一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

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第三章 勇者

第十七話 決着

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ラルフの上げた閃光弾は夜闇を明るく照らし、山の頂を守る三人の勇士にも届いた。

「なるほど、交渉決裂か…」

ミーシャはチラリとゴブリンたちを見る。
こちらには多分200数名程、来ていると考える。こうなると正面が一番多いだろう。ベルフィアがいるから負けはしないだろうが、ラルフが交渉のために正面にいる。

ゴブリンたちを萎縮させるのは本意では無いと言う考えから、ラルフと一緒に居たかったが正面に行かせてもらえなかった。

強すぎるが故の弊害だ。
ともあれ、ラルフの身が心配なミーシャは、とっとと終わらせてしまおうと思った。

「運が悪かったな、ゴブリンたちよ。上官が悪かったと諦めて死ね」

――――――――――――――――――――――――

閃光弾の輝きに気づいたブレイドとアルルは、結局戦うことになってしまったことに悲しみと残念な気持ちを感じる。

「これじゃ何のために送ったんだか、全然分からないね、ブレイド」

「これは宿命だろうな…いずれ皺寄せが来てた。付き合わせちまって悪いなアルル」

アルルは首を振ってブレイドの言葉を否定する。

「おじいちゃんたちの不始末は、私たちの代で終わらせればいいのよ」

ただ平和に暮らしたいだけだ。
それを壊したヒューマンは許せないが、まずは目先の問題から、

「かかって来るなら容赦はしない。消滅したい奴から前に出ろ!!」

ブレイドはデッドオアアライブを構え、怒声を持ってこの場のゴブリンたちに牽制する。

『オオオオオオオォォォォォォォ…!!!』

各所から鬨の声が上がる。
閃光弾が上がって数秒の後、一斉に戦闘が始まった。

走り出したゴブリン。斧やこん棒、剣や槍を振りかざし、疾風の如く押し寄せる。しかし、風より早く動くものがこの世には存在する。

ベルフィアは腰を低く落とし、猫の様な柔軟さを持って一気に詰める。

その異常な速さはゴブリンたちの経験を遥かに凌ぐ、振り上げたせいで無防備となった腹部に抜き手が叩きこまれる。その鋭利な爪は、いとも簡単に腹を割き、臓物を引き摺り出す。

周りのゴブリンは目の前の凄惨な光景に恐怖こそ感じるが、敵に対し攻撃を仕掛ける。

ベルフィアは戦闘に対する矜持を見て感心した。

通常、腸を引き摺り出すなどの行為は見ている者を恐怖から足をすくませ、腰砕けになる。逡巡して動けなくなるなど戦闘ではよくある事だ。それを跳ね除けてでも攻撃を仕掛ける姿勢は立派だ。

しかし、それだけだ。引き摺り出した臓物を攻撃を仕掛ける兵士にかける。目つぶしと同時に恐慌状態に陥る兵士たち。先陣を切って飛び出したゴブリンたちは焦りから持つ武器を振り回し、同士討ちをし始める。

「グアゥアゥ!!」「ギィアア!!」

ベルフィアは血を浴びながら兵士の恐慌にゲタゲタ笑顔で喜びを伝える。

「ふぅっははぁ!!そうら隙だらけじゃ!!」

顔を引き裂き、胸を突き、腕を取る。
およそ勝ち目のない戦い。
一対多数にしてこの実力差。

ベルフィアの着用する白い布地が朱く変色し、白い肌を赤く染める。普段からそう厚着でもない服装だが、血に濡れて肌にぴったりと張り付いている。
興奮状態のベルフィアの乳首は立っていた。

アルパザの大規模戦闘から気づいてはいたが女性らしい起伏に富んだいい体だ。ラルフは凄惨な光景を目の当たりにして、現実逃避を図っていた。

(もう全部あいつがやればいい)と半ば投げやりに思う程だ。

「楽しいノぅ!ラルフ!!」

「いいぞベルフィア!今だけだ!当分味わえないぞ!だから今はしっかり楽しめ!!」

呆けて見ていたラルフも鞄を覗いて手持ちを確認するが、軍勢を相手にできる様な都合のいい武器など持ち合わせているわけがない。ここでは役に立てないかと感じた時、ゴブリンが一体、ベルフィアの合間を縫って奥にいるラルフに攻撃を仕掛けた。

相手の持つ剣をダガーで受ける。
ビキッという音と共に刃が半分くらいから壊れた。
魔鳥人を相手に目を突いた時、あまりの骨の硬さに刃が欠けていたのだ。そして不運な事に、丁度欠けた場所に相手の剣が入った。刃先は割れて、武器としてダメになる。一撃は防げるがこれでは殺せない。

(だから安物は嫌なんだ!!)

受け流された形になり、ゴブリン兵は体勢を崩す。
しかし、追撃が来ない事を知り、あの化け物より御し易いと肌で感じる。

成果を欲していた兵士はこれ幸いと攻撃を続ける。
ラルフはまた来るであろう一撃を待つほど暇ではない。壊れたダガーをゴブリンの顔めがけて投げつけ怯ませる。

後ろに回り込んで金属製の水筒で殴りつけた。ドワーフから友好の証でもらった高級水筒は、ラルフの力とゴブリンの頭の固さで凹んだ。

その甲斐あってゴブリンは昏倒。
ゴブリンの武器を取り、歪な剣で止めを刺した。

その剣を構えて次の攻撃に備える。

「ベルフィア―!!頼む!後ろに回さないでくれー!俺じゃどうしようもない!!」

ベルフィアは斧をその身で受けながら、カウンターに抜き手を放つ。頭を貫通し、絶命させながら受け答える。

「情けない!!男ならやル事をやれぇい!!」

死体をばらまきながら楽し気にしているのは控えめに言って狂っている。ベルフィアの傍で戦っていた兵士は段々、殺せない事が分かり背中を見せ始めた。

こうなれば、正面の戦線は瓦解する。

「ニゲルナ!タタカウンダ!!」

大隊長は命令する。
とにかく疲弊させようと考える。

将軍も大隊長もベルフィアの危なさは分かるが、ただの一体。それを越えれば、そこにいるのはラルフという雑魚が一人。

見た感じは勝てそうだ。だからこそ吠える。こればかりは遠すぎて分からないという事もあるが、これほど物量差のある戦いは初めてだという事も一つ。
勝てそうではあるものの決定打にかける。

不思議なのが、後ろに回り込んでいる兵士たちが誰も加勢に来ない事。

確か、敵は五人。ここにいるのは二人。
つまり、あと三人控えている。
もしかして残りの奴もこれほど強いとそういうことだろうか?

――――――――――――――――――――――――

ミーシャは退屈していた。
ゴブリンは弱すぎる。
手を振るえば砕け散り、小突けば吹き飛び、撫でれば折れる。少し力を出せばこれだ。

この作業はいつまで続ければ良いのか?魔力を放射すれば地形が変わりそうだし、ブレイドたちの住みかを壊しては不味いと手加減すれば面倒臭い。

こちらはベルフィアの時より早く逃げ始めた。
途中から追って殲滅していたが、段々しんどくなってきて手を止めた。

「まぁ、こんなもんで良いでしょ。さぁて、ラルフは大丈夫かな?」

――――――――――――――――――――――――

ブレイドとアルルの戦いは無駄がなかった。
アルルがブレイドを強化魔法で肉体を保護し、飛び道具に関する防御魔法を用い、弓矢の攻撃を無効化する。ゴブリンは接近を強いられ、ブレイドはそれをガンブレイドで迎え撃つ。

魔力砲はミーシャほどではないが、当たった場所を消し飛ばす。

アルルも強化と防御を確立させた後は、遠距離攻撃に徹する。鎌鼬かまいたちを起こし、ある一定の場所から近寄れないように障壁を張る。

ゴブリンにこの障壁を無傷で突破できるほどの実力はなく、さらに、何とか突破できても魔力砲が待ち構える。膠着状態になれば、逆に攻撃をする。
ゴブリンにこの二人を害する事は出来ない。

200を越える軍勢は為す術もなく、散り散りになり逃げていく。

完全勝利だ。

「ふぅ…ま、ゴブリンならこんなもんでしょ」

アルルは久々に汗をかいた額を拭う。
ブレイドは少し罪悪感を覚える。

「戦士として戦わず、ただ作業のように殺す…。兵士は消化不良だろうな…死んでも死にきれない」

「だからってこっちが傷を負ってあげる必要はないでしょ?戦いに美意識を求めるなんて無駄の極致だよ」

アルルは体を伸ばして凝りをとる。
ブレイドはラルフのいる正面を見つめる。
この戦いは何だったのか?何が原因なのか?
答えこそ出ないが、ある種の覚悟を決める。

「ここには…もう、居られないな…」

――――――――――――――――――――――――

正面で戦うベルフィアのお腹はかなり膨れていた。
見た目こそ変わらないが、この何日間で一番のご馳走だった。たらふく飲める。

後は戦闘に関する満足感。
遊び感覚で殺す、爽快な蹂躙劇。
ゴブリンが昔より多少強くなってても、ベルフィアには関係ない。

ラルフの周りにも死体が二体増えていた。
一応、三体殺して、大きな怪我はない。
手を多少痛めたのと、かすり傷くらいだ。

つまり、ラルフサイドで唯一ダメージを負ったのがラルフのみという状況だった。

「…テッタイダ…」

将軍は苦々しい顔で決断する。

「ナッ!シ…シカシ…」

大隊長はここで引くわけには行かないと進言しようとするが、武器を放り、逃げるゴブリンの数が増え始めたのを実感し、止められないことを悟ると渋々受け入れた。

ゴブリンとの戦いは、ゴブリン側の圧倒的な惨敗で幕を閉じる。

ブレイドとアルルの小屋は完全に守られた。
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