魔王復活!

大好き丸

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第七十七話 次なる者

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「マレフィアはどこじゃ?」

人類と魔族が長きに渡る戦いを経た世界大戦。その大戦で敗北を喫した魔族は滅亡を恐れて世界のはざまに逃げ込んだ。飢えも乾きも喜びすら存在しない、時の制止した世界”逢魔”。

魔族は一時の喜びの為に、この閉鎖された世界から出て行こうとする。しかし人類に出入り口を見つけられた魔族達は今では良い経験値稼ぎとして使用されるようになっていた。

四六時中見張られている為、出た途端に狩られる。時の止まった世界では強くなれない。衰える事も無いが、成長がないので、弱い者は弱いままだ。欲望を満たせずフラストレーションのみが溜まっていくばかり。

そんな時、外の世界からわざわざお客さんがやって来た。

「おやおや……こんな馬鹿げた世界ところにわざわざ……どこのどなたですかな?」

向かえたのはマレフィアの側近、サルマハンジャ。頭にターバンを巻き、黒々とした立派な口ひげを生やし、良く日焼けした男性。上半身は裸だが、下はゆったりとした腰布を巻き、首には骨と宝石で作ったネックレス。腕にはジャラジャラと腕輪が鳴り、足にはアンクルを付けた、東洋人の印象だ。
骨と皮だけのガリガリの見た目だが、彼に力など不要である。それというのも魔法の力が優れていて、敵は近付く事すら困難だ。彼の大戦を生き延びた猛者でもある。

対するは、こちらも良く日焼けした肌、長い耳のダークエルフの女性。エルフとは違い、他を圧倒する起伏にとんだ体。”豊満”という言葉が最も似合う。腰の位置まで伸ばした銀髪を三つ編みにして左肩から前方に出し、その豊満な胸に挟んでいる。その肢体を包むのはシルクのドレス。肌の黒さをシルクの白が際立たせ、お嬢様の様相を呈している。

「我が名はナルル……ナルル=エンプレス。奴はどこじゃ?」

「!……なるほど……貴女がナルル様でございましたか……噂では知っていましたが、お姿を拝見するのは初めてで……」

「どうでもよい。我が問いに答えよ」

隠れ四天王、ナルル=エンプレス。
ハチャメチャだった魔王が強い弱い関係なく気に入った奴らを上にあげる政策を行い、多くの部下を困らせていた。その象徴ともいえる彼女は元々ダークエルフの人質であり、本来こんなデカい顔をされるいわれも無い程に魔族とは関係ない。
どちらかと言えば人類側であり、この大戦中、ダークエルフに対する魔族からの干渉を一切しない事を条件に人質として差し出させた。

ダークエルフの里が丁度ヘルキャッスルの真後ろにあったので、敵に良い位置取りをさせない為に、交換条件を提示したわけだ。

魔王に弄ばれ、辱めを受けていたと上司マレフィアから聞いた。大戦が終結した今、ナルルは魔族と縁も切れたはず。マレフィアに今更、用などないはずだ。復讐の可能性もあるし、もしかしたら久しぶりに語らいに来たのかもしれない。しかし何であれ、わざわざ危険を冒してまでここに来るとは…。

「ここまで来ていただいて大変恐縮なのですが、マレフィア様は今ここにおられません。申し訳ないのですがまた後日改めて……」

「ほぅ……いないとな?ならばどこにおる?」

「ここではないどこか……としか存じませぬ。彼女は度々留守にされますが、秘密主義故、吾輩にも行き場所を明かしませぬから……」

ナルルは「ふんっ」と鼻を鳴らすと、サルマハンジャを無視してズンズン城に入っていく。

「ああ!お待ちを!」

その様子に少々焦り気味に後ろからついていく。城の内部は部下が常駐し、廊下にも多くの魔族達がいるが、ナルルの堂々とした振る舞いとサルマハンジャの様子に部下たちは驚き戸惑い道を開ける。無人の野を行くかのごときハイペースで歩くと、マレフィアの部屋に到着する。

ノックも遠慮もなく中に入ると、キョロキョロと中を見渡す。
応接用の机とソファを無視して、奥に設置された作業机に向かう。散らかった机の上の大量の書類を一枚一枚手にとっては斜め読みでさっさか読んでいく。

ようやく追いついたサルマハンジャはハァハァ息をつきつつその様子を目にとめる。

「ハァハァ……お、おやめくださいナルル様!……ハァハァ……許可もなく……見てはいけ……ハァ、いけません!」

流石に目に余る行為だった為、紳士を貫いていたサルマハンジャも声を荒げた。その声にピタッと手を止める。言ってきかない人ではない事に安堵したのも束の間、一枚の書類をじっと眺めていることに気付く。
彼が止めるより先に自分で欲しい情報を見つけたようだった。

「やはりそうか……」

ナルルは勝手に自分で納得する。何が「やはりそうか」なのか…とにかく今一度注意をするべく息を吸うと、彼女はサッと振り向く。突然目が合ったのでドキッとして言葉に詰まる。

「この”ニホン”とはどこの事じゃ?」

「……いや、知りませぬ」

突然聞かれても、聞いた事も無い国の事は答えようがないと素直に伝える。ナルルはその答えに不満を持ち、書類を彼に突き出す。その行動を訝しむも、書類を受け取り読んでみる。元居た世界とも今居る世界とも全く違う文化と雰囲気にふと気づく。

「これは……多分別の世界ですな……」

「別の世界じゃと?」

「はい。ナルル様が住まれている世界とも、ここ”逢魔”とも全く違う世界でございます。その世界の”ニホン”という場所に何度か行き来している事が書かれていますな……マレフィア様の行き場所…吾輩も気にはなっていましたが、まさか別次元だとは夢にも思ませんでした……」

ナルルにとってその答えは全く予期していなかったわけではない。別次元。ここよりずっと遠く次元を超えた先の世界。一時とは言え部下として過ごしてきた為、気配を感じ取っていた。予兆、予感、そして魂の胎動。虫の知らせ程度の気付きでしかないが、確かに感じ取っていた。

魔王ヴァルタゼアの復活を。

しかし、気配が小さすぎてどこで復活したのかが分からなかった。まるでこの世界ではないような希薄さ。その理由がようやく分かった。

「そこに行く方法は?」

「……はは……知りませぬ。吾輩は今この時に初めて書類を見たのですぞ?」

その問いに遂に刃物を抜く。どこに隠し持っていたのか右手に握るダガーは黒く輝いていた。刃先は彼の喉に触り、冷たい感触が死を感じさせる。だがサルマハンジャは身動き一つせず、先ほどの優しい紳士は鳴りを潜め、猛禽類のごとき鋭い目がナルルを睨みつける。その様子は歴戦の勇士を物語り、身震いすらする。そして彼女もそれに負けず劣らず暗殺者のごとき冷酷な目で見据える。

「……そこに……いや、次元転移の方法ならどうじゃ。お主も相当な手練れじゃろう?何か知らんのか?」

「……残念ながら、そちらの分野は修得しておりませぬ……」

その答えを聞くと、ナルルの手に力が入る。騒ぎを起こすつもりでここに来たわけではないが、感情が高ぶり手が滑りそうだ。

「ですが、その分野の研究者を知っております。良ければ紹介状を書きますよ?」

サルマハンジャは全く焦りもせずに滔々と語る。ナルルは喉元に当てたナイフを仕舞い、衣服を正すと、気品な立ち振る舞いでサルマハンジャを見る。一拍の間を置いて話し始めた。

「紹介状はいらん、一緒に来い。この書類の詳細と共にその者に説明するのじゃ」

何とも横柄な物言いである。すでに魔族とは縁もゆかりもないダークエルフの一般女性が何を偉そうにとも思えるが、一時とは言え四天王の名を冠して遥か上に在籍していた。その事実は変わる事がないし、何より伝統を重んじるサルマハンジャはふわっとそうなるんじゃないかと思っていた。

「お手上げだ」といった風を態度で示すと答える。

「……ハァ、まったく……分かりました。仰せのままに……ナルル様」
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