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第二章 旅立ち
第八話 結託
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皆終わりを悲観していた。
空を覆う黒い影が見えた時、絶望と恐怖から町の中央にある教会に逃げ込むのが大半で、残りは自宅で引きこもってしまった。
骨のある守衛が十数名。
吸血鬼騒動の時は全員参加で、持ち場がないから遊ばせていた奴もいたのに、今は圧倒的な人手不足に陥っていた。
それぞれ呼びかけるも反応がないか、拒否する者たちばかり。ただ殺されるのを待つばかりの、まな板の食材である。
「リーダー、我々はどうすればいいのでしょうか…勝ち目がない上に、士気も無い。魔族が一匹なら何とかして見せますが、あの数は…」
部下たちの焦りがリーダーをつつく。
「移動手段もない以上、戦う以外に生き残る術はない。…黒曜騎士団も力を貸してくれる。俺たちならやれるさ」
根拠のない自信。誰もが暗い顔をする。
それもそのはず、黒曜騎士団を誰一人見ていないのだ。いるというがどこにいるのか?破格の戦力を有する、職業騎士たちの鼓舞がなければこの状況は変わらない。
(ラルフ…何をしている…)
流行る気持ちを押さえつつ、配置を決める。
入り口付近に何人かと教会前に何人かの二択まではすぐに決まる。
町の両端や壁の上などにも配置したいが人数もいないし、何より部下達が他に行きたがらない。
そういう場所は必然人も少なく配置されるので、生き残る可能性が極端に減る。
「おい!騎士の方たちだ!」
その声は喜びに満ち、期待と興奮が混じった朗報だ。歓喜のあまり「おお!」と声が出る。ただ一人を除いて…。
ゼアル団長がリーダーに近寄り声をかけた。
「守備はどうなっている」
リーダーは団長の顔をあまり見ないように町の地図を広げ、指さしで今の状況を伝える。
「こことここの二ヶ所に分担して守る。悪いがあの時より人は少ない。何とかそっちで工面して欲しいんだが…」
「教会に人がいるのか?ならここに最終防衛ラインを引き上げろ。教会を襲撃されたら終わりだ、という事を敵に知らせるな」
団長は教会の近くに少数精鋭をおき、他に回すよう進言する。具体的には皆が嫌がった四隅や壁側だ。
「それじゃ、守る事は難しくなるだろ。相手の量と強さを考えたらこれじゃ不味い。ただでさえ少ねんだから、他に回せるかよ。固まって、一斉に攻撃するのが一番だ」
リーダーは魔族と人との力量に言及し、指南書に書かれている5,6人での対処を考え行動していた。
それにしたって物量で相手に負けているが。
「貴様も分かっているだろうが、ここにいない守衛を含めても、あの魔族の十分の一も倒せない。私の部下とて、今の戦力ではその量すら倒せないのが現状だ」
団長はハッキリと敗北宣言をする。
今さら逃げられないのに、ここに来て皆、裏切られた気になり絶望に沈む。
「だが、守る事は出来る。我々には撃退は不可能だが、あれなら出来る」
そう言うと団長は空を指差す。
その先には空を覆い尽くす大群と戦う小さな点がいる。
「…正気かよ…あいつは魔族だぞ?!あいつにアルパザの運命を託すのか!」
「いや、勿論我々も全力を尽くす。人のために戦うのが我ら騎士団の使命」
その言葉を聞くや否や、そこにいた騎士が全員足を揃え、右手を水平に胸を叩く。示し会わせたかのようなきれいな敬礼だった。
こんな状況でもなければ感動したのだろうがリーダーはその敬礼に苛立ちと焦りを感じた。
「口だけなら何とでも言える!お前ら騎士団のせいでこの町は…」
「ストップ!そこまでだ!」
聞こえた声に目をやると、ラルフが立っていた。
その発言を遮ったのはラルフだった。
「仲間割れはよせ。今すべきは町を守る事だ」
言うに事欠いてとはこの事だ。
真っ先に裏切ったやつが道徳を説く。
だが、正論ではある。
まずは直近の危険をどうにかするのが先だ。
「ラルフ…お前はどうなんだ?なにか考えでもあるのか?」
リーダーは団長の顔が見たくないばかりにラルフに向き直り、眉をそばだてて問う。
「ある。というより団長は打開策があるのにもったいぶって話していないだけだ」
ラルフは団長をチラッと見て発言を促す。
「余計な事を言うな…だがその通り。既に手は打ってある」
リーダーは「はぁ?」という不思議な顔を作った後、町の四隅に光る何かを見た。光は上に伸びていき、町の上を通過し、テントの骨組みのような形に組み替えられた後、薄い皮膜のような光が町を包んだ。
「結界だと!?」
ここでそんなものを見るとは夢にも思わず、守衛の全員が顔を見合わせ信じられないといった顔の後、それぞれが喜びを表している。
「すごいな…噂以上の装置だ…こんな物、いつも持ち歩いてんのかよ」
ラルフも初めての光景に目を丸くする。
「これは簡易的なもので、すべての攻撃に対処できるものというわけではないし、通常の結界に比べて脆い。しかし無いよりはマシだろう」
団長は地図を取り上げ、四隅を指さす。
「結界を展開する装置がこの四つ。一つでもやられたら解除される。守衛はここで守備を固めろ。崩されたらそれこそ終わりだと思え」
団長は今いる動けるやつらを睨むように、力強く、またそれ以上の真剣さをはらんで見渡す。
「壮観じゃノぉ」
気の抜けたような声が背後から聞こえてくる。振り返ると、この場に呼びたくなかった化け物が空を眺めていた。
その肌は白く生き物であることを否定する。
美しい女性だが、ただならぬ異彩を放つ。
不死身の化け物。
吸血鬼、ベルフィアの登場だ。
「退屈しとっタ所じゃ。妾も混ぜい」
昨日の敵は今日の友まではいかないし、こんな化け物の手も借りなければならない事態に何とも言えない気分に陥る。
しかし役者は揃った。
絶望から一転、一筋の希望すら見える。
その時、西の空が白く輝いた。
その光は放たれた箇所を大きく抉り、その部分を削り取った。
そこにいたであろう、多くの魔族を消し炭とする一撃。
「さすがは魔王様。何と雄々しき一撃か…」
ベルフィアは恍惚に打ち震えている。
その一撃がミーシャから放たれたものだと知ると団長は舌打ちをして魔剣に手をかける。あの時の苦い出来事を思い出しムカついていた。
リーダーもその光を見て、正直美しいとすら思った。彼の魔王は本当に戦ってはいけないのだと実感する。団長を捻った時は全く力を出していなかったのだと思い知った。
「あいつが食い止めている隙に配置につこう」
ベルフィアでさえ熱を上げているのに、ラルフは一人冷静に周りに対応を促す。
その力を知っているからという事ではなく、「まぁあいつならやるんじゃないかな?」という謎の信頼からだった。
「これ…もしかして、あの魔族だけでいいんじゃ…」
腑抜けたことを間抜け面で守衛の一人が言う。
ベルフィアは聞き捨てならないことを聞いたとその守衛を睨みつける。「ひっ」と小さく悲鳴が上がる。
「よせ、後にしろ…言っとくが油断は禁物だ。大半を殺せても、抜けてくる奴が必ずいる。敵に備えて…」
「来たぞぉ―!!」
ラルフがごちゃごちゃ言ってる間に敵が抜けてきたようだ。思ったより早かった。
「どこからだ?」
団長が聞こえた先を見ると、猛スピードで駆けてくる、二つの影が見えた。すでに魔族が二体侵入してきていた。
「しまった!すでに入られていたか!!」
リーダーは焦って両手持ちの斧を構える。団長も魔剣を抜き、ラルフはダガーの柄を持つ。ベルフィアは余裕そうに成り行きを見ていた。
「ほぅ…これは面白い。ラルフ。妾たちの客が来ヨっタぞ」
「は?」
その目はその魔族を捉えていた。どんなに素早くても動体視力は常人を遥かに凌ぐ。その上、かなり遠くも見通せるようで、その影の主を補足していた。
ラルフも目を凝らす。
見える位置までやって来た時、ラルフは頭を抱えた。
「人狼か」
団長はその姿を見とめると、種族名を口にした。
それは先日、騎士団同様、ミーシャに止めを刺しに来た人狼である。
人狼もラルフたちを見つけると、すぐ近くまで接近し、足を止めた。
守衛たちはガタガタ震えながら武器を構える。騎士の連中も剣を構えたり、弓を引いたりして牽制する。
「おい!コラ!人狼!!ここにはミーシャはいないぞ!見ろ!西の空を!!意味ないから帰れよ!!」
ラルフは一歩前に出て人狼を怒鳴りつける。正直うんざりしていた。自分の犯した過ちが来ちゃったら、イラついたりもする。
「クタビレタ帽子ニ無精ヒゲノ男。コノ下郎デ間違イナイナ?ジュリア」
「ソウヨ、コイツガ ラルフ ヨ」
人狼はラルフの言葉を一切無視して会話している。その会話を聞いて、一瞬血の気が引く。この第一印象から名前の紹介。狙いはミーシャではなく…
「ラルフ…ダッタナ。貴様ノ命ヲ頂ク」
その言葉を聞くと周りの奴らは一斉にラルフを見る。一瞬の間が開き、ベルフィアは笑い出す。
「ふふはっ!本当にモテモテじゃノぉラルフぅ!」
腹を抱えて笑い出す。
ラルフはベルフィアを見て嫌な顔をする。
人の不幸は蜜の味をこれほど楽しむ奴を見るのは人生でも稀である。
「笑うなよ。こっちはシャレにならないんだからな」
「ふふふ…しっかし妬けルノぉ…妾には目もくれぬノか?ラルフばかりに気を取られず、こっちも見ルが良いぞ飼い犬ども」
ベルフィアも左半身を前に出し右半身を下げるいつもの臨戦態勢に入る。
団長は突きの構えをし、リーダーは斧を真横に構えた。
「ラルフを救う事になるのか…気は乗らんがこれもこの町の為だ。平和の礎となれ人狼ども!」
「おうよ!!蹴散らしてやろうぜぇ!!」
リーダーはその場で大声を出し、部下たちの士気を挙げる。その声に触発され、周りは「おぉー!!」という雄たけびを叫ぶ。
「ヤレルカ?ジュリア」
「任セテ兄サン。援軍モ モウスグ来ルケド、アタシ達デモ十分ヨ。力ノ差ヲ見セテヤリマショウ」
空を覆う黒い影が見えた時、絶望と恐怖から町の中央にある教会に逃げ込むのが大半で、残りは自宅で引きこもってしまった。
骨のある守衛が十数名。
吸血鬼騒動の時は全員参加で、持ち場がないから遊ばせていた奴もいたのに、今は圧倒的な人手不足に陥っていた。
それぞれ呼びかけるも反応がないか、拒否する者たちばかり。ただ殺されるのを待つばかりの、まな板の食材である。
「リーダー、我々はどうすればいいのでしょうか…勝ち目がない上に、士気も無い。魔族が一匹なら何とかして見せますが、あの数は…」
部下たちの焦りがリーダーをつつく。
「移動手段もない以上、戦う以外に生き残る術はない。…黒曜騎士団も力を貸してくれる。俺たちならやれるさ」
根拠のない自信。誰もが暗い顔をする。
それもそのはず、黒曜騎士団を誰一人見ていないのだ。いるというがどこにいるのか?破格の戦力を有する、職業騎士たちの鼓舞がなければこの状況は変わらない。
(ラルフ…何をしている…)
流行る気持ちを押さえつつ、配置を決める。
入り口付近に何人かと教会前に何人かの二択まではすぐに決まる。
町の両端や壁の上などにも配置したいが人数もいないし、何より部下達が他に行きたがらない。
そういう場所は必然人も少なく配置されるので、生き残る可能性が極端に減る。
「おい!騎士の方たちだ!」
その声は喜びに満ち、期待と興奮が混じった朗報だ。歓喜のあまり「おお!」と声が出る。ただ一人を除いて…。
ゼアル団長がリーダーに近寄り声をかけた。
「守備はどうなっている」
リーダーは団長の顔をあまり見ないように町の地図を広げ、指さしで今の状況を伝える。
「こことここの二ヶ所に分担して守る。悪いがあの時より人は少ない。何とかそっちで工面して欲しいんだが…」
「教会に人がいるのか?ならここに最終防衛ラインを引き上げろ。教会を襲撃されたら終わりだ、という事を敵に知らせるな」
団長は教会の近くに少数精鋭をおき、他に回すよう進言する。具体的には皆が嫌がった四隅や壁側だ。
「それじゃ、守る事は難しくなるだろ。相手の量と強さを考えたらこれじゃ不味い。ただでさえ少ねんだから、他に回せるかよ。固まって、一斉に攻撃するのが一番だ」
リーダーは魔族と人との力量に言及し、指南書に書かれている5,6人での対処を考え行動していた。
それにしたって物量で相手に負けているが。
「貴様も分かっているだろうが、ここにいない守衛を含めても、あの魔族の十分の一も倒せない。私の部下とて、今の戦力ではその量すら倒せないのが現状だ」
団長はハッキリと敗北宣言をする。
今さら逃げられないのに、ここに来て皆、裏切られた気になり絶望に沈む。
「だが、守る事は出来る。我々には撃退は不可能だが、あれなら出来る」
そう言うと団長は空を指差す。
その先には空を覆い尽くす大群と戦う小さな点がいる。
「…正気かよ…あいつは魔族だぞ?!あいつにアルパザの運命を託すのか!」
「いや、勿論我々も全力を尽くす。人のために戦うのが我ら騎士団の使命」
その言葉を聞くや否や、そこにいた騎士が全員足を揃え、右手を水平に胸を叩く。示し会わせたかのようなきれいな敬礼だった。
こんな状況でもなければ感動したのだろうがリーダーはその敬礼に苛立ちと焦りを感じた。
「口だけなら何とでも言える!お前ら騎士団のせいでこの町は…」
「ストップ!そこまでだ!」
聞こえた声に目をやると、ラルフが立っていた。
その発言を遮ったのはラルフだった。
「仲間割れはよせ。今すべきは町を守る事だ」
言うに事欠いてとはこの事だ。
真っ先に裏切ったやつが道徳を説く。
だが、正論ではある。
まずは直近の危険をどうにかするのが先だ。
「ラルフ…お前はどうなんだ?なにか考えでもあるのか?」
リーダーは団長の顔が見たくないばかりにラルフに向き直り、眉をそばだてて問う。
「ある。というより団長は打開策があるのにもったいぶって話していないだけだ」
ラルフは団長をチラッと見て発言を促す。
「余計な事を言うな…だがその通り。既に手は打ってある」
リーダーは「はぁ?」という不思議な顔を作った後、町の四隅に光る何かを見た。光は上に伸びていき、町の上を通過し、テントの骨組みのような形に組み替えられた後、薄い皮膜のような光が町を包んだ。
「結界だと!?」
ここでそんなものを見るとは夢にも思わず、守衛の全員が顔を見合わせ信じられないといった顔の後、それぞれが喜びを表している。
「すごいな…噂以上の装置だ…こんな物、いつも持ち歩いてんのかよ」
ラルフも初めての光景に目を丸くする。
「これは簡易的なもので、すべての攻撃に対処できるものというわけではないし、通常の結界に比べて脆い。しかし無いよりはマシだろう」
団長は地図を取り上げ、四隅を指さす。
「結界を展開する装置がこの四つ。一つでもやられたら解除される。守衛はここで守備を固めろ。崩されたらそれこそ終わりだと思え」
団長は今いる動けるやつらを睨むように、力強く、またそれ以上の真剣さをはらんで見渡す。
「壮観じゃノぉ」
気の抜けたような声が背後から聞こえてくる。振り返ると、この場に呼びたくなかった化け物が空を眺めていた。
その肌は白く生き物であることを否定する。
美しい女性だが、ただならぬ異彩を放つ。
不死身の化け物。
吸血鬼、ベルフィアの登場だ。
「退屈しとっタ所じゃ。妾も混ぜい」
昨日の敵は今日の友まではいかないし、こんな化け物の手も借りなければならない事態に何とも言えない気分に陥る。
しかし役者は揃った。
絶望から一転、一筋の希望すら見える。
その時、西の空が白く輝いた。
その光は放たれた箇所を大きく抉り、その部分を削り取った。
そこにいたであろう、多くの魔族を消し炭とする一撃。
「さすがは魔王様。何と雄々しき一撃か…」
ベルフィアは恍惚に打ち震えている。
その一撃がミーシャから放たれたものだと知ると団長は舌打ちをして魔剣に手をかける。あの時の苦い出来事を思い出しムカついていた。
リーダーもその光を見て、正直美しいとすら思った。彼の魔王は本当に戦ってはいけないのだと実感する。団長を捻った時は全く力を出していなかったのだと思い知った。
「あいつが食い止めている隙に配置につこう」
ベルフィアでさえ熱を上げているのに、ラルフは一人冷静に周りに対応を促す。
その力を知っているからという事ではなく、「まぁあいつならやるんじゃないかな?」という謎の信頼からだった。
「これ…もしかして、あの魔族だけでいいんじゃ…」
腑抜けたことを間抜け面で守衛の一人が言う。
ベルフィアは聞き捨てならないことを聞いたとその守衛を睨みつける。「ひっ」と小さく悲鳴が上がる。
「よせ、後にしろ…言っとくが油断は禁物だ。大半を殺せても、抜けてくる奴が必ずいる。敵に備えて…」
「来たぞぉ―!!」
ラルフがごちゃごちゃ言ってる間に敵が抜けてきたようだ。思ったより早かった。
「どこからだ?」
団長が聞こえた先を見ると、猛スピードで駆けてくる、二つの影が見えた。すでに魔族が二体侵入してきていた。
「しまった!すでに入られていたか!!」
リーダーは焦って両手持ちの斧を構える。団長も魔剣を抜き、ラルフはダガーの柄を持つ。ベルフィアは余裕そうに成り行きを見ていた。
「ほぅ…これは面白い。ラルフ。妾たちの客が来ヨっタぞ」
「は?」
その目はその魔族を捉えていた。どんなに素早くても動体視力は常人を遥かに凌ぐ。その上、かなり遠くも見通せるようで、その影の主を補足していた。
ラルフも目を凝らす。
見える位置までやって来た時、ラルフは頭を抱えた。
「人狼か」
団長はその姿を見とめると、種族名を口にした。
それは先日、騎士団同様、ミーシャに止めを刺しに来た人狼である。
人狼もラルフたちを見つけると、すぐ近くまで接近し、足を止めた。
守衛たちはガタガタ震えながら武器を構える。騎士の連中も剣を構えたり、弓を引いたりして牽制する。
「おい!コラ!人狼!!ここにはミーシャはいないぞ!見ろ!西の空を!!意味ないから帰れよ!!」
ラルフは一歩前に出て人狼を怒鳴りつける。正直うんざりしていた。自分の犯した過ちが来ちゃったら、イラついたりもする。
「クタビレタ帽子ニ無精ヒゲノ男。コノ下郎デ間違イナイナ?ジュリア」
「ソウヨ、コイツガ ラルフ ヨ」
人狼はラルフの言葉を一切無視して会話している。その会話を聞いて、一瞬血の気が引く。この第一印象から名前の紹介。狙いはミーシャではなく…
「ラルフ…ダッタナ。貴様ノ命ヲ頂ク」
その言葉を聞くと周りの奴らは一斉にラルフを見る。一瞬の間が開き、ベルフィアは笑い出す。
「ふふはっ!本当にモテモテじゃノぉラルフぅ!」
腹を抱えて笑い出す。
ラルフはベルフィアを見て嫌な顔をする。
人の不幸は蜜の味をこれほど楽しむ奴を見るのは人生でも稀である。
「笑うなよ。こっちはシャレにならないんだからな」
「ふふふ…しっかし妬けルノぉ…妾には目もくれぬノか?ラルフばかりに気を取られず、こっちも見ルが良いぞ飼い犬ども」
ベルフィアも左半身を前に出し右半身を下げるいつもの臨戦態勢に入る。
団長は突きの構えをし、リーダーは斧を真横に構えた。
「ラルフを救う事になるのか…気は乗らんがこれもこの町の為だ。平和の礎となれ人狼ども!」
「おうよ!!蹴散らしてやろうぜぇ!!」
リーダーはその場で大声を出し、部下たちの士気を挙げる。その声に触発され、周りは「おぉー!!」という雄たけびを叫ぶ。
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