に頬張っていく。だが、許容量というものが存在する。美味い美味いと思いつつも、頬張った量が多すぎて、喉を通らない。
飲み下すためには飲み物が必要になるわけだが、今ここに飲み物はない。(し、しまった!焦りすぎたか!!)今から虎田の元に戻って水筒の飲み物を貰う?いや、飲み物を買いに行くという理由で出て行ったのに、飲み物を貰いに行くのは意味不明すぎる。
しかし、1階まで下りて行って買うというのはハッキリ言って不可能だろう。きっと途中で窒息するか、吐き出す。
そんなもったいない事は出来ないが死にたくはない。そこでパッと思い出す。各階に点在するウォータークーラーの存在を。(行ける!)すぐ傍にウォータークーラーがある。1年のクラスの前だが、この際関係ない。
腰を上げて立ち上がろうとすると、目の前に水筒を出された。「!?」突然の事に驚いて、腰を抜かすのと同時に喉に詰まっていたおかずを一気に飲み下した。
「ぶはっ!」何とか息継ぎの機会を得られ、肺に空気を入れられる。
「そんなに急いで、どうされたんですか?」
そこには滝澤が立っていた。菊池も一緒だ。水筒を差し出すのは滝澤。水筒を受け取れといった感じでズイッと差し出す。
「……ど、どうも」
水筒を受け取り、口から離して空中で、水筒からお茶を器用に口に流す。胸につっかえた物もなくなり、一息つくと、感謝を述べて水筒を返す。
「こんなところで食べていたら埃も一緒に食べてしまうのではないですか?」
「そうだ、それに階段で食事など……人の往来を考えたら普通はしないだろう」
滝澤は衛生面を、菊池はそれに合わせて邪魔だと暗に伝える。
「まぁまぁ、そういうなよ……これからご飯?」
「……ですか」
菊地の言葉に「ん?」となる春田。
「滝澤さんに失礼だろ。正しい言葉で話せ」
滅茶苦茶上から目線での言葉だが、となれば春田への言葉はいいのか?
「菊池、わたしくしと春田さんは友達なのよ?他人であるという距離感は大事だけど、格差ある関係は望んでないの。あまり、春田さんを困らせては行けません」
「し、失礼しました……」
見る間にショボンとする。さっきまでキリッとしていた
眉毛は滝澤のお叱りで一気に困り顔に変化する。飼い主と飼い犬のような関係が微笑ましくも歪に見える。
「俺は気にしてないよ。そういう感じが菊池らしいし、俺には普段通りで来いよ」
「あら?春田さんったらいつの間に菊池と仲良くなってたの?」
「い、いえ……そんな、仲良くだなんて……」
(なんだその反応は?)菊地は顔を赤くして首を振る。
「羨ましいわ。わたくしだって呼び捨てにされたいのに……」
はは、と誤魔化し笑いをしたところで、二人が手に持つ弁当を見る。
「まだご飯食べてないんだろ?屋上で一緒に食おうぜ」
春田は二人を誘って、竹内たちのところへ行く。「どうもー」とか「……増えた」とか、虎田の自己紹介とかで騒がしくなる。春田は五人の輪の中に腰を下ろす。そこでふと、(あれ男子俺だけじゃん……)ということに気付く。華のある女性陣の中に1人の異物。考えただけでも注目の的だ。もっとも厄介なのは滝澤というビッグネーム。
屋上入り口からここに来るまでの間、しんっと静まり返ったのは滝澤の存在の成せる業だ。気にしてないと言えば半分嘘になるが、最初ほどのインパクトは消え失せ、春田の心に去来したのは(どうにでもなれ~)だった。
もうおかずのなくなった弁当箱を開いて残りのご飯を食べようと箸をつける。
「あらあら、春田さんは先に好きなものから食べてしまうのですか?ご飯だけでは厳しいでしょう?」
滝澤に指摘されるが、既におかずはない。竹内はその様子に体を震わせる。顔は無表情だが、必死に笑いをこらえている。
「あ、じゃあ私がおかずあげるね」
と申し出たのは虎田だ。必死になって隠してくれた春田に報いろうと、からあげを渡す。そこで竹内は堪えきれず誰にも見られないよう後ろを振り替えって吹き出した。
「あぁ……そんな、委員長って案外ドSなんだね……」
と震える声で絞り出す。1人で勝手にウケている竹内をよそに、「わたくしも」と滝澤も弁当を開けて、春田にミートボールを渡す。見た感じはかなり庶民的だ。
というより、ミートボールの存在だけか浮いている。そのお弁当は、言うなれば和食膳。サワラの塩焼きとほうれん草のおひたし、ひじきの煮物と高野豆腐。だし巻き玉子と漬け物を入れて、最後にミートボールを添えたお弁当。
菊池も「じゃあ私も……」といってコロッケを渡す。菊池の弁当は力が付きそうな日の丸弁当だ。1段目はご飯がぎちぎちに詰められ、大きな梅干しの入ったまさに日の丸。2段目にコロッケとトンカツという揚げ物で埋めつくし、
野菜を別の箱に入れた3段弁当。青じそドレッシングの小袋が添えられている。
春田は白一色だった弁当が、3人の力で茶色と白の二色弁当へと昇華する。正直、白飯だけでも全然食えたが、あやかることにした。
屋上の生徒全員からの視線を浴び、食す弁当はほとんど味がしなかった。
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