一般トレジャーハンターの俺が最強の魔王を仲間に入れたら世界が敵になったんだけど……どうしよ?

大好き丸

文字の大きさ
93 / 718
第三章 勇者

第十八話 謂れなき罪

しおりを挟む
その日、森王に激震が走った。

「ゴブリンが謎の勢力に襲われた?それは…丘の件か?」

「はい。犯人を見つけ出し、強襲するも、圧倒的強さに撤退したとの情報が…」

それで思い付くのは”守護者ガーディアン”達だ。しかし、彼らはこの国にとどまり、自由気ままに過ごしている。
わがまま放題なので放逐したいほど面倒だとクレームに近い報告が上がるくらいに。

「彼奴らは一歩も外に出してはいない。ならば、その犯人というのは…いったい…」

森王は困惑しているが、部下の報告は続く。

「それが、魔族を連れたヒューマンのチームらしく戦ったゴブリンたちすら困惑したのだとか…。敵側に被害を出せない程の異常な強さだったようでして、為す術なく撤退との情報もあります」

そのチームに思い当たるのが一つ。

「それではまるで”みなごろし”のチームのような…」

「首謀者はゴブリンの丘で常駐していた、監督官のザガリガ。そして、ヒューマンのラルフ。ザガリガは裏切り者として処分したそうですが、話では、他にも味方がいたようで、全部で五人」

「五人?ラルフと言う名にも覚えがあるが、確か、三人と聞いている…この何日かで、仲間を増やしたと言うのか?」

森王は思考の渦に囚われる。裏切られ、一度は孤立した魔王が味方を増やし、変な誤解を背負いつつどこかに向かっている。無論、裏切り者への報復が主な目的ではあろうがそれにしては、寄り道をしているようにも思える。

そして、ゴブリンから誤解とはいえ首謀者にされたラルフ。ラルフこれの存在が明らかに異質。

ヒューマンだというが、何故、彼の魔王が生かし、共に旅をするのか。最初に聞いていた三人の内の最後の一人は”魔断のゼアル”からの情報では吸血鬼だと報告がある。尚更、ヒューマンは生きていられないだろう。

「ラルフ…何者なのだ?」

ともあれ、今回の件が”守護者ガーディアン”から完全に外れたのは重畳。
その上、”みなごろし”の大体の居場所が分かった。
更に、丘の事件の責任をそのチームが勝手に背負ってくれた。

災い転じて福と成す。

この状況に奇妙な偶然を感じずにいられない。
まるで、誰かが彼の魔王を殺せと云っている様な…。森王は背筋に冷たいものを感じるが、何故だか不思議と笑みがこぼれる。

「今こそゴブリンと手を取り合う時。”守護者ガーディアン”を呼べ。我らも動くとしよう」

――――――――――――――――――――――――

ゴブリンの丘の悲報は遠い彼の地にも届いていた。

”鉱石の産地”とも呼ばれる岩山地帯。
その名も”グレートロック”。

ここに住む最も有名な種族はドワーフであり、”鋼王こうおう”ヴォーガンソンが地主である。

普段は身の丈の半分くらい長い王冠を被り、魔羊の厳選された羊毛を用いた赤いマントを羽織っている彼だが、公の場に出ることの無い時の服装は綺麗に仕立てたオーダーメイドのシャツにオーバーオールを履いて、作業員の様な恰好をしている。

長く、綺麗によく手入れされた茶髭に、太く凛々しい眉毛。ごつい顔に隠された優しい目を持つ彼こそドワーフの中で言う”王の中の王”。

元から鉱石を掘り当てる嗅覚に優れ、同胞たちからの信頼も厚く、平民から長にまでなったたたき上げである。外交の手腕も華々しく、ドワーフが認知され、他種族に一目置かれる様になったのも彼のおかげとされている。

そんな彼の元にエルフェニアの長、”森王”からの伝書が届く。
その内容は彼の心をかき乱した。

「なんてことをしたんじゃヒューマン!!」

書斎で仕事をしていた鋼王は乱暴に机を叩いた。
拳を握り締め、力みすぎて掌が破れても、手に血が滲み、大事な書類に血の跡がついてもその怒りはとどまる事を知らなかった。

「…鋼王、気をお鎮め下さい…」

老齢の家臣が白髭交じりの髭をいじりながら落ち着くよう促す。

「…この報告を見て落ち着けじゃと?」

普段柔和な顔立ちの鋼王は怒りに震え、鬼のような形相でギョロリと家臣を睨む。

伝書を机に叩きつけ、サッと後ろを振り向く。向いた先にはドワーフの英知が集約された武器やアクセサリー類が壁一面に飾られている。

その真ん中の方にゴブリンの横顔が印された一本の剣がひっそりと、だが、目立つ位置に飾ってあった。

ここにある武器やアクセサリーのほとんどが目指すべき到達点と言われ、鍛冶職人には用途により、手本として貸し出している。

その中の一本にあのゴブリンソードがあるのだ。

「これを見ろ…これらは全てが儂らが逸品と定めた到達すべき道じゃ。失伝こそしとらんが、ここにたどり着けた者など未だおらん…。それを、一昔前は金槌すらまともに使えなんだあのゴブリンが到達したんじゃ」

掌が破け、血を流す右手をゴブリンソードにかざす。

血がしたたり落ちる手を伸ばせど尚届かないその技術に、恋焦がれ試行錯誤の果てにグレートロックの長になった。
外交を重ね、ゴブリンの丘へ赴ける日も近いと思っていた矢先、その技術は失われた。

「許すまじ…」

鋼王は予定されていた公務を全て取り止めにし、魔晶ホログラムを起動する。

「”集い”の王たちよ!ドワーフ族”鋼王”ヴォーガンソンの名において緊急招集をかける!」

鋼王の怒りは頂点へと達した。
戦争の時は近い―。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

処理中です...