魔王復活!

大好き丸

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第七十九話 術

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「それで?行けるのか?行けないのか?」

ダークエルフの護衛の手引きで逢魔から出たナルルとサルマハンジャは、その護衛を引き連れて霧の谷に移動した。そこでサルマハンジャの言っていた次元転移の第一人者、別名「探求者」と出会った。

探求者は腹まで届く真っ白な髭を蓄え、白い眉毛も剛毛で目を隠している。頭は残念ながらハゲ上がり腰が曲がった老人だ。前のめりになってバランスが悪く、杖をついて歩くのがやっとという風貌だった。

「むやみやたらに次元は跨ぐものではないぞ?」

一人暮らしの狭い家の中を杖を突きつつ、やっとの思いで台所に行き、沸かしていたお茶を入れる。

「あ?なんじゃそれは?出来ない事への言い訳かい?」

その言葉を聞きカチンとなった探求者は、ギラリと鋭い目つきでナルルを睨みつける。が、彼は所詮研究者でしかない。戦った事も無い引きこもりの眼光などナルルの前では児戯に等しい。「なにか?」と言いたげな顔できょとんとしている。その雰囲気に強者の空気を感じ取った探索者は諦めたようにため息を吐く。

「……儂は次元転移の術を長年の研究から探り出しただけじゃ。狙った場所に行けるのかどうかは未知数。術事態は出来るが、必ずしもニホンに行けるとは到底断言できぬ……」

しょんぼりした顔でお茶をすする。

「ナルル様、彼ももうご高齢なのですからもう少し手心というものをですな……」

サルマハンジャもナルルの態度は行き過ぎだと嗜める。しかし、ナルルにそんなことはまるで関係がない。

「マレフィアはこの世界にも逢魔にもいない。あの女は次元を超え、ニホンにいるのじゃ!わらわもそこに行かねばならん!!この書類からなにか読み解けんのか!?」

段々ヒートアップする。気持ちが抑えきれず、ナルルは机に置いた書類を掲げて指をさす。

出会い頭に突きつけられた書類。彼も一応目は通しているが、書いてあることはニホンに行ったマレフィアの旅日記であり、それを次元転移に使用できるかどうかなど飛躍が過ぎる。

「……次元転移の怖さは先も言ったようにどこに飛ぶか分からんこと……つまりは戻ることも難しいということじゃ。狙った場所に飛べず失敗すれば、無数に存在する世界を死ぬまでさまようことになる。運良く辿り着ければ御の字。じゃが、故郷に帰るためにまたその運試しが必要になる」

「……想像したくないものですな……それを平気でやるんだからマレフィア様はやはり天才ですなぁ」

ちょっと誇らしげなサルマハンジャを無視してナルルは探求者に詰め寄る。

「どうということはない。運試し?結構なことじゃ。あやつに近付く事が出来るのじゃからな」

”あやつ”という言葉にサルマハンジャは引っ掛かる。マレフィアを探していたのだから彼女に用があるのだろう。しかし、この物言いは別の人物のことの様に感じた。

自分勝手な物言いは流石の探求者も聞き捨てならない。

「それはそなたは良いかもしれぬが、儂は見ての通りの老いぼれじゃ。いつぽっくり逝ってもおかしくない……」

ダークエルフの寿命は常人とは比べ物にならない。探求者は所詮ヒューマンであり前述したように高齢だ。今から幾ら長い年月を生きようともあと2、3年くらいの命じゃないかと推定できる。

「そのせいもあってか魔力の回復量が微々たるものになっておってのぅ、最近では魔力はあんまり使わんようにしとる。とはいえ、一人だけの転移なら最初は3回連続で世界を跨げる。それ以降の転移は1日1回ずつ、この方式なら何とか20回は転移が可能じゃ」

「つまりその20回の間に辿り着ければ問題ないわけじゃな?」

お茶を啜って一息つき、続きを話し始める。

「うむ。それ以上は儂の体がもたん。もし回数を使いきり、全てが失敗に終われば、よく分からん世界で一生を過ごす事になる。それでも良いか?」

良いわけがない。聞くまでもなくそんなものは論外だ。自分の人生をかけるにはこの提案はあまりにも博打過ぎる。運否天賦に身を任せるにはあまりにも経験がなさ過ぎて、踏み切ろうにも踏み切れない。ふと気になった事を質問した。

「……お前に弟子はいないのか?」

弟子が次元転移を使用できるなら20回などと言わず、100でも200でもいけるだろう。もちろん年齢がネックになっているので、若い弟子がいなかった場合は同じ20回かそれ以下だと思われる。

「儂の弟子は次元転移に興味が無かったからのぅ……まぁじゃが、聞いてみるか……」

といって右人差し指をこめかみに当ててじっとする。動かず喋らず、石像のように微動だにしない。そうしているとまるで座って寝ているようだ。

ナルルは台所に行き、綺麗目のコップを選んで水で濯ぐ、妥協できる範囲内で手を止め、持っていたハンカチで水気を拭き取ると沸かしていたお茶を入れる。

「お前もどうだ?」

ついでにサルマハンジャにもお茶を注ぐ。断る前に注がれたので少し渋い顔をしつつも「いただきます」と丁寧に受け取った。

しばらくお茶を啜ってまったりしていると、探求者がようやく動いた。

「あ、もしもし?儂じゃけど覚えとる?そうそう、師匠じゃけど~」

先程までとは打って変わって話し方が微妙に若者っぽくなる。

「おぬしは次元転移使えたっけ~?ん?いやいや、ただの転移じゃなくて次元転移。ほら、儂がちょくちょく研究しとったヤツ……え?あ、使える?マジ?」

それを聞いてナルルは身じろぎする。「まだ早い」と言いたげな顔で、探求者は手を上げて制する。

「いや、じゃって”必要ない”とか言ったじゃん。どうして次元転移を……あ、マジ?儂の研究を買ってた魔法使いが?ふんふん。え?独学で?なんじゃそりゃ……超天才じゃーん。すっげ……儂も会いたいんじゃけど、今どこ?紹介して欲しいんじゃが……ルーファ神殿。ん、りょーかい。すぐ行くから待っててー。はいはーい、はーい……」

ついさっきの年相応の声から見た目に会わない、よそ行き用の声を使い、弟子と話す探求者。ナルルたちに向き直るとオホンと咳払いを一つし、「……だ、そうじゃ」と今聞いたことに理解を求めた。

「ルーファ神殿……ですか……」

サルマハンジャは神妙な顔で考えるように下を向く。

ルーファ神殿は人間の領地にある三大神殿の一つ。ということはサルマハンジャはここまでだ。魔族である彼は神殿付近はおろか、境界線を越えることも出来ない。
出来ることなら自分も世界を跨いでみたかったが、そういうわけにはいかないようだ。

「うむ。ここからはそなたを連れていくことは出来ぬ。残念じゃろうが諦めて帰るのじゃ」

「ええ、そのようで……まぁ待つのには慣れてます。マレフィア様が帰還されたら、私も術を習うとします」

「ははっ」と乾いた笑いをした。

「旅行ではないぞ、これは。せねばならぬ義務じゃ」

ナルルはサルマハンジャの物言いに苛っとしたのか、語気を強めに吐き捨てる。

「……ナルル様。つかぬことをお聞きしますが、危険な次元転移を行い、マレフィア様を追うことになんの意味があるのでしょう?先程おっしゃっていたあやつとは何者なのでしょうか?」

「なに?……お前は誰の部下だ?サルマハンジャ」

ナルルは疑問符を浮かべながら、確かめるように聞く。

「誰ってマレフィア様ですが?」

「ならマレフィアは元々誰の部下だ?」

「は?そりゃもちろん魔王様ですが……ってまさか!」

その反応を見てようやく気がついたことに呆れて肩を竦める。

彼とは目的に関してすれ違いがあった。わざとずらしてきていたのか、それとも素なのかはっきりしなかったが為に腹が立っていたが、素なのだと分かってようやく腑に落ちた。無知蒙昧。所詮ぽっと出の烏合の衆。ナルルはサルマハンジャを心の底から見下していた。

ぽっと出なのは彼女にも刺さる事なのだが、その事に関しては棚上げしている。というより気付いていない。

「まぁ良い。大人しく待っているがいい」

ふんっと鼻を鳴らし、鼻持ちならない態度で踵を返す。その態度には彼もむかっ腹が立つ。しかし紳士な彼は表には出さない。一礼をしてその事を隠すのみだ。一拍の内に心に余裕の出来たサルマハンジャは重ねて質問する。

「……魔王様復活と言う事であれば、お迎えに上がると言う事。ですかな?」

四天王として魔王復活を待ち望み、魔族解放の一助になろうというのか?魔族としては願ってもいないが、ダークエルフは大戦に不参加であったため、迫害されたなどという話は聞かない。逆に手を出さなかったのが称賛されたほどだ。万が一後方から城を攻めていれば、ヘルキャッスルと共に犠牲になった可能性すらあった。

そんな種族が味方するなど人類からしてみれば寝耳に水であろう。これほど完璧な不意打ちは歴史を見ても数えるほどだろう。サルマハンジャは第二大戦の幕開けを見ている気になった。

「勘違いするな。あやつを探し出し、この手で絞める。その際2、3質問するだけだ」

「な!?殺すのですか?」

その場に緊張が走る。探求者も2人の様子を固唾を飲んで見守る。

「……ふーむ……答え次第じゃな。もうよいか?お前と違ってこれから忙しくなるからのぅ」
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