魔王復活!

大好き丸

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第132話 お風呂

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脱衣所に入った段階から自分の部屋の10倍以上の広さに圧倒され、服を脱ぐのも躊躇うほどだった。

スーパー銭湯にすらろくに行かなかったせいでもあるが、広さ以上に戸惑ったのは雅で絢爛豪華な点だろう。庶民である今、場違い感は否めない。

しかし呆けていては次に入る人に迷惑が掛かる。思いきって脱ぎ始め、用意されていた手拭いを持って風呂場に侵入する。そこに広がるのはそれこそ温泉のように広々とした湯船と四つのシャワーヘッド。

大衆向けに作られていないとはいえ、何人かと一緒に入れるようには作ってある。友達を呼んだりした時の為に抜かりはないということだろう。ライオンの顔の彫像からマーライオンのようにお湯を吐き出し、湯舟を満たし続ける。

春田はバスチェアに座るとシャワーを使用し始めた。広すぎる風呂場。寝転んでも問題ないほど広い。普段の風呂場では感じられない程背中が寂しいが、新鮮な面持ちで髪を泡で包みながらキョロキョロする。

「や~……すげぇなぁ……」

装飾がたくさんありつつも何もかもがピカピカで、カビが生えているような隙も無い。泡だらけの頭から手を放して風呂桶に手を伸ばす。裏返したり隅々まで見るが、この日に合わせて買ってきたような新品同様の輝きに圧倒される。使用するべきか泡だらけの手で持ってから考えてしまう程変な気持ちになっていた。
自分の部屋の風呂場を考えて、あんな狭い室内で掃除もろくにしなかったせいで生えたカビの事を思い出す。少しでも綺麗にしようという気が湧いてきた。

「帰ったらカビ専用の洗剤買わなきゃなぁ……」

頑固な汚れを根こそぎ落とすCMでお馴染みの例の洗剤を思い描きながら泡を洗い流す。体も洗って「さぁ入ろう」と立ち上がった時、カチャッと磨りガラスの扉が開いた。

突然開いた扉に「え?」と何も出来ず無防備に呆ける。そこにいたのは褐色肌の女性。出るとこ出てて、引っ込むところは引っ込んでるようなナイスバディ。特徴的な銀髪のとんがり耳はこの世のものではない事を示している。
言わずもがなダークエルフのナルルだ。

「おや?もう体を洗い終えたのかえ?少々遅かったみたいじゃのぅ……」

春田はあわわっと慌てて湯船にザパァンッと飛び込む。「熱っ!熱い!」と苦しみながら身もだえる春田。満たされた浴槽からお湯が必要以上にあふれ出るが、排水が間に合わず風呂場の床に湖を作った。

「バ……!お前何考えてんだ!!」

「ん~?何か悪い事でもあるかえ?」

イヤらしい顔でニヤニヤしながらシャワーヘッドの場所へと歩いていく。手拭い一枚を髪をまとめるのに使っていて他に何も持たず、全く隠す事も無く春田に見せびらかしている。バスチェアをじろじろ見るとさっきまで春田が座っていた椅子に狙って座った。

「いや、悪いだろ……考えてもみろよ。男女で裸の付き合いだぞ?少しは恥じらいを持って前を隠せよ……」

春田は茹だりそうな程顔を真っ赤にしてナルルから目を逸らすが、男の欲求が目をその美しい体に向かわせる。理性より本能の方が強い。
下半身の血流が湯の効果もあって凄く良い。破裂しそうなくらいだ。何とか気持ちを押さえるべく細く長い息を吐きながら落ち着ける。

「わらわの肢体なんぞ元の世界で良く見たじゃろうに。何がそんなに恥ずかしいのかえ?」

「あの時の俺と今の俺を比べるんじゃない!今は思春期真っ盛りの男の子なんだぞ!!」

唯一絶対の個であった魔王時代は興味がほとんどなかった性の話。今にして思えば、当時は自分こそが永遠で子孫など残さなくとも君臨し続ければ支障はなかったはずなのだ。事もあろうに人間に討伐されるなんて夢にも思っていなかった。社会の授業で歴史を学んでからというもの子孫を残す事に意味があったことを知り、保健体育を真面目に学んだが、そのせいで変に女を意識する中学時代となった事は記憶に新しい。

高校で住んでいた地域ごと学校を変えてようやく落ち着いてきたというのに……。

「鎮まれ鎮まれ鎮まれ……」

呪文のように怒張した股間に言い聞かせ、意識を晴らす様にライオンの彫像に目をやった。

「ほぅ、いい香りの石鹸じゃな。あの風呂の石鹸はまぁまぁじゃったが、これはかなり違うのぅ。体を洗うのが楽しくなる」

「……高級なんだろうぜ。一個一万円くらいするんじゃないか?」

500円もしない3個入りミルク石鹸を常用しているこっちと大富豪の石鹸を比べないで欲しいがこれは素直な意見なのだろうと口を噤む。

「聖也、タオルを持っとらんか?頭に巻いたのを取ると髪が邪魔で体が洗えないんじゃが……」

「持ってるには持ってるけど……」

「あるなら貸してくれ」

このタオルは現在股間を隠すようであって手放せばナルル以上にあられもない姿となってしまう。ナルルは彫像のように美しく自ら曝け出しているが、春田はヒョロヒョロで情けない上、部下の体で興奮しているのが一発でバレる。しかし体が洗えないのは可哀そうだ。春田は意を決して屈み気味に立ち上がる。そこでカチャッと新たな人物が入ってきた。
赤い肌に筋骨隆々の体。身長190cmを超える長身で角が二本さらにその上に生えている。体は引き締まっているのに胸に付いた二つの双丘はしっかり柔らかく大きい。こちらも恥ずかしげもなく大股開きで風呂場に堂々と入ってきた。オーガの頭領ヤシャだ。

湯気で大事な所がギリ見えなかったが、乳房はしっかり目で捉えてしまった。春田はゆっくりと浴槽に肩まで浸かっていった。

「なんだ?まだお前も入ったばっかりか?」

ヤシャはナルルの隣に座って蛇口を壊さないように軽く捻った。「チッ」と舌打ちして迷惑そうな顔を見せるが、スッと表情を変えてヤシャを見る。

「ふぅ……丁度良かった。そのタオルを貸してくれないかい?先に体を洗いたいんじゃが頭に使ってしもうての」

「あっそ、ほら使え」

ヤシャは何事もなくスッと渡した。ヤシャは先に頭を洗い始め、ナルルは体に泡を付け始めた。それを傍から見ない様にライオンの彫像を見ていた春田は呆れ気味につぶやく。

「……お前らさ、せめて俺が入った後に来いよ……」

「なんだ?良いだろ別に、減るもんじゃないし」

ヤシャはあっけらかんとしている。最初に来た時から全く恥ずかしがってないし、ヤシャは自分を男として見てないのかもなぁとふと思った。

そしてまたカチャンッと開いた時、「はぁ……」とため息を吐いた。

「全く、ポイ子め……お前は入る必要がない……だ……ろ」

くるっと振り向くとバスタオルに身を包んだ滝澤 詩織がそこにいた。

「これはこれは、皆様お揃いで。久方ぶりに狭い浴室を見ました」

ニコッと笑いながらそっと入ってきた。

「いや……ちょ……貴女はダメでしょ……」
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