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第一章 出会い
第二十話 交渉
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「アルパザ」は騒然としていた。
それもそのはず、伝説の吸血鬼が現代に甦ったのだ。
町の外は騎士たちの助言と手伝いのおかげで防衛線が敷かれ、迎え撃つ準備が整っていた。
とは言えアルパザは侵攻など一度もない町。
魔獣は単純で罠にもかかりやすかったため、中に侵入されたこともない。そんな町に知的生命体が滅ぼしに来るというのだから、非戦闘員は町の中央にある教会に閉じこもるしかなかった。
戦闘員は命を賭しても町を守る必要があり、その事実だけで、士気は下がった。
ここにあるのは木製の足止め用の罠と石造りで魔獣の攻撃を食い止められる強固な壁。一般人に毛が生えた守衛と最強の騎士団。
良かったら騎士団だけに任せたいところだが、数が足りないという理由から実力の有無にかかわらず守衛という名の、でくの坊が駆り出されていた。
「団長さん…吸血鬼なんだが…本当に来るのか?」
守衛のリーダーを務めていた元冒険者はあごひげを撫でながら団長に懐疑の目を向ける。
リーダーは元冒険者であり、元戦士である。屈強な体をもってみんなを指揮する。アルパザでは戦いに関しては一番の経験者であり、自らの3倍はでかいモンスターと素手で戦って勝った記録がある。
今でもその力は健在だし、頼れる兄貴分だが、魔族との戦いに疲れ、若いうちから隠居生活をしていた。黒々としたあごひげに、よく日に焼けた肌で健康的な雰囲気を醸し出す。最近結婚の話もある今をときめく優良男児である。
好きな女が教会にいる以上、絶対に負けられない戦いがそこにはあるが、見てない以上、彼の伝説の化け物が現れることが信じられない。
「来ないことを祈るほかない。来るのであれば我らの装備で何とか撃退するしかないだろうな」
黒曜騎士団団長ゼアルは剣の柄に手を置き、化け物に抜くその時を今か今かと待つ。
日が落ちはじめ町の入り口前の松明に火を灯したころ、森からフラフラと人影が一つ見える。
団長は手を上げ、団員に合図を送る。その合図で壁の上に立った団員の4人は弓を引く。いつでも撃てる態勢に入ったその時、
「待ってくれ!撃つな!!」
人影は右手を挙げて、かぶっていた帽子を取る。頭より上に掲げ、手を振る。自分が何者かを知らせようとしている。
「あれは…?」
団長は目を凝らして人物を把握する。
「ハイネスか!撃つな!射撃中止!!」
団長は、ラルフもといハイネスに駆け寄る。左腕を布で吊って、顔に絆創膏を貼り付け、出会った頃と比べ、明らかに傷が増えている。
「ハイネス!よくぞ生きて戻った…無事ではないようだが」
生きていること自体が奇跡だが、その傷はどれだけの戦いがあったか想像させる。
「ああ…防衛網はできているな…警戒を緩めないようにしてくれ、もしかしたらそこまで来ているかもしれねぇ」
「なんだと!?」
団長は森の暗闇を凝視している。しかし気配がない、今はいないのか気配を消せるのかは定かではない。何故なら、昼間にも吸血鬼は仲間を襲ったのだから、何が起こっても不思議ではない。
「まぁ安心しろ団長さん、俺たちは奴を何とか追い詰めている」
「!ど…どうやって?」
ラルフは帽子をかぶり直し、団長とのスペースをすすすっと詰める。
「伝説は全部が全部、本当じゃないってことさ」
肩から下げたカバンをあけチラリと中身を見せる。
そこにあったのは蝋燭のように白い手だった。
「まさかこれは…」
ニヤリと不敵に笑って見せる。
これが意味することは、
「…奴は不死身ではない…殺せるのか?」
ラルフはカバンを閉めて、町に向かって歩き出す。
「それはまだわからないが、俺たちは腕を取った。もしかしたら殺せる可能性があるってことだ」
団長は森を一瞥した後、ラルフの横に並んで歩く。
「ハイネス、あの化け物のところに案内しろ」
「まぁ慌てるなよ、目下捜索中だ。信頼できる仲間が追い詰めてるから時間の問題だろうがな。万が一ここに来たら危険だ。警戒を解かせるな」
団長はハンドサインを駆使して騎士団に警戒の強化を伝える。現在の姿勢を崩すことなく、緊張感が生まれる。流石イルレアンの騎士団、統率力が高い。
「おい、団長さん…そいつは…」
入り口近くまで戻った時、守衛のリーダーに声を掛けられる。
「ああ、この人は…」
団長がハイネスを紹介しようとしたその時
「ああっと!これはご無沙汰してます!ハイネスです!元気してましたかぁ!隊長さん!!」
とラルフは慌てて間に入る。守衛のリーダーは知り合いでもちろんラルフのことを知っている。それも悪い意味で。ラルフと仕事の件で争ったことは一度や二度じゃ効かない。
ちょっと離れたところまで隊長と呼んだ守衛のリーダーを連れて行くと、コソコソと話し始める。
「おい、どういうことだラルフ…まさか吸血鬼の話事態デマってんじゃないだろうな?」
「いやマジだって。んな事よりここは話を合わせてくれよ。ややこしい事になるし、全部後で話すからさ。」
ラルフはリーダーに幾らかの宝石を握らせる。それを確認したリーダーは一瞬、鼻筋が伸びた後、咳払いをして、真剣に向き直る。
「まぁ…そうだな…約束だぞ?必ず話せよな」
ラルフはリーダーの元を離れ、団長のもとに急ぎ戻って
「現状の危険を少しでも知ってもらうつもりで」とかなんとかうまいこと言いくるめる。その後。
「団長さん…折り入って話があるんだが…」
と二人きりになれるよう提案する。
「いいだろう、例の場所へ…」
町に入って人のいないカーテンの引かれた屋台の前を通る。避難が完了しているため、町は静かなものだった。閑散とした町の中央付近あるに高級宿「綿雲の上」に到着する。
団長が借りた一室に通される。いい部屋だ。
この宿でも一番の部屋と思われる。
多分スイートと呼ばれる奴だろう。
一人用ソファに机を挟んでそれぞれが向かい合うように座り、団長はラルフに話をするよう手ぶりで促した。
ラルフはカバンから書類を出し、机に書類を置く。
イルレアン国の紋章を施した由緒正しい依頼書だ。
「今回の一件、俺はこう見ているんだが…第二魔王は、実は吸血鬼なんじゃないかってな?」
団長はラルフ、もといハイネスの意見に眉をしかめる。
「突然何を言い出す。そんなわけないだろう」
おかしな奴を見る目でラルフを見る。
「そうか?この話を聞いた時からそんな気がしてたんだがな、考えてみたら変じゃないか?魔王がここにいるなんて、ここアルパザは魔族にも襲われない安全な土地のはずだろ?」
ラルフはもったいぶって一拍置いて話し出す。
「つまりは見間違えによる誤認が生んだ捜索劇だったってことだ。魔王なんて最初からいなくて、俺たちの勘違いで吸血鬼を追っちまってたってのは考えられないか?」
「そんなはずは…」
団長は口元を覆い考え込む。確かに、そういう事も在るのかもと揺らいでいる証拠だろう。
団長は少し考えて、口を開く。
「君のチームはどういう内訳で行動しているんだ?我々は一人も目にしてはいないんだが」
ラルフは矛先がこちらに向いたことに少々焦る。
今話しているのは魔王と吸血鬼の事だ。
「……企業秘密ってやつだ。ちなみにリーダーは俺な」
もちろんチームなんていない。ハッタリと素性の隠ぺいで万が一の事が起こった時の切り札とするのはいつもの事だ。この団長がどういう意図で話を反らしたのかを考える。
「…ならこの話はここまでだ」
「ん?」
ラルフは突然話を切られ、団長も席を立つ。
「あとは我々が対処する。早急に吸血鬼のもとに案内するための引継ぎを行え。引継ぎを無事に終えたら、その時点で仕事に見合った給金を支払う」
「待てよ、何でそうなるんだよ」
団長は立った状態で姿勢を正し、上から見下ろすような態度をとる。その様は罪びとに向ける様な冷たい目だった。
「ハイネス…君の言いたいことは分かる、チームの一人が亡くなったという話も聞いた。つらいのも分かるしこれ以上は酷な話だと思う…」
ラルフは団長が言いたいことが分からず、頭に?マークを浮かべる。
「だが我らも仲間を失っている。その事は分かってほしい。吸血鬼に関しては責任をもって討滅する。完全にな…その上で魔王の捜索は続ける。これは果たさねばならない」
そこまで言われればラルフにも言いたいことが想像つく、この団長はラルフに「お前は怖気づいた」といいたいのだ。しかし誇り高い騎士様とはいえ、恐怖は誰にでもあるだろう。軽蔑されるのは心外だ。
「いや、ちょっと待てよ団長さん…」
「魔王と吸血鬼を混同している可能性だと?そういう幻想に頼って逃亡を図りたいのだろう?あまつさえ今回の一件を一つにまとめて給金の全額請求など…ハイネス、君のことを信じていたが、そういう行動に出られると私としても黙ってはいられない」
なるほどと納得した。なぜこんな目で見られているのかようやく理解できた。つまりは言いくるめて金をふんだくろうとする盗人のような奴に自分を重ねているんだと気づいた。
「…先程から言うように私も君の気持ちは分かる。今回の件に関して何かを追求するような真似はしない。だから安心して仕事を引き継げ、以上だ」
ラルフを外に出るよう促している。
(この団長…鋭すぎんだろ…)
実際、この考えは当たっている。吸血鬼を魔王と一緒くたにすることで、余計な手間を減らし、尚且つ成功報酬として、全額ふんだくろうと思っていた。さらに「アルパザの底」の店主の信用も回復し、盗掘品の換金までがセットになる素敵なおまけ付きで。
思惑が外れたラルフは立ち上がって、身なりを正した後、団長を睨み付ける。
「一方的にガンガン言ってくれたな、団長さんよ…」
壁際に備え付けられた水差しの所まで歩き、コップに水を注ぎながら続きを話す。
「…あんたに質問だが、今回の件に関しては出来すぎているとは思わないのか?魔王が”古代種”と戦って、その直後に裏切られて死にかけている、なんて話を…」
ピクッといった感じで眉が上がる。表情を崩さないように頑張っているが隠しきれてない。ラルフはその変化を見逃さない。
「”古代種”に戦いを挑むこと自体がおかしいじゃないか。魔族が歴史上、一度だけ戦いを挑んだ記録はあるが、その結果は言うまでもないだろう?」
コップをもう一つ用意し水を注ぐ。
「団長さん…こういう話はちょっと考えれば想像ができるだろ?それにどういうわけか伝説の吸血鬼が絡んでる。おあつらえのシチュエーションじゃないか。これはもう勘違いだろうが事実だろうが、知らないなら混同するのも無理もない話だと、そうは思わないか?」
ラルフはコップを一つは右手にもう一つは吊った左手に器用に挟んでもって団長のところに歩く。
「ハイネス…君は何が言いたい?」
団長の間合いに入り、その問いに答える。
「あんた…なんか隠しているだろ」
その答えに団長は目を細め、剣の柄に手を置く。
脅しのつもりだろう。そしてそれを見たラルフも心の中でビビる。しかしラルフは止まらない。
「なぜ俺の見解を無視して魔王捜索を続行できる?それが国の命令だからか?いや、そうじゃない。あんたは知ってるんだ。魔王は必ずこの森にいることを、そしてその情報を得ているんだろう?」
団長は剣の柄を握る。右利きだろう団長だが、左手で抜きそうなほど力が入っている。この話し合いのゴールを求めて必死に言葉をつなぐ。
「だからこそ言いたい」
ラルフはコップを団長に差し出し、
「俺を盗人呼ばわりする前に、情報を開示してくれ。全部じゃなくていい。代わりといっちゃなんだが、俺のチームと現在の吸血鬼についての情報を開示する」
団長はコップを見つめる。
今の状況を整理しているようだ。
握りしめていた手が力を緩めて柄から離れる。
「…良いだろう、情報を共有しよう。だが開示できる情報は少ない、国家機密なんでな。それでもいいかな?」
「決まりだ」
団長はコップを受け取り、コップ同士を打ち付ける。示し会わせたように二人とも飲み干した。何とか交渉の余地はある。
しかし魔王と吸血鬼が完全に別の者となってしまった今、切り札を失ったラルフは打開策を探し、糸口を探すのだった。
それもそのはず、伝説の吸血鬼が現代に甦ったのだ。
町の外は騎士たちの助言と手伝いのおかげで防衛線が敷かれ、迎え撃つ準備が整っていた。
とは言えアルパザは侵攻など一度もない町。
魔獣は単純で罠にもかかりやすかったため、中に侵入されたこともない。そんな町に知的生命体が滅ぼしに来るというのだから、非戦闘員は町の中央にある教会に閉じこもるしかなかった。
戦闘員は命を賭しても町を守る必要があり、その事実だけで、士気は下がった。
ここにあるのは木製の足止め用の罠と石造りで魔獣の攻撃を食い止められる強固な壁。一般人に毛が生えた守衛と最強の騎士団。
良かったら騎士団だけに任せたいところだが、数が足りないという理由から実力の有無にかかわらず守衛という名の、でくの坊が駆り出されていた。
「団長さん…吸血鬼なんだが…本当に来るのか?」
守衛のリーダーを務めていた元冒険者はあごひげを撫でながら団長に懐疑の目を向ける。
リーダーは元冒険者であり、元戦士である。屈強な体をもってみんなを指揮する。アルパザでは戦いに関しては一番の経験者であり、自らの3倍はでかいモンスターと素手で戦って勝った記録がある。
今でもその力は健在だし、頼れる兄貴分だが、魔族との戦いに疲れ、若いうちから隠居生活をしていた。黒々としたあごひげに、よく日に焼けた肌で健康的な雰囲気を醸し出す。最近結婚の話もある今をときめく優良男児である。
好きな女が教会にいる以上、絶対に負けられない戦いがそこにはあるが、見てない以上、彼の伝説の化け物が現れることが信じられない。
「来ないことを祈るほかない。来るのであれば我らの装備で何とか撃退するしかないだろうな」
黒曜騎士団団長ゼアルは剣の柄に手を置き、化け物に抜くその時を今か今かと待つ。
日が落ちはじめ町の入り口前の松明に火を灯したころ、森からフラフラと人影が一つ見える。
団長は手を上げ、団員に合図を送る。その合図で壁の上に立った団員の4人は弓を引く。いつでも撃てる態勢に入ったその時、
「待ってくれ!撃つな!!」
人影は右手を挙げて、かぶっていた帽子を取る。頭より上に掲げ、手を振る。自分が何者かを知らせようとしている。
「あれは…?」
団長は目を凝らして人物を把握する。
「ハイネスか!撃つな!射撃中止!!」
団長は、ラルフもといハイネスに駆け寄る。左腕を布で吊って、顔に絆創膏を貼り付け、出会った頃と比べ、明らかに傷が増えている。
「ハイネス!よくぞ生きて戻った…無事ではないようだが」
生きていること自体が奇跡だが、その傷はどれだけの戦いがあったか想像させる。
「ああ…防衛網はできているな…警戒を緩めないようにしてくれ、もしかしたらそこまで来ているかもしれねぇ」
「なんだと!?」
団長は森の暗闇を凝視している。しかし気配がない、今はいないのか気配を消せるのかは定かではない。何故なら、昼間にも吸血鬼は仲間を襲ったのだから、何が起こっても不思議ではない。
「まぁ安心しろ団長さん、俺たちは奴を何とか追い詰めている」
「!ど…どうやって?」
ラルフは帽子をかぶり直し、団長とのスペースをすすすっと詰める。
「伝説は全部が全部、本当じゃないってことさ」
肩から下げたカバンをあけチラリと中身を見せる。
そこにあったのは蝋燭のように白い手だった。
「まさかこれは…」
ニヤリと不敵に笑って見せる。
これが意味することは、
「…奴は不死身ではない…殺せるのか?」
ラルフはカバンを閉めて、町に向かって歩き出す。
「それはまだわからないが、俺たちは腕を取った。もしかしたら殺せる可能性があるってことだ」
団長は森を一瞥した後、ラルフの横に並んで歩く。
「ハイネス、あの化け物のところに案内しろ」
「まぁ慌てるなよ、目下捜索中だ。信頼できる仲間が追い詰めてるから時間の問題だろうがな。万が一ここに来たら危険だ。警戒を解かせるな」
団長はハンドサインを駆使して騎士団に警戒の強化を伝える。現在の姿勢を崩すことなく、緊張感が生まれる。流石イルレアンの騎士団、統率力が高い。
「おい、団長さん…そいつは…」
入り口近くまで戻った時、守衛のリーダーに声を掛けられる。
「ああ、この人は…」
団長がハイネスを紹介しようとしたその時
「ああっと!これはご無沙汰してます!ハイネスです!元気してましたかぁ!隊長さん!!」
とラルフは慌てて間に入る。守衛のリーダーは知り合いでもちろんラルフのことを知っている。それも悪い意味で。ラルフと仕事の件で争ったことは一度や二度じゃ効かない。
ちょっと離れたところまで隊長と呼んだ守衛のリーダーを連れて行くと、コソコソと話し始める。
「おい、どういうことだラルフ…まさか吸血鬼の話事態デマってんじゃないだろうな?」
「いやマジだって。んな事よりここは話を合わせてくれよ。ややこしい事になるし、全部後で話すからさ。」
ラルフはリーダーに幾らかの宝石を握らせる。それを確認したリーダーは一瞬、鼻筋が伸びた後、咳払いをして、真剣に向き直る。
「まぁ…そうだな…約束だぞ?必ず話せよな」
ラルフはリーダーの元を離れ、団長のもとに急ぎ戻って
「現状の危険を少しでも知ってもらうつもりで」とかなんとかうまいこと言いくるめる。その後。
「団長さん…折り入って話があるんだが…」
と二人きりになれるよう提案する。
「いいだろう、例の場所へ…」
町に入って人のいないカーテンの引かれた屋台の前を通る。避難が完了しているため、町は静かなものだった。閑散とした町の中央付近あるに高級宿「綿雲の上」に到着する。
団長が借りた一室に通される。いい部屋だ。
この宿でも一番の部屋と思われる。
多分スイートと呼ばれる奴だろう。
一人用ソファに机を挟んでそれぞれが向かい合うように座り、団長はラルフに話をするよう手ぶりで促した。
ラルフはカバンから書類を出し、机に書類を置く。
イルレアン国の紋章を施した由緒正しい依頼書だ。
「今回の一件、俺はこう見ているんだが…第二魔王は、実は吸血鬼なんじゃないかってな?」
団長はラルフ、もといハイネスの意見に眉をしかめる。
「突然何を言い出す。そんなわけないだろう」
おかしな奴を見る目でラルフを見る。
「そうか?この話を聞いた時からそんな気がしてたんだがな、考えてみたら変じゃないか?魔王がここにいるなんて、ここアルパザは魔族にも襲われない安全な土地のはずだろ?」
ラルフはもったいぶって一拍置いて話し出す。
「つまりは見間違えによる誤認が生んだ捜索劇だったってことだ。魔王なんて最初からいなくて、俺たちの勘違いで吸血鬼を追っちまってたってのは考えられないか?」
「そんなはずは…」
団長は口元を覆い考え込む。確かに、そういう事も在るのかもと揺らいでいる証拠だろう。
団長は少し考えて、口を開く。
「君のチームはどういう内訳で行動しているんだ?我々は一人も目にしてはいないんだが」
ラルフは矛先がこちらに向いたことに少々焦る。
今話しているのは魔王と吸血鬼の事だ。
「……企業秘密ってやつだ。ちなみにリーダーは俺な」
もちろんチームなんていない。ハッタリと素性の隠ぺいで万が一の事が起こった時の切り札とするのはいつもの事だ。この団長がどういう意図で話を反らしたのかを考える。
「…ならこの話はここまでだ」
「ん?」
ラルフは突然話を切られ、団長も席を立つ。
「あとは我々が対処する。早急に吸血鬼のもとに案内するための引継ぎを行え。引継ぎを無事に終えたら、その時点で仕事に見合った給金を支払う」
「待てよ、何でそうなるんだよ」
団長は立った状態で姿勢を正し、上から見下ろすような態度をとる。その様は罪びとに向ける様な冷たい目だった。
「ハイネス…君の言いたいことは分かる、チームの一人が亡くなったという話も聞いた。つらいのも分かるしこれ以上は酷な話だと思う…」
ラルフは団長が言いたいことが分からず、頭に?マークを浮かべる。
「だが我らも仲間を失っている。その事は分かってほしい。吸血鬼に関しては責任をもって討滅する。完全にな…その上で魔王の捜索は続ける。これは果たさねばならない」
そこまで言われればラルフにも言いたいことが想像つく、この団長はラルフに「お前は怖気づいた」といいたいのだ。しかし誇り高い騎士様とはいえ、恐怖は誰にでもあるだろう。軽蔑されるのは心外だ。
「いや、ちょっと待てよ団長さん…」
「魔王と吸血鬼を混同している可能性だと?そういう幻想に頼って逃亡を図りたいのだろう?あまつさえ今回の一件を一つにまとめて給金の全額請求など…ハイネス、君のことを信じていたが、そういう行動に出られると私としても黙ってはいられない」
なるほどと納得した。なぜこんな目で見られているのかようやく理解できた。つまりは言いくるめて金をふんだくろうとする盗人のような奴に自分を重ねているんだと気づいた。
「…先程から言うように私も君の気持ちは分かる。今回の件に関して何かを追求するような真似はしない。だから安心して仕事を引き継げ、以上だ」
ラルフを外に出るよう促している。
(この団長…鋭すぎんだろ…)
実際、この考えは当たっている。吸血鬼を魔王と一緒くたにすることで、余計な手間を減らし、尚且つ成功報酬として、全額ふんだくろうと思っていた。さらに「アルパザの底」の店主の信用も回復し、盗掘品の換金までがセットになる素敵なおまけ付きで。
思惑が外れたラルフは立ち上がって、身なりを正した後、団長を睨み付ける。
「一方的にガンガン言ってくれたな、団長さんよ…」
壁際に備え付けられた水差しの所まで歩き、コップに水を注ぎながら続きを話す。
「…あんたに質問だが、今回の件に関しては出来すぎているとは思わないのか?魔王が”古代種”と戦って、その直後に裏切られて死にかけている、なんて話を…」
ピクッといった感じで眉が上がる。表情を崩さないように頑張っているが隠しきれてない。ラルフはその変化を見逃さない。
「”古代種”に戦いを挑むこと自体がおかしいじゃないか。魔族が歴史上、一度だけ戦いを挑んだ記録はあるが、その結果は言うまでもないだろう?」
コップをもう一つ用意し水を注ぐ。
「団長さん…こういう話はちょっと考えれば想像ができるだろ?それにどういうわけか伝説の吸血鬼が絡んでる。おあつらえのシチュエーションじゃないか。これはもう勘違いだろうが事実だろうが、知らないなら混同するのも無理もない話だと、そうは思わないか?」
ラルフはコップを一つは右手にもう一つは吊った左手に器用に挟んでもって団長のところに歩く。
「ハイネス…君は何が言いたい?」
団長の間合いに入り、その問いに答える。
「あんた…なんか隠しているだろ」
その答えに団長は目を細め、剣の柄に手を置く。
脅しのつもりだろう。そしてそれを見たラルフも心の中でビビる。しかしラルフは止まらない。
「なぜ俺の見解を無視して魔王捜索を続行できる?それが国の命令だからか?いや、そうじゃない。あんたは知ってるんだ。魔王は必ずこの森にいることを、そしてその情報を得ているんだろう?」
団長は剣の柄を握る。右利きだろう団長だが、左手で抜きそうなほど力が入っている。この話し合いのゴールを求めて必死に言葉をつなぐ。
「だからこそ言いたい」
ラルフはコップを団長に差し出し、
「俺を盗人呼ばわりする前に、情報を開示してくれ。全部じゃなくていい。代わりといっちゃなんだが、俺のチームと現在の吸血鬼についての情報を開示する」
団長はコップを見つめる。
今の状況を整理しているようだ。
握りしめていた手が力を緩めて柄から離れる。
「…良いだろう、情報を共有しよう。だが開示できる情報は少ない、国家機密なんでな。それでもいいかな?」
「決まりだ」
団長はコップを受け取り、コップ同士を打ち付ける。示し会わせたように二人とも飲み干した。何とか交渉の余地はある。
しかし魔王と吸血鬼が完全に別の者となってしまった今、切り札を失ったラルフは打開策を探し、糸口を探すのだった。
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この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
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