魔王復活!

大好き丸

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第119話 変更

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剛蔵会長はヤシャの試合をモニターで観て目を丸くしていた。すぐ側で携帯の着信が入り、会長は画面を見ずに電話をとる。

『……いかがでしょうか?お祖父様』

その声が孫のものだと気付いた会長はニヤリと笑った。

「どこで見つけてきた?」

『友人の従姉妹です。あのホテルのビュッフェを食べ尽くした……』

「おぉ、そういえば……。流石だ、よくやったぞ詩織。それとお前の友人に会ったが、中々の少年だった。見る目がある。ワシは鼻が高いぞ」

べた褒めである。無理もない。ここまで完璧にお膳立てされれば感謝の一つも出る。その上、自分に匹敵する力を持った人物に出会えたのだ。感謝を通り越して、何でも欲しいものを無限にあげたいくらいだ。

『ふふ、お祖父様の楽しげな声を久しぶりに聴けただけで満足です。どうぞ楽しいパーティーを……』

といって通話が切れた。携帯を耳から離し机に置くとアゴヒゲを撫でた。

(あの女……ワシより強い……)

そう思えば武者震いが止まらない。

(いつ以来の緊張か……!)

喜びで顔もほころぶ。机に置いた携帯を置いた状態のままササッと操作し電話をかける。出た瞬間に言葉を発した。

「ワシだ。今宵の大会はルールを変更する。次の指示に従え……」

………

ヤシャと春田は悠々と控室に戻る。そこに変わらず滝澤が座っていた。菊池兄も変わらず側で不動の姿勢を貫く。変わっていると言えば温かい緑茶が用意されている事くらいか。

「一回戦突破おめでとうございます」

会釈すると、菊池兄も一緒に礼をした。

「からかっているのか?あの程度では私の足元にも及ばない」

入っていくと、湯飲みをスッと持ち上げる。

「ああ、お気をつけて。熱いので」

それを聞いてフンッと鼻で笑い、お茶をすする。ハラハラしながら見る滝澤に(なんでそこまで?)と思いながら春田も中に入って湯飲みに手をかけた。

「熱!あっつぅ!!」

手を離して冷やすように手を振る。ヤシャは全く意に介さずお茶をすする。ヤシャは熱に対する耐性を持っている。というより彼女を傷つけられる物を探すならかなり極端なものになるだろう。……一応、寒いのが苦手だったような気がするとふと思った。

「ふふっ」と滝澤は苦笑気味に語りかけた。

「ですよね。もう少し冷めるまでお待ちください」

そんな詮ない話をしていると、菊地兄の懐から着信音が鳴った。さっと取り出すと、2コール目には電話をとった。

「はい、菊地です。……ええっ!?」

驚いたように携帯を両手で抱えて背を丸める。そのまま「いや、しかし……」とか「はい……はい……」と頷き、一通りの話が終わると「失礼します」と電話を切った。

「どうしたの?」

滝澤も不思議な顔で菊地兄に質問する。困った顔で春田からヤシャを見て、滝澤で目が止まると一瞬逡巡し、語り始めた。

「……ルール変更です。大会はヤシャ様と他選手の力量の差を認め、一回戦終了の後、Bグループで勝ちあがった三人とヤシャ様の乱闘戦に変更されます。最後の一人になるまでのデスマッチにて勝敗を決します」

突然の変更には春田も滝澤も納得しない。

「……そんなのありかよ?」

「そんな一方的に……途中変更は大会の規定に反します。お祖父様に変更の訂正を……」

「Aグループも同様の措置が取られます。会長以下三人の参加者とのデスマッチ。会長もヤシャ様との対戦がお望みです」

つまりトーナメントの形は変えないが、決勝という大舞台を出来るだけ早くしたいと言う事らしい。そしてその変更で決して自分は負けずに決勝まで上がれるという気概を感じた。乱闘戦は一番強い奴を落とすのが基本になる。順当にいけば勝ち目がない、そう思える相手を残すのは馬鹿の極みだ。必ず三対一という構造が出来上がる。その一を倒した後、次は二対一、最後に一対一になる。

せっかく何でもありの異種格闘技戦を期待していたのに時間が短縮されるとあっては元も子もない。それに裏格闘技は出資者とその観客の賭け事で場が整っている事を思えばイレギュラーが過ぎる。大会前に選手がリタイアという現試合に置いて、既に一部で不満が出ているのもあり、この変更は大会存続も危ぶまれる。いや、元より人外とも言える会長が参加している時点で破綻しているのだが、それにヤシャが加わればこうなるのは最早必然か。

「中々粋な計らいだな。感謝する」

ヤシャはニヤリと笑うと湯飲みのお茶を飲みほした。

「待て待て。確かにお前には嬉しい計らいだろうが、あの外人空手家もギリギリだったのに、ここで増やされたらマジで死人が出ちまう……」

「力加減くらい心得ている。そんなに心配するな。私を信じろ」

ヤシャは湯飲みを置いて春田の肩を軽く叩く。どちらも微塵も負ける事を考えていない。どころかここに来てからというもの対戦相手しか心配していない。

この自信はどこから来るのか?傍から見れば不思議としか言いようがないが、菊池兄は理解している。自分が万が一ヤシャと当たった空手家と戦ったら負ける可能性の方が高い。どころか控室で一発K.Oした髭のキックボクサーと菊池兄がやり合えば勝利はない。全治2ヶ月といった所だろう。それを一切のダメージもなく倒し抜くなら、当然と言えるはずだ。

ヤシャは視線を上げると滝澤を見る。

「私は構わん、大会を続けろ。むしろここで終わるのを私は望まない」

それを聞くと、手に持った携帯を机に置いた。笑顔でヤシャを見ると座ったまま一礼した。
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