魔王復活!

大好き丸

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第五十七話 思った通り

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日が落ち始めた夕方の空。

菊池(おそらく)兄に案内され、やって来たのはテラス付きのおしゃれカフェ。その名も”sera(セーラ)”。イタリアの言葉で夕方を指す言葉らしい。今の時刻にピッタリのカフェは、時間も時間なだけに席が空いている。

一杯約600円くらいするカフェラテを片手に優雅にカップに口を付ける滝澤。(コーヒー一杯でどんだけ金をとるんだ)と心で憤慨しつつ、奢りなので素直に受け取る春田。

香りを楽しみながら熱々のコーヒーを啜っていると。

「春田さん。わたくしと一緒にいるのは楽しいですか?」

おもむろに聞いてきた。(なんだ?突然……)と思いつつ、コーヒーカップに置く。

「どうだろうな……こういうのは慣れてないし、楽しいかどうかなんて分からないな。逆に聞きたいんだが、滝澤さんは俺といるのは楽しいのか?こういうのは異性じゃない方が話も弾んで楽しいと思うんだけど……」

「あら?わたくしは春田さんといられて楽しいですよ?こうしてお茶まで一緒に飲んでいただけて、ありがとうございます」

滝澤は春田に頭を下げる。

「ちょ、やめてくれよ。そんなたいそうな事でもないだろ?」

といいつつ、まんざらでもない。他人に感謝で頭を下げられることなんて自分の人生で言えば全くなかったことだ。照れくさくて仕方がない。コーヒーカップを持つ手に滝澤が上から優しく撫でる様に手を添える。

「良ければこれからもお友達でいてくれたらと思います」

この瞬間に悟る。(なるほど、本格的に堕としにかかったか……)
女である事の最大の利点を用い、春田を魅了しに来た。とりわけアイドルのように美人な造形は目に入れてもいたくない……どころか、誰もがうらやむ美貌で心を掴む。男なら誰もが付き合いたいと思うだろう。
だが、春田はその気持ちをぐっとこらえる。確かに美人だし、この女性とイチャコラ出来たら、何もいらないのではとすら思える。この行動の裏にある真実に目を背ければの話だ。

「……ああ、これからもよろしく」

至って冷静に対応する。この体になってからも変わらず思うのは、単に使われる人間になどなりたくないという事。どこかで必ず一歩引くという線引きをすることを念頭に置いているからだ。だから、どれだけ魅力的に映っても第三者からの目線で「これって大丈夫?」という見方をする事で騙されない精神構造を構築してきた。
この程度では揺れ動くことはない。

「はい!」

その返答に輝くような笑顔を見せる。まるで「そんな事一切考えてませんよ」と言いたげな明るく素晴らしい笑顔だ。(ヤバい騙される!!)と思いつつ、目線を外さない。ここで目を外せばきっと付け入るスキを与える。
しばらく見つめ合った後、どちらからともなく視線を外し、コーヒーにまた口を付ける。春田はここで探り合いが始まったと認識する。

いまので「堕ちた」と思うのか「手ごわい」と思ってくれているか、顔からは読み取れない。自分の中では拮抗していると思いたいが、完全に守り切れているとは思えないので、滝澤に軍配が上がるだろう。

ふと、視線を感じる。店内からの刺さるような視線は菊池兄によるものだ。

「滝澤さん。あの人は菊池のお兄さんとかそういうのですか?」

「あら?分かります?そうなんです。菊池は5つ離れた兄がいまして、付き人として雇い入れてます。菊池はその兄が大好きで、わたくしを警護するのはその真似事なんです。菊池とは友達でいたかったのですが、ある時期を境に、そういう扱いが出来ない間柄になってしまいまして……」

悲しそうな顔でコーヒーカップの淵をなぞる。何かあったようだ。
正直「へー」と流したい所だったが、そんな顔をされると流せない。

「なるほど……二人にはそんな関係が……」

といいつつ何が起こったのかは分からない。
細かく聞くつもりはないが、深刻な顔でそれっぽく言っておく。

「気にしないで下さい。わたくしにはあなたの様に普通に接してくれる方がいれば、それで満足なので、変わらぬ間柄でいて下さい」

ここにもう一人、滝澤に友達認定された奴がいたら思いっきり顔を向けて「言質を取った」と宣言したいくらいだ。「友達認定」はあくまで友達。先ずは友達からなど、駒として使うための体のいい言葉で在り、実際は虫よけの壁、いいように使えて遊べる人形扱いだ。
自分の思っていたことが白日の下にさらされたような受け答えに満足する。

「……今日はいい日だな……」

無意識に言葉が出てしまう。「え?何でです?」とちょっと嬉しそうに聞いてくる。「いや、こっちの事だから」とはぐらかすが、滝澤は「教えてくださいよぉ」と笑顔になる。
特にこれといった会話はしていないものの、二人の距離は大分近くなっていた。

目の端で菊池兄が席から立ち上がるのが見える。(なんだ?この空気に混ざりたいのか?それとも邪魔する気かな?)もう時間も時間だし、帰りたい所だった。ポイ子たちの事もあるから、菊池の行動は今こそが丁度いい。(良く動いてくれた)と褒めてやりたい気分になった直後、そことは違う所から声をかけられた。

「聖也様~!」

その声にビクッとなる。それはそうだろう。あるわけがないからだ。だが、声を聴き間違える事などないし、名前に「様」を付けるなどポイ子以外に存在しない。

「……あの方たちは春田さんのお知合いですか?」

「ははは……どうでしょうねぇ……」

といって徐々に後ろを振り向くと、昨日と同じように3人が揃って立っている。春田が振り向き、目が合うと、ポイ子の手がぶんぶん降られた。ポイ子を先頭に3人がこちらに向かってきた。菊池も同じタイミングで出てくる。何故かタキシードを脱いで鋭い目で睨んでいる。
見慣れぬ3人組が近づいている事を見て、出てきたようだ。

「……はい。俺の知り合いです……」
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