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第五十八話 謝罪
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「どうも~聖也の親戚で~す」
春田と合流するなり挨拶をし始めるマレフィア。
「え?春田さんの親戚の方でしたか。てっきり外国の方かと思いました」
そう見えるのも仕方ない。何故ならポイ子以外は日本人ぽくないからだ。
「分かります?実は遠い親戚で~。ほら聖ちゃん。紹介して頂戴」
急におばさんっポイ口調で春田に紹介を要求する。
「それには及びません。始めましてわたくしは滝澤詩音と申します。こっちは付き人の菊池です」
「菊池と申します。以後お見知りおきを……」
滝澤は菊池と共に自ら自己紹介を買って出る。「あら~、ご親切にどうも~」といって会釈をする。春田は目配せをして、ポイ子たちも自己紹介するように促す。
「私はヤシャだ」「ポイ子です」「それでうちがマレフィアで~す。よろしく~」とふざけた調子を崩さず、自己紹介を終える。
「や……?ぽい……?マレフィアさんは分かりますが、こちらのお二人の名前は……失礼ですが本名ですか?」
「……文句でもあるのか?」ヤシャは腕を組み滝澤を目いっぱい見下す姿勢を見せる。自分より遥か上の身長を持つ巨人に見下ろされると、獲って食われるかもと身構えるものだ。
「そんなつもりは……」とその凄味に焦るが、それに憤慨するのは他ならぬ菊池だ。
「ヤシャさん?でしたね……そういった態度はお辞め下さい。お嬢様がお困りです……」
吊り上がった大きな目をギョロリと菊池に向ける。「なんだお前」と言いたげな威圧する目で睨むが、菊池は物怖じせず睨み返す。春田と同じくらいの身長の菊池は見上げるような形となり、さながら某格闘ゲームの主人公と鬼のようなキャラクターが睨み合うポスターの構図と似ている。
殺意すら纏いそうなその視線は火花が散りそうな程。
「ほう……菊池といったな、中々の強者だ。その度胸は認めてやる」
「大変申し訳ないのですが、どこからの目線でしょう?喧嘩は体の大きさで決まるものではないですよ?」
(いや、決まる……)残念ながら、菊池はどれほど鍛えても、ただの人間であり、鬼には勝てない。そもそも素手同士ならいくら魔力で強化しようと、魔王であった元の自分以外でその肉体能力を上回るものなどいなかった。つまり素手同士ならこっちだろうが元の世界だろうが最強なのだ。
「……やめろヤシャ、喧嘩すんな。他のお客さんが入ってこれないから、もう行こう」
睨み合っていた視線を直ぐに切り、春田に向く。その切り替えの早さ、その変化は著しく、睨み合っていた菊池が拍子抜けしてしまう。肩をぶつけに行ったら直前で避けられたような肩透かしを食らう。
「確かにそうだな。お腹空いたし、とっとと帰ろう」
「え~……うちもこんなおしゃれなテラスでお茶したかったな~。聖ちゃんだけずるい~」
駄々をこねるマレフィア。春田に覆いかぶさるように抱き着く。
身長のわりに大きな胸が春田の後頭部を撫で正直気持ちいいが、気恥ずかしさが先行する。「馬鹿、くっつくな!」と突き放そうとするが、陰湿な魔女はそうされると盛り上がるタイプだ。「うりうり~」と胸をこすりつけてくる。
言っても無駄だと判断した春田はそのまま、ちょっとキリッとした顔でヤシャに伝える。
「ヤシャ、滝澤さんに謝るんだ」
「は?」その場の空気が変わる。ヤシャもマレフィアも滝澤も菊池も、突然の事に驚いた。ポイ子だけが、その場で「うんうん」と頷く。
「聖也様の言う通りです。ヤシャ様。その”滝澤さん”に謝ってこの場を収めてください」
「なんで私が……」春田はマレフィアの絡めてくる腕をどけて、真剣な顔で話始める。
「最初のお前の言い方に問題があった。それは俺も聞いていたし、言い訳のしようも無い程に……俺の友達に喧嘩を吹っ掛けたのは誰がどう見てもヤシャだ。お前が謝らないなら俺が謝る」
ポカーンだった。ポイ子はいざ知らず、ヴァルタゼアは傲岸不遜の存在。力に物を云わせ、逆らうものをねじ伏せてきたこの男が、「謝る?」マレフィアは元魔王の心境の変化に驚愕していた。
力を失い、ただの一般人として生活し、日本人として生きれば、謝罪という行為がどれだけ大切か身にしみてわかっているし、春田は普段から結構口癖のように謝るのだが、マレフィアが聞くのは初めてだった。
ヤシャもどうしたらいいか困っている様子なので、春田は手本を見せるつもりで謝る。
「滝澤さん、申し訳ございません。ウチの親族が失礼しました」
姿勢を正し、頭を下げる。堂に入った見事な謝罪を見せつけた。
「い、いえ。こちらこそ……菊池が煽ったために起こった事態です。わたくしからも謝罪させていただきます……」
静々と頭を下げる。菊池とヤシャはそのありように自分たちの仕出かしたことが、どうにもみっともない事だと思い知らされ、焦って頭を下げる。
「「も、申し訳ございませんでした!」」二人の声がハモる。これは真意から見れば、部下が上司に謝った感覚に近い。
体裁を保つための示威行為であり、ヤシャが菊池に、菊池がヤシャに本心から謝ったわけではないが、自分が失態を演じたことを悔いる為には必要な事だった。
とはいえ、営業妨害には違いない。
春田と合流するなり挨拶をし始めるマレフィア。
「え?春田さんの親戚の方でしたか。てっきり外国の方かと思いました」
そう見えるのも仕方ない。何故ならポイ子以外は日本人ぽくないからだ。
「分かります?実は遠い親戚で~。ほら聖ちゃん。紹介して頂戴」
急におばさんっポイ口調で春田に紹介を要求する。
「それには及びません。始めましてわたくしは滝澤詩音と申します。こっちは付き人の菊池です」
「菊池と申します。以後お見知りおきを……」
滝澤は菊池と共に自ら自己紹介を買って出る。「あら~、ご親切にどうも~」といって会釈をする。春田は目配せをして、ポイ子たちも自己紹介するように促す。
「私はヤシャだ」「ポイ子です」「それでうちがマレフィアで~す。よろしく~」とふざけた調子を崩さず、自己紹介を終える。
「や……?ぽい……?マレフィアさんは分かりますが、こちらのお二人の名前は……失礼ですが本名ですか?」
「……文句でもあるのか?」ヤシャは腕を組み滝澤を目いっぱい見下す姿勢を見せる。自分より遥か上の身長を持つ巨人に見下ろされると、獲って食われるかもと身構えるものだ。
「そんなつもりは……」とその凄味に焦るが、それに憤慨するのは他ならぬ菊池だ。
「ヤシャさん?でしたね……そういった態度はお辞め下さい。お嬢様がお困りです……」
吊り上がった大きな目をギョロリと菊池に向ける。「なんだお前」と言いたげな威圧する目で睨むが、菊池は物怖じせず睨み返す。春田と同じくらいの身長の菊池は見上げるような形となり、さながら某格闘ゲームの主人公と鬼のようなキャラクターが睨み合うポスターの構図と似ている。
殺意すら纏いそうなその視線は火花が散りそうな程。
「ほう……菊池といったな、中々の強者だ。その度胸は認めてやる」
「大変申し訳ないのですが、どこからの目線でしょう?喧嘩は体の大きさで決まるものではないですよ?」
(いや、決まる……)残念ながら、菊池はどれほど鍛えても、ただの人間であり、鬼には勝てない。そもそも素手同士ならいくら魔力で強化しようと、魔王であった元の自分以外でその肉体能力を上回るものなどいなかった。つまり素手同士ならこっちだろうが元の世界だろうが最強なのだ。
「……やめろヤシャ、喧嘩すんな。他のお客さんが入ってこれないから、もう行こう」
睨み合っていた視線を直ぐに切り、春田に向く。その切り替えの早さ、その変化は著しく、睨み合っていた菊池が拍子抜けしてしまう。肩をぶつけに行ったら直前で避けられたような肩透かしを食らう。
「確かにそうだな。お腹空いたし、とっとと帰ろう」
「え~……うちもこんなおしゃれなテラスでお茶したかったな~。聖ちゃんだけずるい~」
駄々をこねるマレフィア。春田に覆いかぶさるように抱き着く。
身長のわりに大きな胸が春田の後頭部を撫で正直気持ちいいが、気恥ずかしさが先行する。「馬鹿、くっつくな!」と突き放そうとするが、陰湿な魔女はそうされると盛り上がるタイプだ。「うりうり~」と胸をこすりつけてくる。
言っても無駄だと判断した春田はそのまま、ちょっとキリッとした顔でヤシャに伝える。
「ヤシャ、滝澤さんに謝るんだ」
「は?」その場の空気が変わる。ヤシャもマレフィアも滝澤も菊池も、突然の事に驚いた。ポイ子だけが、その場で「うんうん」と頷く。
「聖也様の言う通りです。ヤシャ様。その”滝澤さん”に謝ってこの場を収めてください」
「なんで私が……」春田はマレフィアの絡めてくる腕をどけて、真剣な顔で話始める。
「最初のお前の言い方に問題があった。それは俺も聞いていたし、言い訳のしようも無い程に……俺の友達に喧嘩を吹っ掛けたのは誰がどう見てもヤシャだ。お前が謝らないなら俺が謝る」
ポカーンだった。ポイ子はいざ知らず、ヴァルタゼアは傲岸不遜の存在。力に物を云わせ、逆らうものをねじ伏せてきたこの男が、「謝る?」マレフィアは元魔王の心境の変化に驚愕していた。
力を失い、ただの一般人として生活し、日本人として生きれば、謝罪という行為がどれだけ大切か身にしみてわかっているし、春田は普段から結構口癖のように謝るのだが、マレフィアが聞くのは初めてだった。
ヤシャもどうしたらいいか困っている様子なので、春田は手本を見せるつもりで謝る。
「滝澤さん、申し訳ございません。ウチの親族が失礼しました」
姿勢を正し、頭を下げる。堂に入った見事な謝罪を見せつけた。
「い、いえ。こちらこそ……菊池が煽ったために起こった事態です。わたくしからも謝罪させていただきます……」
静々と頭を下げる。菊池とヤシャはそのありように自分たちの仕出かしたことが、どうにもみっともない事だと思い知らされ、焦って頭を下げる。
「「も、申し訳ございませんでした!」」二人の声がハモる。これは真意から見れば、部下が上司に謝った感覚に近い。
体裁を保つための示威行為であり、ヤシャが菊池に、菊池がヤシャに本心から謝ったわけではないが、自分が失態を演じたことを悔いる為には必要な事だった。
とはいえ、営業妨害には違いない。
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