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第五十一話 噂
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5時限が終了する頃にはすっかり噂話の種となっていた。
5つの華は、何故、春田という地味で暗く影を行くネガティブな存在を取り囲むのか?そのメリットは?何なのか?理解が及ばない。
「きっと何らかの弱みを握っているに違いない」とか「見た目は最悪だけど、もしかして内面は滅茶苦茶男前とか?」とか「逆に春田が弱みを握られているのだろう」とか様々。
(何でも言っていい場じゃねぇだろ)と春田自身は聞き流しながら思う。というより、昨今の自分にやって来る女子たちの友達ブームに関して、当人が理由を聞きたいくらいだった。
「……なんか噂になってる……?」
その声に気付くのは何も春田だけではない。
目の前の竹内と隣の虎田は周りからの声に耳を傾けていた。「ね~みゆき~」そこにフワッとした感じで声がかけられた。いつも一緒にお昼ご飯を食べていた友達だ。これまたいつもの様に3人がそこで集まっていた。
手招きして虎田を呼ぶ。嫌な予感を感じながらも逆らう事なく席から離れた。
「なに?」
いつもの調子を崩さず努めて普通を装う。その様子に逆に不信感が出るが、虎田は内心で我ながら上手く誤魔化せたと誇らしげだ。3人は顔を見合わせる。そして春田をチラリと見るとここで話すべきかどうか精査し始めた。
「……ちょっと何なの?3人とも。言いたいことがあるなら言えばいいのに―」
軽口をたたく。1人が意を決したように席から立ち、虎田を廊下に連れ出した。
それを見た竹内は「ありゃ修羅場だね……」とつぶやいた。春田は「自分も渦中の人間のくせにいい気なもんだ」と竹内に呆れると同時に現実逃避し始める。
「マジでさ……あいつとデキてんの?」
虎田を連れだしたのは耳にピアス穴をあけている焦げ茶頭の八重歯女子。木島。
ピアスを付けると没収されるため、2回没収されたのを機に付けてくるのをやめた。紺色のダボダボのカーディガンを着て、ちょこっと指先が見える程度に出し、ピンクのマニキュアをチラリと見せている。スカートを織り込んで必要以上に太ももを見せびらかしているが、本人はおしゃれのつもりで男の視線をキモいと思っている。
紺色のソックスにワンポイントの赤い「髑髏」の柄がついている。何かのブランドだろう。
実はカーディガンも同じメーカーだが、ワンポイントがダボダボのしわで隠れてしまっている。鮮やかな茶色のローファーは別のブランドだが、今装着している衣類の中で最も高い。
質素倹約、質実剛健という雰囲気を放つ虎田とは正反対ともいえる彼女だが、友達としての歴史は集まっていた友達連中の中では一番長く、小学生からの幼馴染で、今でも親友だと思える間柄だった。
「……って、え?私と春田くんが?ないない。昨日も言ったじゃん」
「じゃ、なんでいつもみたいにお昼一緒に食べなかったの?」
(まぁ、そうくるよね……)当然だ。予想だが、「みゆきどこ行ったんだろーねー」なんて談笑しあってたら、チャイムギリギリで竹内と春田と一緒に教室入り。ここまでは偶然居合わせたとして、その後の噂話は耳を疑わざる負えない展開だった。といったところだろう。
「あいつと一緒に食べてたって……」
長い付き合いの彼女に隠し事は出来ない。納得しない事があったら直接春田たちに聞きに行くことも厭わないだろう。
「そ、そうなのよ。今日はちょっとムキになる事があってさ……ここだけの話、ちょっと春田くんに迷惑かけちゃって、その……謝罪の意味も込めて一緒に食事を……ね」
嘘ではない。弁当を作ったとか、その辺りを言わなければ誰にでも話せる内容だ。
木島は虎田の目を覗き込んで、真偽を図ろうとしている。この時に誤魔化せば、本当の事でも逆に怪しまれるのは一緒に過ごしてきて一番理解している。だからこそ、目を合わせる。
2秒そこらで木島の審査が終わった。
「何したか知んないけど、律儀にそんな事しなくていいから。もし気がないのに、あいつが本気にしたらどうすんの?責任もって付き合うとかいうんじゃないでしょうね?」
「そんな。そんな事、考えてもいなかったな……」
もしそうなったらどうするのか、自分でもちょっと考えてみる。
(春田くんは別に嫌いじゃないし……でも、他の子も狙ってたりするだろうから、自分なんかに靡くわけない……あぁ、でももし、そうなったらだし……ふーむ)
と答えが出ない。そこで木島がため息をつく。
「はぁ~……いい?冴えない男ってのは優しくされた子を好きになるもんなのよ。私が中学の時、変なデブに告られたの知ってるでしょ?あれよあれ。ちょっとイジっただけで好意持って来んだから……キモすぎ。もう二度と会わないから良いけど……って、そういう事、分かる?」
そういえば聞いたことある。
「カラオケで笑い話の種にしてたっけ……」「そうそう!あの話!」とちょっと話が盛り上がる。
木島はクラスメイトなら誰にでも喋りかける明るい性格の女子。コミュニケーションには並々ならぬ自信があると豪語する彼女は誰とでも仲良くなれる反面、裏表が激しい。彼女の振りまくフェロモンに騙されて夢破れた男子は数知れず。
「あんな根暗に好きになられたらストーカーされるわよ。困った事があったらいつでも頼りなさいよ。私が何とかしてあげるから!」
ドンッと虎田より発育のいい胸を叩く。このスタイルの良さも男子を勘違いさせる要因となっているのだが、彼女は「おしゃれだから」と短めのスカートをやめようとはしない。
そこでチャイムが鳴る。
「っと……時間だね」虎田はスピーカーから流れる大きな音に反応して視線を外す。
あんまり心に響いてないことを悟る木島だったが、「まぁいいや」と諦める。
「もっかい言うけど、なんかあったら……」
「うん。頼りにしてるよ、みーちゃん」
彼女の親友である虎田にしか許していないあだ名である。それを聞いた木島はほっと一息ついて、一緒に教室に戻る。この時、二人の思いは違えど、どちらも「春田」の事を考えていた。
(春田くんから告白か……いや、絶対ないけど……でも、もしそうなったら……)
(春田の奴とみゆきが付き合う?いやいや…あり得ないわ……)
5つの華は、何故、春田という地味で暗く影を行くネガティブな存在を取り囲むのか?そのメリットは?何なのか?理解が及ばない。
「きっと何らかの弱みを握っているに違いない」とか「見た目は最悪だけど、もしかして内面は滅茶苦茶男前とか?」とか「逆に春田が弱みを握られているのだろう」とか様々。
(何でも言っていい場じゃねぇだろ)と春田自身は聞き流しながら思う。というより、昨今の自分にやって来る女子たちの友達ブームに関して、当人が理由を聞きたいくらいだった。
「……なんか噂になってる……?」
その声に気付くのは何も春田だけではない。
目の前の竹内と隣の虎田は周りからの声に耳を傾けていた。「ね~みゆき~」そこにフワッとした感じで声がかけられた。いつも一緒にお昼ご飯を食べていた友達だ。これまたいつもの様に3人がそこで集まっていた。
手招きして虎田を呼ぶ。嫌な予感を感じながらも逆らう事なく席から離れた。
「なに?」
いつもの調子を崩さず努めて普通を装う。その様子に逆に不信感が出るが、虎田は内心で我ながら上手く誤魔化せたと誇らしげだ。3人は顔を見合わせる。そして春田をチラリと見るとここで話すべきかどうか精査し始めた。
「……ちょっと何なの?3人とも。言いたいことがあるなら言えばいいのに―」
軽口をたたく。1人が意を決したように席から立ち、虎田を廊下に連れ出した。
それを見た竹内は「ありゃ修羅場だね……」とつぶやいた。春田は「自分も渦中の人間のくせにいい気なもんだ」と竹内に呆れると同時に現実逃避し始める。
「マジでさ……あいつとデキてんの?」
虎田を連れだしたのは耳にピアス穴をあけている焦げ茶頭の八重歯女子。木島。
ピアスを付けると没収されるため、2回没収されたのを機に付けてくるのをやめた。紺色のダボダボのカーディガンを着て、ちょこっと指先が見える程度に出し、ピンクのマニキュアをチラリと見せている。スカートを織り込んで必要以上に太ももを見せびらかしているが、本人はおしゃれのつもりで男の視線をキモいと思っている。
紺色のソックスにワンポイントの赤い「髑髏」の柄がついている。何かのブランドだろう。
実はカーディガンも同じメーカーだが、ワンポイントがダボダボのしわで隠れてしまっている。鮮やかな茶色のローファーは別のブランドだが、今装着している衣類の中で最も高い。
質素倹約、質実剛健という雰囲気を放つ虎田とは正反対ともいえる彼女だが、友達としての歴史は集まっていた友達連中の中では一番長く、小学生からの幼馴染で、今でも親友だと思える間柄だった。
「……って、え?私と春田くんが?ないない。昨日も言ったじゃん」
「じゃ、なんでいつもみたいにお昼一緒に食べなかったの?」
(まぁ、そうくるよね……)当然だ。予想だが、「みゆきどこ行ったんだろーねー」なんて談笑しあってたら、チャイムギリギリで竹内と春田と一緒に教室入り。ここまでは偶然居合わせたとして、その後の噂話は耳を疑わざる負えない展開だった。といったところだろう。
「あいつと一緒に食べてたって……」
長い付き合いの彼女に隠し事は出来ない。納得しない事があったら直接春田たちに聞きに行くことも厭わないだろう。
「そ、そうなのよ。今日はちょっとムキになる事があってさ……ここだけの話、ちょっと春田くんに迷惑かけちゃって、その……謝罪の意味も込めて一緒に食事を……ね」
嘘ではない。弁当を作ったとか、その辺りを言わなければ誰にでも話せる内容だ。
木島は虎田の目を覗き込んで、真偽を図ろうとしている。この時に誤魔化せば、本当の事でも逆に怪しまれるのは一緒に過ごしてきて一番理解している。だからこそ、目を合わせる。
2秒そこらで木島の審査が終わった。
「何したか知んないけど、律儀にそんな事しなくていいから。もし気がないのに、あいつが本気にしたらどうすんの?責任もって付き合うとかいうんじゃないでしょうね?」
「そんな。そんな事、考えてもいなかったな……」
もしそうなったらどうするのか、自分でもちょっと考えてみる。
(春田くんは別に嫌いじゃないし……でも、他の子も狙ってたりするだろうから、自分なんかに靡くわけない……あぁ、でももし、そうなったらだし……ふーむ)
と答えが出ない。そこで木島がため息をつく。
「はぁ~……いい?冴えない男ってのは優しくされた子を好きになるもんなのよ。私が中学の時、変なデブに告られたの知ってるでしょ?あれよあれ。ちょっとイジっただけで好意持って来んだから……キモすぎ。もう二度と会わないから良いけど……って、そういう事、分かる?」
そういえば聞いたことある。
「カラオケで笑い話の種にしてたっけ……」「そうそう!あの話!」とちょっと話が盛り上がる。
木島はクラスメイトなら誰にでも喋りかける明るい性格の女子。コミュニケーションには並々ならぬ自信があると豪語する彼女は誰とでも仲良くなれる反面、裏表が激しい。彼女の振りまくフェロモンに騙されて夢破れた男子は数知れず。
「あんな根暗に好きになられたらストーカーされるわよ。困った事があったらいつでも頼りなさいよ。私が何とかしてあげるから!」
ドンッと虎田より発育のいい胸を叩く。このスタイルの良さも男子を勘違いさせる要因となっているのだが、彼女は「おしゃれだから」と短めのスカートをやめようとはしない。
そこでチャイムが鳴る。
「っと……時間だね」虎田はスピーカーから流れる大きな音に反応して視線を外す。
あんまり心に響いてないことを悟る木島だったが、「まぁいいや」と諦める。
「もっかい言うけど、なんかあったら……」
「うん。頼りにしてるよ、みーちゃん」
彼女の親友である虎田にしか許していないあだ名である。それを聞いた木島はほっと一息ついて、一緒に教室に戻る。この時、二人の思いは違えど、どちらも「春田」の事を考えていた。
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