魔王復活!

大好き丸

文字の大きさ
100 / 151

第九十九話 監視

しおりを挟む
『ポイ子ン。そっちはどう~?』

「駅前からここまで以上なしです。聖也様を狙う影も今のところございません」

ポイ子は目立たない様に暗くトーンを落とした色合いの「PS」キャップを深く被り、伊達メガネとマスクをつけ、グレーのパーカーにホットパンツを合わせた、いつもと違う格好で春田のすぐ近くに付かず離れず警護に当たっていた。無断で来ているので、バレないようにも一生懸命だ。

『ポイ子よ、もう少し右に視線をずらせ。あれは誰ぞ?ベタベタしよって…』

視覚の共有化。マレフィアがポイ子にかけた魔法である。ポイ子の視界を完全に共有し、春田への脅威を注視している。駅前で春田たちに絡んでいたチャラ男の時を思えば平和そのものである。ナルルがちょっと嫉妬するくらいのものだ。

『!……動くぞ』

「分かってます」

お昼を食べ終わった後も駄弁っていた8人のグループは次の場所へ向けてトレーとゴミを片付け始める。その様子をポイ子の視界越しに見るマンション待機組から驚きの声が響いていた。

「……なんであんな奴に女が群がるわけ?あの金髪なんてもろに腕回してたし……」

「なんでだと?そんなこと聞かなくても分かるだろう?聖也はカリスマ性があるんだ」

それを聞いて頭を振るアリシア。

「どこが……あんな奴その辺にいくらでもいるじゃない……」

とは言ってみたが力の無くなった今の魔王がその力を誇示することなくあれだけの人を…それも女性を侍らせている所を見ると、あながちカリスマ性はあるのかもしれない。それか単純にこの世界の女が趣味が悪いのか。

「聖ちゃんモッテモテね。皆さん的には複雑な心境なんじゃない?」

ニーナが周りを見渡すが不服な顔などない。むしろ納得した表情だ。ヤシャは腕を組んで唸る。

「いや、流石というべきか……。あいつ口では色々不遇だと言っていたが、いざこうして見てみると楽しそうにしているじゃないか」

ナルルは口に手を当てて、笑みをこぼす。

「本当に……罪作りなヒト……」

やはり仕えるべき主だと喜びながらも、自分もその被害者だと少し困り顔で憂う。人質の皮を被り、魔王に近付いて暗殺を企てた日々を思い出したからだ。

あの頃は殺す事だけを思って何度も刃を向けたものだが、ある時それが不毛だと気付く。魔王が単純に強すぎた。

その上、魔王は彼女の暗殺の手口を、趣向を凝らした余興程度に楽しんでいたのだ。終いには彼女を四天王として大々的に発表し、顔見せこそしなかったがナルルの名を内外に知らしめた。

暗殺をすること事態が馬鹿馬鹿しくなったナルルは「もう暗殺してあげない!」と不貞腐れてしまい、それ以降は魔王のメイドとして働くことになる。

常に側にいて世話をする内に段々と気に入り、魔王に忠誠を誓い始める。そんな頃に突如離れ離れとなった。

魔王の死後、ようやく人質から解放されたはずの心に影を落とし、最近までふせっていた。魔王復活の虫の知らせがあったから自身も復活できたが、それがなかったら今も里に引きこもっていただろう。

「聖也のカリスマは魔性の物じゃ。ただの人間では抗うことなど出来まいて……」

それを聞いて鼻で笑うアリシア。

「はんっ!結局それじゃない。魅了の力を使って女をダシに力を誇示してるわけだ。卑怯な奴」

四天王三人の目がギラリと光る。その空気を察したニーナはアリシアを窘める。

「アーちゃん……そんな喧嘩売らないの。この世界に二度と来れなくなるのは嫌でしょ?」

「は?別にそんな事……」

握り締めたゲームのコントローラー、積まれたカセット、散乱するスナック菓子、注がれたジュースに目が行く。

「……あるけど……でも卑怯じゃん……」

その考えだけは譲らない。

「それはどうかな~。アリーちゃんはさ~、自分が強いと思ってる~?」

マレフィアはのんびり質問する。

「……あたしが強いのは当然じゃん」

「それはなんで~?」

「勿論、鍛えて鍛えて鍛え抜いたからよ!」

アリシアは腕を組んで誇らしげにしている。

「と言う事は鍛えれば~誰しもアリーちゃんレベルで強くなれるの~?」

「そりゃ鍛えれば誰だって強くなれるでしょ。あたしのは並大抵じゃないから追いつかれるはずないけどね」

アリシアは筋肉信者だ。鍛錬し、鍛錬し、鍛錬すればいつかいただきに到達できると信じて止まない生粋の武人。その考えはヤシャに通ずるものがあるが、ヤシャは口を開く。

「確かに鍛錬を積めば誰だってそれなりに強くなる。だが誰しも打ち止めがあり、自分の限界にぶち当たる……。お前は私と武器を持たず、魔力を使わず、腕力だけで対抗できると思うか?」

「は?そんなの無理に決まってるじゃない。純粋な力勝負じゃ勝ち目なんてないでしょ」

「そんなの常識」としたり顔。総合能力で勝てないからと腕力だけを引き合いに出してきた腕力マウント。師匠が剣術指南の際にやってきたマウントに似ている。「お主も経験さえ積めば一流になれる」つまり生きてきた長さを、それまで培った技術を武器に精神的勝利を師匠は感じていた。その半年後に軽々追い抜いて師匠を黙らせたのも記憶に新しい。

今回に限ってはそれとは違う種族の差である。

「そもそも人間とオーガじゃ生まれながらに筋量に差があるんだから、まして四天王のあんたと力勝負なんて……」

「なら武器は使えないが魔力が使えるならどうだ?勝ち目は有るか?」

アリシアはきょとんとする。

「そりゃまぁ、腕力だけなら……」

「それを私が卑怯と罵ったらお前はどうする?」

「いやだから、さっきも言ったけど根本的に体のつくりが違うじゃない。力を制限するなんてそっちこそ卑怯……」

そこまで言ってハッとするアリシア。ヤシャは腕を組んでアリシアを見据える。

「答えが出たな……その通りだ。生まれながらに差があるなど当然だ。能力は使ってこそ意味がある。それを使うなというのは酷ではないか?」

「で……でもでも、元魔王の力を使うなんてやっぱり卑怯でしょ。だって今は人間なんだもん」

それを聞いてナルルが鼻で笑う。

「ふっ……高みから何でも言えるもんじゃなぁ……勇者の血統で才覚と能力に恵まれたが卑怯とは片腹痛い」

アリシアはジロッと睨む。

「……喧嘩売ってんの?」

「うん?事実を言うただけじゃ」

アリシアの眉が吊り上がる。コントローラーをそっと置くと足の屈伸運動だけでスッと立ち上がる。かなりの身体能力だ。怒りで攻撃するつもりだろう。

「アーちゃんいい加減にしなさい」

ニーナはとうとう叱った。その声にピタッと止まる。

「でも、母さん……」

「ダメよ。言い負かされたからって暴力に訴えちゃ」

「ちょっ……あたしは負けたわけじゃ……!」

そこまで言って押し黙る。フンッと不貞腐れてゲームを再開した。

そうして言い合っていた間に春田たちはモールの1階に移動し、何かのショーの為に設営された舞台に向かっていた。座れるように長椅子が用意されていて、子連れの家族がチラホラ見える。

春田はそこに4人で座った。木島姉妹と竹内の内訳。虎田と高橋、館川と篠崎の4人は離れて行った。

「なにかの見世物かしら?私もここ行きたかったな~」

「いずれ行きましょ~。うちが案内したげる~」

ニーナとマレフィアはウフフと笑い合う。

「ポイ子。もっと近寄れ。真後ろに陣取れ」

『了解しました』

気付かれない様に後ろに行こうとするが、春田が後ろを気にし始めた。

『……駄目です。これ以上近寄れません』

「くっ……聖也め。勘の良い奴だ」

視線に気づいたのかここに来て周りを気にし始める。ポイ子のデフォルト顔ではすぐに気づかれてしまう。マンション待機組でポイ子の顔を変えようと思案したが、マレフィアは周りを見てふと気づく。

「のぅ……子供が多いと思わんか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...