48 / 718
第二章 旅立ち
第九話 存続と生存
しおりを挟む
人狼は二体。
対して守衛は十四人。
騎士は十人。
団長とリーダーとラルフ、
そして吸血鬼のベルフィア。
数の上では完全に負けている。
だが、この二体は人とは隔絶した力を持っている。
人狼は中級魔族に数えられるかなり強い部類だ。
下級魔族一体程度で5,6人の戦力が必要であり、それをそのまま考えるなら人狼には敵わない。
その上、この二体は上級魔族に匹敵し、人狼一族でも破格の能力を持っている。人間であればどれだけ数を揃えても勝ち目はない。
ジュリアは自分たちだけでも十分と言ったが、もう一体の人狼、ジャックスはそう思っていない。これだけ勝てる要素が揃っているが、致命的に勝てない要素も含まれている。
人でない女は、一度戦ってその強さを垣間見た。その再生能力はスライムのような不定形の生物を思わせる。物理攻撃を通さない生物ほど、厄介な奴はいない。
そして、得体のしれない武器を持つ人間。
青白く光り輝く剣を持つ男はただならぬ力を秘めている。モンクであり、経験と研鑽を積んだ彼だからこそわかる。近寄ればただでは済まない。
「ジュリア。アノ女ト、アノ騎士ニハ手ヲ出スナ。特ニ、アノ女ハ化物ダ。オ前デハ勝テナイ」
ジャックスはジュリアに危険信号を送る。
ジュリアはその言葉に頷きで答える。
一度、大きな失敗を演じた彼女は身勝手に行動しない。さらに続けて指令を出す。
「女ハ俺ガ抑エル。ソノ間ジュリア ハ、戦場ヲカキ回セ。アノ騎士ニハ、チョッカイヲ出ス程度ニ抑エテ、隙ガアレバ ラルフ ヲ殺セ」
ジュリアはラルフに焦点を当てる。
ラルフは見られている事を感じて、ダガーを鞘から半分ほど出す。
その時、体に異様な寒気を感じ、体が止まる。
ジュリアの目は赤く染まり、ラルフを睨んでいた。
”血走った目”という人狼特有のスキルである。その目で見られた生物は恐怖で体を一瞬麻痺させるという効果があり、行動を遅らせることができる。
自分より強かったり、同レベルの強さがあれば抵抗されるし、そもそも感情の無いものには意味がない。戦いには不向きなスキルだが、狩りには使える。
そのスキルの発動がラルフの動きを止める事を改めて確認したジュリアが、ラルフに対してウインクで挑発する。
「あのヤロー…」
ラルフはジュリアの行動に危険を感じ、目だけで周りを見渡す。正直、ここで勝てるのは団長とベルフィアの二人だけだ。他の連中は壁にはなっても、それ以上は期待できない。
これはアルパザ存続の戦いであり同時にラルフ生存の戦いでもある。
自分が生き残る為なら他者を利用する。
が、あまりに使えない奴の影に隠れても、まるで無意味だ。ジュリアはラルフを狙うのは分かった。もう一匹はどっちを狙う?ベルフィアか、団長か。
となれば生き残りをかけた考えは一つ。
ジャッ
という音と共に直進する人狼。
先に火蓋を切ったのは相手側だった。足が速く、みるみる内に距離が縮まる。
「行くぞぉ!」
リーダーが声を張り上げ、真っ先に前に出る。流石は元戦士。タンクとしてヘイトを稼ぐつもりだ。それに触発されて、何人かの守衛と騎士が続く。
「退け」
その後ろでベルフィアが動く。
完全に出遅れたのに、一瞬でリーダーの真横に来た。リーダーもその早さに一瞬戸惑うが、足を止めて、その場に待機した。半歩後ろで騎士他、部下たちも足を止める。
最初に接敵したのはベルフィアで、相手はジャックス。あの戦いの再現である。ガキンッという鋼鉄を打ち合ったような音が聞こえたかと思うと、両者が取っ組み合っていた。
ジュリアは作戦通りジャックスにベルフィアを任せ
人間の壁に飛び込んだ。
リーダーはタイミングを会わせて斧を横凪ぎに振るう。一線を退いた戦士だが、その圧は凄まじく、その豪腕は旋風を起こす。
ジュリアは斧に触れることなく空中に飛ぶ、人の壁の頭上を飛び越え、後ろを取る。
見据えるのはラルフ。しかしラルフの姿が見当たらなかった。壁に阻まれた一瞬の隙をついて逃げられたようだ。
「シマッタ」と思いラルフを探すと、その姿は団長の影になるように隠れていた。
ラルフは団長に守ってもらえるよう位置をずらして強いものの後ろに回り込んだ。案の定ベルフィアは突っ込んでいったが、団長はその場にとどまった。
ジャックスに言われたことを思い出し、舌打ちをした後、団長から離れるように人の壁の側面に走り出す。目の前に来た敵に、守衛も剣を振りかぶるが、その下に潜り込むように通り抜けられる。
武器を振りかぶった自分に対し突撃してくる、そんな敵の戦い方を知らないこの守衛は慌てて剣を振る。タイミングが合わず、そのまま地面をたたく。
完全に隙だらけだったが、攻撃を与えず、ただただ挑発して目の前を通り過ぎるだけ。騎士には鎧に爪を立てる程度で通り過ぎ、その動きで翻弄しつつ、いつでも命が取れると教え込む。ジュリアはこの戦いの主導権を握った。
「何をしている!体勢を崩すな!相手は走り回っているだけだぞ!陣形を取り直して敵の攻撃を防ぐんだ!!」
団長は不甲斐ない戦いを繰り広げる部下たちに檄を飛ばす。その言葉に団長を中心として円を描くように騎士で囲む方円の陣形を組む。守衛も触発され、周りを見渡せるように背中をかばい合う。
すぐさま陣形が変わったことに感心し、ジュリアは一度動きを止める。ジュリアの姿を見とめると、彼女の方向に合わせてすぐさま陣形を魚鱗に変えた。
騎士はそれを流れるように変えていく、団長の存在は非常に厄介だ。
まるで機械のような統率力は、数々の戦闘経験と訓練、その動きを徹底的に叩きこんだ指揮官の賜物である。
あの男が生きている限り崩せない。
即ちラルフを殺すことができない。
だが、事を焦ってあの男を狙えば、ラルフの時と変わらない痛手を食う事になりかねない。兄の言ったことを守りつつ、時間をかけて少しずつ…
「全ク…面倒ネ…」
一方ベルフィアは、またもジャックスと相対しその力を見せつけていた。基本的な肉体能力がすでに強いベルフィアはとにかく攻撃を繰り出した。
疲れを知らない体は、ジャックスを追い詰める。
ジャックスは防戦一方だが、最小の動きで攻撃をかわし体力を温存しつつ、ベルフィアの攻撃を見ていた。
放つ右拳は受け流し、潜り込んでくる左の抜き手は紙一重で避ける。右上段蹴りを両腕で止めた時、ベルフィアの体勢が大きく崩れた。
この隙に足を払おうと屈んだ瞬間に左膝が飛んでくる。完全に虚を突かれた形になるが、ジャックスの動体視力はその動きに追いつく。
足首のみで膝の攻撃に合わせて飛ぶ。間一髪で直撃をかわしたジャックスは間合いを開けて着地する。
ベルフィアは無理な体制で蹴りこんでいた為、本来なら転んで無様を晒してしまうが、常識外れの身体能力が空中での転回を許す。
華麗に着地したベルフィアはジャックスを見据えると、また半身に構える。
「ふふふっ楽しいノぉ。あノ時より時間があるノでな妾ノ遊びに付き合うがヨいぞ人狼ヨ」
「悪イガ、願イ下ゲダ。今モ昔モ時間ガナイ。オ前トノ戦イモ不毛ダ。オ前トハ戦イタクナイ。…何故人間ニ加担スル?オ前ハ魔族ダロウ?」
このまま戦っても前回の二の舞になると踏んだジャックスは相手が喋りかけたタイミングで、説得に出た。
「そうじゃな…妾は魔族に含まれヨう。じゃから?どうじゃというんじゃ?うん?」
そのセリフにジャックスはため息を出す。
「人ト魔族ハ相容レナイ。イクラ人ヲ救オウトモ認メラレル事ハナイ。特ニ、オ前ノヨウナ化物ニハナ」
「ほぅ」とベルフィアは聞き入る姿勢を見せる。
その空気を感じ取ったジャックスは畳みかける。
「我ラノ国ナラバ、ソノヨウナ力ヲ持ツモノハ五万トイル。俺ヨリ強イ奴トモ戦エルシ、差別モナイ。オ前ノ力ハ素晴ラシイ。魔王様ガ見レバ必ズ取リ立テル。地位モ名誉モ安泰ダ。ダカラ人ナド捨テテ俺タチト来イ。」
ベルフィアは顎に人差し指を当てて、考えるふりをする。首を右に傾けて、目は右上を向き、口はアヒル口で。
「んん~…随分と好待遇な申し出じゃな~。特に地位と名誉…欲しいノぅ~…」
ジャックスは「ナラバ…」となるが、ベルフィアは考えるふりをやめて通常の顔に戻るとニヤニヤしながら告げる。
「な~んてノ。妾にそノ手ノ説得は意味をなさぬ。妾ノ命は既に魔王様に捧げタ。ぬしノ言うカス上司に興味などない。逆にそいつを連れてこい妾が新しい役職を与えてやろう。荷物持ち…いや露払いなどどうじゃ?または掃除係とか…」
「ソコマデニシテオケ…魔王様ヘノ暴言ハ許サンゾ」
流石のジャックスも苛立ちを抑えられない。
確かに今の”銀爪”は魔王の器ではない。
が、敬服する前魔王の息子”銀爪”を侮辱することは、故郷を馬鹿にされるも同じ事。
「ふはっ!妾に暴言を吐いタノはぬしぞ?調子に乗ルなよ飼い犬。甘んじて受け入れヨ駄犬。魔王様はこノ世でタだ一つ、ミーシャ様こそがふさわしい」
その時、ベルフィアの体に力が駆け巡る。吸血鬼のスキル”吸血身体強化”を発動させる。他者の血を媒介にし力を得るこのスキルは、体内で生成される魔力とは違い、新たな能力とし、限界を超えた力を発揮する。
血を媒介とする為、他者から得た血を体内でカウントする。血を消費する際、コスト値として計算し、その時々の必要な能力ごとに振り分けている。血の貯蔵に限界はない。ベルフィア的にはいくら飲んでも飲み足りない程に血を欲している。
但し、長い間の保存がきかない。
血を摂取して一カ月が関の山だろう。
生き血は一人頭10コスト貯まり、種族によってまちまちだが限界地が決まっていて10以上は存在しないようだ。
上位魔族や魔王ならその限りではないかもしれないが取り込んだ前例がないため無視していい。
現在、ベルフィアのストックは3しかなく、肉体強化にコストを2使い、残りは1。
前回騎士団と戦ってから血を摂取してなかった為、ほとんどあの団長に使ってしまったので空っけつだ。
(まぁ…関係ないがノぅ)
体から湧き上がる力は人狼の力を凌駕する。
前回は、焦りから当てられず、ミーシャの手前さらに焦りが来ていたのだが急かす者がいない現状、ベルフィアの独壇場になると確信していた。
「今回ノ妾は一味違うぞ?」
前回も”吸血身体強化”を発動していたので本質は変わらないのだが、状況が違う。ジャックスは顎を引き、左手を前に出し、右手を腰の位置に引く。さらに大股開きに腰を据え、まるで正拳突きのような構えを取る。
「良イダロウ。来イ。ソノ自信…打チ砕イテヤロウ」
対して守衛は十四人。
騎士は十人。
団長とリーダーとラルフ、
そして吸血鬼のベルフィア。
数の上では完全に負けている。
だが、この二体は人とは隔絶した力を持っている。
人狼は中級魔族に数えられるかなり強い部類だ。
下級魔族一体程度で5,6人の戦力が必要であり、それをそのまま考えるなら人狼には敵わない。
その上、この二体は上級魔族に匹敵し、人狼一族でも破格の能力を持っている。人間であればどれだけ数を揃えても勝ち目はない。
ジュリアは自分たちだけでも十分と言ったが、もう一体の人狼、ジャックスはそう思っていない。これだけ勝てる要素が揃っているが、致命的に勝てない要素も含まれている。
人でない女は、一度戦ってその強さを垣間見た。その再生能力はスライムのような不定形の生物を思わせる。物理攻撃を通さない生物ほど、厄介な奴はいない。
そして、得体のしれない武器を持つ人間。
青白く光り輝く剣を持つ男はただならぬ力を秘めている。モンクであり、経験と研鑽を積んだ彼だからこそわかる。近寄ればただでは済まない。
「ジュリア。アノ女ト、アノ騎士ニハ手ヲ出スナ。特ニ、アノ女ハ化物ダ。オ前デハ勝テナイ」
ジャックスはジュリアに危険信号を送る。
ジュリアはその言葉に頷きで答える。
一度、大きな失敗を演じた彼女は身勝手に行動しない。さらに続けて指令を出す。
「女ハ俺ガ抑エル。ソノ間ジュリア ハ、戦場ヲカキ回セ。アノ騎士ニハ、チョッカイヲ出ス程度ニ抑エテ、隙ガアレバ ラルフ ヲ殺セ」
ジュリアはラルフに焦点を当てる。
ラルフは見られている事を感じて、ダガーを鞘から半分ほど出す。
その時、体に異様な寒気を感じ、体が止まる。
ジュリアの目は赤く染まり、ラルフを睨んでいた。
”血走った目”という人狼特有のスキルである。その目で見られた生物は恐怖で体を一瞬麻痺させるという効果があり、行動を遅らせることができる。
自分より強かったり、同レベルの強さがあれば抵抗されるし、そもそも感情の無いものには意味がない。戦いには不向きなスキルだが、狩りには使える。
そのスキルの発動がラルフの動きを止める事を改めて確認したジュリアが、ラルフに対してウインクで挑発する。
「あのヤロー…」
ラルフはジュリアの行動に危険を感じ、目だけで周りを見渡す。正直、ここで勝てるのは団長とベルフィアの二人だけだ。他の連中は壁にはなっても、それ以上は期待できない。
これはアルパザ存続の戦いであり同時にラルフ生存の戦いでもある。
自分が生き残る為なら他者を利用する。
が、あまりに使えない奴の影に隠れても、まるで無意味だ。ジュリアはラルフを狙うのは分かった。もう一匹はどっちを狙う?ベルフィアか、団長か。
となれば生き残りをかけた考えは一つ。
ジャッ
という音と共に直進する人狼。
先に火蓋を切ったのは相手側だった。足が速く、みるみる内に距離が縮まる。
「行くぞぉ!」
リーダーが声を張り上げ、真っ先に前に出る。流石は元戦士。タンクとしてヘイトを稼ぐつもりだ。それに触発されて、何人かの守衛と騎士が続く。
「退け」
その後ろでベルフィアが動く。
完全に出遅れたのに、一瞬でリーダーの真横に来た。リーダーもその早さに一瞬戸惑うが、足を止めて、その場に待機した。半歩後ろで騎士他、部下たちも足を止める。
最初に接敵したのはベルフィアで、相手はジャックス。あの戦いの再現である。ガキンッという鋼鉄を打ち合ったような音が聞こえたかと思うと、両者が取っ組み合っていた。
ジュリアは作戦通りジャックスにベルフィアを任せ
人間の壁に飛び込んだ。
リーダーはタイミングを会わせて斧を横凪ぎに振るう。一線を退いた戦士だが、その圧は凄まじく、その豪腕は旋風を起こす。
ジュリアは斧に触れることなく空中に飛ぶ、人の壁の頭上を飛び越え、後ろを取る。
見据えるのはラルフ。しかしラルフの姿が見当たらなかった。壁に阻まれた一瞬の隙をついて逃げられたようだ。
「シマッタ」と思いラルフを探すと、その姿は団長の影になるように隠れていた。
ラルフは団長に守ってもらえるよう位置をずらして強いものの後ろに回り込んだ。案の定ベルフィアは突っ込んでいったが、団長はその場にとどまった。
ジャックスに言われたことを思い出し、舌打ちをした後、団長から離れるように人の壁の側面に走り出す。目の前に来た敵に、守衛も剣を振りかぶるが、その下に潜り込むように通り抜けられる。
武器を振りかぶった自分に対し突撃してくる、そんな敵の戦い方を知らないこの守衛は慌てて剣を振る。タイミングが合わず、そのまま地面をたたく。
完全に隙だらけだったが、攻撃を与えず、ただただ挑発して目の前を通り過ぎるだけ。騎士には鎧に爪を立てる程度で通り過ぎ、その動きで翻弄しつつ、いつでも命が取れると教え込む。ジュリアはこの戦いの主導権を握った。
「何をしている!体勢を崩すな!相手は走り回っているだけだぞ!陣形を取り直して敵の攻撃を防ぐんだ!!」
団長は不甲斐ない戦いを繰り広げる部下たちに檄を飛ばす。その言葉に団長を中心として円を描くように騎士で囲む方円の陣形を組む。守衛も触発され、周りを見渡せるように背中をかばい合う。
すぐさま陣形が変わったことに感心し、ジュリアは一度動きを止める。ジュリアの姿を見とめると、彼女の方向に合わせてすぐさま陣形を魚鱗に変えた。
騎士はそれを流れるように変えていく、団長の存在は非常に厄介だ。
まるで機械のような統率力は、数々の戦闘経験と訓練、その動きを徹底的に叩きこんだ指揮官の賜物である。
あの男が生きている限り崩せない。
即ちラルフを殺すことができない。
だが、事を焦ってあの男を狙えば、ラルフの時と変わらない痛手を食う事になりかねない。兄の言ったことを守りつつ、時間をかけて少しずつ…
「全ク…面倒ネ…」
一方ベルフィアは、またもジャックスと相対しその力を見せつけていた。基本的な肉体能力がすでに強いベルフィアはとにかく攻撃を繰り出した。
疲れを知らない体は、ジャックスを追い詰める。
ジャックスは防戦一方だが、最小の動きで攻撃をかわし体力を温存しつつ、ベルフィアの攻撃を見ていた。
放つ右拳は受け流し、潜り込んでくる左の抜き手は紙一重で避ける。右上段蹴りを両腕で止めた時、ベルフィアの体勢が大きく崩れた。
この隙に足を払おうと屈んだ瞬間に左膝が飛んでくる。完全に虚を突かれた形になるが、ジャックスの動体視力はその動きに追いつく。
足首のみで膝の攻撃に合わせて飛ぶ。間一髪で直撃をかわしたジャックスは間合いを開けて着地する。
ベルフィアは無理な体制で蹴りこんでいた為、本来なら転んで無様を晒してしまうが、常識外れの身体能力が空中での転回を許す。
華麗に着地したベルフィアはジャックスを見据えると、また半身に構える。
「ふふふっ楽しいノぉ。あノ時より時間があるノでな妾ノ遊びに付き合うがヨいぞ人狼ヨ」
「悪イガ、願イ下ゲダ。今モ昔モ時間ガナイ。オ前トノ戦イモ不毛ダ。オ前トハ戦イタクナイ。…何故人間ニ加担スル?オ前ハ魔族ダロウ?」
このまま戦っても前回の二の舞になると踏んだジャックスは相手が喋りかけたタイミングで、説得に出た。
「そうじゃな…妾は魔族に含まれヨう。じゃから?どうじゃというんじゃ?うん?」
そのセリフにジャックスはため息を出す。
「人ト魔族ハ相容レナイ。イクラ人ヲ救オウトモ認メラレル事ハナイ。特ニ、オ前ノヨウナ化物ニハナ」
「ほぅ」とベルフィアは聞き入る姿勢を見せる。
その空気を感じ取ったジャックスは畳みかける。
「我ラノ国ナラバ、ソノヨウナ力ヲ持ツモノハ五万トイル。俺ヨリ強イ奴トモ戦エルシ、差別モナイ。オ前ノ力ハ素晴ラシイ。魔王様ガ見レバ必ズ取リ立テル。地位モ名誉モ安泰ダ。ダカラ人ナド捨テテ俺タチト来イ。」
ベルフィアは顎に人差し指を当てて、考えるふりをする。首を右に傾けて、目は右上を向き、口はアヒル口で。
「んん~…随分と好待遇な申し出じゃな~。特に地位と名誉…欲しいノぅ~…」
ジャックスは「ナラバ…」となるが、ベルフィアは考えるふりをやめて通常の顔に戻るとニヤニヤしながら告げる。
「な~んてノ。妾にそノ手ノ説得は意味をなさぬ。妾ノ命は既に魔王様に捧げタ。ぬしノ言うカス上司に興味などない。逆にそいつを連れてこい妾が新しい役職を与えてやろう。荷物持ち…いや露払いなどどうじゃ?または掃除係とか…」
「ソコマデニシテオケ…魔王様ヘノ暴言ハ許サンゾ」
流石のジャックスも苛立ちを抑えられない。
確かに今の”銀爪”は魔王の器ではない。
が、敬服する前魔王の息子”銀爪”を侮辱することは、故郷を馬鹿にされるも同じ事。
「ふはっ!妾に暴言を吐いタノはぬしぞ?調子に乗ルなよ飼い犬。甘んじて受け入れヨ駄犬。魔王様はこノ世でタだ一つ、ミーシャ様こそがふさわしい」
その時、ベルフィアの体に力が駆け巡る。吸血鬼のスキル”吸血身体強化”を発動させる。他者の血を媒介にし力を得るこのスキルは、体内で生成される魔力とは違い、新たな能力とし、限界を超えた力を発揮する。
血を媒介とする為、他者から得た血を体内でカウントする。血を消費する際、コスト値として計算し、その時々の必要な能力ごとに振り分けている。血の貯蔵に限界はない。ベルフィア的にはいくら飲んでも飲み足りない程に血を欲している。
但し、長い間の保存がきかない。
血を摂取して一カ月が関の山だろう。
生き血は一人頭10コスト貯まり、種族によってまちまちだが限界地が決まっていて10以上は存在しないようだ。
上位魔族や魔王ならその限りではないかもしれないが取り込んだ前例がないため無視していい。
現在、ベルフィアのストックは3しかなく、肉体強化にコストを2使い、残りは1。
前回騎士団と戦ってから血を摂取してなかった為、ほとんどあの団長に使ってしまったので空っけつだ。
(まぁ…関係ないがノぅ)
体から湧き上がる力は人狼の力を凌駕する。
前回は、焦りから当てられず、ミーシャの手前さらに焦りが来ていたのだが急かす者がいない現状、ベルフィアの独壇場になると確信していた。
「今回ノ妾は一味違うぞ?」
前回も”吸血身体強化”を発動していたので本質は変わらないのだが、状況が違う。ジャックスは顎を引き、左手を前に出し、右手を腰の位置に引く。さらに大股開きに腰を据え、まるで正拳突きのような構えを取る。
「良イダロウ。来イ。ソノ自信…打チ砕イテヤロウ」
0
あなたにおすすめの小説
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」
勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる