一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第三章 勇者

第一話 異変

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ラルフは清流で水を金属製の水筒に溜めていた。

山の湧き水は綺麗で飲みやすく、体が元気になるから、こういう所を見つけると水筒を空にして濯いだ後入れ直す。常に新しい水にすれば腐らないで済むからだ。何より美味しく飲めるのが一番良い。

そんな時、突然、ズンッという地鳴りが起き、一瞬ではあったが地震のように辺りが揺れた。

それに別段驚くでもなく、ラルフは川に即席の釣竿を垂らした。先ほどその辺の木の枝と釣糸を使って作った簡易的なものだが、性能は変わらない。

釣りは魚を釣り上げる腕が良ければ、多少道具に難があっても、釣れるのだ。現に数分後には一匹目が釣れていた。保存のきく携帯食料の節約のため、こうして食料確保に勤しんでいる。

ベルフィアも血の補給とミーシャの食事確保のために狩りに出掛けている。あいつに任せていれば食いっぱぐれる事も無いだろうが、こうして取るのは理由がある。

ベルフィアは吸血鬼という種族柄、食べ物に頓着がないので、食えそうな物と判断すると何でもかんでも獲って来てしまうのが二つの意味でいただけない。食えそうな物ではなく、食える物を獲って来てほしいものだ。

そんな事を思いながら今日は水の補給がてら四匹魚を釣った。

野営地に戻ると、先の地鳴りの訳が分かった。ベルフィアとミーシャの立つ場所のすぐそばに縮尺がおかしく見えるくらいでかいエビが横たわっていた。

それは陸上で暮らす甲殻魔獣。地中エビの仲間グランド・リクスターと命名される全長約5mの大型魔獣である。
体に対して細く長い鋏を持った足を何本も使って地中で静かに暮らしているが、そのでかさ故、食欲旺盛で自分より小さなものは何でも食べようと試みる。鋭い鋏は鋼をも割くと言われ、人が被害に遭ったというケースは珍しくない。

そのリクスターは、目の前で死んで転がっている。
ベルフィアが血抜きをした後、殻を引き裂いて中にある肉を確認していた。

「あっ!ラルフ、帰ってたのね」

ミーシャがいち早く気づき、ラルフに手を振る。
ベルフィアはラルフを見てリクスターを見ろと顎をしゃくった。

「こやつは食えルんか?そちがおらんと、ヨぅ分からんノんじゃ…」

殻をバリバリと剥がして新鮮な身を晒す。

「…確か食えるぞ。新鮮なうちが一番うまいってドワーフから聞いたことある。というかそれ…掘り起こしたのか?」

「こやつがわらわノ足を切っタから引きずり出しタ。ムカついタんで一発かましてやっタワ」

胸を張ってフンスしている。実に誇らしげだ。だが、それも納得の獲物である。今回のは当たり飯だ。

「一度食ってみたいと思っていたが…まさかこんな早くにその機会に恵まれるとはな…」

ミーシャはそれを聞いて俄然、興味津々である。

「早く食べましょう!お腹空いてきちゃった!」

「はっ!すぐにご用意いタします」

ベルフィアはその辺にある大木をへし折り、燃料にする為、木を拳で砕き始める。

「お前さぁ、こういうのはその辺の枝とかを拾って使うもんだろ?」

バキバキッ拳で砕く音に紛れてラルフの声はかき消される。途中で作業を止めて尋ねる。

「ん?」

「いや、その辺でいいだろ。火を付けようぜ」

―――――――――――――――――――――――

美味しい食事を済ませ、張り切って道を急いだ先、空気に何かの違和感を感じた。

「何か臭わねぇ?」

「におい?まさか私じゃないわよね?」

アルパザ以降、汗を拭うくらいしかしていない。ミーシャは自分の着ている服をクンクン嗅ぐ。ベルフィアには代謝が驚くほど無いので、臭いはほぼ無い。リクスターを引き摺り出した時の土のにおいくらいしかついていない。

「何と失礼な奴じゃ!女性に対し、でりかしーがない!!」

「違うって!勘違いだ!なんか焦げ臭くないか?」

ラルフに言われて二人は辺りを嗅ぎ始める。

「言われてみれば、なんか焦げ臭い…」

「さっき焼いタ、飯ノ残りじゃないかい?」

確かに、多すぎて食べきれなかった身を焼いて、袋に包み、今日の晩御飯の為にとっておいた奴の可能性もある。しかし、臭ってなかったのに唐突に焦げ臭さが出るものだろうか?

「そんなワけないノぅ…」

ベルフィアは即座に撤回する。この臭いは当分の間、野ざらしにした死臭も交じっている。

「おいおい…まさか!!」

ラルフは突然走り出す。

「ちょっと!ラルフ!」

この先には小高い丘にある目的地、ゴブリンの丘が見えてくるはずである。ラルフは一度訪れた事があり、どんな場所かは知っている。滞在中に週に一度の鍛冶も見学した。

その場所が、ラルフが辿り着いた時、焦土と化しているのは夢か幻想かはたまた妄想としか思えなかった。

女子供も関係なく焼け死に、建物の下敷きになったり、肉が飛び散りバラバラになっている。

戦士たちは武器を取り、全員が逃げる事なく何かに挑んでいた。歪な金属の塊を引っ提げてとにかく突進しているが、なす術なく殺された。

「…嘘だろ?」

一方的である。魔族と戦ったのなら、魔族だって犠牲の一つや二つ当たり前に出るはずだが、ゴブリンと戦った敵の姿が見えてこない。
なんせゴブリン以外の死骸がないのだ。

「やれやれ、ここもここでやりあっとルノぅ…完全に出鼻をくじかれタじゃないか…」

ベルフィアは追い付くなり悪態をつく。

「この規模を壊滅させたの?相手は誰かしら…」

ミーシャはこんなことをする意味と、敵が犠牲無く済んだ状況を鑑みて、魔王の誰かを想像したが、いずれも襲う理由がない。勿論、今は会議に出られない手前、現状を知らないだけとも言えるが。

ラルフはまた一人勝手に走り出す。観光客として来た時、歓迎してくれたホブゴブリンの家を目指して急ぐ。

家は完全に倒壊し、見る影もない。
ざっと見た限りでは、死体がないが、家の下敷きになっている可能性もある。

「ラルフー!こっち来てー!」

ミーシャが大声で呼んでいる。
ラルフが急いで戻ると、ミーシャとベルフィアが同じ場所を不思議そうに見ていた。そこには瓦礫に埋まって死にかけているゴブリンを必死になって助けようとする小さなゴブリンがいた。子供のゴブリンが親を助ける為に頑張っているようだ。

瓦礫が重くて、それ以上動かず、それでも小さなゴブリンは引っ張り出そうとしていた。1mmも動いていない様子から、非力さが分かる。

「何見てんだよ!助けるぞ!!」

「しょうがないノぅ…」

ベルフィアはラルフが動くより速く瓦礫を持ち一人でグワッと揚げてしまった。同時にラルフが小ゴブリンと一緒に引っ張り出す。虫の息のゴブリンにすぐさま回復剤を振り掛ける。

「あぁ…ラルフ良かったの?」

「良いも何も、助ける為には必要なことだ」

ラルフのなりふり構わない精神は立派だが、これでは自分の回復がままならない。

「もっと考えてから使えラルフ。そちはすぐ死にかけルほど弱いんじゃぞ?」

ベルフィアはラルフに苦言を呈す。まぁ言っても、これのおかげでミーシャが助かったのも事実だから、一概に全てを否定する事も出来ないのだが…。

すっかり生気の戻ったゴブリンを確認した小ゴブリンは、どこかに歩いていく。

「あれ?ちょ…どこ行くんだよ?」

小ゴブリンはその辺の瓦礫の中を覗いたり、倒れているゴブリンを片っ端から揺さぶったりして生きている同胞を探していた。

「健気なゴブリンじゃノぅ」

「ベルフィア。あの子についていってあげて、他に生存者がいれば、ここに連れて来てくれる?」

ミーシャは先のラルフの行動から感銘を受けたのと生存者から情報を聞き出そうと考えた。

「承知いタしましタ」

ベルフィアは文句一つ垂れず、小ゴブリンについていく。

助けたゴブリンの意識がはっきりしてくると、事情を聴こうと声をかけた。

「大丈夫か?痛いところはないか?」

ラルフを見るや、怯えて後ずさりした。
手を伸ばすとビクッとしてさらに離れる。

「ふむ…この行動から察するに、人間ヒューマンが襲ったと見るのが適切か…」

ミーシャは今回の首謀者を分析する。ラルフは否定したかったが、この行動はそうとしか思えなかった。悲しいことだが、人が日和見のゴブリンに一方的に虐殺したのが事の発端だろう。

「尚更あり得ないだろう…ゴブリンは見た目は魔族に見えるけど、種族的には人だぞ?人類が日和見主義ってだけで滅ぼすなら太古の昔に絶滅しているさ…」

だが、これも絶対ではない。特定の種族以外は要らないと豪語する迫害主義も偏在している。
暴徒と化したグループが突如牙をむいたという可能性は無きにしも非ずである。

「ならこの私が直々に尋ねようではないか!」

ミーシャは胸を張って堂々と手を突き出す。

「さぁゴブリン!ここであったことを洗いざらい吐いてしまいなさい!」

しかしゴブリンは答えない。

「あっ、ゴブリンは一部の特権階級以外喋れないんだっけ…」

ラルフはふとホブゴブリンが言っていた事を思い出す。喋りたくとも喋り方を知らないのだ。

「じゃどうすんの?」

「喋られる奴が生きている事を望むのみだな…」

ベルフィアのゴブリン救出はすぐに終了し、ラルフたちが救ったゴブリンを含めて七体の救出に成功。無傷の小ゴブリンを含めて、八体の生存者を保護するも、結局、口が利けるゴブリンには会えなかった。

「これは…行くしかないかな…キングの所に」
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